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記録ID: 114116
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
白馬・鹿島槍・五竜

唐松岳・不帰・白馬岳(百名山-54)縦走

1998年08月07日(金) ~ 1998年08月09日(日)
情報量の目安: S
都道府県 新潟県 富山県 長野県
 - 拍手
hagure1945 その他2人
GPS
56:00
距離
23.0km
登り
2,477m
下り
2,011m

コースタイム

白馬第5駐車8:00-10:00 ゴンドラ駅10:25八方山荘10:55 第一ケルン11:15-30八方池岩丸山ケルン13:30-50唐松山荘14:45
8月8日、
唐松山荘7:10 唐松岳7:25-35 喫南峰8:10-8:20 喫北峰8:33-8:35 鞍部9:30-9:55
景10:00-10:10 天狗取り付き10:20-10:25 天狗下り11:28-11:40 天狗の頭12:05-12:10天狗山荘12:30-13:20 白馬鑓ヶ岳14:15-14:20 杓子岳のトラバース14:50村営頂上宿舎 16:00
8月9日  晴れ
村営頂上宿舎5:00 白馬山荘5:15-30 白馬岳5:45-6:00 三国境6:25-30 小蓮華岳7:25-35小ピーク7:50-55 白馬大池8:45-9:35 乗鞍岳10:03-05 天狗原10:50-11:10ロープウェイ乗り場 11:50-12:00 栂池12:55-12:30 八方駐車12:50
アクセス
利用交通機関:
バス 自家用車
八方尾根の第三ケルン?
八方尾根の第三ケルン?
八方池の前で
不帰の峰。唐松岳山荘で一泊
不帰の峰。唐松岳山荘で一泊
唐松岳山荘
唐松岳山頂
不帰の一峰
眼下の雪渓
こんなブリッジもあります
こんなブリッジもあります
三峰を下る
天狗の頭
天狗小屋で泊まろうとしたけれど、団体が着たので白馬まで行くことにした。
天狗小屋で泊まろうとしたけれど、団体が着たので白馬まで行くことにした。
白馬鑓ケ岳山頂
白馬からの眺め、はてどこの山?
白馬からの眺め、はてどこの山?
翌朝の白馬岳山頂。
翌朝の白馬岳山頂。
新潟県の最高峰 小蓮華岳
新潟県の最高峰 小蓮華岳
白馬の雪渓だとおもう
白馬の雪渓だとおもう
白馬大池
栂池に下りました
栂池に下りました

感想

唐松岳、不帰の嶮 白馬三山縦走  1998年8月7日〜9曰


日本で富士山についでポピュラーな山としては、この白馬岳(2933m)をおいて他にないと思う。その証
拠に千五百人という宿泊数を誇る白馬山荘と千人収容の村営山頂宿舎の二つの山小屋をその頂上近くにも
つ山はない。その俗っぽさがなんとも鼻について実のところ進んで登る気のおきなかった原因でもあった。
しかし93年の夏鹿島槍ヶ岳から五竜岳、そして白馬まで縦走する計画を実行したのだが、唐松岳で下山した経緯があり、後立山縦走をなしとげなければという思いがあって、その機会を考えていたところ、会津駒ヶ岳に一緒に登った横山夫妻がまだアルプスには行ったことがないというので、この夏に誘うことにした。私の計画では不帰の峰を通過するので、多少心配はあったが、思いきって行くことにした。
 ・
8月7日未明所沢を発って、白馬村に向かった。
8.7 雨のち曇り
白馬第5駐車8:00-10:00 ゴンドラ駅10:25八方山荘10:55 第一ケルン11:15-30八方池岩丸山ケルン13:30-50唐松山荘 14:45

第五駐車場に午前九時到着。天気は不安定であった。荷造り・出発の準備。雨が降りだす。トイレの建物で支度する。白馬の小さい街中を歩いて、ゴンドラ駅まで。ずっとと。リフトとの通し券1400円リフトに乗っている問に雨に降られる心配もあり、雨具を着た。ゴンドラ、リフトを乗り継いで八方山荘へ。
人温み。稜線がくっきり見える。一股のハイカーなどや観光客など軽装の人が多い。雨具を脱ぐ。稜線をみながら休憩。風がある。
稜線から八方池に下りる。不帰の険は雲に隠れている。雨で茶色の水面となっている。風が強い。祠の鯨で風をよけながら昼飯をとる。横山さんの奥さんの作ってきたおにぎりがおいし玲雨の降る気配もなく、少し安心。ここまで観光客がやってくる。八方池からやっと山道らしくなる(途中白馬岳方面の稜線と青空がみられたが、白馬岳の姿は見えない。不帰の険もガスの中。丸山ケルンで休憩。少し横になる。寝不足。帽子がとばされるほど風が強い。
                                            
