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Yamareco

記録ID: 283662
全員に公開
アルパインクライミング
槍・穂高・乗鞍

北穂高/滝谷第2尾根

2013年04月08日(月) ~ 2013年04月10日(水)
 - 拍手
jazzy その他1人
GPS
56:00
距離
17.6km
登り
2,049m
下り
2,051m

コースタイム

8日12:45駐車場-15:10白出-17:10滝谷出合い小屋
9日滝谷出合い小屋2:30-5:40第2尾根取り付き6:00-15:50一般縦走路-16:00北穂高避難小屋
10日北穂高避難小屋8:00-10:00滝谷出合い小屋-13:10駐車場
天候 8日晴れ/9日曇り/10日朝方雪後曇り時々晴れ
過去天気図(気象庁) 2013年04月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
コース状況/
危険箇所等
冬に滝谷の沢へ入り込むのは、余程熟知している者でないと止めた方が良い。
同行のN氏は前の週にも第四尾根を登り、北アルプスにもかなり詳しい。

ルート図は概略で地形図も実際とは異なっている。

雄滝は完全に埋まっていたが、大変なラッセルになり上部にできたシュルンドの真横を通らなければならずシビレタ。

夜中の雪は比較的安定していたように思う。

避難小屋は滝谷も北穂高も入り口は雪に埋もれる事無く、快適に利用させていただいた。

第二尾根は核心2箇所の検銑+位で、後は難しくは無いがひたすら長い。
新穂高温泉無料駐車場
2013年04月08日 12:43撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/8 12:43
新穂高温泉無料駐車場
穂高平
2013年04月08日 14:12撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/8 14:12
穂高平
白出
2013年04月08日 15:10撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
1
4/8 15:10
白出
週末に降った雪はこの辺りで10cmくらい
2013年04月08日 16:41撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
4/8 16:41
週末に降った雪はこの辺りで10cmくらい
滝谷避難小屋
2013年04月08日 17:10撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
1
4/8 17:10
滝谷避難小屋
滝谷避難小屋の入り口
2013年04月08日 17:25撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
4/8 17:25
滝谷避難小屋の入り口
避難小屋内
2013年04月09日 02:26撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 2:26
避難小屋内
小屋から1時間半のところ。沢が合流を始める。
2013年04月09日 05:02撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
1
4/9 5:02
小屋から1時間半のところ。沢が合流を始める。
小屋から2時間
2013年04月09日 05:27撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 5:27
小屋から2時間
弓折岳方面
2013年04月09日 05:27撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 5:27
弓折岳方面
小屋から3時間。第二尾根末端
2013年04月09日 05:56撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 5:56
小屋から3時間。第二尾根末端
2013年04月09日 06:57撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
1
4/9 6:57
2013年04月09日 06:57撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 6:57
双六方面
2013年04月09日 06:58撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 6:58
双六方面
2013年04月09日 07:29撮影 by  COOLPIX S600, NIKON
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4/9 7:29
2013年04月09日 08:05撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 8:05
2013年04月09日 08:05撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 8:05
真ん中の沢を詰めてきた
2013年04月09日 08:15撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 8:15
真ん中の沢を詰めてきた
アップ
2013年04月09日 08:15撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
2
4/9 8:15
アップ
2013年04月09日 09:09撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 9:09
2013年04月09日 09:09撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 9:09
右はドーム岩
2013年04月09日 09:57撮影 by  COOLPIX S600, NIKON
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4/9 9:57
右はドーム岩
尾根をひたすら進む
2013年04月09日 10:02撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/9 10:02
尾根をひたすら進む
2013年04月09日 10:14撮影 by  COOLPIX S600, NIKON
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2013年04月09日 10:47撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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2013年04月09日 11:31撮影 by  COOLPIX S600, NIKON
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4/9 11:31
左のマッチ箱状の岩を越えると終了かと思ったが、まだまだ先が有った。
2013年04月09日 13:15撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
3
4/9 13:15
左のマッチ箱状の岩を越えると終了かと思ったが、まだまだ先が有った。
越えたところ。これ見て正直けっこうガックシ。。
2013年04月09日 13:47撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
2
4/9 13:47
越えたところ。これ見て正直けっこうガックシ。。
一般縦走路手前、最後のリッジ
2013年04月09日 15:42撮影 by  COOLPIX S600, NIKON
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4/9 15:42
一般縦走路手前、最後のリッジ
北穂高避難小屋
2013年04月09日 16:15撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
2
4/9 16:15
北穂高避難小屋
とても良い位置に入り口が有り全く埋まってない
2013年04月10日 07:56撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/10 7:56
とても良い位置に入り口が有り全く埋まってない
小屋に到着すると同時にどんどん周りが白くなる
2013年04月10日 07:56撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/10 7:56
小屋に到着すると同時にどんどん周りが白くなる
B沢の下降を始めて1時間半。やっと写真を撮れる余裕が出てきた。
2013年04月10日 09:31撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
2
4/10 9:31
B沢の下降を始めて1時間半。やっと写真を撮れる余裕が出てきた。
2013年04月10日 09:38撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/10 9:38
出会い小屋を出ると、すぐに現われる大デブリ
2013年04月10日 09:50撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/10 9:50
出会い小屋を出ると、すぐに現われる大デブリ
滝谷出会い小屋辺り
2013年04月10日 10:01撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/10 10:01
滝谷出会い小屋辺り
白出
2013年04月10日 11:43撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/10 11:43
白出
穂高平避難小屋
2013年04月10日 12:18撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/10 12:18
穂高平避難小屋
新穂高林道入り口
2013年04月10日 13:03撮影 by  COOLPIX S640, NIKON
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4/10 13:03
新穂高林道入り口

