だるまフェースに喉カラカラ、瑞牆山トムソーヤの冒険❗
- GPS
- 11:00
- 距離
- 10.9km
- 登り
- 1,072m
- 下り
- 1,076m
コースタイム
- 山行
- 7:03
- 休憩
- 3:58
- 合計
- 11:01
天候 | 晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2024年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
トムソーヤの冒険の取付きを見つけるのに苦労した。分かりにくい白テープはあるが、それよりもしっかり前方に大ヤスリ岩が見えているかを確認すべし。ちゃんと見えていないと右に分け行ってはいけない。1P目は5.5だが、侮るべからず。あまり支点が取れず、ほぼほぼフリーで登ってしまった。2P目はルートのハイライト。バックアンドフットで奮闘しよう。3P目はものすごく短いが、かなり無理な穴を這いずり通る。そこからダルマフェースの取付きまではコンテだが、のっけがかなり痺れるトラバース。ロープ要るやろ...。4P目はだるまフェース。快適なクラックとみんなは言うが、僕は恐怖で喉カラカラ。そして、終了点からの短い懸垂とその直後の登りが猛烈に危ないので要注意。登りきった所にある大岩からは正面に大ヤスリ岩がドーンと見え、富士山、金峰山、八ヶ岳など眺望抜群。ここらかはロープをしまい、快適な岩登り(フラットソールには頼ったが!)。最後は山頂に「産まれて」飛び出す! |
その他周辺情報 | 富士見大小屋でゆっくりコーヒーブレイク |
写真
装備
個人装備 |
カム0.4から4x2
カム5・6x1
アルパインヌンチャク60?x6
アルパインヌンチャク120cmx4
スリング240?x2
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感想
1.ワイドクラックの恐怖
「瑞牆山のトムソーヤの冒険って、難しいですか?」
会の総会後の親睦会で、ちょうど2年前にトムソーヤの冒険をやった先輩(かなり年下)に聞いてみた。
「いや、簡単ですよ」と、すぐに返事をした後、彼は少し考えこんだ。
「あ...でも、洞窟のワイドクラックの経験がないとどうなんだろう...」
そう、トムソーヤの冒険のハイライトは、2P目の洞窟登りだった。ここは「バックアンドフット」というテクニックを使って登っていく。カモシカスポーツで買ったピート・ウィタカーのクラッククライミングのp160を見ながら、「全くやったことないのに、いきなり俺にこれができるのかな...」と不安になった。
また、トムソーヤの冒険は瑞牆クライミングガイド第2版「上」によれば、カムをキャメロット#0.75から#6まで1セット使うという。自分の持っている一番大きいカムは#3だったので「これはデカいの買わなアカンな…」。ひできちさんが#4を買ってくれたので、僕は#5を買うことにした。しかし、この大型サイズになると中々にずっしりと財布にも響く。そこで少しリスクを取って、またしても怪しげな海外のサイトOliunidで2割引きくらいの値段で購入することにした。不安だったが、注文してから2週間くらいで無事に問題なくデリバーされた。しかし、その後もレコで予習していると、「#4から#6が2セットあると安心」と言っている人もいて、どんどん不安が増していった。そして我慢できずにカモシカスポーツの「夏のフェア」で#4と#6を買ってしまった。これでひできちさんの#4と合わせて大型カムが4個もあるので十分だろう。
ただ、これでも不安は消えなかった。「やっぱり、ワイドクラックを一回やってみなアカンのちゃうか?」。どこに適当なワイドクラックがあるのか知らなかったが、「小川山に練習しに行きませんか?」とひできちさんに声を掛けた。ひできちさんは快く承諾してくれ、本番の1週前の日曜日に小川山へと繰り出した。本当は日本一有名なクラック「小川山レイバック」をやる予定だった(これはワイドクラックではないのだが...)が、グレードは5.9だった。5.9と聞くと簡単に聞こえるかもしれないが、ナチュラルプロテクションの5.9は普通のボルトの5.9と基準が違うらしい。5.9でも侮れないということだ。
どこか猛烈に簡単なクラックないかな...
