余市岳白井川左俣沢遡行、本流下降<28>
- GPS
- 32:00
- 距離
- 25.0km
- 登り
- 1,475m
- 下り
- 1,382m
天候 | 時々小雨。 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
バス
|
写真
感想
◇これは、1970年代の遡行記録です。林道や山頂部の踏み跡など、現状は 大きく変わっていると想像されます。とくに余市岳山頂部は、以前は道のない山 でしたが、新しい夏道が複数開かれています。入山・入渓の場合は、ご注意ください。
昼すぎに発ち、札幌駅前から定鉄バスで定山渓へと向かう。
今回、目標にした余市岳(1488メートル)は札幌の西部に広がる近郊の山々のなか では、もっとも標高が高い。登山道がなく、沢コースでしか頂上に到達できない山 でもある。札幌を拠点に山登りをするならば、どうしても洗礼を受けに通わなけれ ばならない山。なによりも、つい3週間前に、空沼岳から眺めたこの山の姿が気に 入った。山頂部が平らに近く、やや鈍な感じがする無意根山と比べて、余市岳は、 頂上がすっきりと立ち上がっており、雪渓も細く伸びて、登高欲をそそる。
◆イワナがいっぱいいる、との声にひかれて
とはいっても、6月に沢をつめて山頂に到達するとなると、雪や水量の状態によ っては、苦労させられるかもしれない。第一、山野君も、吾妻君と僕も、本格的な 沢登りは初めてである。山野君が「左俣川は、近郊の山では、もっともイワナが多 い」という情報を仕入れて来たので、それに乗って挑戦してみるか、ということにな ったわけである。
定山渓には午後3時前に着いた。ここから白井川の二股まで歩いたのでは、天 場に着くのが遅くなって、楽しみの釣りの時間がなくなってしまう。「割り勘」の強み でタクシーを使うことにした。二股から歩きだして午後4時すぎ、目的の三の沢(林 道終点)に着いた。
テントを張って、さっそく竿を手に沢の中へ。玉石の下のよどみや、淵を選んで 餌(ミミズ)を落とすと、なるほど魚影は濃い。それに渓相も変化があって、いい沢 だ。日の長さも手伝って四の沢の出合いの上まで1キロメートル余りも釣り上がって、 山野君と僕とで十数匹のイワナを確保した。小ぶりのものをさらりと流れの中に 逃がしてやる山野君はさすが。釣りの経験が少ない吾妻君は、餌を底に沈める 釣り方だったためか、この沢に多いカジカばかり釣り上げていた。
◆源頭の蚊は、僕ばかりを刺す
2日めは、いよいよ沢をつめる日だ。昨日使ったわらじをもう一度、地下足袋に つける。朝の沢の水は、身がブルッとくるほど冷たく感じる。出発する段になって、 吾妻君のザックの中で牛乳のパックが破れ、こぼれだしていることがわかって、パ ッキングをやり直した。
出発は7時。左俣川は、昨日釣り登ったところから上部でも、登りやすい渓相が 続いている。小滝(1・5メートルナメ状)がある淵では、イワナが群れて泳いでいた。右 手から幅1・5メートルほどの五の沢が入ってくると、しばらくで奥二股。右のコースをとる と、沢の形もようやくV字型に変わる。2〜3メートルほどの滝がハング気味に落ちて、行 く手をはばんでいるところでは、草付きに明瞭なまき道があった。
この滝を越すと水量はさらに減り、傾斜が増すにつれて、いつしか細い水流だけ となった。周囲は灌木のやぶになっていて見通しがきかないが、地形が平坦な場 所や湿地らしい所も目にすることができることから、雪渓の直下にある沼地の付近 に到達したようである。エゾリュウキンカの光るような黄色の花を目にしながら、昼 食をとる。2人はタバコをうまそうに吸うが、蚊が僕ばかり責めたててくるのには、ま いった。
◆急な雪渓に地下足袋で苦闘する
休憩地点からは水流が途切れ、いわゆる「溝道」(降雨のときだけ水が流れ落ち る溝状のルート)をたどって登高する。「道」の両側は頭上にまでかぶさるネマガリ ダケのやぶで、両手で押しのけ、かきわけて進まないといけない。雨粒が落ちてく るので雨具をつけて、やぶと格闘した。
登ることしばらくで、突然、目の前に白い雪が現れた。頂上部へと続く雪渓であ る。当たりは一変して開放的な景色となり、僕たちは大喜びでこの雪のルートにと りついた。わらじはさきほど脱いだけれど、地下足袋は、雪の斜面を登るのにはま ったく向かない。キックステップは効かないし、中の木綿の足袋まで濡れているか ら、足裏からひどく冷えてくる。おまけにあたりは霧が太陽を隠している。傾斜が増 す雪渓にかなり緊張もして、ようやく稜線の一角に飛び出した。
ハイマツの中をすすむと、朝里岳方面との分岐点と思われるところにケルンが積 んであった。余市岳の頂上部は、この山を遠くから眺めたときとは大分感じが違っ て、けっこうのっぺりと広い。ケルンが目印となる山頂に着いたのは、すでに午後2 時近くだった。
◆バックドロップで冷たい釜へドボン!
