三界山 焼石岳周辺残雪期登山
- GPS
- 06:46
- 距離
- 15.2km
- 登り
- 936m
- 下り
- 932m
コースタイム
07:04 大森山頂上
07:15 釈迦ざんげ通過
07:48 与治兵衛通過
08:28 三界山直下到達〜休憩
08:44 三界山へ向けて登攀開始
09:21 山頂・三角点到達〜休憩
10:10 下山開始から大森山南斜面トラバース〜県境尾根
12:27 駐車地到着
全行程:401分
天候 | 快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2013年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
大森山トンネルからの夏道は廃道状態。残雪期までがベストか。 荒天時、ガスがある時はルート見失う可能性あり。 大森山の南斜面のトラバースは雪が堅い時はアイゼンがれば安心。 三界山直下から山頂までの残雪の登攀はアイゼンとピッケルがあれば安心。 |
写真
感想
この「三界山」の頂に立つにあたって5年の月日を費やした。この準備期間が長かった理由は1.技術不足 2.体力不足 3.気力不足と基本的な要素がなかったためだった。三界山は夏道がなく地形的にも焼石岳登山道から胆沢川を挟み猛烈な藪漕ぎを強いられるうえに嶮しくそそり立つ岩肌を登る必要があったからだ。
最初は夏季の藪漕ぎ登頂を考えていたが、胆沢川から三界山の直下までの実際の地形が把握できなかった。ただ、笹と密度の高い灌木が進路を容易に進めてくれそうにないのは明白だったので、やはり残雪期に登るのが適当かと考え始めた。
ネット上には残雪期のレポートが何点か見られ参考にさせてもらったが複数人による登頂が殆どだった。もちろん私は今回も単独行の予定であったので、ガスのかかった悪天候でのレポートはとても参考になった。
そこで私が単独で三界山を登るにあたって導いた条件は・・・
1.天気は快晴・晴れ・曇り(無ガス状態)のいずれか。
2.国道397号線開通後、大森トンネル登山口から(H25年は05月10日)
3.アプローチを迅速にするため堅雪のうちの早朝に出発。
4.胆沢川に降りる夏道は使用せず県境尾根を山頂直下まで歩く。
5.登頂は本山の東稜、残雪を利用して(アイゼン・ピッケル使用)
6.周辺地形図の暗記
とにかく無理をせず天候が悪化すればすぐに下山するということを自分に言い聞かせた。
また、準備として県境尾根沿いのアップダウンに対応できるような体力づくりを行った。往復で30分程で登れる山(三角点峰)を一日通して登り続けること、水分と食料を摂取するタイミングの調整、体調管理などを行った。あとは天気が見方してくれるだけを祈った。
5月18日はAM04:00に目覚めた。少し早かったが天気は良いようだった。昼食を作ったりと支度をしているうちに5時くらいになってしまった。急いで家を後にしたが、スパッツを忘れたことに気が付き、急いで家に戻った。途中でコンビニへ寄り朝食を買った。平鹿・増田付近ではアップルロード沿いにりんごや梨、桃の花が満開を迎え、快晴の天気の中とても鮮明に目に飛び込んできた。これで今回の登山条件の天気はクリアーしたことになった。
本当に久しぶりに清々しい春の快晴であった。
東成瀬村に入り国道397号線に進路を向けた。九十九折りの広い道路は峠攻めのバイカーやドリフト族には格好の区間で、所々にタイヤの擦れた跡が残っていた。ぐんぐん高度が上がり眼下に雄大な景色が遠くまで見え始め、今日一日がどんな登山になるのか期待と不安で気分が少し高揚しはじめてきた。
非力な愛車エブリィには辛い峠道で鞭打ちながらやっと県境の大森山トンネルに着いた。私は登山口を確認して車を東成瀬村側にある「すずこやの森」の看板がある駐車場に止めた。駐車場には一台、県外ナンバーのバイクが止まっていた。
私はさっそく身支度を整えて歩き出した。トンネルの手前、林班の標柱がある場所から登り始めた。まだ残雪がたくさんあり夏道をトレースなどはできなかったが、誰かが置いたピンク色のテープを頼りに登ることができた。
