丹波大菩薩道より大菩薩峠を目指すも挫折
- GPS
- 17:04
- 距離
- 21.7km
- 登り
- 2,041m
- 下り
- 2,056m
コースタイム
天候 | 晴れ時々曇 |
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過去天気図(気象庁) | 2016年03月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
コース状況/ 危険箇所等 |
・積雪状況は藤ダワまでは最大20cm、追分までは5〜30cm、ノーメダワまでは40cm、フルコンバ手前の稜線北面で60cm。 ・いずれもトレースはほぼ無し。追分から小菅村へ下りる道にも無し。 ・凍結箇所は無く、アイゼンはほぼ使わず。ワカンもしくはスノーシューが必要か。 ・真新しい倒木箇所が複数あり。 ・マリコ川を遡上する途中で分かり難い分岐あり(本文にて詳述)。 |
その他周辺情報 | ・のめこいの湯は評判通り良い湯で、泉質重視派にもお勧め。ただ川まで下りなければならないので、最後の体力を残しておくように… |
写真
装備
備考 | ・食料は一食分一合を、それもラーメンの後の汁処理用として持って行ったが、明らかに過剰。食料が今回の重量増を招いたので、もっと絞り込むべき。 ・ワカンかスノーシューを装備して使いこなせていれば、もっと進めたかもしれない。 |
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感想
奥多摩駅でバスに乗った時には冷たい雨だったのが、奥多摩湖に差し掛かる頃
にはみぞれになり、遂には白い雪になった。バスの一番前の席で、雨が雪にな
る過程をしっかり観察していると、今夜の宿から電話が来た。「酷い大雪だけ
ど、大丈夫か」雪山用の装備は持っているし、今バスで向かっている事を告げ
る。雪山を望んで来たのだ。どんどん降ってくれ。
三月の第三週にまとまった休みを取り、雪山歩きの訓練も兼ねて丹波大菩薩道
から大菩薩峠を目指す事にした。更に初めての二泊での縦走も盛り込もうと、
大菩薩峠から湯ノ沢峠、滝子山へ進む計画を立てた。大菩薩峠の状況は介山荘
のホームページが詳しいが、三月頭の時点で稜線沿いに雪は無いとの事だった。
ヤマレコで丹波大菩薩道の記録を探すと、歩くのに苦労する程ではないが雪は
ありそうだった。
雪山の経験をもっと積んでおきたい。丹波大菩薩道は3年前の晩夏に歩いている
ので、訓練には良いだろう。ただ早朝から登るには麓の丹波山村で前泊する必
要がある。前回と同じ民宿「たちばな」を予約した。
バスを降りると矍鑠とした運転手から「雪が降っているので足元に気を付けて
下さい」との言葉を頂いた。街道には数日前からの雪が数センチ積もっていた。
民宿に着いて荷物を置く。女将の話では週末に大菩薩峠から降りてきた人が
「膝まで雪があった」と言う。今日の大雪で更に積もるだろうが、望むところ
だ、とこの時は軽く考えていた。
広い風呂に入り、夕飯を食べる。全部で九品。刺し身こんにゃくは絶品だった。
漬物以外は平らげたら腹が痛い程だ。荷物の整理も早々に就寝した。
4時頃に起き、愚図愚図と準備していると5時頃には明るくなった。10kgを超え
たザックを背負って登山口までの車道を慎重に歩いた。路面は厚く凍っている。
傾斜はきついし、こんなところで転んで行動不能になったら笑いものだ。
登山口からは杉の植林の九十九折で、積雪は徐々に濃くなって来る。最初は、
昨晩の積雪の前と思われる大人の足跡と真新しい鹿らしい動物の足跡があった
が、やがて鹿のものだけになり、杉が幼木だけになって背後に丹波天平が良く
見えるようになって来ると、山道の輪郭が分かり難くなり、いつの間にか鹿の
足跡を追っていた。山道から外れて北斜面を進みすぎたかもしれない。ここは
単純に天辺の高尾天平を目指せば良いので、適当なところで斜面を斜めに登り、
高尾天平の端に辿り着いた。ここから藤ダワまでは山頂とも思えない平らな地
面を進む。積雪は山頂で10cm、北斜面で20cm程度だった。