見が欲しき後立山連峰の雲間に現れこの尾根つづく  窪田章一郎
雨雲に移ろふ断れ目にあひ達ふや菅く照りたり不帰の嶮                                    

八方尾根からは、稜線が雲にかかっており、不帰の瞼もその全貌を見せていない。ガスの濃くなる道をいく。ガレ場の見覚えのある木橋に小屋が近いことを知る。横山さんがが「小屋まで5分」と標識があったという。稜線をまくようにしていくと、唐松山荘にでた。天気が心配だ。宿泊の手続きをすませる。与えられた寝床は3階の5の三畳間ほどのスペース。寝ている人が多い。喫茶室 「ベルグ」でコーヒーを飲む。横山さんはビール。
喫茶室で知り合った年配の夫婦。ご主人の足が張って足をマッサージしてあげる。夕食後、自炊室でコーヒーを沸かして飲む。
若者のパーティが自炊している。奥さんはメニューが珍しくてのぞき込む。彼らは祖母谷に下るのだという。寒い。山荘の休憩室に戻る。水彩画を描いている二人がいて、一人はかなりの腕前で 絵葉書を描いている。暑中見舞いだという。良い趣味だ。奥さんが覗き込む。関西から来ている人だと喜んでいる。横山さんの奥さんは和歌山の人。天気は一向に回復の兆しはなく、外は真っ白だ。まだ風もある。トイレは洋式の水洗であった。

遠く下界に吹き落ちてゆく烈風の音 標高九千尺の夜を生命はランプの周囲にのみ燃える    逗子八郎
夜のふけて募る風雨夢現いひつつ我等まどろみにけり     柳瀬留治

         
風の音は無気味である。少しはなれているので私は気にならないが、横山夫人には気がかりな思いでいただろう。部屋の小さい電灯を消せば真暗になる。
明日最悪の時は下山して温泉めぐりか、白馬尻まで行って雪渓をみてこようなどと考えた。横山さんも無理はしない方。|鴎しかし風は納まってきた。天気予報、明日は天気がよいと山荘の人が言うので、“計画通り不帰を越えることにする。
ベッドのなかでじっと天気の回復を祈るしかない。変な話だが、私は寝ながら「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と念仏を唱えていた。

せめて風静まってくれと南無阿弥陀仏唱えて寝むる唐松の小屋

8月8日、
唐松山荘7:10 唐松岳7:25-35 峰南峰8:10-8:20 峰北峰8:33-8:35 鞍部9:30-9:55
景10:00-10:10 天狗取り付き10:20-10:25 天狗下り11:28-11:40 天狗の頭12:05-12:10天狗山荘12:30-13:20 白馬鑓ヶ岳14:15-14:20 杓子岳のトラバース14:50村営頂上宿舎 16:00

念仏のご利益か、霧が深いけれど幸いに風がない。山荘の主人にどうかと尋ねたら、風は穏やかになったし、雨は降らないし、午後からは晴れるとのことで、いいのは今日一日位とのことだという。不帰の道はどうかと聞くと、梯子とブリッジのところが用心がいるとのこと、最初の一時間半は問題ないというので、6時半の食事を済ませたら出発とする。雨具をヤッケがわりに着用。クサリ場などでの奥さんの行動が心配ではあるが、予定通り。天狗山荘までだから気は楽である。15分も霧の中を登ると、山頂に着いた。なんにも見えない。山頂の道標をバックに写真をとる。前回踏めなかった山頂を踏む。のんびりしたくても少し肌寒いくらいなので、展望のない山頂を、祖母谷への道標を見ながら霧の中、白馬に向けて下り出す。山頂にいた人達が不帰を越えるグループと知って、見守っている。