ネットを検索すると、グレード5.7の「ジョイフルジャム」というのが西股沢下流の弟岩にあることが分かった。「まずはこれで自信をつけてから、レイバックちゃうか?」
廻り目平キャンプ場の金峰(きんぽう、長野県側ではきんぽうと発音する)山荘の奥の大駐車場に朝の5時に集合した。今日は早ければ9時ごろ雨が降り始めるリスクがあったので、できるだけ早めにスタートにした。ちなみに朝の4時より前にキャンプ場のゲートをくぐると別料金がかかる。例によってひできちさんはもう到着していたので、そこまで挨拶に行く。事情を説明し、まずジョイフルジャムに行くことを伝えた。
このジョイフルジャムがある弟岩は、沢を挟んで金峰山荘と反対側にある。キャンプ場のゲートをくぐってすぐある職員用駐車場から沢沿いに下りて行き、渡渉する。この時は2,3日前に降った雨の影響か、沢が増水していてなかなか渡渉ポイントが見つからなかった。結局、アプローチシューズを脱ぎ、裸足になってズボンを濡らしながら無理やり渡渉した。水が猛烈に冷たく、足の感覚がなくなる寸前だった。渡渉した後もなかなか険しいを道を行き、やっと弟岩に辿り着いた。そこには、確かにそれほど高度感のない、すっきりとしたクラックが入っていた。どう見てもこれが「ジョイフルジャム」だろう。しかし、斜度はほぼ垂直で、「結構立ってますね...」とひできちさんに言われ、「確かに…」とビビり始めた。見上げると、岩のてっぺんにしっかりした終了点があったので、「何とかトップロープを掛け、練習できる態勢を作らねば...」と気合いを入れた。僕らは2人ともクラッククライミングの経験はほとんどなかったので、そんなにイージーではないとは予想していたが、「さすがに小川山で一番簡単なクラックだし、できるだろう...」と根拠なく楽観していた。
完全なる間違いだった。
下からカムを徐々に掛け、何回もトライした末にやっと僕が終了点まで到達した。あまりのギリギリ感に、喉がカラカラになりながら興奮気味にセルフを取った。こうして何とかトップロープをセットし、2人で3回ほど練習した。結局、最後まで余裕で登れるようにはならなかったが、コツは掴めたような気がした。ここから雨が降ると渡渉が更にリスクになるので、早めに金峰山荘側に戻ることにした。
帰りも同様に苦労して渡渉し、職員用駐車場に上がって来た。雨は今にも降りそうだったが、折角小川山まで来て小川山レイバックを見ずに帰るのはもったいない。「とりあえず、見学だけでも小川山レイバックに行きますか?」とひできちさんに言い、持って来ていた小川山クライミングガイドの「中」をザックから取り出した。このクライミングガイドは、岩場の取り付きまで過剰なくらい丁寧にルート案内が書かれている。ルート案内に忠実に歩くと、全く迷わずに小川山レイバックの取り付きにやって来た。案の定、こんな天気でも2組待ちだった。ただ、今登っているパーティーは掛かっているトップロープで後2人が登るのみで、その次の年配の女性2人組も上に抜けるという(小川山レイバックは実は2Pのマルチピッチとしても楽しめる)。「やっぱり雨でもここは混んでますね!」と、その年配の女性のうちの1人に話しかけると、「雨が降るとみんなここに集まって来るのよねぇ」。「え、それはここは雨だと更に人気になるということですか?」と質問すると、「ここは上の岩のお陰で、雨でも中々濡れないのよ」と教えてくれた。「なるほど…いいことを教えてもらった」
