芦別岳本谷は天色の空の下に白く輝く
- GPS
- 09:37
- 距離
- 15.6km
- 登り
- 1,633m
- 下り
- 1,631m
コースタイム
- 山行
- 8:18
- 休憩
- 1:13
- 合計
- 9:31
天候 | 快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年04月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
クラストに新雪 |
写真
感想
芦別岳本谷.地獄谷.初めて知ったのは,今から27年前1992年発行の「北海道夏山ガイド5巻道南・夕張」.行ってみたい!と強烈に心惹かれた.
しかし,1992年といったら仕事,子育てに必死な日々でした.人生に,その時にしかできないことがあって,その頃,登山は,その時しかできないことではなかった.もっと大切なことがあった.そして,少し余裕ができて山を登りだした頃も,アイゼン・ピッケル,ヘルメットが必要なので,ずっと自分には無理な山でした.それが,数年前からようやく可能性が出てきました.しかし,なかなか自由がきかないし,ここ数年,何度が計画しましたが,休みと天気の良い日が合わなかったりしてその度に断念していました.残雪期のごくわずかな時期しか登れないルートなので,登れるチャンスってとても少ない.そして,満を持して今年...
2時に起床して,2時20分に出発.その直後に地震があったようですが,全く気がつきませんでした.夏タイヤに変えてしまっていたので,少し心配で,スピードは控え気味.それでも,4時半前には,富良野山部自然公園太陽の里・ふれあいの家の駐車場に到着.霜が降りている中,5時出発.高巻きを繰り返しながら残雪のユウーフレ川沿いの旧道を進む.旧道は3回目だけれど,決して足を滑らせてはいけないところが連続して気を緩めることができません.7時.ユーフレ小屋に到着.最大の核心部のひとつと思っていた丸木の一本橋はスノーブリッジに完全に埋まっていました.よかった...
熊よけの鐘を鳴らしてから,ユーフレ川本流左岸をさらに進みます.ここからは初めてのルート.ゴルジュは埋まっていました.もしここが開いていると左岸の崖を高巻きする必要があります.4月23日の段階でまだゴルジュが開いていないことは確認していたので,ハーネスやロープなどの登攀用具は持ってきませんでした.4月23日にはなかった大量のデブリがゴルジュを埋めています.憧れて,何度か本当に夢にも出てきたインゼルで記念撮影.
芦別岳本谷は天色(あまいろ)の空の下に,前日の新雪で,白く輝く.天色は,晴天の澄んだ空のような鮮やかな青色.真空色(まそらいろ)とも言います.
斜度が急峻になってきた所で先頭にでます.クラストしている上に新雪が積もり,アイゼンの効きが悪くて油断するとスリップするので,ポールからピッケルに切り替えるべきだったのですが,ピッケルを出さずに登ってしまいました.さらには,ここで地図・GPSを確認し状況を把握するべきだったのに,それを怠ってしまいました.しばらくして,下から「足が攣った...」と.さらに,「両足とも攣った...」と,かなり苦戦しているようなので,とりあえず正面の斜面にみえる少し傾斜が緩くなっているところで,いったん休ませようと考えました.登っていくと,さらにクラストがきつくなり,キックステップも効かず,油断すると滑り落ちます.下から見ると少し平坦に見えた場所も,実際は,ほとんど同じ斜度で,安心して休めるような所ではありませんでした.なんとかアイゼンで蹴り込んで雪を崩し休めるスペースを作りましたが,十分ではありません.さらにここから正規ルートに復帰しようとしたら,考えていた以上に急峻でトラバースできるような状況ではなくなっていました.さあ,どうする.
振り向くと吸い込まれそうになる急斜面.今,思い出しても背筋が寒くなる.絶対に滑落できない.滑ったらどこまで落ちるのだろうか.「ピッケル出したらどう」と言われましたが,不安定な急斜面でザックを下ろしピッケルを出し,ポールをしまうのも危険だと判断しました.自分は大丈夫でもパートナーが落ちるかもしれないので,少しでもリスクのあることはできない.
とりあえず,正面の急斜面を登り切ってブッシュ帯まで上がるのが最善と考えましたが,登り切ったところがどうなっているのか判断できない.ハンディGPSもiPhoneのGPSも操作する余裕がないので上の状況がわからいない.ちゃんと地図を確認していなかったので,自分たちがルートのどの辺にいるのか全く把握できていない.もし,上に上がって,先が切れ落ちていたら,ヘリで救助を呼ぶしかないだろうか...などとも考えていました.
