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記録ID: 35957
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トホレコ(日本縦断徒歩旅行の記録)24・安達太良山へ(乗っ越し編)

2006年08月30日(水) ~ 2006年08月31日(木)
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GPS
32:00
距離
27.9km
登り
1,662m
下り
1,169m

コースタイム

8/30 二本松〜湯川温泉〜スキー場
8/31 スキー場〜くろがね荘〜船明神山〜沼尻温泉〜中ノ沢温泉
過去天気図(気象庁) 2006年08月の天気図
アクセス
コース状況/
危険箇所等
8/30
 人の声で目が覚めた。外を見ると、グランドでは既にパークゴルフが始まっている。僕の子供の頃には、じじいの玉遊びといえばゲートボールだったものだが、最近の年寄りはああいういぢましい遊びはしないようだ。ゲートボールってルールをよく知らないけど、なんか見た感じドロドロとした人間関係が露呈しさうな遊びだ。
「松本さんは、あたしのボールを弾くときだけ目つきが違う。」
とかって。子供心になんか面白そうと思ったものである。そこへいくと、パークゴルフなんてものは、健全な遊びなんじゃないだらうか。あくまで自分のスコアとの闘いだからね。相手のファインプレーには拍手を送る余裕だってありそうなもの。時代にマッチした現代の老人の遊びって感じ。
 そんなことを思いつつぼんやりしていると、空は一雨来そうな気配。タバコをもみ消し、荷をまとめていると、果してサラサラ来やがった。どうやら本降りになりさうな気配である。雨具にザックカバーで決め込むと、やがて雨足も強くなる。
 今日は塩沢スキー場まで行って、明日の安達太良山越えに備えるつもりである。しかし、地図を見てもどの道を行けばいいのか、今一つ判然としない。右か?いや、左かも・・・。なんとなく右往左往しているうちに、いつしか高速道路の下の道に出る。殺伐とした道をしばらく行くと塩沢スキー場に向かう354号線に出る。バス停の待ち合い室で一服。こう雨足が強いと休むのも大変だ。しかし、商店など何もないところだな。道々食糧など買い出そうと思っていたのだが、困ったな。明日の山越えのための行動食だってない。
 緩やかな登り坂を辿っていくうちに、雨はいつしか小降りになる。やがて東北サファリパーク前に到着。このサファリパークの看板は青森あたりから、時々目にしていた。ずいぶん広範囲に広告をぶっているのだ。そのサファリパークが今、目の前にある。なんだかちょっとサウダージ。だからと言って入ってみやうというガッツまでは湧いてこない。
 サファリパークの向かいに、無料休憩所があったので覗いてみる。結構広くて2〜30人は裕に泊まれるんじゃないだらうか。決してキレイとは言いがたいが、毛布もちゃんとあるし、上等なんじゃないだろうか。ここは一体誰に向けた施設なんだろう。ライダーハウスってやつか?ここで寝ても快適そうであったが、明日の乗っ越しを考えると流石にそんな訳にもいくまい。しばらく休んで、外の様子を伺っていると、雨も殆ど止んだやうなので、出発。ここから塩沢温泉まではもうあと小一時間である。
 湯川荘という温泉宿で湯を借りる。今日はここまで雨の中、切ない思いをしてきたので、湯の温かさが染みるやうだ。しかし、難を言えば、ここの湯、循環沸かし直しだってこと。差し水もしているようで、ちょっとガッカリ。山の麓ってことで過度に期待していたって所為もあるけど。売店でカレーヌードルを買ってみる。例のごとく、親の仇のやうにノビノビにして食す。あまり書く必要もなさそうなことだが、僕はカレーヌードルを食べる度に、「ノビノビにして食べる」ということを強調して書いてきた。ノビノビになって殆ど汁気のないカレーヌードルをあまりかき混ぜないで食べる。やはりこれがカレーヌードルのただすい流儀のやうな気がするからだ。この食べ方を流行らせようとしているのだ。流行んねえか。
