パノラマや ああ、パノラマや パノラマや。パノラマ銀座‼️
- GPS
- 30:01
- 距離
- 28.9km
- 登り
- 3,001m
- 下り
- 3,080m
コースタイム
- 山行
- 6:00
- 休憩
- 1:12
- 合計
- 7:12
- 山行
- 7:25
- 休憩
- 1:00
- 合計
- 8:25
天候 | 晴れ(曇りの時間帯あり) |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2022年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
タクシー 自家用車
自転車
|
予約できる山小屋 |
蝶ヶ岳ヒュッテ
|
写真
感想
1.構想
そういえば最近チンタラ歩いていない。「梅雨明け後」の梅雨本番な空模様に、仕方がなく体力作りに勤しんでいた。折角の三連休も天気が今一つ。ガッスガスの甲斐駒をファストハイクして、辛うじて「何もしなかった」を免れた。しかし、やはり登山の醍醐味である「チンタラウォーク」に飢えていた。
スケールのでかい縦走には、スタートとゴールの地点が違うものが多い。去年、白峰三山を縦走し、満足度はすこぶる高かった。しかし、広河原で奈良田へのバスを2時間弱待ち、バス自体もあまり快適ではなかった。何とか面倒臭くないワンウェイ縦走をできないものかと調査を始めた。コース自体は、今まで行ったことのない燕岳から大天井岳、常念岳、蝶ヶ岳へと縦走するパノラマ銀座に惹かれていた。歩き安い縦走路と、その名の通り、槍穂高連峰のパノラマビューがすごいらしい。考えてみれば、槍穂高の景色を堪能するには、そこを登っていては無理だ。槍や富士山は登るよりやはり眺めるものなのか。
そもそも、中房(なかぶさ)温泉の登山口の駐車場は、競争率が極めて高いらしい。なので、穂高駅の周辺に、登山者用の無料駐車場が複数用意されている。そこからバスの中房線で中房温泉まで行くのが、シーズン登山ではそれほど珍しくないらしい。特に穂高駅から徒歩3分の駐車場は、かなり巨大で、始発の次の駅なので座れる可能性も上がり、お勧めらしい。そういう目で穂高駅、中房温泉の位置関係を考えた。すると、以下の机上プランが浮かび上がった。それは、行きに車で三股登山口駐車場に上がり、そこに自転車をデポする。そこから穂高駅駐車場まで戻り、車をとめる。バスで中房温泉に向かい、中房温泉登山口から蝶ヶ岳まで縦走。縦走後は三股登山口に下り、自転車で穂高駅駐車場に戻ってくる。三股から穂高駅駐車場まで、鳥川林道の路面状態や傾斜度合いなど不安はあったが、リスクを取る価値があると判断した。
2.三股第一駐車場
6月初旬に笠ヶ岳にチャレンジした時、睡眠不足(約2時間)での登山に苦しんだ。また少し遠めの北アルプスとはいえ、何とか最低でも4時間は睡眠を確保したかった。しかし、直前まで行くか行くまいか悩んでいたので、金曜日の夜、会社から帰ってきてからパッキングを始めた。適当に必要なものを用意した後、山と高原地図の冊子の最後のページの持ち物リストをチェックするのがルーチンだ。こんなに何度も登山しているのに、未だに何を持っていくべきかが身体に染み付いていない。午後10時過ぎに何とかベッドに潜り込み、午前2時過ぎに起きた。今回は使うか謎だったが、起きてすぐに湯を沸かし、テルモスの山専用ボトルに注ぎ入れた。