藤ダワに下りると、実に忠実に標高を維持しながら尾根の南面を進む。踏み跡
はあるし、山道ははっきり読み取れる。雪は20cm程積もっているところもある
が、歩くのに苦労する事はない。左手に見えるマリコ川がこちらの標高に追い
付いて来たところで道は沢沿いになり、立派な木橋を二・三度超えた。沢に倒
木が増えてきたが、気にせずに進む。沢沿いなので道の輪郭が見えなくてもお
かしくはない。所々、立ち木に赤テープがある。
ところが、そのテープが遂に見当たらなくなる。地形図では途中で左手(右岸)
の斜面に取り付く事になっているので、何度もそちらを仰ぎつつ進むが、それ
らしいものは無い。
スマホのGPSアプリ「山旅ロガー」で位置を確認するも、ズームすると地形図が
表示されない。充分にキャッシュ出来ていないようだ。一旦引き返して沢の出
合まで戻り、山旅ロガーと地形図で確認する。もう一つの沢は南に突き上げて
いるが、地形図を見る限りそちらではなく、西に進む方が正しいはずだ。
念の為南の方の沢を登ってみるが、道らしいものも赤テープ等の印も無かった。
仮に先程の沢を登り詰めても、追分の脇に出るだけで、そこまで行けば元の道
に復帰するのは造作もないだろうと考え(写真37の緑の方向と思い込んでい
た)、再度先程の沢を登り始めた。
果たして、先程諦めたところから少し登っただけで次の赤テープが見つかった。
ありがちな話やな、と思いながら勢いをつけて登った。
沢は更に険しくなり、峠は見えない。その後も二度程赤テープがあったが、そ
れにしても一般登山道にしては険しすぎる。再度GPSを確認すると、思い込んで
いた沢より一つ北側を進んでいた事(上記画像の赤の方向)、このまま進むとサ
カリ山の北面のタワに到達し、どうあっても本来の道には辿り着きえない事に気
づいた。
時間も体力も浪費してしまった。藤ダワの時点で予定より1時間弱早かったが、
その貯金も使って、今はマイナスだ。足早に、今度は間違いなくルート上であ
る地点―木橋―まで戻ることにした。
木橋は先程見つけた東京都水道局の標識(写真12)のすぐ下にあった。近くの苔
生した岩に座り、一休みした。振り返って眺めていると、座っている岩のすぐ
上に道らしいものが見える。それを進むと先程の標識にぶつかる。そのまま南
の方の沢の左岸に道が見つかればよかったが、無い。ただ先程南の方の沢を否
定したのはどうも間違いで、一旦それを進んでから次の沢の出合で西の沢に進
むのが本来のようだ。
周囲を見回しながら左岸を進む。と、視界の右上に直線的なものが光って見え
た。もしやと2m程登ってみると、思わず声が出た。「道だ」
立派な道がある。更に慎重に地形図と照らし合わして行くと、道はそのとおり
に西の沢(画像の緑の方向)に進み、その先も道は地形図に忠実だった。
予定より2時間遅れて追分に辿り着いた。いよいよ人の足跡は無い。ベンチの雪
を落として座り、菓子パン一個を平らげる。よし。
追分からの道は南面だし雪は少ないだろうとたかをくくっていたら、アテが外
れた。昼になって雪が緩んだのもあって、歩き難い。何度尾根を超えてもノー
メダワに着かない。サカリ山の稜線も降りてこない。良い加減ばててきた頃に、
道端に塗炭の小屋掛けを見つけた。小屋の下に雪は全くなく、材木なども置か
れていない。幅はツェルトを張るのに過不足無く、山側が北なので夜の北風も
避けられる。
どうせ今日はどう考えても大菩薩峠に着かない。どこかでビバークする必要が
あるが、この先これ以上のツェルト好適地は見つからないだろう。14時前で行
動終了には早すぎるが、今日行けるところまで行くべきか、早めに休んで明日
に賭けるべきか。
一旦荷物を置いて空身で先に進んでみたが、結局すぐに戻ってここで一泊する
事にした。ツェルトを張って寝袋に潜り込んだらもう動きたくなくなる。だら
だら酒を舐めて、暗くなってからエスビットで棒ラーメンを煮た。残りの汁を
捨てない為にご飯を持って来たが、一食一合は多すぎだ。荷物が多すぎたのも
今回の反省点だ。
計画を練り直さなければならない。当初の目的である丹波大菩薩道の完歩に注