 塩沢スキー場で野営。当然だが、この時期のスキー場には人影とてない。売店だか休憩所だかの建物の狭い軒先に無理矢理テントを設営。雨は取り敢えず上がってはいるが、また降られても嫌なので。海抜0メートルからの登山。これで漸くアプローチが終了というところか。夕方、案の定パラパラ来た。
 
8/31
 昨夜は寒くて眠れなかった。なんということだ。秋はどんどん深まっていく。その、夏の名残の8月も、今日が最後となりにけり。実に見事な快晴の青空なり。悲しからずや。貧相な食事を済ませて、6時半頃出発。いと寒し。さっさと出発せむとす。
 沢沿いに続く夏道を辿っていく。沢沿いとはいっても結構高い所についていて沢の様子は分からない。歩きやすい、きれいな道だ。屏風岩付近で渡渉が2〜3度あるが、いずれも丸太橋が架かっている。小さいながらも渓相は仲々悪くない。下部の方には「三階滝」という滝もあるようだ。ちゃんと見学用に踏み跡も付いている。今回は行かなかったが、きっと良い滝なんだらうという気がした。この道はかつての修験道のものだと看たね。根拠はないがな。くさり場など数ヶ所あって、2時間程で小屋まで。沢が小さくなったなと思っていると、急に視界が開けて、山小屋とその背後の稜線が目に飛び込んでくる。心憎い、ドラマチックな演出は空沼小屋を彷彿とさせる。(空沼小屋は北大山岳部が管理している山小屋。札幌近郊は空沼岳の懐、万計沼のほとりに建っている。北大山岳部ではこの空沼小屋の他に、ヘルベチア・ヒュッテという山小屋を管理している。ヘルベチア・ヒュッテは赤と白とに塗わけられた扉もお洒落なシュッとした山小屋である。一方の空沼小屋はゴツゴツして朴訥な造りの山小屋。これらの山小屋では春の山開き“空沼祭”と秋の“ヘルベチア祭”という二大奇祭が毎年執り行われる慣わしになっている。これらの祭にも各々の小屋の特徴が表れていて、ヘルベチア祭は女の子を相手に遠い目をしてロマンを語ってしまったとしても許される雰囲気を持った浪漫的な集いである。一方の空沼祭は日頃の鬱憤を晴らすべく、安手の焼酎を煽った部員たちが暴徒と化して暴れ騒ぐ、大変危険な男祭である。これら二つの山小屋、空沼小屋を選ぶか、ヘルベチアを選ぶかで、人は大きく二種類に大別されるやうに思う。ちなみに僕は空沼小屋を溺愛する一人である。沢沿いの道を登って、万計沼のほとりに空沼小屋の姿を見出す時、何度行っても新鮮な感銘を禁じ得ない。)
 さて、この登山道沿いの小屋は“くろがね小屋”という大変風流な名前を持っている。さらに温泉にも入れる。源泉が近くにあって、辺りは硫黄の臭いが立ちこめている。頭がくらくらして来そうだ。温泉を試してから乗っ越そうと思い、小屋の中に入っていく。人気もなく静まり返っている。親父さんに聞いたところ、営業は10時からだという。まだ一時間以上あるが、折角だから待つことにする。僕は温泉に対しては卑しい所があるのだ。写真など撮りながら辺りをうろついていると、中高年登山者の方々などぼちぼちやって来る。みんなさっさと稜線に向かっていく。普通そうだよな。9時半頃になってもまだ僕がうろうろしてるのに気づいて、小屋の親父さんが声を掛けてくれる。
「まだいたの?お風呂なら帰りに入ればいいのに。」
「いや、今日は乗っ越すつもりなんで・・・」
「なんだ、そういうことなら言ってくれれば」
というんで、ちょっと早いが開けてくれた。一番風呂ってやつだ。正真正銘の源泉掛け流し。何しろ源泉はすぐそこで、もうもうと煙を上げているのだ。ちょっと湯温は低めだが、真っ白で情緒的な湯である。飲むとスッパイ。なんの味なんだらう。
 ひとしきり満足して出発。くろがね小屋は宿泊も出来るやうだ。僕も中高年登山者になったらこんなところをベースに、登山活動を展開してみたいものだ。ニッカボッカにカッターシャツというトラッドなスタイルで決めて、背中のキスリングにはトリスのポケット瓶など忍ばせておくのだ。
「ほほう、百名山も残すところあと11座ですか。」 
「いやなに、まだ難関の幌尻岳を残してますから・・・。」
などと山小屋の夜は会話など弾むわけだ。そんな豊かな老後が僕に訪れるかどうかは不明。