まずガソリンを満タンにし、何とか午前3時過ぎに最寄りのインターから高速に乗った。夜中の高速道路は渋滞レスで気持ちいい。最近帰りの中央道は間違いなく「小仏トンネルから渋滞20キロ」で、いい加減うんざりしている。ノーストレスで安曇野インターを5時半前に降りた。まずは三股第一駐車場を目指すが、これが想定外に険しい道だった。かなり道幅が狭く、小さい車でないとすれ違い困難になる箇所が多数あった。行きはみんなと同じ方向なのですれ違いはないだろうが、僕は自転車をデポした後、穂高駅に向けて下らないといけない。行きから帰りのすれ違いのことを考え、恐怖しながら登っていく。しかし、結論から言うと、この心配は全くの杞憂、というか的外れだった。というのも、僕が三股第一駐車場に着いたのは午前6時くらいで、そんな遅い時間にここに来るのは、ド素人だけだからだ。駐車場に着くなり、路肩にバシバシ車が止まっていた。そのまま、奥のトイレの方までゆっくり進んで行くも、どこにもスペースは残されていない。自転車をデポするだけなので、車を仮置きしたかっただけなのだが、その隙も見つからない。そのまま、突き当たりを右に曲がり、入口まで戻ってくるしかなかった。今回は場違いなSクーペで来てしまったので、周りの奇異な物を見る視線を感じながら、横幅すれすれのスペースをなんとか入口まで戻った。新たな車は来ていなかったので、無理やり車を通路を塞いで止め、急いでトランクからRENAULTのLIGHT10を出し、入口近くの電柱の辺りにデポした。
帰りはポツポツすれ違いがあったが、幸い道幅が広いところでのみだった。Googleに穂高駅登山用駐車場と入れようと試みるも、リストに出てこず、一番それっぽかった「穂高駅西公園駐輪場」と入力した。よく見ると駐輪場なのだが、その時は老眼がひどすぎるのか、駐車場と見えてしまっていた。Google先生に導かれるまま、穂高駅の方向に順調に進むも、やはり意図した駐車場ではなく、線路沿いのよくわからないちょっとしたロータリーの様なところに着いてまう。バスの時間が迫っていたので、プチパニックに陥った。たまらず、そこを犬を連れて散歩していた女性に、「この辺りに、登山者用の大きい駐車場ありませんか⁉️」と声をかけた。その女性はあいにく駐車場のことはご存知なかったが、近くに歩いていた別の男性に声をかけてくれた。諦めて適当に探そうとしてた僕に合図をし、「私は知らないのですが、この方はよく知っているそうです」と、親切にも男性を紹介してくれた❗彼に分かりやすく道を教わり、無事に駐車場に着くも、6時40分のバスの出発時刻の10分前になっていた。これからハイドレーションの準備等身支度をし、歩いて数分かかるバス停に行くには、もう到底間に合わない。「あ〜、やってもうたな…。もう少し早く自宅出るべきだったが、睡眠時間あれ以上削れんしな…」。ネットで運行表を見ると、次のバスは8時25分までなかった。「その時間じゃ、大天荘までたどり着かんな…」。タクシー利用を決断した瞬間だった。泣く泣く安曇観光タクシーに電話した。すると、「本当は予約がないと駄目なんだけど、一台回しますよ。いまどちらですか?」と聞かれたので「いま、穂高駅近くの駐車場にいます」と答えた。「じゃあ、10分くらいで穂高駅に一台行かせます」
穂高駅に着くと、予想に反してタクシーが何台も止まっていた。「なんや、すぐ拾えそうやないか…」。タクシー会社も、安曇観光タクシー以外に、南安タクシーというのもあるようだ。少し損した気分になる。そこに止まっていた安曇観光の別のタクシーの運転手さんに、「今、一台来ますからね」と言われ、「まあ、トイレにも行けるし、よしとするか…」と自分を納得させる。トイレはとてもきれいで、極めて快適だった。
ぴったり10分くらいで、僕の車輌は穂高駅に到着した。「おいくらくらいですか?中房温泉まで」と聞くと、「う〜ん、8500円くらいかな?」。「あ、定額料金ではないんですね?」と聞くと、「普通にメーターで行くね〜」。痛い出費になった。「まあ、中房温泉までゆっくり寝れるから、結果オーライと思おう…」。しかし、折角、地元のタクシーに乗ったので、登山のことなどの話を聞きたくて、結局ずっと話をしてしまった。そこで、冬の燕岳に行くには、冬期ゲートから登山口まで12キロも歩かないと行けないことを教えてもらう。越年営業をするくらいお気軽な燕山荘だと思っていたのに、鳥倉林道の冬期ゲートから登山口を凌ぐ距離なことに驚いた。