最初のパーティーが登り終える頃、雨が本降りになって来た。それでも、次の女性2人組はぶつぶつ言いながらも登り始めた。かなり自信があったのだろう。あっという間にリードの女性が登り切り、フォローの女性も難なく上がって行ってしまった。「意外にすぐに順番来ましたね」とひできちさんに声を掛け、かなり雨がきついがとりあえず感触だけでも味わおうと、ロープは使わずに触ってみることにした。しかし、最下部のクラックはかなり狭く、僕らの足はつま先が辛うじて入るくらいだった。なので、名前の通りレイバック気味に体を左に引いて、前方の壁に足を突っ張って登ろとしたが、さすがに向かいの壁は濡れていてすぐ滑ってしまった。やはり、その先っぽしか入らないクラックに足を無理やり入れ込んで登るしかないようだ。カムを使ってズルをしながら登り切ろうと思っていたが、もしここから雨が更にキツくなり、終了点まで行けないと、カムを残置しなければならないことに気が付いた。しかも本番を来週に控え、「無理をするのは止めましょう」という意見で一致した。それでもカムを僕が名一杯上にセットし、ミニチュアトップロープを作り、少しだけ2人で登ってみた。すると、少し上に上がるとクラック幅が広がり、そこから先は普通にフットジャムが効きそうだった。「よし、コツは掴めましたね😅」と、ここで練習は終了となった。「結局、ワイドクラックやらんかったな...」。でも、実はジョイフルジャムをやったことが、本番に猛烈に生きるとはこの時はまだ気付いていなかった。
2.トムソーヤの冒険
天狗山ダイレクトを余裕を持って楽しみ、ヘルシーパーク川上に向かった。ここはモンベルカードを見せれば100円引きの400円でお風呂に入ることができる。たっぷりかいた汗を流し、畳の部屋でストレッチをしながら、焼肉ふじもとの開店時間の5時まで時間を潰した。ナナーズの近くにあるこの焼肉屋のことを会の先輩から聞いていたので、一度行ってみたかったのだ。
5時5分前にヘルシーパーク川上を出発し、5時ぴったりに店の横の駐車場に入った。もっとクライマーで激混みかと恐れていたが、僕らが最初の客のようだった。やたらと広い駐車場なので、どう止めるかをお店に入って聞き、道路に平行の向きになるように車を止めた。
店内はかなり広く、テーブルと座敷がたくさん用意されていた。適当に厨房近くのテーブルに座り、焼き肉定食(1500円)を注文した。この定食にはカルビが3枚しかついていないというので、別にロースを2人前(1400円 x 2)注文した。肉はとてもおいしく、量も追加で頼んだロースを入れると十分満足できた。
お店を出て、まずは明日の食材の調達にナナーズ横のセブンイレブンに向かった。ナナーズの敷地内に、以前カラファテだったクライミングギアショップがあり、まずはそこを冷やかしに行った。タケムービーのペツルネオックスのレビュー動画に登場していた小柄な店長さんは、クライマーと何やら話しをていた。このショップはロープからカム、ルートガイドブックに至るまで、狭いスペースなのにありとあらゆる物が置かれていて、見ていて飽きなかった。ビレイグラスも置いていたので、実際に掛けてみて便利さを実感した。
お店を出て、セブンイレブンで買い出しをし、瑞牆山荘駐車場集合ということで一旦解散した。ここから瑞牆山荘駐車場までは30分以内で移動できる。駐車場に着くと、意外に車の台数は少なく、あまりうるさくならなさそうな奥の方にジムニーを止めた。しばらくするとひできちさんもやって来た。当初は道の駅「みなみきよさと」で車中泊しようと計画していたが、少し遠回りになるので、ここに来てしまった。少し遠いがキレイな水洗トイレもあり、ありがたいスペースだった。標高は1500mを超えているのたが、さすがにこの時期だけに夜も寒くなく、モスキートネットをジムニーの窓に取り付け、少し窓を開けて寝てちょうどよかった。翌朝のスタートは5時と決め、(隣にはいるが)解散した。