感想

数日のビバーク装備を担いでの登り。ここにアルパインクライミングの原点が有るのかも知れない。
より快適さを求めて装備を増やすと、荷物も重くなり行動力は大幅に落ち、疲労の蓄積も激しい。
また、逆に減らし過ぎるとスピードは上がり1日の行動範囲も広がるが、危険な状況に対して過酷に
なり、高い技術力が要求される。
当初の計画によると私としては、かなりの肉体的な負荷が予想されれるものだった。とりあえず担
ぐ物はできるだけ軽くしなければならない。
初日に滝谷出合い小屋へ入り、2日目に第二尾根から北穂高避難小屋へ入る。3日目にクラック尾根
や第一尾根をやり、4日目に稜線を奥穂高の方面へ縦走し、その時の時間により下降路を天狗尾根に
するのか、天狗沢か手前の涸沢岳西尾根を下るというものだった。
出合い小屋から北穂高の稜線までは高度差で1300m以上有り、沢を詰めあがった後に岩稜帯が稜線ま
で続く。難度はそれ程高そうではないが、15キロくらい有る装備をまとってのクライミングとなると
当然そう楽々とは行かない。

初日は新穂高温泉から滝谷出会い小屋までの移動で、4日間の行程の中でも一番楽なものだが、それ
でもラッセル込みで700m以上高度を上げる。翌日からの行程を考えると自分としては出来るだけ早く
小屋へ入り身体を休ませ、体調をベストの状態で翌日に望みたい。2日目が当初の予定の中で最もハ
ードになると予想されたからだ。
しかしながらN氏に用事が有り東京を8時過ぎに出発しなければならず、ここから既に少しづつ歪が
溜まり始めていたのかもしれない。
滝谷の避難小屋にはおおよそ予定通りに着いた。目の前に在る沢には十分な水も流れている。早々に
食事を済ませ休息に入らなければ。
ほんの一週間前にN氏は雲表クラブのM氏と第四尾根を登るのに、深夜2時に小屋を出発し3時間かから
ずに取り付きへと着き、明るくなるまで1時間待ったそうだ。
だが私と一緒だとそうは行かない。確実に遅くなるはずなので、やはり同じ2時過ぎを出発の目安に
してもらった。
出合い小屋では4月の初めとはいえ滝谷の夜は寒い。半身マットを敷き3シーズンシュラフに入り込み、
足をザックの上に乗せる。これが失敗だったようで身体は寒さを感じることは無かったが、足は暫く
すると終始冷え込み、浅い眠りの中起きたり寝たりを繰り返しながら1時を迎えることになった。
身体は思うように動かないがダラダラとお決まりの朝の準備を済ませ、ボチボチと小屋を出発したの
が2時半くらいだ。

