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Yamareco

記録ID: 5794910
全員に公開
沢登り
近畿

【南紀】八木尾谷 右俣のほう(熊野古道・小辺路で下山)

2023年08月06日(日) [日帰り]
情報量の目安: S
都道府県 奈良県 和歌山県
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GPS
--:--
距離
10.2km
登り
1,040m
下り
1,021m

コースタイム

日帰り
山行
9:10
休憩
0:00
合計
9:10
5:50
220
八木尾谷に入渓
9:30
200
二俣(右俣へ)
12:50
10
13:00
120
15:00
八木尾集落
天候 曇り時々雨(時々晴れ間)
過去天気図(気象庁) 2023年08月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
 国道168号線の土河屋トンネルの南口付近から旧道に下り,八木尾集落の空き地に駐車。八木尾集落の中を通って河原に下りていく道があり,その途中に駐車できそうな空き地がある。2〜3台は駐車可能。(ただ,今回は集落の住人の方から何も言われなかったが,本来停めてよい場所なのかどうかは不明)
コース状況/
危険箇所等
・ 八木尾谷は,最初は退屈な平流が続くものの,中流域からガラリと様子が変わり,両岸が切り立った中に滝が連続するゴルジュの谷となる。淵や大きな釜を持った滝が多く,淵や釜を泳いでから滝に取りついて登るという,沢登りでは最も盛り上がるシチュエーションが多く,盛夏は特に楽しめる谷だと思う。探せば良いホールドのある滝が多く,グイグイ登れるのが魅力。
・ 個人的な核心は序盤の廊下に出てくる2段7m滝。「関西起点沢登りルート100」では左岸巻きのあと懸垂となっているが,左壁が直登可能(足が細かいが良いガバがあり思い切って登れる)。右壁にも目立つ箇所に残置スリングがあるが,正直右壁のほうが難しそうに見えた。
・ 通常,八木尾谷は左俣が登られることが多いが,今回はネット上の記録の少ない右俣に入ってみた。滝の数は左俣には及ばないものの,なかなかの規模の連瀑帯や,左俣にはない30〜40m級の大滝があり,それなりに楽しめると思う。詰めは果無峠付近なので,熊野古道の小辺路を辿って下山できるのも魅力。
・ この谷は植林が多く,雰囲気はあまり良くないが,古い仕事道に戦前の出材記念の石碑が残っていたりと,むしろ林業遺構の見学という意味で楽しめる。なお,谷沿いに古い仕事道を見かけるが,随所で崩壊しており,通しで歩くことは困難なので,下山路のアテにはしないほうがよい。
できるだけ邪魔にならないところを探し回った結果,八木尾集落の河原に降りる道の途中にある空き地に駐車。いかにも熊野古道の途中にある集落らしい,静かで雰囲気の良い集落だ。
できるだけ邪魔にならないところを探し回った結果,八木尾集落の河原に降りる道の途中にある空き地に駐車。いかにも熊野古道の途中にある集落らしい,静かで雰囲気の良い集落だ。
集落の中の舗装道路を通り,本日入渓する八木尾谷の奥へ歩いて行く。鶏が時をつくる声がしきりに響いている。
集落の中の舗装道路を通り,本日入渓する八木尾谷の奥へ歩いて行く。鶏が時をつくる声がしきりに響いている。
舗装道路が尽きたところで八木尾谷の河原に降り立つが,何と水が流れていない!(渇水のせい?) 南紀のある程度規模のある谷なので,水量豊富な谷とばかり思っていたのでびっくり。
舗装道路が尽きたところで八木尾谷の河原に降り立つが,何と水が流れていない!(渇水のせい?) 南紀のある程度規模のある谷なので,水量豊富な谷とばかり思っていたのでびっくり。
ある程度歩くと,やっと水が出てくる。だが,周囲は鬱蒼とした植林で,堰堤も3つほど越えなければならず,微妙な雰囲気。これ,本当に八木尾谷で合ってるよね?
ある程度歩くと,やっと水が出てくる。だが,周囲は鬱蒼とした植林で,堰堤も3つほど越えなければならず,微妙な雰囲気。これ,本当に八木尾谷で合ってるよね?
あくびが出そうな退屈な平流を長く歩いて行くうち,急に両岸が切り立ち始めた。気が付いたら険しいゴルジュの谷の中に自分がいる。本当に「気が付いたら」と言う感じで,ちょっと戸惑う。
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あくびが出そうな退屈な平流を長く歩いて行くうち,急に両岸が切り立ち始めた。気が付いたら険しいゴルジュの谷の中に自分がいる。本当に「気が付いたら」と言う感じで,ちょっと戸惑う。
そしてやっと出てきた滝らしい滝,7m。ついに始まったかという感じ。右岸にトラロープが下がっている箇所があり,そこから巻くことができる。
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そしてやっと出てきた滝らしい滝,7m。ついに始まったかという感じ。右岸にトラロープが下がっている箇所があり,そこから巻くことができる。
