塩見岳(3047m)
- GPS
- 56:00
- 距離
- 19.3km
- 登り
- 2,088m
- 下り
- 2,078m
コースタイム
3月19日三伏峠小屋(7:50)→塩見小屋(12:05)塩見岳(13:30)→三伏小屋(18:30)
3月20日三伏峠(9:30)→鳥倉尾根登山口(14:15)→鳥倉林道車止め(15:00)→赤石荘
天候 | 18日晴れ、19日雪風、20日晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2004年03月の天気図 |
アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
写真
感想
1日目・塹壕クライミング
晴れ渡った林道終点、朝霧が谷間から舞い立つ中、カラマツの緩斜面を行く。ツボ足では潜るのでスキーを履くが、ところどころ雪が無く、脱いだり履いたりを繰り返す。標高2160のコルを超えて尾根が急になると、地形図とは違い、登山道は稜線の真上をはずれて北側を巻き始める。相当な急斜面の上に、昨日の雨と今朝の寒気でカキンカキンに凍ってしまっている。樹林帯とはいえ、コケたら行方不明になってしまいそうな底なしの急斜面だ。かといってスキーを脱げば表面3センチの氷板が割れて胸まで沈む。究極の選択だが行方不明よりはマシなので、シートラしての塹壕掘りを選択する。南アルプスには、スキーが通じないのだ!よくわかった。南アにスキーを持っていった人はたぶんこれが最初で最後だろうが、やっても見ないで文句を言うのはつまらないことだ。やるだけやって思い知る方が良い。でも三伏→塩見間では使えるかも知れないと思って、スキーは担ぎ続けた。
空身ラッセルしても駄目。ほふく前進しても駄目。前進すれば体は沈むばかりだ。快晴なのにいつまでたっても樹林帯から出られない。梢の間に間に仙丈岳や塩見も見えた。今日はスタスタ行ければ富士山の見えそうな本谷山あたりまで進めてイグルー&焚き火をしようと思っていたのだが、当てがはずれて日が暮れた。ルンゼは雪崩のせいか雪がしまって沈まないので、四本目に横切った急なルンゼを直上して、この果てしない樹林帯トラバースから脱出しようと企てた。しかしルンゼも後半はやはり首まで潜り、10m進むのに30分かかるペースになる。この塹壕戦、脚立が欲しい。伊那谷の夜景がとてもきれいだ。三伏峠周辺に着いた時はみな四つん這いのクマちゃんになっていた。沈まないよう四本足で歩く癖がついてしまったのだ。冬季小屋をマジな地図読みで見つけて、そこで泊。もうイグルーを作る元気ない。松竹映画のタイトルみたいな富士山は明日におあずけだ。就寝は11時。
2日目・意外と良かった風雪アタック
昨日はせっかくの好天を樹林帯ラッセルに終始してしまい、本日はガスの上に吹雪。すっかり寝坊して、行けるところまで行こうとやる気半分で出発。歩き始めてしばらくして、昨日と違って全く潜らない事が判り、小屋ノートで三日前のトレースがあることも判っていたのでスキーを早々に置いていく。本谷山、五右衛門山を経由してアタックするこのルートは片道5時間。ガスで見えないのでうんざりしなくてちょうどいい。途中にはシラビソの立ち枯れの森や気持ちのいい樹林もある。雪の結晶は南西風のサラサラから東風に変わると大きな六華のものに代わり、最後は小さな六角板状になった。