空には星が輝いている。4日間の中で本日の天気が一番良く気温も上がる予報だ。ただ、だからこそ
気温が低く雪の締まった明け方までに尾根へと取り付かなければならない。
週末に降った雪は林道を通ってきたおり落ちやすいものは既に落ち、大デブリとなって沢の下のほう
に見られた。
新雪によってトレースは完全に消えている。真っ暗な中ヘッデンを頼りに雪の詰まった渓谷へと入り
込んでいく。N氏は慣れたものでグングンと進み私は後を追っていく。N氏はラッセルで進んでいくが、
それでも追いつくことができない。ワカンは行程を考えて白出しへデポした為、脛から膝くらいの雪
か。
小屋を発つと直ぐに大デブリ帯が現れるが、ヘッデンで照らし出され蒼白く浮き上がる姿で全体を見
渡すことはできないが、恐怖を掻き立てられるには十分だ。うっすらと雪をかぶっているが、いつ頃
降ったものだろう。
大でぶり帯を越えると雪塊がごろごろと転がっている。石のように硬く固まった雪塊に足をとられな
がら上へ上へと詰め上がっていくと、壁のように大きな雪の吹き溜まりらしい場所が現れ、N氏がグ
ズグズに崩れる雪にかなり苦労しながら突破口を捜している。この状態になり私はN氏にやっとのこ
とで追いつくことができた。どうやらここは雄滝らしいが、完全に雪に埋まっているようだ。
セカンドの私ですら踏み後を追っているのだが楽々とは行かない。足で踏み膝で押し込み、尚且つ足
で踏み込んでも崩れる。苦労しながら埋まった滝の上部へと上がりこむと水の流れる音が聞こえる。
2m四方位のシェルンドが口を開け中には轟々と水が流れている。両脇は狭く、踏み後を追うが緊張す
る。もし崩れたら。もし真っ暗な穴の中へ落ち込んだら。まず助かることは無いだろう。一歩一歩確
実に。慎重に。N氏は最初に通ったときに恐怖は感じなかったのだろうか。

滝を越えグイグイと登っていく。静まり返った渓谷にいると、いつの間にか時間の感覚を失ってし
まった。暫くすると深い蒼空がうっすらと白み始めている。
先の方へと目をやるとN氏が尾根の取り付きのようなところでザックを下ろしている。夜が明けると
同時にジャストのタイミングで第2尾根の取り付きへ到着できたようだ。目の前の尾根は傾斜も無く
困難さも感じない。50mのダブルロープを出すと右側に回りこんだ所からN氏リードで始まった。
50m一杯までロープが引かれる。遠くの方で何かが聞こえたがN氏の姿は見えない。ビレイ解除のコー
ルがかかったようだ。ATCを外すとロープが一杯まで引かれる。しかしそれ以降声は聞こえない。
特に難しそうも無いので、そのまま登りはじめるとロープもそのまま引かれ始めた。岩先へ顔を出す
とN氏がビレイ点で何かやっている。私の姿を見ると「まだ何も言って無いですよ」と声を上げる。
「ゴメーン、何も聞こえなかったんだ」と、どうやらビレイ点作製がまだ終わってなかったようだ。
N氏とは数回登っているが、まだ上手く意志の疎通が、これは言葉だけではなく行動も含めてだが、
それほど上手くいってないようだ。ただN氏と私は同レベルという訳ではなく、私が完全に連れて行
ってもらい、多くの技術的な面でも未熟な部分を持っている。
基本的にはつるべでの登りになる。所々やさしい教蕕らいのところはロープを引いて歩くが、今思
い出すと私が前を歩いているとき、私としては途中ランニングはとらないにしても、ロープが一杯に
なったらN氏が付いてくるものと思っていたが、時間を短縮するためかビレイ中に集めたロープをそ
のまま担ぎ後ろを付いてくる。このとき私も有る程度はロープを巻いて肩に掛けるべきだった。ただ
流石にロープが鬱陶しいらしく2〜3回もやると止めたようだ。
しかし登れど登れど岩稜帯は続いていく。5〜6ピッチくらいまでは数えていたが疲労も有り、もう
それ以降は数えることすら止めてしまった。もう覚えるのは無理だ。
何ピッチくらい登っただろう、先の方に明瞭で印象的なピナクルが見えてきた。N氏も、もうそろそ
ろかなと言う。ただトポに有るP1やP2を通過した感じは無く、まだ目にしていないと思われる。
そこから数ピッチ進むと、ついにドーム岩が眼前に現れ、まだ先の方では有るが穂高の一般縦走路の
有る稜線も見えてきた。
おそらくこれが最終ピッチになるのではと思われるラインをリードで進む。30m位ロープを伸ばし一
段上りきったところで上へ顔を出し先を見ると、なんとまだまだ先は続き直ぐ横にはハーケンで2本
打たれたビレイ点が有るではないか。この時点で14:00。ここで終われば何とかまだ余力が残ってい
たのだが。正直これはショックだった。しかしながら進むしか選択肢は無い。ここからまだ4ピッチ
くらい有り核心は最終ピッチとなった。