次の2mは簡単に直登。
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次の2mは簡単に直登。
気づけば高巻きも難しいような完全なゴルジュに。
気づけば高巻きも難しいような完全なゴルジュに。
大きな釜を持った5m斜滝。釜を半ば泳ぐようにして右壁に取りついて越える。
大きな釜を持った5m斜滝。釜を半ば泳ぐようにして右壁に取りついて越える。
そして2段7m滝。ガイド本をまともに読まずに来たため,この時は知らなかったが,この滝は左岸巻きが通常らしい。だが,現地では巻きも難しいように見えたので,突っ込む。
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そして2段7m滝。ガイド本をまともに読まずに来たため,この時は知らなかったが,この滝は左岸巻きが通常らしい。だが,現地では巻きも難しいように見えたので,突っ込む。
下段の滝の右壁にスリングが下がっているのが見えたが,どうも難しそうに見えたので,左壁を試みる。スタンスが細かいが,ちょうどよい場所にガバがあり,思い切って滝上へ。上段の滝は小さく,簡単に越えられた。
下段の滝の右壁にスリングが下がっているのが見えたが,どうも難しそうに見えたので,左壁を試みる。スタンスが細かいが,ちょうどよい場所にガバがあり,思い切って滝上へ。上段の滝は小さく,簡単に越えられた。
大きな釜を持った小滝。釜を泳ぎ渡って直登。この谷は小さな滝でも立派な釜を持っているものが多く,泳ぎが楽しめる。
大きな釜を持った小滝。釜を泳ぎ渡って直登。この谷は小さな滝でも立派な釜を持っているものが多く,泳ぎが楽しめる。
7mほどの滝。釜を泳いで滝の右側に取りついたのち,水流をまたいで左壁に移り,直登。
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7mほどの滝。釜を泳いで滝の右側に取りついたのち,水流をまたいで左壁に移り,直登。
しばらく行くと,壮大なスケールの岩壁のホールにかかる大きな滝が見えてきた。
しばらく行くと,壮大なスケールの岩壁のホールにかかる大きな滝が見えてきた。
15m滝。水流が3条に分かれたように見える,美しい滝だ。
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15m滝。水流が3条に分かれたように見える,美しい滝だ。
この滝は右岸のこの壁を直登。ホールドは豊富で難しくない。
この滝は右岸のこの壁を直登。ホールドは豊富で難しくない。
その後は若干渓相が緩むが,美しい小滝のが続く。
その後は若干渓相が緩むが,美しい小滝のが続く。
長淵。右岸側のバンドを伝って抜けられそうだが,せっかく暑い日に来たので,敢えて泳ぐ。
長淵。右岸側のバンドを伝って抜けられそうだが,せっかく暑い日に来たので,敢えて泳ぐ。
これも泳いで直登。気持ちいい!
これも泳いで直登。気持ちいい!
このあたりは泳ぎのあとに直登できる滝が多く,実に爽快。
このあたりは泳ぎのあとに直登できる滝が多く,実に爽快。
鏡のような淵や,
鏡のような淵や,
極細水路もあらわれ,飽きさせない。
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極細水路もあらわれ,飽きさせない。
水路の奥によく見えない斜滝が落ちる。淵を泳いだ後,無事滝が登れるか不安だったが,トライしたところ何とかなった。
水路の奥によく見えない斜滝が落ちる。淵を泳いだ後,無事滝が登れるか不安だったが,トライしたところ何とかなった。
えぐれたような狭隘な地形に掛かる2段12m滝。これは右岸を高巻き。それほど難しくない。
えぐれたような狭隘な地形に掛かる2段12m滝。これは右岸を高巻き。それほど難しくない。
滝上も小滝が続く。
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滝上も小滝が続く。
出てくる釜は全部泳ぐ。暑い夏の特権だ。
出てくる釜は全部泳ぐ。暑い夏の特権だ。
と,立派な15m滝。左岸から巻き始める。
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と,立派な15m滝。左岸から巻き始める。
左岸巻きでは切り立った岩のリッジにぶつかり,思ったより大きく巻かされてしまう。これは失敗か? 右岸が正解だったかな? と迷いながら登っていくと…
左岸巻きでは切り立った岩のリッジにぶつかり,思ったより大きく巻かされてしまう。これは失敗か? 右岸が正解だったかな? と迷いながら登っていくと…
急に立派な石積みの切通しのある仕事道に飛び出してびっくり。しかも石碑がある!
急に立派な石積みの切通しのある仕事道に飛び出してびっくり。しかも石碑がある!