塩見小屋のある樹林限界からは、塩見岳西にある肩、天狗岩の北壁が視界数百足らずの風雪の中に浮かび上がって幽麗だ。雪つぶては顔に痛いが気温は氷点下8度でそう厳しくない。天狗岩へは岩の間をぬって凍ったルンゼを繋いで抜ける。抜けて初めて山頂を見た。風雪に煙る山頂は、遠く高く壁のように立っている。さすがは南アの3000m峰、簡単に登らせてはくれない。そして期待を裏切らない。ルートは幾多のルンゼの中を迷い込みながらとる。アイゼンはキシキシ、ピッケルはカキンカキンのところを登っていくと山頂だ。何にも見えないが美濃松が言う「この風雪の中をアタックしたことに値打ちがありますわー」。樹林帯に戻ると風が消えて安心感を味わう。帰り道には雪がやみ、北西には青空が見えて一瞬日を浴びる。無風快晴ばかりが良い山行ではない。天気との駆け引きをこなして味わう充実感も代え難い。
心地よい疲労で日が暮れる直前の三伏冬季小屋に戻ると、なんと。塩川ルートからの百名山ツアーが10人もご飯を食べていた!何でこんな季節に!何でこんな素人が!何でトレッキングシューズで!何で!何で!なるべく不愉快な気分にならないよう自分に言い聞かせて、食事して眠る。疲れていたけどイグルー作れば良かった。
3日目・展望を満喫
百名山ツアー軍団がいろいろやって朝五時に出て行ったあとで、初めて大きな声で会話が出来る。快晴の南アルプスを眺めに小屋から10分ほどの三伏山まで登って展望を満喫した。そこからは富士山は見えなかったがその他はすべて見えた。高遠杉がこのところ歩き回った、仙丈の地蔵尾根や大沢岳の西尾根の話などを聞く。赤石、悪沢、聖など、あこがれの未踏山群が白い光を放ち、オイデオイデと手招きしている。南アは針葉樹の樹林限界が高くて、この細くて切れた尾根の突破が最大の特徴に思われる。そして雪質。傾斜や尾根の細さはスキーである程度ラッセルしていけると思うのだが、雪質が特殊だ。今回のような雪質が南アの標準ならば、やはりワカンが一番マシなのだろうか。前に南アの稜線を縦走したのはもう20年近く経っていたことに初めて気づいた。下りは夏道を辿らず、尾根上を忠実に下る。キツネ君やカモシカ君の足跡が的確だ。時に潜りながら、木にぶら下がりながら、ザックに付けたスキーを鹿の角のようにヤブにひっかけてわめきながら降りた。
高遠杉の案内で、大鹿村の赤石荘でぬるぬるの露天温泉に浸かり、湯船で日が山際に沈むのを見届ける。そのあとヤギを飼っているチーズ製造農家に寄って、おいしいチーズを買う。アカギレの手の冷たい、よく話しかけてくれるその農家の少年が、先週生まれたばかりの子ヤギを見てよ、と小屋を案内してくれた。僕は毎日お乳を飲んで暮らせるようにヤギを飼って暮らせないものかと常々考えているので、この見学で非情に興奮した。美濃松は農家の裏手の湧き水を見つけて非常に興奮している。大鹿村から伊那谷への暗く長い山道を抜け、ラーメンを食べて解散。美濃松には瑞浪まで送ってもらった。中央西線名古屋行き各停でビールをあける。下山路から遠く眺めた、赤石岳の雪煙が忘れられない。
以下macchanによる記録
○南ア・塩見岳
パーティー;米山(藪熊旅団)、杉山(はろー山岳会)、松原(溯行同人・猫の蚤)
3/19 鳥倉林道ゲート発(745)登山口(830)三伏峠小屋着(1930)
/20 発(750)塩見岳(1330)小屋着(1830)
/21 発(930)登山口(1415)ゲート着(1500)
南ア南部三千m峰囲い込み準備編。その割には随分といたぶられた山行であった。
ヒネた我々は、安易な塩川ルート選択に汲みせず鳥倉林道を採用、見事これにハマル。前日降った雨で表面カリカリ中ズボズボ、スキー携行も仇となる。冨士、見得ず。後で調べてみたら、どうやらすぐそばの烏帽子岳が絶好の展望台だったのだと。とほほ。
<岳人誌689号に掲載済み>
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