ここでN氏を引き寄せる。パッと見はこの先も困難そうに見えたが、N氏はビレイ無しでロープを引き
ながらそのまま進んでいく。もう何ピッチかも数えてないが雪稜歩きの後、最終ピッチの岩稜帯が現
れた。
ここまで来ると標高も3000mを越えている。私は高度にもそれ程強くは無いので激しく動くと息が切
れる。筋肉の酸素が薄くなるとてきめん動けなくなり、深い呼吸を止まって繰り返していると、また
身体に酸素とエネルギーがもどってくる。身体も疲れてきているのか寒さを感じるようになってきた。
指先の血流も滞り始めたのか冷たくなり麻痺してきた。下からは雪煙が吹き上げられ顔を打つ。下か
らの吹き上げは顔を背けることができず辛い。
最後の核心部の岩稜は見た目には、それ程立っていることもない。難しそうには見えないがリードで
先行するN氏は以外と苦労し時間をかけている。左に明瞭なクラック。真ん中がフェース。右にチムニ
ーと3本くらいはラインがとれる。
N氏は真ん中のフェースへ取り付いた。アックスで丁寧にフッキングしながらフェースの上を抜け、見
えなくなってもロープは出ていく。ほぼ一杯まで出切ったところで動かなくなった。声をかけても返
事は帰ってこない。私の声も届いてないのだろうか。
このビレイポイントは風の通り道になっているのか、引っ切り無しに風が吹き抜けていく。しかも雪
の斜面を下から駆け上がり、氷の欠片を巻き上げ顔に当たるので辛い。
ほぼ一杯まで伸びているロープも完全に張っているわけではない。時間の感覚はかなり曖昧になって
いるが、この状態がどのくらい続いたのだろう。10分。15分。もっとか。
何かトラブルがN氏に起きたのか。朝の件も有るし、もうしばらく待とう。もし今から30分何も動きが
無いようなら登ろう、と決め寒さで凍えた身体を足踏みしたり肩を回したりと血流を促しながら待っ
ていると、程なくしてロープが動き始めた。
声は聞こえないがロープは引っ張られ完全に張っている。取り付きへと近づくとロープは引かれる。
よし私の番だ。

おおよそ3つ取れるラインの内面白そうに見えるのは一番左のクラックで、ネットで易々とはいかなか
ったなどと散見できた。ただクラックはハンドサイズの広めで、そのサイズのカムも無いのでN氏は真
ん中のフェイスを登っていった。
実際に取り付いてみると、苦労していた箇所は確かに見た目よりは遥かに難しい。N氏がアックスを2
本使いフッキングしていた辺りに、私は1本しか出していなかったので、とりあえずフッキングしてみ
るがフィンガーの狭めのクラックなので、少しずれるとすべって外れてしまう。
ただ自分はもう既に疲労のピークでノーテンションとかのこだわりは全く無い。とにかく早く終わら
せたい。抜けたら抜けたでいいや。と体重をかけると抜けた。。別なところへフッキングし直しても
抜ける。。
とりあえずランニングは外したので一番上り易そうな一番右のラインに変え、チムニー状になったと
ころをステミングで抜けた。それでも疲労のせいか楽々とはいかなかった。
上のピナクル状のフェイスを越えるとN氏が見えてきた。どうやらビレイ点を作るのに時間がかかった
らしく、カムとハーケンを1本使い支点にしていた。

