大弛峠から金峰山往復(スキー使用)
- GPS
- 32:00
- 距離
- 27.5km
- 登り
- 1,404m
- 下り
- 1,404m
コースタイム
天候 | 曇り時々雪 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2015年03月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
感想
積雪期の奥秩父最奥部のレコは極端に少ない。これは、金峰山から東へ踏み込んだら甲武信まで抜けないと下山できない(逆コースも同じ)、だから日数が掛かりすぎるという「常識」のためではないか。峰越林道(川上牧丘線)からスキーでアプローチすることで所要時間を短縮し、週末登山の範囲に納められないかと考えたのは随分前だ。7年前に最初に挑戦した時は2日がかりで大弛峠まで。5年前は国師岳を往復(既報)。3回目の今回は、金峰山往復が目標である。
(13日) 廻目平との分岐に車を置き準備をしていると、心臓が止まりそうなショック。アウターウェアとそのポケットにねじこんだオーバー手袋を忘れてきてしまったのだ。登山歴40年近くにしてこんな致命的なドジは初めてだ。どうするか? 中止するのが王道だが、休暇まで取って来ているのに、簡単に諦めはつかない。車内にある物を洗い出すと、保温力は足りそうだが、防風、防水性は心もとない。行程の中で吹きさらしは一部だが、むしろ樹の枝に積もった雪をかぶって濡れる方が問題になりそうだ。結局、大弛峠まで行って、後は濡れることが致命傷になりそうか、気象条件で判断することにした。
この時期では林道の下部は雪がないかと思っていたが、5cm位はあり、最初からシールが使える。上空は雲が速く流れているが青空は見えており、唐松と白樺の美しい林の中を快調に進む。正面に主稜線が見えると、樹は岳樺と黒木が植林帯と交代するようになる。単調な道を黙々と歩く。今シーズンはこんなことばかりやっているが、これはこれなりの良さがある。ルートファインディングとか、次の一歩をどこに置けば安全かとかあれこれ考えずに、無心に足を前に出していればよいので、日常生活で溜まった澱みが解消するような気がする。スキー禅とでも言ったところだ。雪の状態は、前週の暖気で固く締まった層の上に、今週月曜日の積雪が5cmくらい載っている。スキーでは靴の甲まで沈むくらいなので、ラッセルというほどではない。魚留沢の橋を渡ると、長いトラバースが始まる。どっと疲れが出るところで、ヤマレコ用語を借りると「心折れるトラバース」だなと思いながら歩く。朝日岳北尾根の特徴あるツルム(兜岩)や、周辺の岩塊の眺めが慰めだ。この辺りは登攀されているのだろうか。いつの間にか、上空は灰色の雲に覆われて陰鬱な雰囲気になっている。前方には、顕著なY字型をした朝日岳の大ナギが白く見える。稜線から滑り込んで大雉沢を下れそうな気がするが、物好きな方にお任せする。
やはりうんざりした頃に、2112mの屈曲点に辿りつく。最初に登った時に、時間切れツェルトビバークになった懐かしい所だ。いよいよ大詰めになるが、雪がぱらぱらと舞い始める。目印となる次の屈曲までの間がえらく長く感じる。敗残兵のように重い脚を引きずり、ゆっくりゆっくり歩くのみ。忍耐の果て、目の前に雪原が開け、大弛の看板が飛び込んでくる。安堵と静かな喜びをかみしめる。翌日の金峰山への入り口を偵察してから、大弛小屋へ向かう。
この小屋は冬期開放されており、屋根続きの別棟の中を湧き水が流れていて実にありがたい。ただ2370mの高所だけに、今日は冷え込んでいる。テントで一人でいるのは全然苦にならないのだが、なまじだだっ広い真っ暗な広間で寒さを忍びながらレトルト飯を口に運んでいるのは中々侘しいものがある。時間つぶしにビニール袋を切り貼りして、非常用のアウターを作製する。残置の毛布があるので快適に寝ることはできた。
(14日) 明け方から頭が痛く、装備のこともあり弱気の虫が頭をもたげる。しかし無風なので行かないわけにはいかない。朝日岳までで引き返すことも念頭に出発。最初は樹間の広い森を登る。傾斜はきつくはなく、シールで十分直登できる。尾根上は、樹の枝はややうるさいが切り開きは明瞭で心配していたよりは歩きやすい。潜り具合は深くて15cmくらいか、風で飛ばされているところは全く潜らず歩きやすい。程なく後ろからオレンジの朝陽が差し込み、さらにはバラ色に染まった朝日岳が森の上に厳かに現れた。こうなると現金なもので俄然やる気が出てくる。ルートは稜線の少し北側を巻くように進む。小さな傾斜を滑り下れば朝日峠。主のような岳樺が一本聳えている。明るい森の中を気持ちよく進むと、少しだけ雪稜っぽい場所があり、気分が盛り上がる。後方には国師岳が大きい。