【大峰】立合川 第8ゴルジュの謎の大滝 再訪編
- GPS
- --:--
- 距離
- 10.8km
- 登り
- 1,762m
- 下り
- 1,762m
コースタイム
- 山行
- 10:20
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 10:20
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2024年12月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
前回,立合川本流を遡行した際の記録はこちら↓。今回の山行は,前回の遡行時,第8ゴルジュの左岸を高巻いていた時に目撃した「大滝らしきもの」を確認しに行くために行ったものです。 https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-4581896.html |
写真
感想
今年は11月まで暖かい日が続き,このまま永遠に沢登りができるのではないかと錯覚してしまうほどだったが,気づけば急速に冬らしくなって,今週末はついに雪。すっかり油断していたせいで車のタイヤをスタッドレスに替えるのを忘れており,北上は自殺行為になりかねない。ということで,自分としてはこの季節に行くことは珍しい紀伊半島の大峰山脈に向かうことにした。本当は奥美濃の磯谷であれやこれやしたかったのだが…(もんりさん,ごめんなさい!)。
とは言うものの,今回の山行は決して仕方なしに行ったものではなく,自分の中では,いつか確かめに行きたい一つの課題となっていたものだった。
立合川は大峰の代表的な渓谷の一つ。この谷は一昨年の8月に1泊2日の日程で遡行したが,その際に,最奥の第8ゴルジュ(この谷には第1から第8までの8つのゴルジュがある)の左岸を高巻きしていたところ,脚下の谷底に,一条の「大滝らしきもの」が掛かっているのを目撃したのである。降りしきる雨の中,2日間の困難な遡行による疲労を抱えながら急峻な斜面をトラバースしていたので,じっくり観察する余裕はなかったが,遠目にも30m近くはありそうな大きな滝に見えた。
普通なら「大きな滝だなぁ」と思うくらいで通り過ぎるところだが,自分にはその光景が一種異様なものとして映った。なぜかというと,当時参考にしていたルート本である「関西起点沢登りルート100」(おそらく現在最も流通していると思われるルート本)の遡行図には,第8ゴルジュにそれほどの大滝が存在するという記載がなかったからだ。
後日,書籍として刊行されている立合川の遡行記録をくわしく調べてみると,そもそも,各書籍間で第8ゴルジュの滝の記載が大きく異なることがわかってきた。
<各書籍における第8ゴルジュの滝の記載(それぞれ下流にある滝から順に並べます)>
○「沢登りルート100」… 岩間4m,3m,2段4m,12m,15m,5m,4m
○「関西の沢登り3 南紀の沢」… 4m,2m,3m,1m,8m,5m,斜3m
〇「関西周辺の谷」… 5m,小滝,小滝,8m,斜30m,8m
○「日本登山体系」… 3m,小滝,小滝,釜深い10m,うしお滝45m,4m
以上のとおり,書籍によりバラバラなのだが,特に著しく違うのが,「最大とされる滝の高さ」。なんと,最小の8m(「南紀の沢」)から最大の45m(「日本登山体系」)までの差があるのである。記録によって滝の高さの記述が異なるのは,沢登りの世界では日常茶飯事とはいえ,これほど大きな差があるのはあまり見たことがない。おそらく,このゴルジュのあまりの険しさのため,実際に水線を中央突破して滝下に立った人がおらず,高巻きながら遠望して観察するしか手段がないため,これほどの違いが生じているのでは,と推測された。
つまり,この谷の第8ゴルジュには,本当の高ささえあやふやな,「謎の大滝らしきもの」が存在している(あるいは存在していない)ということになる。立合川というと,第2ゴルジュの「まぼろしの大滝(35m)」が圧倒的に有名で,むしろそれだけ見て日帰りで帰ってしまう記録のほうが多いくらいだが,その「まぼろしの大滝」以上に「まぼろし」という言葉がふさわしい曖昧な滝が,実は第8ゴルジュにもあるとしたら…これはこの目で確かめに行かねばなるまい。
とはいっても,もう一度最初から立合川を遡行するのはさすがに気が引ける(なんといっても,谷中で1〜2泊が必要な長い谷なのだ)。そこで,尾根伝いにアプローチし,直接第8ゴルジュへと斜面を下降することにした。大滝らしきものを目撃した大体の位置は手持ちの地形図にプロットしてあるとはいえ,ピンポイントで問題の滝の位置に降りられるか,それがまず第一の関門と言える(失敗すれば,問題の滝が上流にあるのか下流にあるのかも定かでないまま,第8ゴルジュ周辺の急峻で危険な側壁を右往左往する羽目になる)。また,もし問題の滝の付近に首尾よくたどり着けたとしても,無事に滝下まで降りられるかが次の関門だ。これについては,根気よく探せば何とかクライムダウンできる斜面が見つかるのではないか,それが無理でも懸垂下降すれば何とかなるだろう,と楽観的に考えていた(この想定が甘かったことは,現地で明らかとなる)。