絶対に失敗できない状況.そう言う時は,早く危機的状況から脱出したくて焦るのだけれど,ひとつひとつの判断,行動を確実にこなすしかありません.滑ったらアイゼンを引っかけて足を骨折するかもしれない,頭から滑り落ちて命に関わる外傷を負うかもしれない.とにかく絶対に滑落できない.クラスト斜面に刺さらないポールをなんとか突き刺し身体を確保しながら,パートナーが登りやすいように,繰り返し何度も何度も蹴り込んで確実にキックステップを刻んでいきます.手近のブッシュに近づきたいと言われましたが,そちらは硬くて全くキックが入らないので,遠いけれど確実なルートを取り,一歩一歩進んでいきます.ほんの短い距離なのに遅々として進まない... それでも最後になってようやくキックステップが入るようになり,ブッシュに手が届きました.あとはスカイラインまで上がるだけ.
そして...
登り切ったところは,広い緩斜面でした.助かった...
しかし,痛恨のミス.最後の最後で詰めを誤りました.ここは多くの人が間違える場所のようです.昨年は,何度も何度も記録を読み返して,もっとルートが頭に入っていたと思うのですが,今回は,もうわかったつもりで,あまり記録を読み込んでいませんでした.さらに通常より時期が少し早いので,過去の記録に比べると谷の様相が少し違います.よりによって最も急峻な斜面に突入しています.
アイゼンも,アルミの10分爪Black Diamond NEVE STRAPと鉄の12本爪Petzl Vasak Flexlock Cramponsと迷って,結局,軽量なアルミの10分爪を選んだのですが,鉄の12本爪の方が良かったかもしれません.去年は,鉄の12本爪を準備していたのですが...
また,最終的に無事に突破できたのは,体力的に余裕があったおかげもある.最近のトレーニングで明らかに体力が戻ってきている.危険地帯で足も攣りそうだったが,なんとか乗り切った.疲労していると,集中力も,思考力も,注意力も,判断力もあらゆるものが全て落ちる.「強靱な精神力は鍛え抜いた肉体の自信から生まれる.肉体を鍛え十分に強くなれば,その結果精神的な部分もおのずと安定してくる.内面の全てが落ち着くべき場所に収まる.訓練や経験を通し,自分に何ができるかわかるとそれが自信になる.そこから生まれた精神力は重要であり,肉体の鍛錬がなければなにも生まれない.だから日々のトレーニングは何よりも大切なんだ.自分の身体を知り限界を知っておく.」(「アンナプルナ南壁 7,400mの男たち」より)
そして,また来ないとね.
色々な意味で,ひとつひとつをきちんとこなすことが如何に大切かということです.誰かに連れてきて貰ったのではなく,自分で行動し,間違えたもののやり遂げたことは大きな経験になったと信じます.ただ,バリエーションルートとしては,このくらいが自己流登山者としては限界に近いところかもしれません.日高を含め,これ以上の難易度の山は,それ相応の訓練が必要かもしれませんね.
旧道登山道に出てから,もう悔しくて悔しくて... ここから降りてもう一回登り返そうかとも思いましたが,止められました.明日,もう一回来たいと言ったけれど,それも却下...もう泣きそうな気持ちで,とぼとぼと芦別岳の岩稜部を登る.11時,芦別岳山頂1726m.狭い岩の山頂.風が強く冷たい.絶景です.羊蹄山も見える.
11時15分,下山開始.アイゼンを引っかけて転落しないように慎重に.山頂直下の急斜面がまたまたクラストに新雪の状態で,こっちも登り以上に怖い.さらにこちら側は滑落すると滑る方向によっては崖から落ちる.こっちこそ絶対に滑落できない.本来はしゃがみ込んだりしたらかえって滑るのでいけないのですが,ふたりともクラストの急斜面を下降した経験がないので,ピッケルを雪面に突き刺しながら,お尻をついて踵を蹴り込みながらじりじりと降りていきました.それにしてもピッケルの安心感は凄い.ピッケルさえあれば,あの危機的状況でもトラバースできましたね.いい経験になりました.
場所を見つけては,尻滑りしながら下山.新道は長い.長い長い新道歩きを終え,ついに下山.14時.
もう少し遅い時期で,雪がザクザクな時なら,本谷を往復することもできるようです.長大な尻滑り.それはそれで楽しそうだけれど,今日の白く輝く本谷は今だけのもの.厳しい山行だったけれど,かけがえのない一日でした.
下界は,ぽかぽか陽気.塗れたものを乾かしながら日向ぼっこ.
また来ます.
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