3. 燕岳
途中、自分が乗るはずだったバスを追い越し、昔の中房温泉の駐車マナーの悪さの話などを聞きながら、無事に中房温泉に到着した。料金は8440円だった。タクシーを降りると、ちょうど別のバスも到着したばかりで、そこからどっと登山者が降りてきた。「さすがに表銀座の起点の中房温泉登山口やなぁ…」と、こんな大人気の登山口に自分がいることが少し感慨深い。
ストックを出したり、日焼け止めを塗ったり、軽く最後の準備をし、タクシー効果で当初の予定より15分早い午前7時45分頃、山行をスタートした。すると、登山口の入口のトイレの辺りで、「お客様も燕山荘ご利用のご予定ですか?」と若い小屋番のような男性に声を掛けられた。「いえ、その先まで行きます」と答えると、「あ、そうですか。実は燕山荘でコロナ陽性者が出ましたもので…、ご了承していただいた上でご利用いただいております」という。なるほど…。でも、それって登山者にうつされたんちゃうの…。しかも、どうやら今日の今日に連絡が来たらしく、予約している登山者の方に、途中、話しかけられた。「燕山荘ってコロナ陽性者出たんですよね?これってテン場も使えないってことですか⁉️」。「いや、コロナが出たことを了承の上なら泊まれるらしいですよ」と言うと、彼はすごく安心していた。しかし、いきなり泊まれないと言われても困ってしまうだろう。合戦小屋のスイカの販売も自粛のようだった。
超メジャー登山道をゆったり歩いていく。第一ベンチ、第二ベンチと、特に急登を感じることなく順調に登っていく。しかし、かなり蒸し暑く、汗がだくだくと流れ出た。首からタオルをかけて汗を拭きながら歩く。次の第三ベンチにはかなりの数の登山者が休憩していた。ここから、少し登りがきつくなったからなのか、やはり睡眠不足なのか、はたまた、燕山荘でコロナ陽性者が出たと言われたからなのか、気分が悪くなる。ますますチンタラ度を増しながら、富士見ベンチに到着した。ガスガスで富士山は見えない。ここからも、それなりの登りが続くも、しばらくすると眠気も落ち着き、気分が悪いのも治ってきた。「北アルプス テントを背中に山の旅へ」で予習した通り、「北アルプス三大急登」の合戦尾根はそれほどハードルが高くないのかもしれない。ほどなく合戦小屋に到着した。ここは、スイカを売っていないにも関わらず、すごい人だかりだった。もちろん立ち止まらずに、写真だけさっと撮り、先に進む。今日は半ば諦めてはいたものの、ガスは全く晴れる気配がない。時折視界が広がるも、ガスまみれの山容が辛うじて見えるのみだった。
順調に歩を進め、10時半過ぎに燕山荘が視界に入ってきた。もうテントも何張りか張られている。まず、燕岳と燕山荘の分岐に来た。燕岳方面は、時折ガスがさーっと切れて、はっきりと尾根とピークを望むことができたと思うと、またガスにまみれるという目まぐるしさだった。分岐をまずは燕山荘の方に向かった。小屋の前のスペースは、すごい数の登山者で溢れ返っていた。ザック置き場も用意されていたが、あまりの数のザックにそこに自分も置く気にはなれなかった。「そういえば、イルカ岩ってどこにあるんかな…?」と、小屋前のスペースから少し燕岳と逆の方向に進む。それらしい岩がたくさんあるのが目についた。「こっちかな…?」と、歩いていくと、まず、大天井岳・常念岳・槍ヶ岳への縦走路との分岐が出て来た。さらによく分からずも、何かありそうな雰囲気に、どんどん先を進む。すると、突き当たりに冬期小屋が出てきた。あまりここまで来る登山者はいない。そんな中、たまたまとはいえ、冬期小屋を発見して嬉しくなる。