 ここから稜線まで1時間程度。変な時間に温泉なんて入ったせいか、ヘロヘロだ。稜線に出ると西から吹き上げる風が強い。だいぶ雲も出て来たやうだ。向こうの尾根がやけに騒がしいと思ったら団体さんだ。2〜30人いるだらうか。学生さんのやうで、みんな浮かれ騒いで口々にらぁらぁ歌う声などが風のまにまに聞こえて来る。大学生にしちゃ、やってることが幼いな。中学生か高校生だらうか。夏休み最後の一日を有意義に使おうという趣旨なのかもしれない。見る間に山頂を征服して大騒ぎである。しまったな、先を越された。ああなるともう行く気がしない。安達太良山の山頂はあっさり諦めて船明神山への稜線へ向かう。今回の目的は登山ではなく、あくまで峠越えなんだよぉ、などとのたまってみるも、やや残念。温泉なんて入ってるから悪いんだ。
 安達太良山の西面は仲々嶮しい地形になっている。ざっくりえぐれた山肌は噴火の痕であらうか。船明神山からの下りにちょっと降り口がわかり難い所があった。尾根筋を何も考えずに辿っていると行き止まってしまう。道はわりとはっきりしているが、結構急なところも多い。右手の斜面はすっぱり切れているので、ぼんやりしてると危険だ。あまり使われる機会の多い道とは思えないが、そのわりにはしっかりしている。
 尾根がなだらかになるあたりまで下って行くと、右手の眼下に真っ白な谷が見える。掘っ建て小屋のやうなものの姿も確認出来る。なんだ?あれは・・・。そちらに向かう分岐があったので、タバコなど吹かしつつ、どうしようか迷っていると、尾根筋の道を下から登ってくるハイカーが一人。
「この道、下ってもだいぜうぶなんでせうか。」
「さあ、どうなんでせう・・・。」
そんなことは僕に訊かないで欲しい。自分で考えたらいいだろう。まあ、平気なんじゃない?と僕は思ったので下ってみる。件のハイカーも後から降りてきたみたいだ。
 谷底に降りてみると果してそこは温泉のボコボコと湧き出す地獄のやうな場所であった。かつては稜線からここまでダイレクトに下る道などあったやうだが、登山者が有毒ガスに飲まれるといった事故が発生したらしく、いまではここから上は立入禁止になっている。このあたりは沼尻温泉の源泉になっているということで、今日も作業の人が何人か来ている。至るところから蒸気が上がっており、何処を掘っても温泉が出そう。実際、河原を堰き止めた自家製の湯舟で、猥褻物を陳列している紳士の姿なども見受けられた。ガッツ溢れるアウトドア野郎である。
 沢筋を続く道を下っていく。源泉の整備なんかにも使っている道なのでしっかりしている。源泉のすぐ下には温泉ゴルジュなどもあり、仲々の景観を提供してくれている。道に沿って敷かれているパイプからはシューシューと蒸気の音が。中を温泉が通っているのだらう。下山が楽しみ。
 一時間程で沼尻スキー場。ここは人気のスキー場なのか、やたらデカい駐車場を完備している。もちろん今時期は人影もなく、イノセントな風情を醸している。生憎近くに水場がなかったので泊りはしなかったが。それに温泉だって待ってるんだ。ここから下は立派な舗装道。さらに一時間程で沼尻の温泉に着く。
 一番最初に目に付いた温泉旅館で日帰り入浴を試みる。800円と、源泉掛け流しにしちゃちとお高いが、あの源泉を維持することを考えたら、まあ納得の値段なのかもしれない。湯の温度設定はやや高め。引いてきた温泉を割り水などせずそのまま掛け流しているのかもしれない。Ph3.5くらいで容赦ない酸性泉。これくらい強いと石鹸が泡立たない。なんだかとっても刺激的。ここの湯もちょっとスッパイ。なんの味なんだらう。
 酸性泉なので湯上がりはお肌スベスベ。この効果、ビヲレUの比じゃねえな。Phが違うのだよ、Phが。疲労もすっかり回復した。なんだが、もう1ラウンド行けそう。ちょっと忘れ物、とか言ってくろがね小屋まで戻っても平気そうだ、とまで言ったら大袈裟か。
 中ノ沢というところまで降りたところで例のラジヲの時間。ここも温泉街のやうだ。体育館の軒下で野良ラジヲを決め込む。中では空手の稽古の最中のやうだった。その後辺りをウロついてみるも、あまり良い場所もなく野球グランドのすみっこで野営。犬の散歩にきたおばさんが「しっ、近付いてはダメよ。」などと飼い犬をたしなめている声も筒抜けだ。申し訳ないが今夜一晩、目をつぶってもらおう。このところ貧相な食事が続いていたので、奮発してあれこれ買い出し。今夜はカレーだ!と、日記帳に書いてあるところを見ると、たぶんカレーを作ったんだらう。
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