この山域の林業者が建てた出材記念の記念碑のようだ。昭和9年とある。戦前の古いもので,驚かされた。紀伊山地の山では仕事道はよく見るが,こんな風に山中に記念碑が残されているのは初めて見たので,大変興味深い。
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この山域の林業者が建てた出材記念の記念碑のようだ。昭和9年とある。戦前の古いもので,驚かされた。紀伊山地の山では仕事道はよく見るが,こんな風に山中に記念碑が残されているのは初めて見たので,大変興味深い。
小さな石段を上がったところには,さらに石碑が。
小さな石段を上がったところには,さらに石碑が。
「山神水神 山川安全」とある。直下にある15m滝を,山神や水神に見立てて祀ったのだろうか。
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「山神水神 山川安全」とある。直下にある15m滝を,山神や水神に見立てて祀ったのだろうか。
そのまま仕事道を少しだけたどると,歩いて降りられる斜面が出てきたのでそこから谷に戻る。しばらく行くと二俣。
そのまま仕事道を少しだけたどると,歩いて降りられる斜面が出てきたのでそこから谷に戻る。しばらく行くと二俣。
二俣は広く開けて,石垣も残っており,林業華やかなりし頃は,植林の拠点があったのかもしれない。
二俣は広く開けて,石垣も残っており,林業華やかなりし頃は,植林の拠点があったのかもしれない。
さて,ここから通常は左俣に入ることが多いが,今回は記録の少ない右俣に入ってみる。右俣の入り口は滝になっており,むしろ通常ルートの左俣より見栄えがする。
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さて,ここから通常は左俣に入ることが多いが,今回は記録の少ない右俣に入ってみる。右俣の入り口は滝になっており,むしろ通常ルートの左俣より見栄えがする。
しばらく穏やかだが…
しばらく穏やかだが…
少し行くと5mほどの滝。簡単に登れそうに見えたが,近づいてみると下部が前傾しており離陸(離水?)が難しく,巻き上がる。
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少し行くと5mほどの滝。簡単に登れそうに見えたが,近づいてみると下部が前傾しており離陸(離水?)が難しく,巻き上がる。
巻いてみるとまた仕事道が。ところどころに残る石垣が美しい。
巻いてみるとまた仕事道が。ところどころに残る石垣が美しい。
こんな風に険しいゴルジュの際にも,うまく石垣が組まれている。この谷に道を伸ばしていった昔の人の努力には尊敬させられる。
こんな風に険しいゴルジュの際にも,うまく石垣が組まれている。この谷に道を伸ばしていった昔の人の努力には尊敬させられる。
その後も断続的に小滝や淵。
その後も断続的に小滝や淵。
2段8mほどの滝。
左岸から巻き上がったが,険しい地形が続き,大きく巻かされた。
左岸から巻き上がったが,険しい地形が続き,大きく巻かされた。
谷に戻ると,5段ほどの美しい連瀑が。これはテンションが上がる!
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谷に戻ると,5段ほどの美しい連瀑が。これはテンションが上がる!
どんどん直登していく。
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どんどん直登していく。
3段目は瀑水をくぐって登る。
3段目は瀑水をくぐって登る。
たのしいねぇ。
最上段はホールド細かく,ちょっと苦労したが,何とか登れた。
最上段はホールド細かく,ちょっと苦労したが,何とか登れた。
連瀑帯を抜けると,大規模な崩壊地に出た。かなりの長さの谷が土砂に埋まってしまっており,ちょっと残念。
連瀑帯を抜けると,大規模な崩壊地に出た。かなりの長さの谷が土砂に埋まってしまっており,ちょっと残念。
崩壊地を抜けると,谷は美しい渓相を回復。小滝やナメが続く。
崩壊地を抜けると,谷は美しい渓相を回復。小滝やナメが続く。
550m二俣には,大きな石垣が残されていた。八木尾谷の植林における,最奥の拠点だったのかもしれない。
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550m二俣には,大きな石垣が残されていた。八木尾谷の植林における,最奥の拠点だったのかもしれない。
この谷は稜線間際まで植林が広がる。いつかは伐採され出荷されるのだろうか。そうであれば,この植林にも意味があるのだが…。
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この谷は稜線間際まで植林が広がる。いつかは伐採され出荷されるのだろうか。そうであれば,この植林にも意味があるのだが…。
と,急に谷が険しくなり,急傾斜の谷に滝が連続するようになる。地形図の等高線が詰まった箇所に差し掛かったのだ。事前の読図でも,ここになにかあるのではないかと考えていた。