朝日岳が近づいてくると、急に空が灰色に変わる。標識などは見当たらないが、最高点と思しき所を頂上とする。少し歩くと目の前が開け、夏はガレ場であるらしい雪の急斜面が現れる。金峰山が白いドームのような全貌をさらし、息を飲む。斜面は15mほどだが、新雪の薄皮の下は板を斜めにしたような硬いクラストになっており、横滑りで降りようとしたがエッジが効かず、半分以上は滑落してしまった。クトーを持ってこなかったので、帰りをどうするか、悩ましいところだ。しばらく傾斜が強いので、階段下降を交えて慎重に行く。この辺り樹の枝も混んでおりわずらわしい。片方のシールの前のほうが浮いてきたので、テーピングで補修する。何年も手入れしてないのだから当然だ。今回は反省材料が多い。
鉄山北面のトラバースはGPS頼みと思っていたが、明瞭な切り開きに赤テープや黄色のプラスチックプレートが付けてあり迷うことはなかった。(逆に金峰山から来る時は巻きに入るところが分かりにくい。)いよいよ金峰山への最後の登りにかかる。白さを増した木々の間を辿っていくと、突然に樹の丈が低くなり、ほの白い大斜面に飛び出した。雪混じりの風が吹き付け、一気に冬山の様相だ。だが幸いフードなしでいられないほどの厳しい風ではない。シュカブラの稜線を詰めていくと、前方に五丈石がせりあがってくる。素晴らしいアプローチだ。晴れていたら大感動だろう。小川山や瑞牆が雪のベールを透かして灰色のシルエットになっているが、今日は見とれている余裕はない。最後にスキーをはずして岩の上によじ登ればそこが最高点だ。永年の懸案を達成した嬉しさと、これで帰れるという安堵が半々だ。岩陰に単独行の方がいたが、すぐ発たれたので、一人の頂上を味わうことができた。標識にスキーを立てかけ記念撮影。寒さで長居はできなかったものの、満足感を胸に帰途につく。
帰りは自分のトレースを辿るだけなので、本当に気楽だ。さらさらの新雪でシールが滑りすぎるので下りでは抑えるのに苦労する。鉄山を順調に通過し、朝日の登りになると、往路では感じなかったが、帰りは登りながら樹の枝をかき分けるのでかなり疲れる。立ち止まって息を整えながら進む。本日の核心部たる頂上直下の急斜面は、左側の樹の生え際を細かくキックターンでジグザグを切って登りクリアした。これで帰れる目途がつき、肩の荷が下りた気がした。雪が本降りになってきて、ここから先は長く感じた。木の枝からかぶる雪と度重なる転倒で、やはり衣服は湿っぽくなっている。大弛峠への最後の下りは、束の間の林間滑降。馴染みとなった峠の道路に飛び出して終了した。
まだ時間は十分あるのと、じっとりと濡れた衣類でさらに一夜を過ごすのは耐え難く、温泉を目指して今日のうちに下ることにした。小屋に戻り、湧き水で最後のコーヒーを味わう。出発しようとすると、金峰山の方から大学サークルと思われるパーティが追い付いてきた。この時期、このコースで人に会うのは初めてだ。正直、休暇をとって金曜日発にしてよかった。トレースを辿ったのでは、この山行の意義は半減だ。シールをはずし、林間からそのまま林道へ滑り込む。正面から大粒の雪が眼鏡に吹き付ける。せっかくのトレースは半分以上埋もれていて、傾斜の緩い所は歩きになってしまう。2112mの屈曲点で、最初のときにツェルトの張り綱をとった岳樺の木を抱きしめて名残惜しむ。もうここに来ることはないだろう。
沢を渡るところで、いったんシール装着。昨年から出るようになった不整脈のせいか胸が苦しい。この程度の山でダメかと思うと情けない。幸い道の蛇行が始まる辺りから滑り出した。ここは、谷の中のほうが冷気がたまっていてスキーが走る。立っているだけでどんどん景色は流れ去る。唐松林に入る頃には青空が見えて、夕暮れの気配が感傷を誘う。カーブを曲がると突然ゲートが現われる。これで私の大弛プロジェクトは完結だ。板を担ぎ、車へと向かう。
(総括)
◯予定どおり歩くことができたとはいえ、装備の不備でレジリエンスに欠ける登山をやってしまい、嬉しさもいまひとつだ。このところ単独行ばかりで甘えがでていたと思う。反省しなければならない。
◯大弛〜金峰間は、朝日岳の1ヵ所をのぞき急傾斜はなく、スキーは有効だ。 滑りで時間短縮もできる。今回は登山靴を使ったが失敗。狭い切り開きの中を抑えて滑るには、兼用靴のほうがよかった。私の締具はディアミールなので、前コバのある登山靴が使えるが、このコースに限ればスキーを脱ぐ場面はまず無いので、TLT締具で可能だ。金峰山の東側稜線は傾斜は緩く、アイゼンの必要は感じなかった。むしろクトーを持つべきだった。
◯奥秩父の新鮮な風景を見られる面白いコースだ。峰越林道は積雪期限定の登路としてもっと利用されて良いように思う。
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する