力し、縦走は諦めよう。丸川峠から西に向かい、大菩薩峠登山口に下りると今
の時期でもバスは頻繁に通っている。装備はあと一泊分の余裕があるので、峠
の避難小屋で一泊する事も出来る。
19時頃に就寝。4時頃に寒さで目覚め、準備を始めたが、愚図愚図して出発は6
時を過ぎた。最初の頃は意気揚々だったが、徐々に速度がまた落ちてきた。1時
間弱でノーメダワに到着した。
問題はここからで、道はいよいよ尾根沿いになる。しかも途中からは北尾根で、
雪も深いだろう。幸い道ははっきり分かる。立ち木も下草もない幅のある帯が
尾根を縫っているのが見える。積雪は40cmを超える。ただノーメダワを超えて
明らかに雪質が変わってサラサラになった。歩き難いのに変わりはないが。試
しに余り使わないアイゼンを付けてみたが、足の裏の冷たいのが軽減される程
度で、足は同じように沈む。重たいだけで馬鹿馬鹿しくて外した。矢張りワカ
ンが必要だ。
しんどい。朝っぱらから誰も居ない雪山で何をしているんやろ。でもこれまで
何度も妄想してきたところだ。まだ朝だから、フルコンバまではやってやろう。
そこから小菅村に下りても良いし、持ちそうならあと350m登って峠だ。
小菅に下りるのは、ノーメダワにも道があったな。追分からも下りれたな。今
から下りたら流石に最終バスには間に合うかー間に合わなくてもその辺でツェ
ルトを張って寝るか。
地形図で尾根の方角を確認し、山旅ロガーで現在位置を見る。進んでいない事
に愕然とする。1時間で平面距離500m、標高差100mしか歩けていない。それでも
行くしか無い。諦めるには朝まだ早すぎる。気力も体力もまだある。今日諦め
ると今季はこの雪山をもう試せない。
足を止めては撤退を考え、気を奮い立たせて歩き始める。その頻度が増える。
ノーメダワから2時間、稼いだ標高はたったの200m。
標高が1600mを超え、稜線の西側に道がずれるにつれ、積雪は膝まで埋まり、
60cmを超えた。これでは正午までにフルコンバにも着かないだろう。ならば今
晩の宿はどうなる。昨日の小屋掛けでは何とかなったが、今の装備で60cmの雪
の上で眠れるか。仮にフルコンバまで着いて小菅大菩薩道を下りるとしても、
そちらにトレースがあるとも思えない。
朝10時前。奥深いところとは言え、早すぎる撤退の判断かもしれない。体力は、
自分の力は出し切っていないと思う。諦めて後悔するのは自分自身だ。
悔しい。無念極まりない。ずっぽりと深い自分の足跡を辿って下りるのは、腹
立たしい程楽だった。たったの20分でノーメダワに戻った。
ここには小菅方面を指す指導標がある。歩いたことはない道の上、赤沢という
地名に記憶は無いし、地形図にも登山地図にも記載は無い。人も獣も足跡を残
してはいない。雪山の下山路としては絶対に選んではならない条件ばかりだ。
少しだけ様子を見てみよう。小菅村の指導標が出ているのだから、それなりの
道のはずだ。幅もしっかりある。瞬く間に150mを下りたところで、慎重に沢に
かかる木橋を渡る。そしてすぐ先に、沢へ下りる道が分岐し、見覚えのある東
京都水道局の通行止めの標識が見えた。元の道は尾根を登り返している。ここ
で漸く冷静になり、三度ノーメダワへ辿り着いた。
丹波山村からの長い道のりを戻るのが嫌だったのかもしれない。今朝の出発点
を通り過ぎるのをどこかで拒否していたのかもしれない。11時を超え、そろそ
ろ今日中に<無事に>下山する方法を取らなければ、まずい。
結局追分まで戻り、小菅に下りるか丹波山に下りるかを考えた。小菅にはトレー
スは無い上、距離は余り変わらない。しかも丹波山は藤ダワまで行けば車道経
由で下山できる。
下りに迷う事は何もない。いつもは膝に来る九十九折の連続だって、適当に足
を振り下ろせば、雪が受け止めてくれる。着地に気を遣うことも無い。藤ダワ
では迷う事なく車道を選んだ。いつも敬遠するアスファルトの硬さが心地良い。
登りとは正反対の気の緩んだ足取りで、後悔と恥、安堵感に溢れつつ昨日の登
山口に到着した。
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