と,急に谷が険しくなり,急傾斜の谷に滝が連続するようになる。地形図の等高線が詰まった箇所に差し掛かったのだ。事前の読図でも,ここになにかあるのではないかと考えていた。
そして眼前に,本日で一番の大きな滝が。
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そして眼前に,本日で一番の大きな滝が。
2〜3段で構成され,全長30mから40mはある大きな滝場。やはり大滝が隠されていた。
2〜3段で構成され,全長30mから40mはある大きな滝場。やはり大滝が隠されていた。
この滝場は左岸から巻き上がったが,岩の多い急斜面が長く続き,なかなか苦労させられた。
この滝場は左岸から巻き上がったが,岩の多い急斜面が長く続き,なかなか苦労させられた。
その上にも小滝が連続し,直登していく。
その上にも小滝が連続し,直登していく。
と,またまた大きな滝。1段目10m,2段目15mくらいの2段の大きな滝だ。右俣の等高線が詰まった箇所には,2つの大滝が隠されていた。
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と,またまた大きな滝。1段目10m,2段目15mくらいの2段の大きな滝だ。右俣の等高線が詰まった箇所には,2つの大滝が隠されていた。
この滝は右岸を巻き上るが,1つ目の大滝と同じく,岩がちな急斜面で,滑落しないよう注意して攀じ登り,苦労して滝上に出た。
この滝は右岸を巻き上るが,1つ目の大滝と同じく,岩がちな急斜面で,滑落しないよう注意して攀じ登り,苦労して滝上に出た。
大滝の上も小滝が続くが,水量は少なくなり,源流の様相。
大滝の上も小滝が続くが,水量は少なくなり,源流の様相。
ついに水が切れ,谷筋に倒木が詰まり歩きにくくなったところから小尾根に逃げ,稜線を目指す。
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ついに水が切れ,谷筋に倒木が詰まり歩きにくくなったところから小尾根に逃げ,稜線を目指す。
果無山に到着。霧雨もよいのガスの中だった。この季節,こういう天気のほうが涼しくてありがたい。
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果無山に到着。霧雨もよいのガスの中だった。この季節,こういう天気のほうが涼しくてありがたい。
しばらく歩くと熊野古道の小辺路に合流。一度来てみたかった果無峠に出た。
しばらく歩くと熊野古道の小辺路に合流。一度来てみたかった果無峠に出た。
峠に残る古い宝篋印塔。
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峠に残る古い宝篋印塔。
そして西国三十三観音。(この果無越の区間には道沿いに三十三観音が設置されているが,大正時代に設けられた比較的新しいもの)
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そして西国三十三観音。(この果無越の区間には道沿いに三十三観音が設置されているが,大正時代に設けられた比較的新しいもの)
峠を挟んで,しっとりした古道が続いている。
峠を挟んで,しっとりした古道が続いている。
八木尾集落に向けて,熊野古道を下山していく。ところどころ古い石畳が残されている区間もあり,ちょっと感動。
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八木尾集落に向けて,熊野古道を下山していく。ところどころ古い石畳が残されている区間もあり,ちょっと感動。
六字名号碑。
地元京都のお寺の観音様が数多く登場し,何だか親しみを感じる。
地元京都のお寺の観音様が数多く登場し,何だか親しみを感じる。
二十丁石。
誕生石。誕生石と言っても8月はペリドット!とかではなく,天上天下唯我独尊の誕生仏のことです。しかし何で急に誕生仏?
誕生石。誕生石と言っても8月はペリドット!とかではなく,天上天下唯我独尊の誕生仏のことです。しかし何で急に誕生仏?
途中,ガスが晴れて眼下におおらかに流れる熊野川が見下ろせた。もしかして熊野本宮大社も見えるかも? と思ったがさすがに見えず。
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途中,ガスが晴れて眼下におおらかに流れる熊野川が見下ろせた。もしかして熊野本宮大社も見えるかも? と思ったがさすがに見えず。
途中,七色(なないろ)というメルヘンな名前の集落を見下ろす。棚田のひろがる美しい集落。
途中,七色(なないろ)というメルヘンな名前の集落を見下ろす。棚田のひろがる美しい集落。
人んちの裏庭にしか見えないが,これも熊野古道です。
人んちの裏庭にしか見えないが,これも熊野古道です。
八木尾集落まで下りてきた。楽しい古道巡りの下山でした。
八木尾集落まで下りてきた。楽しい古道巡りの下山でした。