もう目の前には稜線が見え、左には北穂高避難小屋が見える。雪のナイフリッジをロープを引きずり
ながら進む。足はふらつき、どんどんと進むN氏にロープを引かれるとこけそうになる。
この辺りからガスも濃くなり始め周りの視界が狭められていく。
ここが北穂高の頂上だと教えられても視界は20m有るか無いかで十畳くらいの小さな雪の山の上に立っ
ているだけで何の感情も沸いてこない。
そそくさと避難小屋へ向かう。避難小屋は大半が雪に埋まっている。とりあえず入り口を捜さなければ
ならない。N氏は北穂高避難小屋の社長と前日に電話で話したそうで、有る程度の情報は仕入れている。
小屋にはガスも有り自由に使って良いとの御達しももらっている。入り口は直ぐに見つかり入ることが
できた。焜炉と大鍋が置いてあり、早速ありがたく使わせていただき雪を溶かしお湯を沸かす。
床の板張りにロープを敷いていく。実はアンダーマットを風で飛ばしてしまい、今夜はロープやザック
を敷いた上にシュラフを敷いて寝なければならない。
食事の準備をしながらN氏に話すタイミングを見計らっている。実は自分はもう最後の3ピッチくらいで
使い切ってしまった。明日クラック尾根を登る力は残っていない。
一日沈滞させてもらったら最終日に予定していた奥穂高方面への縦走は可能かもしれない。N氏に切り
出すと彼もショックだったようだ。今月からまた山小屋勤務が始まり、これが今期最後の冬山になるか
らだ。「それなら計画の段階で言ってくれれば、もっと面白いところへ行く行程を考えたのに 」と残
念そうだ。私も滝谷は初めてで事前情報だと第二尾根はやさしいであり、まさかこれほど長いとは思い
も寄らなかった。ただ何度か一緒に登り単純にクライミング力だけで言えば、そんなに引けをとること
は無いとも思ってくれているのだろう。
朝起きて私の調子が戻っていればクラック尾根へ向かい、調子が悪ければ最短のB沢の下降で下山と決め、
起床は5時。もう9時間くらいしかない。凍えながらの9時間の浅い眠りで体力がもどるわけが無い。ほん
の僅かだが奇跡の回復を期待してシュラフの中にもぐり込んだ。
今度は抜かりなくザックへ足を入れたので、寝初めの足の冷え込みはまだましだ。ただ背中はロープの
上なのでやはり専用マットのようにはいかない。しかし予想していたよりは背中からの冷え込みは押さ
えられていた。夜も深くなると足先も冷え込み、体温を上げるために寝返りをうったり、マッサージを
したり、震えたりと繰り返しているうちに5時を迎えることになった。
身体を起こしストーブを付けお湯を沸かす。コーヒーを飲みながら頭を覚醒させ体を動かし調子をみる。
節々は痛みが残り力が入らない。やはり無理だ。クラック尾根だけ向かうとするとザックは空のような
ものだし、実際に登ってみるとひょっとして何とかなるのかも知れないが、事故を起こす可能性も否め
ない。やはりこれまでにしよう。N氏に下山の望を告げる。かなり残念そうだが仕方なしと諦めたようだ。

