2.槍ヶ岳(大キレット縦走) 「稜線上の刃(やいば)」
- GPS
- 80:00
- 距離
- 40.9km
- 登り
- 2,452m
- 下り
- 2,439m
コースタイム
8月15日(二日目)涸沢−北穂高岳山頂−(大キレット縦走)−南岳(幕営)
8月16日(三日目)南岳−槍岳山荘−槍ヶ岳山頂−槍岳山荘−槍沢ロッジ−横尾(幕営)
8月17日(四日目)横尾−徳沢園−明神館−上高地
天候 | 全日程通して晴天 |
---|---|
アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
○大キレットは経験豊富なSさんやD君のエスコートのお陰で、当時初心者だった僕も通過出来ました。 |
写真
感想
第2座 稜線上の刃(やいば)
8月15日、北アルプスの真っ直中、涸沢のテント場から夜が明けきらない時間からテントを片付けて出発しました。まずは北穂高岳に向かうためです。パーティーは僕を含め26人。それを3班に分けての出発です。特に僕のいた2班はビキナー主体のパーティーでゆっくりとしたペースで登っていきます。
「おはようございます」
と別のパーティーが僕たちのパーティーを追い抜いて登りました。彼らのなりを見ていると、一人一人登山用のヘルメットをかぶっていたり、ザックの横にくくりつけていました。その理由は後で解かることになります。
山頂が近づくにつれ、ガレ場と呼ばれる、まるで瓦を割って散らかしたような山道が僕たちの眼前にありました。足元を注意しながら登っていると、
「ラク、ラク、ラーーーーク!」
と前を登っていた人が叫びました。すると僕めがけて、拳骨大の角ばった石が転がってくるではありませんか!
「ひぇ〜!」
と僕は亀のように身を縮めました。幸いその石は手前で止まりまして事なきを得たのですが、ああ、そうか。道理でさっき追い抜いていったパーティーはヘルメットを持っていたのだなと思いました。あんな石、頭に当たったらひとたまりもなかったと思います。それから、誤って足を踏み外し、石を転がしてしまった場合、
「ラク、ラク、ラーーーーク!」
といって後ろを登っている人に知らせることもここで学びました。
昼頃に北穂高岳の山頂を制したのもつかの間、僕たちは南岳を目指して尾根つだいに登って降りなければなりません。北穂高岳と南岳を結ぶ縦走路は「キレット」と呼ばれる難所なのです。「キレット」というのは、もともと「切り立った戸」が転じて「キレット」となったそうで、登山の本などでは「初心者は登らないほうがいい」と書かれています。
「大丈夫か! 俺は登山初体験の初心者だぞ!」
いざ、そのキレットを見たとき、まるでナイフのエッジを蟻がうんしょうんしょと登っている感じがしました。そして間もなくして僕もその蟻の一匹となりました。
足元を見ました。霧が立ち。立ちこめていました。もし僕が足を踏み外したならば・・・・。
霧の向こうの人となり、帰らぬ人となるでしょう。この時ほど「怖い」と感じたことはありません。本当に覚悟しました。
「この8月15日が俺にとって命日になるかもしれない」
と。そして夕方、目的地である南岳に到着しました。ビールを飲みながら僕は、
「俺って生きている・・・・ 生きているんだな!」
と思いました。人間というものは昼間見たキレットに登る人間が蟻に見えるように、所詮、自然の前では人間って蟻みたいなものかもしれないと思いました。せっかくこうしてある命。大事にしなければ・・・・。僕はそれをキレットに教えられたような気がしました。
8月16日、夜中に起きた僕は星を見ていました。満天の星、天の川もくっきりと見えました。折しもこの頃はペルセウス座流星群が見える時期で所々で流れ星が流れては消えていきました。僕はひとつの星座を見ていました。オリオン座です。明け方になるとオリオン座が見えるのです。夏にオリオン座が見えるなんて・・・・。怖いキレットを縦走した甲斐があったなぁと思った時、オリオン座のそばを一条の流れ星が流れて消えました。
その昼、僕は槍ヶ岳の山頂にいました。この山は日本で5番目に高い山だそうです。ただし、名の通り槍みたいな形をした山なので、山頂となる「槍の穂先」は50人登れば一杯になるほどの狭いものです。僕は滑落に脅えながら山頂の景色を楽しみました。もちろん、
天気は快晴で、苦しい思いでキレットに登った僕たちに天は雲を吹き飛ばしてくれたんだと思いました。
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