装備

備考 ・ フェルトソール沢足袋使用。ぬめりはそれほどないように感じたので,ラバーでも大丈夫かもしれない。
・ 40mロープ携行(不使用)

感想

 連日の猛暑でも水量が豊富で泳げそうな谷を,と言うことで,久しぶりの南紀。八木尾谷は比較的メジャーな谷だが,本谷筋である左俣の記録は数多く見るものの,右俣の記録は少ないので入ってみることにした。加えて,右俣を取った場合は,果無峠にほぼ直接詰め上げることができるので,熊野古道の小辺路経由で石仏を眺めつつ下山できるというのも魅力的に感じた。
 いざ入渓した八木尾谷は,始めは単調な平流のうえ,なんと水が流れておらず(たぶん猛暑による渇水のせいだと思うが),入る谷を間違えたかと疑ってしまうほどだった。しかし,あくび交じりでしばらく歩いているうちに,いつの間にか厳しいゴルジュの只中に足を踏み入れており,気づけば抜き差しならない状況に陥っているという,「じわじわ来る」感じの遅効性の谷だった。
 ただ,じわじわ来ると言っても,一度その中に入り込んでしまえば,あとは容赦なく滝場や淵が畳みかけてくる。事実上,直登や泳ぎなど正面突破しか手がない滝もあるが,突っ込んでみると絶妙なところにガバがあって大胆に登ることができる滝が多く,何とかなってしまうことが多い。そういう意味では実に爽快な谷だった。
 植林に終始覆われているのは残念だが,植林が嫌だと言っていては紀伊半島の沢はほとんど登れなくなってしまうだろう。むしろ,植林が古来盛んな紀伊山地の風土や歴史の一部として見たほうが楽しい山登りができる気がする。15m滝の高巻きの最中に見た戦前の出材記念碑には感動させられた。そういえば,果無山脈といえば,「山びとの記」を著した作家で,自身もバリバリの林業従事者だった宇江敏勝さんが活躍された山域でもある。彼の著作に描かれた林業従事者たちの生活が,この谷でもかつて営まれていたかと思うと,何だか感慨深いものがあった。