先ほどの分岐まで戻り、そこにザックをおろした。「ここにデポして燕岳と北燕岳行くかな」。シーツーサミットのウルトラシルデイパックを展開し、レインウェアなどを詰め込んだ。近そうだったので、水は持たずに行く。燕山荘との分岐を越えて、比較的すぐにイルカ岩が現れた。気付かずにスルーするリスクを恐れていたが、さすがに気付かない方が難しいくらい目立っていた。すぐにそれと分かり、何枚かアングルやズームを変えて写真に収めた。やはり、これを写真に撮らない登山者はいないようで、みんな「あー、これがイルカ岩だ!」などと言いながら直ぐに人だかりになっていた。約30分ほどで燕岳に到着した。途中、北燕岳への分岐が先に出てきて混乱するが、燕岳の頂上からも特に回り道ではなく北燕岳への道は続いていた。山頂でも、ガスに一面覆われたかと思えば、さーっと晴れてきれいに北燕岳が見え、またガスになるという目まぐるしさだった。そのまま、山頂を越え、北燕岳にも登頂した。帰りは燕岳の山頂は通らずに、巻き道を通り、先ほどの燕岳手前の北燕岳への分岐へと戻ってきた。行きには気付かなかったが、この辺りにメガネ岩というのがあった。登ってはいけないらしい。
ザックのデポ地点まで戻ってきた。山専用ボトルのお湯でスープを作り、軽く腹ごしらえをした。今回はチタンカップを忘れてしまったので、モンベルのシェラカップでスープを作るも、手際が悪くこぼしまくる。時刻はお昼を少し回った頃だった。「さぁ、大天井岳目指すかな」
4.大天井岳
雲は一番大事な稜線部分にずっと停滞していた。その下の部分は結構晴れているのたが、それでは意味がない。パノラマ銀座なのに、パノラマビューがないとは…。正直、そのせいであまり大天荘までの道は印象に残っていない。前方に大天井岳と思われる巨大な山が途中から望めたが、ここにも一番大事な山頂部分に霧のような雲がかかっていた。登山道は基本気持ちのいい稜線歩きだが、所々きつい登りがあり、それなりに体力が必要だ。個人的には、合戦尾根よりも少しタフに感じた。一番印象に残っているのは、基本安全な登山道の中、鎖が取り付けられたちょっとした岩峰(切通岩)が出てきた時だった。少し高度感のある岩の下りにつけられた階段を慎重に下り、その岩峰を乗り越えた。すると、前方の岩壁に何やら人の顔のプレートが取り付けられていた。「なんやあれ…。ウェストンか?嘉門次か?」と思いながら、小声で「あのおっちゃん、誰やろう?」と呟いた。すると、直ぐ前を歩いていたベテラン男性登山者が、「喜作さんだね、喜作新道の」と教えてくれた。「あ、これが喜作レリーフか!」と、地図を見て何となく記憶に残っていた名前が口をついた。同じパーティーの女性登山者も、「そうそう」と嬉しそうだった。
ここを越えると、かなり急なトラバースの登りになる。直ぐに大天井ヒュッテとの分岐に来た。ちなみに、大天井岳は常念山脈の最高峰(標高2922m)だが、少々気の毒な山らしい。この分岐に象徴されるように、大天井岳の周りには巻き道がぐるっと付けられている。なので、疲れている登山者にはショートカットされることが多いという。ちなみに、僕は夕方と早朝の2回も登り、かなり長い時間を山頂で過ごした。しかし、大天荘に着いてから、翌朝常念岳に向けて出発するまで、YAMAPを一時停止中だった。なので、同じくスルーしたような軌跡になってしまった。また近々来る理由ができた。
分岐を左に曲がり、急なトラバースを登っていく。「大天荘まで500メートル」の標識が現れ、これが100メートルずつカウントダウンされる。「この道標、逆に残りの長さを意識させるな…」。結構キツイ登りだった。チンタラと坂を登り切り、無事に本日のねぐらの大天荘に到着した。時刻は午後3時前だった。