翌朝、予定どおりほぼ5時にスタートした。トムソーヤの冒険は山頂周辺の岩場にあり、アプローチが最も遠い岩場なのであまり人気がない。まずは普通に瑞牆山を目指すように表登山道を歩く。45分ほどで富士見平小屋の水場に到着した。ここの水は平成の名水100選に選ばれているらしい。たっぷりと冷たい水をいただいた。ここからは小屋へのショートカット道が付けられていて、そこを登って小屋に到着した。まだ6時にもなっていないのに、みんな思い思いに朝の時間を楽しんでいた。テントの数もかなり多く、人気な小屋なことがうかがえた。ここは、瑞牆山と金峰山との分岐点になっている。少しテーブルで休憩し、瑞牆山方面へと向かった。
ここからは少し下り、沢を渡渉する。そして比較的すぐに有名な「桃太郎岩」にやって来た。割れ目が入った巨大な岩だ。岩の割れ目を観察しながら、「ここを登るクライマーもいるかもですね!」と、まだ冗談を言い合う余裕があった。ここからも引き続き、普通に登山道を行く。しかし、トムソーヤの冒険への取り付きへは「登山道が大きく迂回している所を右」というアバウトな情報しか頭に入れていなかった。適当な所で右に曲がり、間違いに気が付き引き返すというのを繰り返し、取りつきをようやく見付けた時には30分くらい時間をロスしていた。誰かの軌跡をダウンロードして来るべきだった。
(0) 装備
お互いに持っているロープの長さが合わなかったので、僕はシングルロープ60m、ひできちさんはシングル・ダブル共用の60mでやることになった。本来ならダブル50m2本が一番楽なのではないだろうか?
カムは#0.3、#0.4、#0.5〜#4が2セット、#5、#6を2人で用意したが、大きいカムは1セットで十分だった。後はアルパインヌンチャクを60僉120僂播当本、240僖好螢鵐阿2人で2本用意したが、そんなに使う場所はなかった。
(1) 1P目 5.5 20m リード
ほんまに5.5か⁉?
はっきり言って、1P目はノーケアだった。「瑞牆クライミングガイド」によると、立木正面のクラックから登っても、その立木を木登りしてもいいとある。僕はここは木登りではく、クラシックにクラックで行こうと思っていた。顕著なクラックと立木は右側にあったが、左側にも立木はあり壁自体は左の方が登りやすく見えた。しかし、僕は顕著なクラックがある右側を選択した。クラックに近づき手を入れてみる。ちょっとワイド過ぎる。カムを噛まそうにも持ってきている中で一番大きい#6でギリギリな感じだ。取り敢えず、後ろの立ち木で最初のラニング支点を取り、ゼロピンを掛けた。しかしそこから全く支点が取れない。クラックからすぐに右側の壁に移った。足場、手はそこそこあるので慎重に登れば大丈夫なのだが、ほぼほぼフリーなので緊張する。壁の中間部から壁の上に乗り上げるまでが少しバランシーで難しく感じた。かなりの緊張を強いられながら、何とか壁の上に立てた。「これ、ほんまに5.5か⁉?」。ここらか前方のテラスに移動するが、手がかりは立木しかない。しかし、手前側の立木は根元がかなりえぐれていて、体重を掛けると根元から引っこ抜けそうだった。仕方がないので、その奥にある立木に何とか手を伸ばし、危うい立木を右側からすり抜け、テラスに到着した。テラス中央にある立木でピッチを切った。
(2) 2P目 5.7 20m フォロー
バックアンドフット
トムソーヤの冒険の目玉の洞窟登りのピッチだ。結局バックアンドフットの練習はできずじまいだったが、ひできちさんが自信があると言ってくれて、かなり気持ちが楽になっていた。リードとフォローでは10倍くらい緊張感が違う。1P目の確保支点から洞窟の入口は見えていた。最初、洞窟内に確保支点が取れるか謎だったので、このまま2P目をスタートしようかなとも思った。しかし、それだとひできちさんが登っているのが全く見えないので、リスクが高すぎる。一度ビレイを解除し、2人で洞窟内に入っていった。スタート時からヘルメットにヘッデンを着けていたので、すぐに点灯させた。洞窟内はとても狭かった。奥に大きな岩があり、そこで確保支点を作ろうと思ったが、240cmスリングでもうまく決まらなかった。仕方がないので、正面の壁の割れ目に小型のカムを2個噛ませ、確保支点とした。