県境尾根に到着してP891付近から進路を北に変えた。眼前に焼石山塊が飛び込んできた。目指す三界山の頂上が少しだけ見えていた。正直「遠いなぁ」というのが感想。焼石岳登山道との出合いまでは迷路のような灌木帯の通過に気が紛れた。
この日、大森山トンネルからの夏道はP891直下から少しの区間だけで、殆どが残雪上を歩くものだった。夏道も雪で倒れた灌木が立ちはだかり歩きづらかった。幸い目印のピンクテープがあったが、まだ積雪期に付けられたもので、目印の参考にはなってもとても辿れるものではなかった。残雪が途切れないように灌木の隙間を縫う様に県境沿いを大森山を目指して歩き続けた。
焼石岳登山道の出合付近まで辿り着いたが、大森山の南側の急斜面(大森沢)は、まだたっぷりの雪があり、早朝の堅雪の中をトラバースして歩くことは危険と判断せざるをえなかった。ここは誤算だった。ちょうど大森山を見上げると登りやすそうに見えたが、遠回りとなることは明白だった。良く見ると誰かが登った形跡がありトレースしながら登ることにした。かなりの急坂だったがアイゼンを装着するほどでもなく無事に山頂の肩まで登ることができた。もちろん、景色は圧巻の360度のパノラマ。素晴らしいの一言だった。
二年前は藪を漕いで苦労して山頂の三角点まで登ったものだった。この日は山頂の部分だけ雪がなく笹藪になっていた。せっかくだから三角点に立ち寄ってみようかと思ったが、無用な体力の消耗は避けようと思いやめた。ところが、山頂の北側に回り込むと三角点の手前まで残雪があり、容易に三角点に辿りつくことができた。
ここから望む三界山はまだ距離があるように感じられた。直線距離で約2.7km。ようやく行程の半分近くといったところだった。大森山の広い山頂部から三界山方面(東側)に向うとキレットになっていたので迂闊に入ると大変危険だった。ここは釈迦ざんげの峰に向けて南東の尾根を狙うのがベストかと考えた。かなりの急坂だったが、脚をボーゲン状にしながら滑り下りた。途中でカモシカの足跡があり、これを辿り鞍部まで降りた。
鞍部から釈迦ざんげまでのブナ林の緩い坂を登り辿りついた。釈迦ざんげの標柱のある場所は雪が解けて地肌が露出していたが藪が少し高くて景色は良くなかった。
釈迦ざんげから夏道があると思われる南東側の急坂を下り、尾根の切り替えをしなければいけなかったが、どちらに向かえばいいのか少し迷ってしまった。ここでは地形図を確認して夏道のある北東尾根を進んだ。素晴らしい景色の中の尾根歩きで終始、カメラのシャッターを押しながら進んだ。とくに北側の蟻巣山・三森山方面の荒々しい山塊や三界山西隣りのP1267直下の崩壊地などの景色は圧巻だった。
また三界山方面を見ると残雪が途切れずにある様子だったので、好条件が意外にも揃った。P1054の手前から夏道は胆沢川に下っていくが、迷わず尾根側を選択した。東成瀬側、合居大谷の支流、穴ノ沢の源頭部(与治兵衛)では尾根が狭まり細くなっていた。今までは秋田・岩手の境を行ったり来たりしていたが、ここからは岩手県内側を登っていくことになった。
この源頭部から急坂を登りP1117に続く尾根を目指した。ここまでくると眼前というよりは頭上の三界山の迫力に圧倒された。帰路、無用なルートファインディングを避けるために2〜3ほど目印を置きながら進んだ。残雪もしっかりあり東側の尾根直下までは容易に辿りつくことができた。
ここで適当な場所を選び少し早い昼食にすることにした。急激な気温上昇で表面の雪解けが早く、私は珍しく敷物を敷いて食べた。糀たっぷりの甘味噌おにぎりは体力回復に即効性があった。聞こえるのは沢音と鳥の声のみであり、大いにリフレッシュすることができた。
昼食を早々に済ませ靴にアイゼンを装着、ピッケルを片手に三界山の絶頂を目指して登りを開始した。最初は気持ちに余裕があり景色を楽しみながら登り続けた。しかし、途中から雪だけの斜面になると傾斜も増して真剣に登らなければいけない状況になっていた。少し柔らかくなった雪質にステップは取りやすかったが、キックする時点で崩れて滑りやすくなっていた。また、ピッケルも柔雪に良く咬まず、体重を掛けるにはとても不安があった。とりあえず斜面は危険と判断して尾根に向けて登ったが、こちらはナイフリッジとなっていて高度感と恐怖感たっぷりになっていた。仕方がないので一歩一歩確実に歩みを進め、とりあえず地肌が見えている場所を目指した。ここでは雪と地肌沿いを登り、束の間の安心感を得ることができた。