着くと直ぐに目に飛び込んで来たのは「生ビール」だった。グラスになみなみと注がれた生ビールがどんどん登山者に手渡されていく。「おー!ええなぁ〜」。めちゃくちゃ旨そうに見えた。「そうか、もう小屋やってるのに、冬期の癖で500mlのPSB2本担ぎ上げてもうたな😅」。やはり、シーズンの登山は至れり尽くせりだ。今回の山行の寝床を決める際、色々な山小屋のWebサイトで、テント場の確保について調べた。燕山荘はテント場まで予約が必要だったが、大天荘を始め、常念小屋、蝶ヶ岳ヒュッテは予約不要の早い者勝ちスタイルだった。行程的に大天荘にたどり着くのは少し遅めにならざるを得なかったので、場所が確保できるか心配だった。大天荘のWebサイトには、「張れないことはありません」とキッパリ書かれていたものの、やはり不安だった。案の定、テント場に行くと、今まで写真でしか見たことがない、テントテントのオンパレード。ほとんどのスペースは埋め尽くされていた。「凄いね…、俺がこんな中にテント張るようになるとは…」。それでも、地面の感じが冴えないスペースは空いていたので、何とか工夫してそんなに無理をすることなくテントを設営することができた。直ぐ後ろにいた短パンの男性ベテラン登山者と少し会話を交わす。「凄い混み具合ですね❗」と言うと、「ええ、今年一番じゃないですか?私は今年もう4回目ですけど、今日が一番多いですね。」という。彼は毎回一ノ沢から大天井岳、常念岳へと縦走し、一ノ沢に戻るに徹していると言う。短パンのトレランのような軽装で、テントもストックシェルターではないらしいが、ストック2本で設営できるUL仕様だった。僕よりは少なくとも5歳以上は年長に見えたが、短パンから見えていた足は惚れ惚れするほど鍛えられていた。
テントの設営が終わったので、受付をしに行った。ソロで一張りなら2000円だ。受付近くで、蛇口から沢水を調達できる。1Lにつき200円だ。蛇口の前に棚があり、その上に大きめの瓶が置かれていた。中には大量の100円玉、500円玉、たまに1000円札などが入っていて、そこにセルフで料金を入れる。お釣りがある場合も、セルフで瓶から回収する。中房温泉のスタート時にハイドレーションに1L入れ、それ以外に山専用ボトルにお湯が900ml、保冷剤代わりの凍らせたペットボトルの水を500ml持っていた。お湯はスープ一杯分だけ燕山荘で消費したが、おそらくハイドレーションにも500mlは残っているはずだったので、とりあえず2L だけ沢水を調達した。
テントに戻って来た。残念ながら、テント場から見える景色はガスガスだった。とにもかくにも、モンベルのロールアップ クーラーバッグ 3Lからビールを出し、広げたエバニューの Alu Table/Fire に置いた。シェラカップに、行きにセブンイレブンで買ったピーナッツを入れる。ちょっと長い行程だったが、無事にやれ、この至福の時を迎えられた。ビールをグイッと飲み、ピーナッツをつまむ。ガスはあるが、晴れ間もある景色を見ながら、テントでビールを飲む。こんな贅沢は他にあるだろうか?ここまでの登山での心地よい疲労を感じながら、ぐいぐいとビールを飲み干した。
今回は準備時間がタイトで、コンビーフと食パンを買えなかった。なので、ウィンナーを大量に持ってきた。今回はかなり前に購入し、未投入だったプリムスP-153ウルトラバーナーを持ってきた。なので、初めてジェットボイルを持ってこなかった。プリムスウルトラバーナーはあんな小さい部品なのに、やたらと値段がはる。少しでも安く買おうとプラチナ会員ポイントが貯まるモンベルで購入した。専用ガスのキャップを外し、ネジ穴にねじ込む。この時少しガスが漏れて臭いのはジェットボイルと同じだった。しかし、さすが(?)プリムスだけあって、カチカチ言わせるとライターなしで火が「ボォッ」と点いた。広げた五徳の上にフライパンを乗せ、ウィンナーを炒める。いい感じに焦げめが付いたところで、かじる。2本目のビールが必要だ。ビールとウィンナーだけでお腹いっぱいになってしまった。最近はまっているのが、昼寝だ。腹をいっぱいに満たし、小一時間寝る。これだけでかなり疲れがとれる。そんな感じでうとうとしていた。すると、何やら外がざわざわ騒がしい。歓声まで上がっている。「なんや…」と起き上がり、テントの入口のファスナーを開けた。すると、ガスガスだったテン場の前方の雲がほぼ切れ、槍ヶ岳から前穂高岳への稜線がくっきりと姿を現していた。「お〜…、このテン場ってこんなに眺望よかったんか😂」。一気に目が覚める。モンベルのソックオンサンダルを履いて外に出た。みんながスマホやカメラを持って集まっていた。槍ヶ岳には若干雲がかかっていたが、今にも切れそうだった。「これは…。山頂行かねば!」
