三国岳〜天狗峠〜滝谷右岸尾根☆風薫る巨樹の森へ
- GPS
- 08:20
- 距離
- 12.8km
- 登り
- 978m
- 下り
- 976m
コースタイム
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
ミゴ谷の入口に駐車 |
コース状況/ 危険箇所等 |
滝谷右岸尾根は薄い踏み跡あり |
写真
感想
坊村の市民センターの駐車場には既に多くの車が停められ、登山者達が鎌倉山や比良を目指して出発していくところだった。ここでkitayamawalk(以下KW)さんとKKさん、satoさん、keikokuさん達と合流する。はるばる愛知の知多から来られたkeikokuさんは三人のご友人を伴っておられた。
ここからは久多川の上流を目指す。久多の流域はすぐ東隣の針畑川沿いと同様、アプローチの山村風景の季節の移ろいが美しいところだ。広い河岸段丘の田んぼからはゲコゲコと蛙の鳴き声が聞こえてくる。家族総出で田植えを準備をしておられる一家がおられ、長閑な景色に微笑ましさを添えてくれる。
登山口となる岩屋谷と滝谷の出合には車が辛うじて二台分のスペースしかない。ミゴ谷の入口近くの道路余地に車を停めて出合までKWさんの車に乗せて頂くが、その手前に赤い車が停められているのは既に岩屋谷口には駐車の余地がなかったのであろう。出合には確かに二台の車が停められていた。手前の道路余地に車を停めて出発する。
岩屋谷に沿って歩き始める、川沿いにはトチノキの大樹が五葉の葉を大きく広げている。谷に満ち溢れる新緑の透過光がこの時期ならではの清々しさを感じさせる。
わざわざ愛知からいらしたkeikokuさんとそのご友人達一行にニノ岩屋をご案内すべく沢を渡渉して右岸の斜面を登る。岩屋から早速にもkeikokuさんのお友達のNさんの脚にヒルが取り付いていたようだ。やはり三ノ岩屋の近くで取りつかれたのだろう。先週の小野村割岳への山行で私は大きなヒルに吸血され、傷の疼きから2〜3日前にようやく解放されたばかりだが、Nさんも同じ日、南アルプスの池口岳でヒルにやられたらしい。Nさんにヒルさがりのジョニーを差し出すと足元にふんだんにふりかけられる。
三ノ岩屋も登山道から外れて、谷を回り込む必要がある。岩屋の上流では谷の左岸の斜面にトチノキの大樹が聳えている。帰宅後に草川啓三さんの『森の巨人たち』を紐解くとやはりこの樹のことが紹介されており、「隠れた名木であろう」と記されていた。
急斜面を登って樹下を訪れる。ふと足元をみると靴をよじ登ってくる大きなヒルがいることに気がついた。家内の足元にもヒルがよじ登ろうとしていた。ここはヒルの多発地帯。再び登山道に戻ると、九十九折りに急斜面を登る。尾根に乗ったところで休憩がてら再びヒルをチェックするとNさんの裾にヒルが一匹へばりついていた。
三国岳から岩屋谷への尾根は何度も下降したことはあるが、登りに使うのは初めてだ。いつもは急下降の尾根を急ぎ足に通り過ぎてしまっていることが多い。この日はゆっくりとした登りのせいもあり、ホオノキやブナの大樹の姿を確認しながら光沢を放つイワカガミの葉の間を登ってゆく。右手の谷からは終始、涼しい風が吹き上がってくるので登りで火照った体を冷やしてくれる。
やがて尾根には一本の大杉が現れる。この尾根を急ぎ足に下降していてもこの大杉の存在感には足を止めて見上げることになる。下から樹を見上げながら登ってゆくと、その筋骨を想起させる隆々とした樹間に改めて力強い存在感を感じる。大杉を後にすと間も無く尾根の傾斜も緩やかになり、三国岳に至る城丹国境尾根に合流する。
三国岳山頂では比較的真新しい高島トレイルの標柱は削られた痕がある。どうやら熊の仕業のようだ。ここでも見上げるとホオノキの白い花が咲いている。山頂の周りにある樹はコシアブラであることをkeikokuさんが教えてくださる。葉をよくよくみると特徴的な五出複葉をしている。鈴鹿では葉に手が届くようなコシアブラには滅多に遭遇しないとのことだ。
山頂周辺の源頭を覗くと大きなトチノキの大樹が満開の花を咲かせている。樹の下に数多く落ちている小さな白い花を拾い上げるとkeikokuさんは「トチノキの花ってこんなに小さいのか」と感心する。確かにホオノキの大きな花と違い、集合花を形成するトチノキの小さな花の一つ一つは驚くほど小さく、そして生き物のように繊細だ。
山頂の北東の高島トレイルとのジャンクション・ピークでランチ休憩にする。このピークから南東の斜面では蛇谷ヶ峰から武奈ヶ岳を望むことが出来る。昨日の山行で摘んできた蕨とセセリ、舞茸を用いてアヒージョを作る。料理の後半はここにライスを投入してリゾットを作る。
再び三国岳の山頂に戻るとp936までは混合林の鬱蒼とした樹林が続く尾根を辿る。p936を過ぎると伐採の跡なのだろうが、一気に展望が開け、東側にはイチゴ谷の向こうに蓬莱山から武奈ヶ岳に至るまでの比良の眺望が視界に飛び込んでくる。草原状の広い尾根の周囲ではヤマボウシ、サワフタギ、カマツカの花々が午後の光を浴びて白い輝きを放っている。
この展望地を少し先に進むと尾根の北側は緩斜面に広々とした美しい樹林が広がっている。相変らず由良川の源流の大谷の方からは涼しい風が吹き上がってくる。keikokuさん達一行は夕方までに愛知に帰らなければならない方がいらっしゃるとのことで、柔らかい木漏れ日が差し込むこの美しい樹林でお別れすることになる。先ほどの展望地から出発した岩屋谷の出合に伸びる尾根を下って行かれた。
