千枚岳 〜思い残し〜
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- GPS
- 13:41
- 距離
- 20.2km
- 登り
- 2,094m
- 下り
- 2,069m
コースタイム
- 山行
- 6:32
- 休憩
- 0:24
- 合計
- 6:56
天候 | 12日 椹島へ 曇り 13日 千枚小屋へ 曇りのち雨 14日 千枚岳往復、下山 雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
8/14 椹島ロッジ発13:00、畑薙第一ダム着13:50、発14:30(しずてつ南アルプス登山線、3,100円)静岡駅着18:00 ※南アルプス登山線は台風の影響で、15、16日運休となった。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
新しい吊橋が架けられ、登山道も左岸に付け替えられた。距離は短くなったが、旧道合流後の岩場越えは残る。それにしても2/7、3/7の札を見た時のショックは筆舌にし難い。水場の清水平は絶妙な位置にある。蕨段の先で、見てはならないものがかすめて行った。 |
その他周辺情報 | 椹島ロッジのシャワー 9時から13時、500円 |
写真
感想
入山が1日遅かった。せめて夜行で向かっていれば。悔やむことしきり。でももう終わってしまったのだ。いつか彼の地を踏めるよう努力を惜しまずにいよう。
台風の進み方はあまりにも遅く、天気図から目が離せなくなった。加えて先週痛めた腰の具合がよろしくない。そして何より雨の中、崩壊地の縁を歩くことに不安を感じ始めていた。土壇場で当初のコースに変更することにした。あるぺん号は乗合バスでは無いからキャンセル料をしっかり払わなければならない。痛いなあ、腰も出費も。とにかく8月12日朝、品川駅から西へ向かった。
静岡駅に降り立つのは、もう何度目だろう。いつも見上げると青空が広がっている。このまま隠れないでください。念じながら登山バスに乗り込む。空いていた。キャンセルが多いのだろう。単純だから途端に不安になってくる。窓の外を見ずに3時間熟睡することにした。
臨時駐車場には13時20分に到着、予定どおり送迎バスを待つ。24年前、4年前、畑薙という場所を訪れた。今日も少しだけ緊張している。林道は、ダンプやトラックが頻繁に通行しているせいか更に悪路へと変化していた。
椹島は、登山基地であると同時に、大プロジェクトの工事現場となっていた。とはいえ、しっかりと区画はされており、静かで気持ちの良い時間を享受することができる。受付を済まし、早速、散策をすることにした。変わらず、青空は雲間から顔を覗かせ、テラスで気分よく軽食(串カツとコーラ!、普通下山後だろう)を楽しんだ。
ロッジの個室は思いのほか快適で、車中の熟睡は妨げにならなかった。午前5時、満ち足りた朝を迎え、先ずは千枚岳を目指し出発する。昨年7月に、登山口は滝見橋を渡った先に新たに設けられ、真新しい吊り橋が眩しかった。
いきなりの急登で、息が上がる。けれども新道は尾根を行くため、すぐに高度を稼げるなあ、などと思っていると、今度は岩場の急降下である。こんなもの、明日のコルへの降下に比べれば、などと思っていると、登り返しに怖気づく。全く気持ちの変化が慌ただしい。半ば楽しみながら、鉄塔下を通過する。
さらに進み、悲しい林道出合を過ぎると、さらに悲しい標識に出合う。7分の2という数字に衝撃を受け、今日の7時間の登りを今更ながら思い知る。傷心の思いで歩いていると、追い打ちをかけるかのように、2度目の林道出合。不自然に静かな時間が流れていた。
清水平は絶妙な位置に在る。ちょうど急登に飽きてきた頃に現れる湧き水とベンチ。ここで休まない訳にはゆかない。迷わず座り、「7分の4」を茫然と見つめていた。意を決し、無心の歩みを始める。残り3時間などと考えてはいけない。
1時間弱を歩いた頃だろうか、蕨段に着いた。標柱には千枚小屋まで3時間の表示。そんなはずは無い、下山者とのすれ違いも落ち着いていたから、ぶつぶつ呟きながらひたすら登った。ふと右手を見ると、車道を行き過ぎる1台の車がいる。そのときはそれどころでなかったからぼんやりと眺めていたが、のちに思い出すとかなり衝撃的な場面に遭遇したのだった。
そんなこんなで椹島との標高差1200メートルに達した。頻繁に立ち止まるようになった。急坂は収まり、緩やかな傾斜が余計に辛い。静寂に包まれた駒鳥池では畔まで下りる気力は無かった。
小屋の気配を今か今かと待ちわびていると、7分の7の標識、嬉しさが込み上げてくる。眼前にお花畑に囲まれた千枚小屋の姿があった。時に12時半、小屋の前には大勢の人が休んでいる。受付を済まし、喉を潤し、着替えた。素泊まりでも本館で休めることに安堵したのか珍しく食欲がある。雲に覆われた空を見上げながらゆっくりと口に運んだ。
シュラフは一つ置きに均等に並べられている。例によって仮眠を取ることにした。きっかり2時間眠ったあと、外の雨に気付いた。通り雨らしく、16時前には上がった。17時、小屋前で夕食後のコーヒーを楽しむ。テレビで、明日の午前中は保つことを確認し、18時に就寝した。けれども天候が気になって夜半何度も目が覚めた。
3時には、早出組が動き出す。予報よりも早く荒天になりつつあった。先ず、赤石岳山頂までの行程は諦めた。時間と共に荒川小屋までも遠く感じられるようになった。やがて臆病風が強くなり、悪沢岳の往復と千枚小屋の連泊を決め、5時前に出発した。
雨は未だ本降りでは無いが、風は徐々に強さを増している。標高2880メートルの千枚岳山頂で途方も無く迷った。赤石岳にも悪沢岳にも登らず、何のための山行だったのか、後悔することは明白であり進むべきである。雨に濡れた岩場で風に煽られても平常心を保てるのか。自問自答を繰り返し、人生3度目の撤退に踏み切った。
小屋までの道中、数組の人々とすれ違った。この選択は慎重すぎるのではないか、早くも自信を無くしていた。やがて、様々な分岐点を思い浮かべるようになった。夜行で入山し三伏峠からの南下コースを選んでいれば、そもそももう1日早く出発していれば、椹島から赤石岳の往復に割り切っていれば、考えれば考えるほど悔しく情けなかった。
清水平から本降りになった。樹林帯の中といえども、ずぶ濡れになる。転倒に気を遣いながらなるべく無心で下りた。山頂からの5時間は果てしなく長く感じた。椹島に着いた時、不思議な気持ちに包まれた。安堵感ではなく、口惜しさでもなく、何故かそれは達成感に近かった。帰りの登山バスの空席を確認後、シャワーを浴びた。
ダムまでの車中、明日、明後日の登山バス運休を知った。この山域では遠くても台風の影響を受けやすいのだろう。そして山頂で過ぎった「停滞」が、椹島でも起きる可能性のあったことを知らされた。いつの間にか雲間から強い陽射しが降り注いでいる。また一つ思い残すことが増えた。山を続けよう。束の間の青空を見上げ、ほんの少しだけ嬉しさを感じていた。
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