唐松嶽の斜面縫ひつつ祖母谷に下る道見ゆひたに懸ほしも   柳瀬留治

昨日の小屋で祖母谷に下るという若者たちがいた。この道も難路であるが、一度下ってみたいものだ。不 帰へは、なんということもない稜線づたいの道を行く。ガスって何も見えないが、稜線の左右のスパツと 切れ込んでいる谷や残雪を見て、横山夫妻はアルプスの迫力を感じている。1峰はコースタイムを取るまでもなくすぎ、曲南峰で一息。吊り尾根を少し行って北峰。ここから核心部が始まる。ピークの下りからいきなりハシゴである。小屋で見知った単独行の中年女性と出会う。一人でクサリ場を下りていく。奥さんに鎖場の下り方を指示して通過する。連続してクサリ場が続く。富山側からの風は止まない。信州側に巻き込むと暖かい。小さい岩峰があり、バンドが切れ込んでいるところを通過、クサリなしの岩場を下ると、小さいテラスの台地になっているところで、天気がよければ休憩できる場所にでる。

    不帰の岩をよじれば切れ落ちた深い谷間にひかる残雪
    切りたった岩稜に鑿り登るとき岩燕が空を裂く一瞬

あいにく風が抜けていくところなので休まず前進。二つ目のハシゴである。下りて再び信州側のバンドを通過。ここで休息する。ザックを背負う時にストックを谷側に落としてしまった。幸いすぐ下であったので慎重に道か下りてストックを拾い上げる。後発の二人組に「どうしたんですか」と声をかけられた。買ったばかりのストックを捨てていくのはもったいない。急な崖みたいなところだが、潅木もあり、慎重に行動して無事回収する。そこは、アングル橋の手前であった。
問題のアングル橋は岩場の陰になって黒部側に巻くところに、岩と岩との間3mくらいの橋で、岩壁に針金が張ってある。思ったより心配がない。奥さんが渡るときに写真をとる。
「動かないで」と、指示したら
「怖いわよ!」と、かえって恐がられた。
このアングル橋を過ぎるとあとは不安なところもなく、いくつかのクサリ場を下りて、曲と景の暗部に着。不安な場所を無事通過したので一休みする。鞍部から見る曲の岩峰は迫力がある。景への登りから振り返、曲に取り付いている人達を見ていると凄い壁をよじ登っているように見える。

  刃のごとく切り立つ尾根に続く道嶺と嶺とをつなぐその道   柳瀬留治
  岩と泥かすら言うあびつつ不帰の険しき壁に我は息づく    来嶋靖生

手に白い袋をさげて赤い帽子を被った若者が岩場をひょ一」ひよこ下りてくるのを奥さんは見ていて、何をもっているのかと語っていた。曲でも一休み、白馬を早く出た人達と出会う。ガスは相変わらずだが時々峰や唐松岳の稜線をふわぁ1つと見せてくれる。「写真写真」と横山さんに叫ぶ。反対側には、天狗の大登りの道が見える。若者二人、営林署。ハトロールの腕章をつけて、登山道口コミ拾いをしている。白い袋はポリ袋、ゴミを拾っては持ち歩いているのだ。だらだらと小さいコブを越えてコルに立つ。いよいよ天狗の大登りだ。20分で一本のピッチ。同志社大学の山岳部の若者が、大きなザックを背負っていく。槍ヶ岳まで縦走するのだという。若い時にしかできない。道はガレ道で、歩きにくくはないので、ひたすら登るしかない。

   不帰の瞼返りみればその巖黒い鬼面と化して誉える

時々 後を振り返る。少しパテたころ、小さいピークに到着。天気は回復、しかし稜線は以然ガスのなか。白馬は見えない。天狗の頭と最初思ったが、単なるピークで、大下りのスタート地点であった。更にワンピッチ歩いて「天狗の頭」。立派な道標がある。2903m。横山夫妻は富士山につぐ高峰に立った。天狗の高さに奥さんは感激。ここまで来ればあとはのんびりである。ゆっくり休んで天狗山荘に向かう。高山植物をまもるために張られている登山道のロープをたどっていくと、雪渓があり、その前に天狗山荘と天狗池があった。今日はここまでの予定である。
営林署の。ハトロールの4人と後からゴミ回収をしている二人とに出会う。我々がラーメンをつくると温かいラーメンが食べられていいなと言った。彼らは白馬山荘に泊まる予定。天気も今日が一番いいのではないかなと言うで、距離も稼いでおいたほうが良いというアドバイスを受けて、横山夫妻の顔色を見ると、まだ元気そうであった。そこへ20人くらいのグループがやってきた。高年グループだ。賑やかそうだ。
鑓温泉から登ってきて、今日は天狗泊まり、明日白馬に向かうという。白馬まで今日中に行くことを決める。イレを借りに小屋に入る。清潔そうだが、こじんまりしている。小屋の主人と言葉を交わしたがあまり愛想はよくない。やはり白馬まで行くことにする。村営小屋に泊まることにする。2000人も泊まれるような小屋は嫌だから。
天狗山荘からなだらかな稜線の道を行くと、正面に大きく鑓ヶ岳が聟えている。トラバースの道を目で追う暗部にくると鑓温泉への分岐の道標があった。見るとかなり急な下降の道がついている。右に見送って、ザラザラとした白色の砂礫の道をななめに登って、鑓の山頂への肩につく。荷物をおいて、山頂に登り、記念写真をとる。奥さんは道標に書かれている2903mの標高に感激する。展望は得られなかったが、不帰方面が少し見える。黒部側は雲の中である。山頂で展望は十分ではないが、アルプスのスケールを実感して横山夫妻は満足そうであった。奥さんが元気であるのでよかった。鑓への登りは見上げた時から「しんどい」と言うのであった。鑓の下りはけつこうきつい下りである。登ってくる人は、つらそうな表情をしている。思っている以上に急な登りである。出会う入ごとに後どれほどかと聞かれる。「後、二息くらいですよ」などと言って励ます。