もう山頂は間近だったが残雪のある尾根はリッジ状で危険だった。私は少しの間、ルートを模索したが、危険を承知で雪尻が落ち割れた部分を登ることにした。ここは足場はあれど、最後は垂直に近い雪壁を最後に登らなければいけないことは明白になっていた。ここでは首からかけた一眼カメラが邪魔で仕方がなかった。雪壁にめり込むカメラ、防塵・防滴で本当に良かった。またアイゼンとピッケルを持参してきて本当に良かったと思える瞬間だった。垂直の雪壁を過ぎると少し緩やかな斜面になったが、後ろは振り返らずに四つん這いになりながら通過した。この姿は人様には見せられるものではなかったのかなと思った。
最後は露出した膝程度の灌木の藪を登り山頂にようやく到達した。第一声は「すばらしい」で狭い山頂からは360度の大パノラマだった。心を奪われるほど素晴らしい眺望だった。肝心の三角点は最高地点から1.5mほど離れた一段低い場所にあり、三等三角点の文字は東側にあった。保護石はかつて推測だが4個あった可能性があると思われるが、微妙なので確実なところで0個、私的には2個と判断したい。
三角点の写真を撮りここで大休止とした。しばらく写真を撮ったり考え事をしたりとゆっくりして過ごした。ふと東側P1317直下に熊のものと見られる足跡を確認できた。昼寝もしていきたい感じがしたが、少し雲が出てきたようだった。雨が降る心配はなかったが、万全の登山を心がけていたので名残惜しくも下山することにした。
しかし、先ほどのナイフリッジを下りるか(下りれるか?)が自信がなかった。西側の尾根は藪が出ていたが、灌木の密度が高いと進めなくなるのは必然的だった。しかし、良く見ると途中から裸地の斜面があり少し藪を漕げばルート的には危険度が少なく容易に降りることができそうだった。雪山に自信はなかったが藪漕ぎには自信があったので西尾根を下ることにした。
尾根は灌木と笹だったが、笹の部分がとても歩きやすかった。これは意外だった。高度を下げると灌木がうるさくなってきたが、目指す裸地まではスムーズだった。裸地へは急斜面だったが掴まる草木があり、私には楽に感じられた。
ここではカタクリの花の群生が素晴らしかった。続く露岩帯は階段状の石が点在していて歩きやすかった。そして、再び残雪を滑り降り往路に復帰することができた。
どこまでか歩いていた時点で大森山に人が二人いることが確認できた。私は休憩なく歩き続けて釈迦ざんげまで歩き続けた。どうやら大森山まで登ったが、その後のルートに迷っているらしい。私が釈迦ざんげを下りはじめると彼らも下りはじめた。どちらにしてもこの時間では日帰りで焼石岳には登れないだろうと思った。
私は日差したっぷりの残雪の中でサングラスもしないで歩き続けていたので眼が痛くなってきていたが、大森山と釈迦ざんげとの鞍部を大森山の南斜面をトラバースするために夏道がある場所(推測で)を進んだ。流れる汗が眼に入ると眼が痛かった。思いのほか急斜面の中をトラバースし続けたが、朝の堅雪の中でこのルートを選択しなくて本当に良かったと思った。
頭上(大森山)にいる二人は外国人のようで英語での会話が聞こえてきた。私が登山道に復帰した時にはいなくなっていたが、焼石林道方面に下ったものと思われた。
すでに尾根上の残雪は柔らかくなり歩きにくくなっていた。また灌木帯では踏み間違えると木が急に跳ね上がって顔に当たる危険も含んでいた。適度に気を使いながら大森トンネル上まで戻ると、今日一日素晴らしい山行をさせてもらった三界山および焼石岳周辺山塊に一礼して下山した。
今回登頂した三界山および焼石岳周辺は好天に恵まれ、また諸条件が揃った形で成功することができた。景色が良いということは荒天時には危険であるという意味でもある。2012年8月の鳥海山登山の事例もある。今回、その一瞬の幸運を山の神さまが私に与えてくれたことに感謝したい。
コメント
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mountrexさん お久し振りです!