時刻は6時過ぎだったが、アーベントロートを狙い、6時半頃までスープ飲みながら時間を潰そうと思った。その時に、湯を沸かそうとウルトラバーナーに火をつけ、その上に水を入れたDUGのPOT−Mを置いた。そして早く湯を沸かそうと火力調節つまみを徐々にプラス方向に回していった。ガスの音がドンドン激しくなって、火力が強まっているようだ。すると、いきなりPOT−Mの取っ手に巻き付けられいたゴムに火が移ってしまった。「おー😲」とあまりの火力の強さに驚く。急いで火を消し止めたが、ゴムが1/3ほど、溶けてしまった。気を取り直し、POT–Mの五徳への置場所に気を付けながら湯を沸騰させ、クリームスープを作り、飲みながら頃合いを待った。
午後6時半に、トランゴタワーを履いて外に出た。寒そうなので、アルパインダウンパーカを着て、ヘッドランプを持って行く。テン場から小屋の前を通り、岩岩を山頂に向けて歩く。同じように山頂に向かっている登山者もちらほらいる。山頂が視界に入ってくると、既にたくさんの登山者が山頂にいるのが見えた。山頂のバックに夕陽が沈みつつあり眩しい。そこから振り返り小屋を見下ろす。常念岳へと続く稜線が夕陽に照らされ、とてもきれいだった。山頂まで少し歩き、さっきまで下から見上げていた登山者達に合流した。槍ヶ岳に少しかかっていた雲はもう完全に切れ、小槍までくっきりと見えていた。大天井岳の山頂標識を槍ヶ岳をバックに写真に収める。正面には双六岳から鷲羽岳、水晶岳、赤牛岳と続く山塊が雲海に浮かぶ。赤牛岳の奥には、もう一段高くなった雲海に立山と劔岳が鎮座している。その二段になった雲海がまるで滝のように下に流れ落ちているように見える。「これ、すごいな…」。燕岳から大天荘に歩いている時は山の端にかかった雲を呪ったが、その同じ雲が今度は雲海となって夕暮れ時の山々をより幻想的にしてくれている。暗くなり、ほとんどみんないなくなるまで、ゆっくり山頂を楽しんだ。
テントに戻り明日の行程のことを考えた。明日は絶対モルゲンになるに違いない。その時間には絶対に大天井岳の山頂にいたかった。日の出は4時50分くらいなので、4時過ぎにはテントを出たほうがいいだろう。その場合、テントを出る時に撤収を何も済ませていないと、日の出を十二分に堪能してから作業を開始することになる。となると、僕の手際の悪さからすれば、最低でも90分くらいは時間がかかるので、常念岳へ向けてスタートするのが下手をすると7時前くらいになってしまう。登山計画を立てる時に、あまり深く考えずに大天荘を朝の4時にスタートし、蝶ヶ岳まで縦走し、午後2時45分に三股駐車場に到着を想定した。これが休憩なしのコースタイムだった。自転車で三股駐車場から穂高駅駐車場まで、どれくらいかかるのかいまいち読めなかったので、遅くとも午後3時には三股登山口にゴールしたかった。だから、そこから逆算してスタートを朝の4時にしただけだった。そもそも日の出が4時50分なので4時スタートは無理だが、できるだけ早く出発しないと、自分の実力では三股駐車場に想定通りに到着できるか自信がなかった。「とすると、もう大天井岳山頂にモルゲンを見に行く時には粗方撤収済ませている必要があるな…。朝ご飯の時間がも考えて、やはり2時起きか…」。山頂にやたらと長い時間いたので、時刻はもう午後8時になろうとしていた。「早よ寝な…」。最後にトイレに行きながら、水を1Lだけ調達し、急いでシュラフにもぐりこんだ。