ここはザックを背負っていると抜けられない穴を通るので、スタート時点でザックを下ろした。リードが登りきったら、上の確保支点にマイクロトラクションをセットし、ザックを引き上げればいい。この時当たり前たが、ラニング支点にクリップするロープは1本にしておかないといけない。もし、ボーッとして両方のロープでクリップしてしまうとロープでザックを引き上げられなくなる。
ひできちさんリード。洞窟の奥にある岩によじ登り、スタートする。そこで、まず6番のカムで右手のワイドクラックに支点を取る。しかしそこから岩をのっこすのがなかなか難しい。登ろうとしているクラックの入った壁だけで登るのは無理だろう。ひできちさんは後ろの壁に足場を見つけ、そこに足を乗せ突っ張ってクリアした。そして、すぐさまもう一つカムで支点を取る。そこまで行くとかなり安定するようで、写真のためにそこで一旦止まる余裕もあった。洞窟を登る距離は意外に短く、すぐに洞窟を抜けたテラスにひできちさんは到達した。
ザックを2個とも引き上げ、フォローで僕がスタート。やはりクラックの壁だけで這い上がるのは難しかった。誰かが言っていてように、僕は「本能で」バックアンドフットを始めていた。「おー!これ、安定する😂」。足を突っ張り、背中側に回した手で支えながら、じりっじりっと背中を上げていく。あまりにおもしろく、カムの回収をすっかり忘れてしまう。気がついた時にはもう手が届かなくなっていた。バックアンドフットで下りるのは流石にずり落ちそうで怖かった。ひできちさんの臨機応変なアイデアで、一旦安定するところまで上がり、ロワーダウンでカムの場所まで下ろしてもらい、無事に回収した。安定した場所から上は何の難しさもなかった。無事に洞窟から顔を出し、ひできちさんに写真撮ってもらい、2P目終了。案ずるより産むが易しだ。
(3) 3P目 5.5 30m リード
これ、ほんまにこっち抜けるんか⁉?
2P目終了点から目の前に簡単な凹角があり、それを歩く。しかし、そこからものすごい狭いトンネルのような穴を這いつくばって抜けないといけない。もちろんザックを背負ったままでは通れない。確か、僕はその狭い穴の前でザックを下ろし、先にザックを穴に通してから自分が通り抜けたと思う。しかし、穴を抜けた先は崖なので、ザックの押しすぎに注意だ。その狭いトンネル穴は、そこそこ傾斜があり、しっかり体を保持しないとずり落ちる。かつ、穴が狭すぎでほふく前進はなかなかできなかった。それでも必死にもがきながら、何とか穴をすり抜けた。穴を抜けた後、左側に回り込みながら一段上に上がりすぐにピッチを切った。
このルートはこの狭い穴を通らなくても、下のテラスの真上に大きな穴が開いていて、そこを上がれば僕がピッチを切った所に通じていた。ひできちさんにその大穴の方がいいと提案し、ひできちさん側の末端を一旦ハーネスからほどいてもらい、ロープを全部引き上げた。支点を立木で構築し、最近買ったマイクロトラクションを初めてセットした。まずひできちさんのザックを引き上げる。しかし、マイクロトラクション自体は快適だったのだが、支点とザックとの間に岩があると大抵引っ掛かってしまう。この時も途中までマイクロトラクションで引き上げた後は、ロープが引っ掛からない場所まで自分が移動し、シンプルにロープを引っ張り上げた。ザックが重たかったり、引き上げ距離が異常に長くなければ、マイクロトラクションを使うまでもない。
(4) 歩き 50m
ここロープ要るやろ❗