このあたりから天狗峠の間では道のすぐ傍らで咲いている数株の猿面海老根に出遭うことが出来た。そのうちの一つは昨年に見かけたのと全く同じ場所で咲いていた。こうして花が咲き続けてくれるのを見ると嬉しくなる。
猿面海老根の花は果たして猿の顔を想起するかどうかは別として、正面からみるとまるでこちらに話しかけるような、或いは笑いかけるような実に豊かな表情を見せてくれる花だ。おそらくは先週あたりが花期の盛りだったのだろう。既に勢いを失って色褪せているものもあったが、出遭えただけで嬉しいものだ。
残念ながら中には花茎がその根元近くから失われているものも散見する。鹿に食べられてしまったのだろう。KKさんによると昔は経ヶ岳の近くでも数多く見かけたらしいが、いまやすっかり失われてしまったとのこと。この尾根の少ない株も来年以降、いつまで咲き続けられるか、花の命が未来に引き継がれていくことを願うばかりだ。
登山道の脇の苔むした倒木の陰を覗き込むと、身を潜めるように咲いている数株の花に出会う。写真を撮ろうと屈み込むと上からsatoさんの鋭敏な感性が紡ぐ言葉に心打たれた。「朽ち果てゆく者の傍らで生命を謳歌する者達、こうして命が受け継がれていくんだわ!」彼女の言葉を聞いた途端、この森の中の生命体が目に見えない無数の糸で有機的に繋がってるように思われるのだった。
天狗峠に寄り道すると、山頂が近づくにつれ、尾根は倒木でかなり荒れている。ここに数年ぶりに来られたKWさんは倒木によって以前とはかなり様相が異なってしまったことに驚かれておられた。それでも吊尾根のほぼ中間地点にある3本の太い支幹を有するシンボリックな台杉が健在なのは嬉しいことだ。
天狗峠の帰路で再びこの大きな台杉に通りがかると、「以前はここによじ登ったんだけどな〜」と言いながらKWさんが樹によじ登ろうとされる。私も何度もこの樹の前を通り過ぎながら、樹によじ登ろうと思ったことはなかったが思わず樹に登ってみる。KWさんはまるで少年のように目を輝かせながらすぐに反対側から登ってこらるのだった。
分岐に戻るとてp921にかけて細尾根となり、小さなアップダウンを繰りかえす。p921に至ると、ピークの周りではサラサドウダンがほぼ満開だ。他では全くと言ってもいいほど見かけないのだが、不思議なことにこの山頂一帯のみサラサドウダンの花が咲いている。KKさんが石灰岩質を好む樹であることを教えて下さる。谷から間断なく吹き上がってくる涼しい風に揺れる無数の小さな花からはその名の通り、サラサラと音が聞こえてくるようだ。
樹間からは時折、平坦な稜線が見える。尾根があまりにも平坦でどこかに小野村割岳のピークがあるのだろうがピークの同定が困難だ。
ca920mから滝谷に下ることも考えられたが、この尾根はKWさんは以前、歩かれたことがあるとのこと、出来ればp927から登山を開始した岩屋谷と滝谷の出合に向かって北東に伸びる滝谷右岸尾根を下降する方がいいと仰るので、その提案に従うことにする。
滝谷右岸尾根に入ると東側には開けており、好展望が続く。比良の稜線の好展望が続く。その手前には経ヶ岳からイチゴ谷山を経てp909に至るなだらかな尾根に至る久多川右岸の尾根が見える。この尾根もブナやトチノキの大樹が立ち並ぶ魅力的なところで、草川啓三さんの本でその魅力を知り、季節を変えて何度も訪れた思い入れのあるところだ。
やがてca830で尾根を直角に曲がり、p829を目指す・・・京都北山分水嶺倶楽部の新しい地図に記されているように、ca830mからは北西の方角にも微かな踏み跡が続いているようだった。p829の小さな広場の北側にはニスがすっかり剥落し、数字も読めなくなってしまった小さなプレートが架けられているのだった。
p829から先は急に藪っぽい低木の樹林となり、細尾根の尾根芯には脱落してすっかり用をなさなくなった防鹿ネットが散乱している。やがて尾根芯は繁茂する藪のせいで歩きにくい箇所が多く、左側の植林の斜面をトラバース気味に歩くことを余儀なくされることが多くなる。
しかし、尾根を下降するにつれ急に広々とした快適な自然林が広がるようになる。ここは紅葉も綺麗そうだ。折しも樹林の中には夕陽が差し込み、林の中の樹幹を黄金色に輝かせる。やがて太陽が雲の陰に陰に隠れたのだろうか、樹々の輝きが失くなると急に夕刻の薄暮の中に入ったようだ。
尾根を末端まで辿ると急峻な崖となることがわかっていたので、末端の小ピークの手前で鹿道と思われる踏み跡を辿って滝谷の右岸の河原に下降する。対岸に渡渉するとすぐに岩屋谷との出合にたどり着く。
皆さんとお別れするのが名残り惜しいところであったが、子供達の夕食があるのでミゴ谷の入り口に車を取りに行くとご挨拶して早々に帰路につく。多くの大樹、好天に好展望、そして花にも恵まれた山行ではあったが、惜しむらくは蘊蓄に富むKKさんや抜群の詩的な感性に富むsatoさんのお話をあまり堪能できなかったことであるが、ご一緒させて頂けただけでも十分に有難い貴重な機会であった。充実感に浸りながら京都への帰路を急ぐのだった。
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