    霧はれて姿を見する白馬鑓藍青の空を負ひて聟ゆる    来嶋靖生

まさにこの歌のように、霧が晴れて振り返ってみると白馬鑓のピラミッダルな姿が美しい。三十分歩いてちょうど杓子岳をトラバースする。ここから白馬まで一時間である。横山さんが地図で時間を確認する。このあたりから白馬岳がうすいガスにすけて見えだした。青空になりくっきりと見えだす。
白馬山荘の異様な大きさにびっくりする。頂きを守る城壁のように左右に長く屋根がのびている。村営の宿舎の屋根が見えたと同時に白馬雪渓から登ってくる人たちの姿が見えた。
      
雪渓や山登るにも人つらなり       小室善弘

まさにこの句のとおりに見えて、縦走して来てよかったと思った。このころから足に異変を感じる。踵の部分が靴づれのように痛みを感じだしてきた。比較的ゆるやかなアップダウンを繰り返し、白馬の展望も得られるようになったので、ゆっくりとしたピッチではあったが休まないで小屋まで行くことにした。杓子から下って、白馬への全体的な登りにかかる。最後の登りでからり足にきてしまう。歩数を数えて登る。
小屋の気配のするロープが張られているところまで、700歩あった。右下に雪渓を登ってくる登山者が蟻のようにつながっている。「すごいね、あんなに登ってくるよ」と横山さん。今夜は満員かもしれないと思った。眼下に村営小屋が見え、テントが70張ほどある。やれやれである。
山頂への道を右に折れて小屋へ向かう。村営小屋の裏手からまわり表の石段をのぼって玄関に。登山者で混雑している。宿泊用紙に氏名人数を書いて手続きをする。レジスターが2台もある。受付はアルバイトの高校生。でも感じは悪くない。「どこから来ましたか」「唐松からです」「では部屋は唐松のBです」ということで二階の「唐松」の部屋が指定された。
同室の人達、Aには大宮から来たという成人した娘さんと夫婦、Eには川越から来た夫婦、奥さんはダウン、Fは四人パーティ、後で聞いたら、横須賀、横浜の人達、関東だけが一緒になるのもめずらしい。横山さんと奥さんにマッサージをほどこす。川越のご主人は十月に台湾の玉山に登るという。娘の嫁ぎ先の小田原の舅さんが、山をやる人で台湾とも関係があって、十人ほどでいくのだそうだ。玉山は4000メートル近い山である。私も行ってみたい。台湾には高い山が多い。夕方、二人をさそって稜線まででて見ることにした。
宿舎のサンダルをつっかけて稜線まで。雲が晴れて、正三角形のように誓える剣岳、牛が伏したような立山が黒々と雲の上に現れている。杓子の陰で鑓は見えないが白馬もくっきり、特徴的なとがった山頂を見せている。
      
