キリマンジャロ
- GPS
- 104:00
- 距離
- 73.0km
- 登り
- 4,270m
- 下り
- 4,276m
コースタイム
4泊5日の行程
タンザニア アルーシャ泊
8月5日 マラング・ゲート発
8月6日 マンダラ・ハット発
8月7日 ホロンボ・ハット発 サドル マウエンジー見て
8月8日 キボ・ハット 0時起床 午前1時発
ギルマウンズポイント ウフル登頂
ホロンボ・ハットまで下山
8月9日 ホロンボ・ハット発 マラング・ゲートへ アルーシャ泊
天候 | 晴 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
飛行機
|
コース状況/ 危険箇所等 |
問題ない |
その他周辺情報 | ナイロビ |
写真
感想
1989年8月
キリマンジャロ
リーダーの井本さんから「もうすぐサドルと言うところに出ます。別世界です」と言われ、期待で胸いっぱいだった。コロンボハットからゆるい登りを丈の短い草花の中、一歩一歩高度を上げて行く。すでに4000メートル以上の高度になっている。高度障害を気にかけながらも、必ずウフル(キリマンジャロ最高地点)を登るんだと言う気力が湧いてくる。
ラストウォーターで休憩、サドルまでもう少しだ。
キリマンジャロの水を口にし、キリマンジャロに一歩でも身を近づける。
「冷たくてうまい。」足取りは順調だ。
「ジャンボ」時々すれ違うポーター、登山者に挨拶をする。スワヒリ語で「こんにちは」である。ときには「サバーリィ(元気ですか)」
「ムズリーサナ(元気だよ。ありがとう)」と声を掛け合う。ちょっとした触れ合いだが元気が出て楽しいものだ。
サドル、そこは飛行機が悠々と離着陸できるほどの広大な鞍部である。細かい砂、こぶし大の石がゴロゴロと散りばめられた砂漠のような土地、その先に雪に覆われたKibo(キリマンジャロの頂上)が白く輝いている。
「別世界」この美しさ、広大さは日本にはない。4500メートルの夢飛行場である。
眺めている分には良かったが、歩いても歩いても前進んだ感じがしない。キボ・ハット(今日の宿泊地)は見えていてもなかなか着かない。サドルからはマウエンジー峰が堂々と険しい山肌を現わしていた。私はアフリカ最高峰に今一歩のところにいる。
キボ・ハットは4700メートル地点。ここをベースにキリマンジャロのギルマンズ・ポイント、私の目指すウフル・ポイントと最後の力を振り絞るのだ。高度順化のため登頂前日にキボ・ハットよりさらに100メートル程度高度を上げ1時間位散歩した。明日の登りがかなりきつそうなのは高度もあるが砂地、急登のためである事はこの時体験してわかった。
ちょっとした岩場に横になり、天の青、赤茶けた広大なサドル、キボに被った雲を眺め、よくぞここまでやってきたと自分に言い聞かせた。体調、気力とも今は充実している。ケニア山を下りた日から下痢症状、倦怠感が大きく、ここまで来れたことへの感謝でいっぱいだった。
それと体調がここまで維持、持ちこたえさせることのできた魔法の薬ミノマイシンにも感謝だ。深く厳しいキリマンジャロのベースキャンプ、何とかここまでやってこれた。ミノマイシンは藤原薬局とまでみんなの間で言われるようになった藤原さんが持参してくれた薬、この薬にお世話になったことで思うように行動できた。ミノマイシン様と尊ばれ、崇められた。山の魅力もあるが、科学の力が私をここまで引っ張ってきてくれたようだ。
のんびりとキリマンジャロの懐に横になっていたが、頭の中は明日の登頂のことで期待と不安が交差していた。でもぼーっとするとことの方が多かったかな、高山病が少し出てきたようだ。
キボ・ハットは、石造りの頑丈そうな建物で快適であった。この山小屋2段ベットになっていてマットレスが1枚ずつ使えるのには驚きだった。マットレスの上にシュラフを敷き、その中にも潜り込む。
7時就寝。明日は0時起床、1時出発だ。その夜はほとんど眠ることができなかった。眠る、食べるということがきちんとできてさえいれば、後無理をしなければ山は安全が比較的保たれると思う。ところが今回、食べられない、眠れないという不安を抱えたままの状態だ。それがまた増長作用と言うのか目を冴えさえさせてしまったようだ。ほとんど眠ることなく起床。
高山病対策の1つとして水分を取る。紅茶を2、3杯飲み、おしっこが出れば良い。おしっこが止まった時が怖いと言われた。そして力をつけるために、日本から持ってきたレトルトのご飯を食べて出発。
ヘッドランプを頼りに登り始める。急坂のためジグザグに一歩一歩ゆっくり歩む。ペースは上がらない。
ガイドリーダーのウイニーレッドが歌う。
「キリマンジャロー、キリマンジャロー…… 」
ピント張り詰めた空気の中に響き渡る。元気が出てくる歌、そして歌声だ。
5000メートルを越える。未知との遭遇という領域に入った。
満点の星、それが美しい。星座などの名はよくわからなかったのが残念だった。ここは星の専門家岡さんがいくつか星座を教えてくれた。今は忘れてしまったがオリオン座、スバルなどが美しかった。
それにしてもこの岡さん流星を研究していると言うが、刺激的な遊び方をしている人で日本と世界を庭にしている。
夜が明け始める。紫色、赤紫色、オレンジ、ピンクなど刻々と空は変化し、自然の織り成す芸術を登りの苦しい中で楽しんだ。もう少しでギルマンズ・ポイントと言うところで御来光を迎えた。空はすでにブルーに変わっている。手を合わせ、
「ウフルまで登らせてください。」