そして実際の山行。岩の露出した急峻な斜面の下降には苦労したものの,心配していたアプローチはこれ以上にないほどうまく行き,ほぼノーミスで問題の滝が正面に見える位置まで下降することができた。その滝を初めて目撃したのは深い緑に覆われた8月だったが,今は12月,木々の葉はあらかた落ちて,対岸の斜面にいながらその滝の全貌をはっきりと観察することができた。
やはりその滝は存在していた。あの日,雨の中で疲労しながら垣間見た白い瀑水は,見間違えではなかったのだ。しかも,最初に目撃した時の印象から膨らませていた想像をさらに超えて,かなり大きい。対岸の斜面の上から俯瞰する形で,100mほどの距離を置きながらの観察なので誤差は否めないが,それでも少なくとも30m以上はある大滝であることは確実だ。それどころか,40〜50mはあるかもしれない(「日本登山体系」の45m説はさすがに昔の記録にありがちな誇張では,と思っていたが,そうも言えなくなってきた)。とにかく,それくらいのスケール感を放つ大滝が,70〜80mほどはあると思われる峩々とした岩壁に囲まれた中,エメラルド色の大きな釜に瀑水を滔々と落としていた。
この滝の実際の高さに加え,もう一つ分かったことがある。それは,なぜこれまでこの滝に関する記録が少なく,その存在さえ曖昧になっていたか,というその理由だ。この滝は,それまで上流に向かって北東方向にえぐれていたゴルジュが「くねっ」と急角度で向きを変え,一瞬だけ北西方向を向いた,まさにその位置に掛かっていたのだ(つまり,滝自体は東を向いて水を落とす形になる)。この第8ゴルジュは通常右岸巻きでクリアすることになっているが,右岸からは見ることが難しい位置になっていたのである。前回遡行時,私は気まぐれからこのセオリーに反して左岸からゴルジュを巻いたが,そのためにこの滝を目撃することになったようだ。
今回の山行から分かったことをまとめると,以下のとおりとなる。
〇 立合川の第8ゴルジュの「大滝らしきもの」は,確かに実在していた。
〇 大滝は一段(多段ではない)の斜滝で,高さは少なくとも30m以上。もしかしたら40〜50mあるかもしれない(対岸の斜面からの観察なので,あまり正確なことは言えないが)。上記に挙げた書籍で言うと,現行で最も一般的に流通していると思われる「沢登りルート100」及び「南紀の谷」よりも,むしろ出版年代が古くて現在ではマイナーな「関西周辺の谷」(30m)か「日本登山体系」(45m)のほうが実際に近い,ということになる。個人的には,「日本登山体系」の45m説を推したい気持ちが強い。どちらにしても,両書の記録の著者がどのようなルートでこの滝を観察されたのか,興味が湧くところ。
〇 大滝はゴルジュの向きが一瞬曲がったところに掛かっており,手前の12m滝から右岸巻きに入る通常の通過方法では全貌を見ることが(おそらく)難しい。12m滝を正面突破するか,左岸から巻く必要があると思われる。
この大滝が本当に40〜50mの高さを持つとしたら,「まぼろしの大滝」(35m)や「(沢登りルート100で言うところの)うしお滝」(40m)を超えて,実は立合川で最大の滝だった,ということになるが…あんまり欲張るのはこのへんで止めておこう。
ただ,今回の山行では,一点だけ悔いが残った。第8ゴルジュの険しさが予想以上で,谷底まで下降して滝下に立つことができなかったことだ。最終的には懸垂下降で何とかなるだろう,と思っていたが,側壁は谷底まで高さ100m近くあり,いつも通りの40mロープ一本では迂闊に懸垂に移れなかった。もちろん,途中で支点を取り直せば4〜5ピッチで谷底まで下降できるかもしれないが,当然ロープを使った登り返しができなくなる。いろいろあって出発時間が遅くなり,さらに日も短い時期で,日没まで時間が限られた中でゴルジュ内に閉じ込められる事態は避けたかった。
しかし,それでも滝下に立つことをあっさりあきらめてしまったのは,少し臆病過ぎたのではなかっただろうか。側壁の登り返しができないとしても,ゴルジュを下降して脱出することはできたかもしれない(この寒空で全身びしょ濡れになるのは避けられないが)。ゴルジュ内の滝壺から,あの滝を見上げたかったなぁ…。しばらくは夢に見てしまいそうだ。
【2025.1.2追記: 真の「うしお滝」はどの滝か】
立合川にまつわるもう一つの謎として,「うしお滝」問題がある。
うしお滝は,現行で最も普及しているルート本である「関西起点沢登りルート100」では,第5ゴルジュ手前の40m滝とされており,近年のネット上の記録でもそのように紹介されていることが圧倒的に多い(私自身,2022年にこの谷を遡行した際の記録では,そのように記載した)。
しかし,立合川の遡行記録が収録された複数の書籍を読み比べてみると,奇妙なことに気づく。どういうことかというと,例えば「関西の沢登り3 南紀の谷」では第8ゴルジュの後に出てくる17m滝,「日本登山大系」では今回問題にした第8ゴルジュの45m滝をそれぞれ「うしお滝」として記載しているのだ。つまり,書籍によって全くバラバラの滝が「うしお滝」と呼ばれているという,何とも不思議な状況が生じているのである。
一体どの滝が,本当の「うしお滝」なのだろうか?