小屋の外へと出てみると小雪が吹雪、小さな吹き溜まりもできている。一晩中吹雪いていたようだ。
視界は相変わらず悪く20m〜50mくらいか。小屋へもどり下山の準備を始める。N氏はすっかりモチベーシ
ョンが下がったのか中々動こうとしない。これからB沢を下ることになる。小さな雪の吹き溜まりもでき
ているし、雪崩を考えるとできるだけ早くここを発ちたい。N氏は滝谷は北面に面しているし絶対という
ことはないが特に午前中は日も当たらない。この時期、雪崩の可能性はかなり低いと考えられるという。
準備を整え小屋を出る。時刻は8時。相変わらず小雪が吹雪いている。もし私の体調が良いとしても、こ
の状態でクラック尾根に向かったのかと聞くと、一瞬の間を置くが向かったと言う。
これから沢の下降だがどういう状態になるかわからないので、一応ハーネスを着け最低限のギヤは出し
ておく。
どんよりと先の見えない灰色の谷底へと向かい下降を開始する。下り始めはギリギリ前向きで下りれそ
うにも見えたが、先行するN氏は直ぐに雪面へと向かいダガーポジションで下降を始めた。10m位の距離
を置いて続いて下降を開始する。N氏の下降速度は速い。暫くすると直ぐに視界から消えた。雪の吹き溜
まりを膝近くまで崩しながらの下降は雪崩を引き起こしそうで怖い。極力N氏のトレースを追っていくが
雪面は足元の雪が崩れながら下りていくところも有れば、クラスとしてアイゼンの跡すら見分けられない
ところも有る。
N氏のトレースを見失いながらも下降を続けていると私を呼ぶ声が聞こえた。稜線の縁に寄ったところで
待っている。左側に切れ落ちた、ここからがB沢の下降点になる。N氏はここから出合小屋までが雪崩の確
率が高いからできるだけ急いでと告げる。私はここまでも弛めることは無く目一杯だ。解りましたと応え
下降を始める。
急な雪面をダガーポジションでひたすらと下り続ける。相変わらず視界は悪く周りは白とも灰色とも言え
そうな薄暗い渓谷にポツンと取り残されている感じだ。どれくらいの時間が経ったのだろう。薄暗い渓谷
をひたすら下り続ける。もし今雪崩が起きれば9部9厘助からないだろう。もう天命に任せるしかない。
時間の感覚も無くなり始めている。1時間以上は過ぎているだろうか。ひょっとして2時間。先の方にN氏
が待っているのが見えてきた。しきりに左岸の方へ目をやっている。ひょっとして雪の状態が悪いので稜
線に上がろうとしているのだろうか。もし今下りてきた谷を登り返すことになっても上がっていこう。
身体は疲れ切っているが雪崩に流されるよりはましだ。N氏に追いつくと、どうやらこの辺りがクラック
尾根への取り付きだそうで、私が追いつくとまた直ぐに下りだした。既に前向きに歩いて下りることがで
きる状態になっていたので尻で滑ったり歩いたりを繰り返し下っている。
雪崩による雪塊に新雪がかぶり、足が潜ったところで何度も変な向きに足をとられ強く挫いてしまった。
それでも容赦なく雪塊に足をとられ続け激痛が走る。苦痛に思わず怒りがこみ上げるが、当然その矛先は
無い。有るのはここまで無事に下ろしてもらい、これ程までにすばらしい北アルプスの自然美とそこへ対
峙することを与えてもらえた事への感謝だけだ。そして、その舞台で肉体も精神も搾り出すことができた。
デブリ帯を越えもう小屋は目の前のはずだ。平らになった雪面をトレースを追いながら沢の出合まで来る
とN氏が一休みしながら待っていた。やっとこれで完全な安堵の気持ちが沸いてくる。緊張が解けるとま
た周りの景色も違って見えてくる。帰りは沢沿いを雪を踏みながら淡々と歩いていく。白出しにデポした
ワカンを着けると、林道のうっすらと雪のかぶったトレースの上を歩きながら新穂高温泉へと歩みを進め
る。もう下のほうでは春が始まり、ふきのとうが林道の脇に一斉に顔を出している。少しだけ極上のお土
産をいただき帰路へと着いた。

後日、日登の諸先輩方と話すと皆結構苦労しながら滝谷を登っている。表層雪崩に400m位流されたという
者もいるし、ラインが解らず途中に厳冬期の北風を浴びながらツェルトでのビバークや時間切れでビバーク
など、Yの兄貴も雪崩を食らいその時は雪壁から剥がされはしなかったが、アウターにはあっという間に雪が
入り込みパンパンになり、流石にもうだめだと思ったそうだ。



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コメント

シビレました!
Jazzy さん

こんばんは
風呂上がりに拝見してシビレましたよ
今夜はうなされそうです

追加レポ楽しみにしてますが
先ずは疲れを癒してください

お疲れ様でした。
2013/4/12 22:36
re:シビレました!
daidabooさん、こんばんは。

わたしもシビレル場面がいくつか有りました

下山中は疲労感の中、自分の体力の無さや、不甲斐無さ、そして年齢的にも冬の滝谷にはもうこないかもしれないと落ち込んでいましたが、何故か元気になるとリベンジしたいと思ってしまいます。
変態ですね
2013/4/13 0:15
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積雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [2日]
槍ヶ岳/飛騨沢ルート/新穂高温泉起点槍平経由
利用交通機関: 車・バイク、 電車・バス
技術レベル
3/5
体力レベル
4/5
無雪期ピークハント/縦走 槍・穂高・乗鞍 [2日]
奥穂高岳/白出沢ルート/新穂高温泉起点白出沢穂高岳山荘経由
利用交通機関: 車・バイク、 電車・バス、 タクシー
技術レベル
3/5
体力レベル
4/5

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