ここからは歩きということで、ロープをまとめコンテで歩く。しかし、いきなりのっけから険しい。気を抜くと滑り落ちそうだ。しかも、すぐにスラブ岩のトラバースが出て来て、普通には抜けられない。少し考えた末、スラブの上部がガバになっていたので、それをガン掴みし、ほぼ手だけでトラバースした。落ちたら大怪我か下手したら命はないトラバースだったので、緊張を強いられた。「ここは本当は確保いりますよね!」と、無事に渡りきった後に2人で言い合った。トポを鵜呑みにせず臨機応変に対応すべきだったかもしれない。
そこから先はやっと道が落ち着いた。ちょっと岩を登ると、平たい広いスペースにやってきた。そこにはなぜか一般登山者のような若い男性が休憩していた。「何でここに普通の登山者いるんや⁉?」。しかし、話してみると、「あ、ロープ持ってますよ」と彼は飄々と答えた。最近流行りのロープソロで1人で登っているらしい。ルートがいまいち分からなくなり、ここで休憩しながらルートを確認しているという。しかし、よくよく聞いてみると、既に一度山頂まで行ったらしく、それがトムソーヤの冒険のルートかどうか自信がなかっただけのようだ。彼は、ここからさらに一段岩を登ったところが、ダルマフェースの取りつきだと教えてくれた。
(5) 4P目 5.7 40m リード
だるまフェースに喉カラカラ
そして、そのちょっとした岩場を登ると、大きい1枚岩のテラスに出た。目の前にきれいなクラックの入った岩壁が聳えている。だるまフェースだった。「おー!ジョイフルジャムに似てる😂」。小川山で練習しておいてよかったと心底思った瞬間だった。もし、全くクラック練習なしにここに来ていたらと思うとぞっとした。ここで暫く休憩を入れた。ずっと眺望がなく登りに専念していたが、ここからは南アルプス、富士山、金峰山などを楽しむことができる。
だるまフェースは、「傾斜のないハンドサイズのクラックで快適そのもの」と瑞牆クライミングガイドで説明されている。会の先輩も、「このクラック楽しい!」とブログでその「快適さ」を強調していた。また、小川山でよく似たジョイフルジャムも1週間前に十分練習していた。「余裕だろう、普通」と思いながら取りついた。
完全なる間違いだった。
意外に簡単ではない。ジョイフルジャムより足は入りやすいが、失敗が許されない登攀に恐怖を感じる。死にものぐるいで手を突っ込み、足をねじ込み、カムをこまめにセットした。よく出る足の震えを手で叩きながら何とか抑え込む。「オンサイトのクライミングが続くのがマルチピッチ」だ。どんなにイージーでも、決して侮ってはいけない。しっかりジャムを効かせてはいるものの、恐怖で喉がカラカラになる。必死にジリジリと高度を上げ、やっと終了点のスリングまで到達した。最後はピナクルを抱え込むように身体を持ち上げ、セルフを取った。「よっしゃー!俺にもできた!」と絶叫したかったが、無事にやりきれた安心感の方が大きかった。
ここのビレイポイントは不安定な場所で、ロープの引き上げが難しい。人生初のぎっくり腰から3週間は経っていたが、無理な姿勢のロープ引き上げに猛烈に腰に負担がかかっているのを感じた。「ぎっくり腰になった原因、これちゃうか?」。ぎっくり腰が癖になるリスクが恐ろしく、ビレイの体勢を慎重に調整した。ピナクルに取ったデュアルコネクトアジャストを最大まで伸ばし、身体をセルフに預け斜面に投げ出した。これで腰の負担は相当減った。
ロープを引き上げ、ひできちさんに「登って下さい!」と声を掛けた。僕がヒステリックにセットしたカムを回収しながら、ひできちさんも無事に終了点まで到達した。お互いに喜びを共有しながら「少し」息を整えていると、後続パーティーのリードもう登ってきてしまった。思わず、「早すぎるよ〜😅」と声を掛ける。やはりだるまフェースは快適そのものなんだろう。
(6) 懸垂下降〜歩き
この懸垂下降アカンでしょ!