    夕せまる空澄みわたり雲海のかなたに鎮まる劒立山
    雲海の雲たちあがりたちまちに劒嶽をおし隠してゆく

白馬岳は新田次郎の「強力列伝」を思い出させる。山頂にある石の方位盤は強力が運んだものである。劒岳はほんとに美しい形をしている。3000mの高さが訂正されて2997mにされてしまったのだが、残念なことだ。あの山には3000mがふさわしいのに。夕食を済ませる。例の単独行の女性がいた。鑓温泉に下らずに宿舎に変更したのだ。
まだ明るい。コピーを飲むために、自炊小屋でコーヒータイムとすることにした。入り口に若いカップルがいたので誘った。気かつかなかったが女性は、同室の娘さんだった。男は隣の部屋の27才の独身で、穂高町の住人。横山さんと二人をからかいながら、いいカップルだと笑いこけた。しかし、男の子もまじめで、どことなく誠実な感じのいい男性で好感がもてた。明日の予定は鑓温泉へ行くという。二人は同じコースである。面白い話しができあがるといいが。これだから若い連中は楽しいのだ。とくに山に来る若い子たちは気持ちのいい子が多い。海をきらうわけではないが、山であう若者がいい。男が先に部屋に戻るというので、二人を追い出す。代わりに中年の男性二人が食事をしに入ってきた。
だいぶ冷え込んできたので小屋にもどる。食堂でパイプで一服していると横山夫妻がきたので、明日の行 動について相談する。私は雪渓を下らずに栂池にでることを提案した。雪渓を下るために軽アイゼンを揃えた二人には申し訳ないが腐った雪渓を歩く気はしなかった。登ってきた人の話しでも雪渓は例年よりも雪がなく、2キロ程度しかないという。しかもクレバスがあって、おまけに汚れているという。下ってもおもしろ味に欠ける。それらなぱ白馬大池にまるのはどうか、なかなか行くこともないコースだろうからこの際行ってみたいと思った。時間的には2時間ほどよけいにかかるようだが、大したことはないだろう。
ご来光を見に山頂に登りたいという話しからこうなったのだが、ご来光のために早朝にでると食事時間に間に合わなくなるとか、いろいろあって、四時半から食事なので、朝食をとって5時にでれば、5時半には山頂で、ご来光を見ればよい。周囲はもうとっぷり暮れて闇である。
白馬山荘の窓灯りがきれいであるが、晴れていない。天気がきがかり。今日は出だし、天気はよくなかったが、風もなく雨もなくよかった。途中からは天気も回復してきて夕方には、劒や立山が見えた。写真のフイルムもあっという間になくなってしまった。午後九時消灯。コーヒーがきいてしまったらしく寝つけない。2時間おきに時計をみていた。

8月9日  晴れ
村営頂上宿舎5:00 白馬山荘5:15-30 白馬岳5:45-6:00 三国境6:25-30 小蓮華岳7:25-35小ピーク7:50-55 白馬大池8:45-9:35 乗鞍岳10:03-05 天狗原10:50-11:10 ロープウェイ乗り場 11:50-12:00 栂池12:55-12:30 八方駐車12:50
      
    夜明けまつ白馬の黒い頂きはるか星辰図えがく宇宙
    むらさきの天空遠く冴え冴えて白馬稜線夏午前四時

午前4時前に小屋から外にでてみた。空は満天の星空であった。これなら今日はよい天気であると確信した。予定通り、4時半に食事をとり、5時小屋を後にする。
同室の人達はご来光を仰ぎに早くに出ている。荷物は置いたままである。足がさわる。ハンドエードをはって靴づれ対策はしたのだが、どうも様子が変だ。山頂への道を大勢の登山者が行き来する。|面の雲海である。安曇平は雲の下である。運上に、妙高、高妻、浅間などが浮かび、遠くには御岳と思われる山が浮かぶ。今日は好天である。フイルムがなくなったので横山さんが一本山荘で買う。私もバカチョンを一つ、1800円もする。高い。山荘の前は団体客でいっぱいだ。小屋の建物の間が頂上への道になっている。私は靴を脱いで 手当を改めてする。歩き初めはつらいと奥さんが嘆く。ザラザラした道を上り詰めると白馬の山頂である。登山者で山頂は超満員出、写真をとるのも儘にならない。道標のと』」ろで 順番をまってシャッターを押す。混雑をさけて、少し離れた山頂の一角で展望を楽しむ。方位盤の回りには人が群がっている。風は強くはないがある。百名山が一つ増えた。61番目になるかもしれぬ。

      白馬の頂きにたつ朝の雲海はあまねく四方をおおう
      夏の朝日は私を射貫きさらになお劒の巖も赤く射しぬく
      鑓と杓子が立ちはだかって岩にすがる不帰の瞼ひた隠す