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コメント

hillwandererさん
おはようございます。柴わんこです。八木尾谷に登られていたのですね。
実は、この1週間前の週末に泊で左俣に行っておりました。ちょっとしたニアミスですね。(笑)
お会いしたかったです。
自分も15m滝の巻きで見た古い石碑にはびっくりしました。
二俣で泊まったのですが、hillwandererさんの仰られる通り、出合は右俣の方が魅力的に見え、
右俣の上も少し気になったので、今回写真だけでも拝見する事が出来、嬉しく思います。
2023/8/23 9:07
柴わんこさん
こんばんは! 柴わんこさんも八木尾谷に入られてたんですね〜。一週間ずれてたらお会いできたかもしれないですね。

石碑、驚きますよね。他の谷でも同じような遺物がどこかに眠っているかもしれないと思うと、わくわくしますね。

確かに泊まるなら二俣ですよね。泊まり沢、うらやましいです。私もワンシーズンに少なくとも一度は泊まりで山に入りたいのですが、この夏はどうやらその機会なく過ぎていきそうです。

私も今度は左俣に入ってみたいと思っています。いい谷ですね。
2023/8/23 22:32
プロフィール画像
ニッ にっこり シュン エッ!? ん? フフッ げらげら むぅ べー はー しくしく カーッ ふんふん ウィンク これだっ! 車 カメラ 鉛筆 消しゴム ビール 若葉マーク 音符 ハートマーク 電球/アイデア 星 パソコン メール 電話 晴れ 曇り時々晴れ 曇り 雨 雪 温泉 木 花 山 おにぎり 汗 電車 お酒 急ぐ 富士山 ピース/チョキ パンチ happy01 angry despair sad wobbly think confident coldsweats01 coldsweats02 pout gawk lovely bleah wink happy02 bearing catface crying weep delicious smile shock up down shine flair annoy sleepy sign01 sweat01 sweat02 dash note notes spa kissmark heart01 heart02 heart03 heart04 bomb punch good rock scissors paper ear eye sun cloud rain snow thunder typhoon sprinkle wave night dog cat chick penguin fish horse pig aries taurus gemini cancer leo virgo libra scorpius sagittarius capricornus aquarius pisces heart spade diamond club pc mobilephone mail phoneto mailto faxto telephone loveletter memo xmas clover tulip apple bud maple cherryblossom id key sharp one two three four five six seven eight nine zero copyright tm r-mark dollar yen free search new ok secret danger upwardright downwardleft downwardright upwardleft signaler toilet restaurant wheelchair house building postoffice hospital bank atm hotel school fuji 24hours gasstation parking empty full smoking nosmoking run baseball golf tennis soccer ski basketball motorsports cafe bar beer fastfood boutique hairsalon karaoke movie music art drama ticket camera bag book ribbon present birthday cake wine bread riceball japanesetea bottle noodle tv cd foot shoe t-shirt rouge ring crown bell slate clock newmoon moon1 moon2 moon3 train subway bullettrain car rvcar bus ship airplane bicycle yacht

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