最終ピッチの説明はあっさりしていた。「3mほどの短い懸垂下降から、あとは山頂を目指して登りやすい所を進んで行く」。しかし、この懸垂下降がなかなかに騙しだった。ピナクルのスリングにかかったカラビナを使って懸垂する。ひできちさんに先に行ってもらった。この時、僕は完全に「3mの距離感」を間違っていた。ピナクルから一番下まで懸垂すると勘違いしてしまっていたのだ。しかし、そこまで下りてしまうと、もう一度だるまフェースを登る羽目になる。懸垂しながらひできちさんが途中でそれに気が付いた。「これ、下りちゃったら駄目ですね...」。少し下りすぎていたので、確保器でたぐりながら少し登り返した。しかし、着地点が中々に悪い。全く安定していない。しかし、そこから急な岩を登り、上に乗り上げるしか考えられなかった。「これ、ほんまにフリーで行けるんか?」と見える登りだった。ひできちさんはすぐ手が届くちょっとした岩の割れ目に#2のカムを掛け、それを掴みながら身体を引き上げた。そこから先は幸いイージーだったようだ。
次は僕の番だが、下まで下りると思っていたのでカラビナで折り返したロープを下まで落としてしまっていた。とりあえず懸垂し、着地ポイントで下まで落ちた方のロープをひできちさんに引き上げてもらった。さらに、上で支点を作って確保してもらった。おかげで、僕はカムを回収し安全に上まで上がることができた。臨機応変なひできちさんの対応に助けられた。
上まで上がると、素晴らしい景色を楽しめる大岩があった。片手が塞がっていたので、ひできちさんに後ろから押してもらい、えいや!と岩の上に乗り上げた。すると目の前にある大ヤスリ岩にクライマーが取りついているのが視界に入った。「おお!大ヤスリにクライマーいるよ!」と思わず大声を出してしまう。ちょうど、瑞牆クライミングガイドで、大ヤスリ岩「最後の者(5.14b)」の安間佐千さんのエッセイを読んだばかりだったからだ。このクライマーが登っていたのは恐らくハイピークルート(5.9 A1)だったのだが、この時は最後の者かユグドラシル(5.12c)を登っているスーパークライマーだと思って興奮してしまった。大ヤスリ岩は瑞牆山山頂からもよく目立つので、登山者達が彼らを見ているのが下からよく見えた。こちらも最後は山頂に飛び出すのだが、この地点では山頂からは視界に入らない。
この大岩でたっぷりと休憩を取った。ここからはロープなしで気楽に行けると思っていたので、トムソーヤの冒険を無事にやりきった気になっていた。後続パーティーはだるまフェースの終了点から懸垂せずに、そのまま岩の側面をトラバースしてこちらにやってきた。しかし、見かけより大変だったみたいで、かなり時間がかかったようだ。
彼らはあまり休憩せずに行くようで、ここでパスされた。僕らは本当はここからはアプローチシューズで行くつもりだった。しかし、その明らかに僕らよりうまい後続パーティーが、フラットソールのまま最後の登りを行ったのを見て不安になる。「やっぱりフラットソールの方がいいかもですね...」と、せっかくアプローチシューズに履き替えていたのに、またフラットソールに履き替え直した。
ここからの登りはそれほど簡単ではなかったが、しっかり岩を見て弱点を拾って行けば快適なクライミングだった。確かにロープはなくても大丈夫だろう。最後はまたものすごい狭い岩の割れ目を潜り抜け、山頂に飛び出した。「え...こんな所から出てきたよ...」とヒソヒソ言われるのが心地よかった。大きなザックのひできちさんはザックが通らないので、岩の上から彼のザックを引き受けた。そして、ひできちさんも岩の割れ目から「産まれて」山頂へ飛び出した。2人でがっちり握手を交わす。こんなに苦労してくる瑞牆山山頂は最高だった。心地の良い風が吹く山頂で、最高の景色を味わいながら、なんとも言えない達成感を噛み締める。「やっぱりちょっと背伸びしても来てよかった!」
瑞牆山トムソーヤの冒険: https://www.youtube.com/playlist?list=PLNdyNlVYCXFXHFIMxOtVx8yfRNlpCREtQ
ご安全に🤩
これはもはやレコを超絶して短編小説、いやいやそれ以上の物語です😀
実に興味深い内容でした✨
ありがとうございました🙇
ありがとうございます!まだまだ未熟なので怪我しないように!を心掛けないとですが、ついつい番がってしまいます
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