と願わずにはいられなかった。
太陽を背に受けながらギルマンズ・ポイントまでのきつい登りを踏ん張る。すでに出発してから6時間。やっとのことでギルマンズ・ポイント登頂。
同時に次の目標ポイント、白くそして青く輝くウフル・ピークが目の前に見えた。キリマンジャロは世界最高峰の火山で、ギルマンズ・ポイントはその火口の縁のひとつだ。そしてウフル・ピークはその縁の中では一番高いところというわけだ。したがって大きな火口が山頂に広がり、いわゆるお釜を形どっている。
風が吹きすさぶ壁や岩に雪はないが、山頂はほとんど真っ白な雪に覆われ、万年雪が氷となり太陽の光を反射させブルーに輝く。
時間的にあまりゆっくりはしていられない。ウフルを目指し、火口に沿って進む。歩きにくいガチガチでこぼこした雪面を行く。思ったより長い道のりだ。でも私たちは幸運だと感じる。この絶好の天気、風も爽やか。ワンチャンスの登頂日和になった。行くしかない。
今回がキリマンジャロ挑戦2回目と言う勝山さんの話によると、雪が降ったり風が強かったりすると人間など近づくこともできないそうだ。ゆったり景色を眺め、のんびりした気分での山行もやはりこの天候のおかげとつくづく思うのだった。ありがとうございますキリマンジャロ、そして恵みの天候よ。
サングラスを外すとブルーに輝く氷壁が眩しい。ここは5000メートルの世界。一歩一歩がやっとの思いで踏み出せる。赤道直下の雪の上を踏みしめる足取りは意識の中では楽しくも、身体は正直で苦しく重かった。空気が薄い、大きく意図的に呼吸を繰り返す。それでも苦しく体が思うようにならない。アフリカ最高峰に近づいている。と気力を高める。あとわずかで、しかしそのあとわずかが遠い。引き締まった雪を踏みしめ踏みしめ。
「ポレ、ポレ」ゆっくりとという意味だ。
何百回も、この言葉を繰り返し歩む。
山頂に着く9時26分。白と青の世界が目の前に広がる。
そしてほっとしたのか横になる。力が入らない。しばらく横になり周りの景色をぼーっとしか見つめられなかった。
雪が眩しく太陽が肌を刺す。
井本さんから小石を受け取る。さすがリーダー井本だ。キボ・ハットから持ってきたと言う。山頂から記念の石を持ち帰るには、その代わりの手を置いていくのだ。ありがたく、その小石を山頂へ置き、「お願いします。」と交換に握りこぶし位の石をいただいてきた。
写真を撮るのにリバーサルフイルムを使っていた。山頂でカメラの中に入ってるか心配になり開ける。ほんの数分前に入れ代えてあったのに何を思ったのか確かめたのだ。ぼーっと高度障害が出ている。
「時間です」
下山の合図が出た。下りを急がないと帰れなくなる。山頂の時間は瞬く間に過ぎてしまった。
ウフルからの下山の苦しかったこと。歩き始めが午前1時。今は午前10時ウフルからの帰りだ。登りは苦しく重い足取りを感じたが、肉体的な苦痛はほとんどなかった。ところが下山になると頭を締め付けるような痛み(孫悟空になったと言う)、腹痛が上から下から襲ってきた。高度障害は遅れてやってきたのだ。そして腹痛は生理現象である。頭痛は行動を下げていくことによって自然解消だろうが、生理現象のほうは我慢できなくなった。キリマンジャロの頂に分身を置いてくることにした。ケニア山についてであった。2つの山は今でも身近に感じられるのはこのためなのか。
下山なのにますます頭痛と倦怠感が襲来する。ギルマンズ・ポイントまでの行きは歩きにくく、疲れをいっそう大きくした。こんな時こそ飲み、食べ補給を充分行わなければいけないと思うのだが、その意欲は出てこない。休憩を取るといつまでもそばに止まりたい、そんな気持ちがあった。それでも下山しないわけにはいかない。気合を少しでも入れて下山を急ぐ。ギルマンズ・ポイントまで来ると、倦怠感が頂点に達した。
登りに6時間を要したキボ・ハットからギルマンズ・ポイントまでを降りなくてはならない。疲れは最高。
それでも後は下るだけ。細かい砂の登山道、かかとを使って滑るように下りると、思ったよりスムーズに降ることができた。高度差1000メートルほどを滑り駆け下りた。全身砂埃で粉をかぶったように全身真っ白の砂だらけに。それはもう気力だけだったように思う。所要時間はなんと1時間半ほど。ギルマンズ・ポイントでは一時どうなるのかと思ったが、無事キボ・ハットに着く。
ほっとするが、これからさらに下山する。気は重いが、簡単な昼食をとってコロンボ・ハット、今日の宿泊地に向けて出発する。
キボ・ハットから先は雪もなく急坂もなく平坦なサドルを行く。時間的にはコロンボ・ハットまでに明るいうちに着けそうな余裕も出て、気持ちに余裕も生まれ楽しい下山になった。
こうしてキリマンジャロ、ケニア山を無事登り終えて今思う事は雄大な自然と人間の力関係である。我々が登頂できた事はやはり一人ひとりの力があったからには違いないだろうが、それはあくまでも自然が許容してくれたからではないかと思う。自然の懐の中に入っている人間。たゆまの努力をすることによって夢は叶えられる事はあるだろうが、やはりそこには底知れぬ自然の脅威が私たち人間を左右しているのだと感じざるを得ない。天候に恵まれた。そして厳しかったがキリマンジャロ様、ケニア様が私たちを登らせてくれたのだ。
ありがとう。
アリューシャンへ向かうバスの中で見たキリマンジャロはキボ・ハットだけが雲上に現れ、私たちを見送ってくれた。
ふるちゃん
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