満を持してのレコ、感動の長編ですね!5年の歳月をとのことですが なるほどヤマレコでも登頂を断念の文字が目立ちますし拝見しても山姿を見るだけでもいくつもの関門を迅速、確実に突破しなければならず、入念な準備と気象をはじめ残雪やルートのコンディション等、登頂して無事に下山完了するために必要な条件をクリアしようとすると相当な狭き門であることが伝わって来て鈴鹿程度の山でぴぃぴぃ言ってる自分が少し恥ずかしくなりました。
長い時間をかけて準備をした山行が御自身満足のいく結果を得られて本当に良かったと思います。遠い滋賀県からですが謹んで賛辞をお送りしたいと思います。
久し振りなので近況報告を・・・・・。
私は今年の上半期の殆んどを昨年事故を経験した鈴鹿の「御池岳」で過ごしました。今年は既に8回足を運び積雪期、花の時期、正規ルート、バリエーションルート、多くのルートを歩きましたがまだまだ満足できませんし実際知らないところがまだまだあるので どうやら詰めて通わずに自分のライフワークとして長い時間をかけてじっくりと隅々まで歩き「御池岳」を知り尽くそう「自分が死にかけた山へ死ぬまで登ろう」と考えを改めました。幸か不幸かそれほどまでに惚れ込む「山」と巡り会ってしまいました。と言いつつも他の山々への憧れや興味も尽きません、いつの日か東北の山々へも遠征に訪れる日を夢見ています。
追伸 月刊誌の「山と渓谷」(7/15発売の8月号)に昨年の私の事故の件が記事として掲載される予定です。もしよかったら御一読ください 。
コメントありがとうございます。
三界山は登山を始めた頃に登りたかった山でした。この山塊の主峰は「焼石岳」ですが、私はこの周辺の低山に興味があって、この山はその中の一つでした。焼石岳には登山道があり誰でも登れますが、その周辺の山々も魅力的なのに登山道があまりありません。
今回、登ったルートですが、荒天時、ホワイトアウト時に単独での登頂は無理ではありませんが、危険度が増す山です。特に要所、尾根の切り替え、特に強風時の東側リッジ通過などは初心者には少し堪えるかもしれません。
計画、気力、体力を極力整えて挑みましたが、現地に実際行ってみると必ず予想外の事に遭遇します。だから、基本、基礎がしっかりしていれば多少の変更があっても気持ちに余裕が生まれることを学びました。
yuconさんも目的、ライフワークを持たれたようですね。「御池岳の主」といったところでしょうか。一つの山を知り尽くすことはたいへんですが素晴らしいことです。滋賀県も魅力的な山々がたくさんあるようですし、私もいつかyuconさんのガイドで御池岳登山してみたいです。
ヤマケイ、発売されたら拝読させていただきますね。yuconさんも今回の事件で考えさせられた事や学んだ事がたくさんあるかと思います。その経験を生かして今後の山行、ヤマレコを充実させ、より良い御池岳の道しるべとして情報発信をしていただけたらと思います
はじめまして、ヤマレコの通行人です。
詳細な解説と写真のレポを拝見し感激いたしました。
三界山は小生も久恋の山です。焼石3回、南本内1回の登頂の度に憧れています。ただ、挑戦には御説の通り万全な準備(含むルート計画)と気象条件(含む残雪状況と徒渉可否)、体力、気力等が揃わなければならず、加えて関東からのアプローチの長さもあり、これまで中々決行出来ずにおります。
今回ルートには可成りの急斜面があるようですね。小生は地形図を眺めるだけですが、山頂北方の長尾根も面白そう(南本内林道から)な気がしています。(実際はどうか解りません)
何時かはと諦めてはおりませんので、今回レポを参考にさせて頂くつもりです。長編レポありがとうございました。
コメントありがとうございます。
三界山は何故か魅力的に思える山です。
私もずっと登頂することを目標としていました。
単独行であれば私が訪れた時のような天気をお勧めします。
ホワイトアウト時は尾根の切り替え、登攀ルートの見当が難しいかと思います。
ナイフリッジ通過が苦でなければ両手にピッケルではなくストックでも登れるかもしれません。
私は怖くてトラバース気味に登りましたが…(苦笑)
南本内林道は東成瀬から蟻巣山を経由して県境沿いに北側からの登頂であれば容易かもしれませんね。
この辺は地形図では容易く見えても残雪期でなければ激藪を漕ぐことになります。
私は三角点探訪がメインでしたので、山頂部の雪だけが融けるこの一瞬の時期を狙いました。
夏道を頼って胆沢川に下りるより県境尾根を登り山頂直下に出ることをお勧めします。
山頂では天気が良ければ本当に素晴らしい眺望が期待できます。
東北の一低山ではありますが、なかなか充実した山行ができるはずですので、機会があればぜひ登ってみてくださいね
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