そのまま山頂から南下する尾根をとって下降。ここぞと思われる稜線の一角から、 またやぶこぎが開始された。3人とも緊張していた。ルートを誤ったら、とんでもない 沢を下らされてしまう。背丈をはるかに超すネマガリダケのやぶをこいでいくと、竹の 幹が地下足袋の股のところ(親指と人指し指の間)にはさまって、すごく痛い。「溝道」 があらわれると、次には長くて傾斜はそうきつくない雪渓下降することになった。雪渓 は、下部では薄くなっていて、崩落が怖い。いよいよあぶなくなったところが、水流の 始まりだった。
ここからの白井川本流の下降は、予想していたよりもずっと、スリルを感じさせられ た。上部は小さな釜や小滝が連続する渓相で、山野君がその釜の一つに頭から滑っ て落ちて前進ずぶぬれになる事件があった。雪解け水に全身を洗われて、山野君は 一気に憔悴。さらに下ると、滝が連続する核心部となり、下降に時間をとられた。なか でも4つの滝が下り応えがあった。
最初はF13、F12の二段各四メートルの滝。大きく左岸をまくが、土砂崩れあとの泥壁が いやらしい。F11は、岩場で切れ落ちた4メートルのハングの滝で、これは左岸の滝際の階 段状の岩場を下降した。続いてF6は5メートルで、左岸の節理状の岩場を下降、最後のF1 は5メートルで、下降するには右岸の泥壁を木の枝を頼りにつたい降りるしかない。この本 流の核心部を終えたところで、3人とも、もう早く水から脱出して陸を歩きたいという気 分になっていた。
◆林道エスケープは、遠い帰り道の始まりだった
ところが、その陸歩きが、またたいへんだった。
沢の下降中に林道を見つけたのが、すでに午後6時15分。日暮れを気にしていた 僕たちは、その林道に逃げ込んで、ほっと一息ついた。が、元気をとりもどして歩きだ したその林道は、豊羽鉱山に向かうのではなく、だらだらと水平に進んで沢を離れてし まったあげく、途中からは高度を上げはじめてしまった。あたりはすでに暗く、もう沢に 引き返すことはできない。右下の谷底、はるか下に見える明かりは、豊羽鉱山のもの だろう。最終バスもとっくに出てしまったはず。まさかのヘッドランプを取り出して、3人で ヒグマを恐れつつ、僕たちはとにかく先を急いだ。1人でなくて、ほんとうによかった。
「もう、定山渓まで歩いて行こう」とやぶれかぶれになったところで、林道は右手、バス の走る白井川の谷底へ下降し始めた。車道に降り立ったのは午後9時。どうやらここ は、定山渓と豊羽鉱山との中間地点あたりらしい。すでに行動時間は14時間に達して いた。野宿するよりは、と、また歩きだした僕たちに、後方から車のエンジン音が響いて きた。手を降ると停車して、乗せてくれるという。「助かった」。聞けば、こんなところを、こ んな時間に歩いている人は、ほとんどいないとのことで、ドライバーは僕たちを見て、「ウ ワサの幽霊が出たか」と一瞬、ぎくりとしたとのこと。その本物の幽霊は、ご多分にもれ ず、「若い女の幽霊」とのことだった。
定山渓着は9時半すぎ。ここからはタクシーを奮発して真駒内まで帰り、地下鉄に乗 り継いで、なんとかその日のうちに恵廸寮に舞い戻った。
コメント
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ヤブゴリラ誕生の山だったな。
わたしにとって初めての、北海道の沢でした。
緊張感があったよ。
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