三千に少し足らない高度だが、多くの登山者を楽しませてくれる山であることは間違いない。横山夫妻も十分にその展望を楽しんでくれた。写真もたくさん撮った。喜んでもらえればこの上ないことだ。横山さんはアルプスのスケールの大きさに感嘆していた。それで十分な気がした。賑やかな山頂を後にして白馬大池へ向かう。団体さんが先を行く。稜線から雪倉岳や朝日岳が見える。子供つれの家族登山者も多い。三国境の近くで一息入れて横になって休む。今日は何の心配もない。小蓮華の登りになると足の痛みを感じる。団体のグループを道をわけて追い抜く。小蓮華岳は、新潟県の最高峰である。白馬から五竜まで見渡せる。山頂は賑やかである。大池が見える。少し下って、また小さなピークに登る。途中から白馬の雪渓が見える。白馬尻の小屋や、猿倉の駐車場の車が光って見える。ここで白馬の姿ともお別れ。なだらかな下りを大池に向かっておりていく。
       薄くもが湧き略をかくせばやせ細ってゆく夏の雪渓
       過ぎさった青春の空映す白馬大池青く清がしい

大池はなだらかな姿をみせて青く光っている。赤い小屋の屋根が鮮かに見える。途中で捻挫でもしたのか 女性が倒れて、グループの人達が円をつくっていた。大池の広場で大休止する。トイレには長い女性の列 ができている。靴を脱いで裸足になる。痛いのだ。横山さんはビールを飲んで一休み。おしるこをつくって食べる。ここからまだ二時間半の道程である。気分を入れ替えて出発する。蓮華温泉への道は小屋の広 場の前からわかれている。小屋の横をスリ抜けて池にそって乗鞍山に向かう。
火山の岩の上を歩く。歩きづらい道である。大池は火山口なのだろう。乗鞍岳の山頂には大きなケルンがありピョコピョュ 山頂は 平らなのどかな雰囲気だが、山頂という感じがしない。我々はそのまま通過する。乗鞍からの下りが予想 以上に悪い。北八シの天狗岳の下りを思い出すような巨岩の道で、慣れない二人にはつらかったと思う。
横山夫人が頑張ってくれた。登ってくる人も下る人も苦労している。この下りだけでも40分岩の上を歩く。条の岩道が乗鞍岳から続いている。8才位の女の子が親と一緒に上手に下りていく。この子は将来 有望な山女になれそうだ。かなり早いスピードで下る。天狗原が眼下に広がる。追いつかなくなった。い い加減いやになったころ潅木帯に入り、まもなく天狗原の木道にでる。これで歩きづらい岩道ともお別れ。やれやれである。奥さんはこの道を登るのは嫌だと言い出す。そうかもしれない。天狗原で一休み。湿原帯の高原である。ガスがでてきて、乗鞍岳を覆う。いいときに下ってきた。天狗原の木道にだまされた。 またここからの下りもうんざりするような道であった。足が痛いのでともかくひたすら歩いた。
ロープウエイの駅についてホッとした。ロープウェィとゴンドラを乗り継いで栂池に着く。栂池のコンドラの
駅前でタクシーの運転手の人方まで幾らかと聞くと2800円位というので、タクシーに乗って向かう。不帰の稜線が見えるかと思ったが、ついに見えなかった。白馬で美味しい蕎麦屋はないかと聞くと、「そば神」という店を教えてくれた。帰り支度をして白馬の駅前の蕎麦神によったら長蛇の列。あきらめて温泉の近くの「塩の道」という食堂に入る。風呂に入って汗を流して、すっきりして岐路につく。人並みに一つの山を登り終えた。確かに四季折々に親しめる山であると思う。
      
       鹿島槍、白馬、燕岩肌に雪線食ひ入り空に悲しめり        葛原妙子

一週間後、立山に行ったが足の具合が悪くなり大町に引き返した。そのとき帰りの電車で一緒になったご夫婦が白馬の帰りで、その人は、雨の中、雪渓を登ったのだそうだが、大雨で大変だったとか、二人が登った後の人達は、雨のため猿倉で足止めになったという。雪渓の状態はグズグズで、えらく辛かったそうだ。帰路は私達と同じ道をたどり、白馬乗鞍岳からの下りには、私達よりも一時間以上も時間を要したという。改めて横山夫妻の健闘振りが知れる。後日、医者に見てもらったところ、足は使い過ぎによるアキレス腱周辺炎症ということで、運動してはいけないと言われてしまった。九月はおとなしくせざるを得なくなった。一週間後の立山行きは、室堂から白馬まで北アルプスの稜線をつなごうという計画で出かけたのだが、このときのアキレス腱の痛みで計画を延期せざるをえなくなったし、翌年の夏、横山さんと新穂高から入山して水晶岳から烏帽子岳を歩くのみであった。



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