結論を先に言うと,私は今回存在を再確認した第8ゴルジュの大滝こそが,実はもともと「うしお滝」と呼ばれていた滝だったのではないか,と疑っている。
そもそも,沢登りの世界における「うしお滝」という滝名の初出は,おそらく新宮山の会が昭和52年に刊行した「南紀の山と谷」ではないかと思う。同会は昭和40年,地元の山仕事の人々を除けばおそらく前人未踏だった立合川に初めて入谷しており,完全遡行こそその2年後に大阪わらじの会に先を越されてしまうものの,立合川遡行のパイオニアであったことは間違いない。同会の「南紀の山と谷」に収録されている立合川の記録には,現行の遡行記録で見られるような滝名が既にほぼすべて記載されており,後続の書籍に記載されている滝名は,基本的には同会の記録を参考にしているのではないかと推測される。
そして同会の記録では,やはり第8ゴルジュに40mの大滝が存在するとされている。同会は手前の10m滝の左岸側を突破して直接40m滝の前に立ったとしており,滝の高さについての確度は高い。おそらくこの40m滝は,今回存在を再確認した大滝と同じものだろう。そして重要な点として,「うしお滝」という滝名は,この第8ゴルジュの40m滝に冠されているのである。
もちろん,初出の資料でこう記されているからそれが正しい,という論じ方はいささか乱暴ではある。新宮山の会の方々も地元住民に聞いたりしながら滝名を記していったはずで,そもそも地元の伝承地名を明らかにしないと本当の答えは出ないだろう(新宮山の会は地元の山岳会なので地元地名の調査もしやすかったと思われ,その信頼性は高いとは思われるのだが)。…ということで自分でも「十津川村史」など複数の地誌を当たってみたが,残念ながら今のところ立合川の地名に関する記事を見つけられていない。
また,どうして後年の記録では別の滝がうしお滝と呼ばれるようになっていったのか,その経緯も気になるところだ。おそらく,前述のとおり第8ゴルジュの大滝はちょうど谷の死角にあり,現在の定番ルートとなっている右岸巻きでは発見が難しい位置にあるため,いきおい見逃されることが多くなり,時が経つにつれて大滝の実在自体が次第に疑われ,別の同じような規模の滝に「うしお滝」の名が当てはめられるようになってしまったのではないか…などと考えられるが,これはもちろん私の憶測に過ぎない。それぞれの著者の方が別個に地名を調査され,それを元に執筆されている可能性だってもちろんある。
結局のところ,すっきりした結論が出た訳でもなく申し訳ないのですが,最後に一つだけ。まさかの非常に手近なところに,大変な発見?が転がっていた。みんな大好き「山と高原地図」(まあ,私個人は普段そんなに使ってないけど)に,なんと「うしお滝」と滝名の添えられた滝記号が記載されていたのである。しかも今回問題にした第8ゴルジュの大滝があると思しき位置に…。やっぱり推測どおり,そこが「うしお滝」で合ってるってこと? そもそもソースは? これは気になる…!
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実は同じ土曜日、もう一度徳山の谷に入るつもりでベロリ橋駐車場に行きましたが、みぞれっぽいベチョ雪で、真っ暗の中、「どうしよっかな… hillwandererさんみえるかな〜? もしみえたら、便乗しちゃおっかな」と企んで、しばらく待機してました
が、おみえにならなかったから、天候に負けて引き返した次第です
徳山は雪です
南下は大正解!
まさかこの土曜日もご出勤されておられたとは…参上できず失礼いたしました!
やっぱり雪だったんですね〜。もし徳山に行ってたら、行きは良くても帰りに走行不能になってたかもしれません😅
これは今年は磯谷無理かもしれませんね…もんり穴も今ごろ雪から逃れた冬ごもりのクマさんがリアルに入ってたりして。
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