5.モルゲン大天井岳から常念岳へ
日中は全く風がなかったのに、夜は風が強くなりかなりテントが揺すられた。耳栓はしてはいたものの、少し睡眠が浅くなってしまった。そのせいで、結局2時50分まで起きることができなかった。やはり疲れているのか喉が少し痛く、鼻も詰まっていた。とりあえず、パンをつまんで目を覚ます。ウルトラバーナーでお湯を慎重に沸かし、コーヒーを飲んだ。この時間もまだ風はかなり強いままだった。しかも、よく分からないが、かなりレインフライが濡れていた。雨は降っていないはずなので、なぜにここまでびっしょりなのか謎だった。とりあえず、テント内で片付けを開始した。いつまでだっても撤収の最適解が見つからないが、とりあえず一番邪魔なシュラフをシーツーサミットのコンプレッションバックに突っ込み、ベルトで締め上げた。次にバーナーやコッヘル等の細かいもをまとめる。サーマレストのネオエアーXライト(レギュラーワイド)も邪魔なので、もうテント内に座らない前提で、空気を抜き、きれいに畳んでスタッフバックにしまい込んだ。ここまでやってしまうと、僕の場合、もうテントの外に出る以外にうまく片づける方法を知らない。いやいやヘッデンを付けて外に出た。まずは雑巾でレインフライについた水滴をふき取って行く。すぐに雑巾がびっしょりになったので、絞りながら何度もふき取った。次にペグを抜き、ガイロープを小さくわがねていく。この作業はかなり面倒だが、ガイロープを次に使うときにストレスなくほどくことができるので仕方がなくやっている。前後左右のペグループからもペグを外した。強風なのでレインフライをうまくたためないので、テントの中に持ち込み適当にまとめ、スタッフバックに無理やり押し込んだ。レインフライとともに細かい荷物をザックにパッキングし、ザックをインナーテントから出す。そして、高速でインナーフライを解体し、ザックに詰め込んだ。何とか午前4時頃にほぼ撤収を終えた。「よし、これでモルゲン堪能したらすぐ出発できる」
4時半前に山頂に到着すると、期待通りの空模様だった。地平線が綺麗に赤く染まっている。最初、常念岳の方面の空に、ピンクと青のグラデーションが広がり、とても綺麗だった。雲海の奥に、富士山も少し頭を覗かせる。昨日の夕方は雲がかかっていた燕岳方面も、今はすっきり晴れ渡り、稜線の曲線がたまらない。太陽は、その曲線の少し右の方から上がるようだった。地平線が猛烈に黄金色になって行く。振り返るといつの間にやら、槍ヶ岳方面もピンク色の空に変わっていた。太陽が雲から顔を出し始めた。金色が徐々に赤みを帯びていく。最高だった。昨日の夕方見たばかりの山々を、またほとんど誰もいなくなるまで見つめていた。
結局、好きなだけモルゲンを楽しんだせいで、午前5時半に何とかテント場を常念岳に向けてスタートした。4時の予定から1時間半も遅れてしまった。間に合うのだろうかと、少し不安になる。スタートしてすぐ、ものすごく背の高い年配の外国人登山者に先を譲ってもらう。全く自然な日本語で、「どこまで行くんですか?」と聞かれ、「蝶ヶ岳まで行きます」と答えた。すると、「何時間ですか?」と聞かれ、「7時間くらいでしょうか?」とそれくらいで歩かないとな、という時間を答えた。「お気をつけて」と送り出された。ここからいきなりパノラマ全開となる。顔が自然とにやける。「もう、これ以上の稜線歩きはないんじゃないか?」という贅沢さだった。右手の槍ヶ岳から前穂に続く稜線だけではなく、常念岳へと続く稜線の曲線美がなんとも言えない。やはり登山者が多いので、間隔をあけるために、登山道から少しそれた岩の上に立ち、槍ヶ岳を見ながら贅沢に日焼け止めを塗る。
しばらく歩いて行くと、テント場で楽しくお話させていただいた「短パンさん」と、「ジャンボさん」に追い付いた。ジャンボさんに、「あれ?大分前に出てなかった?撤収は一番早かったよね?」と言われ、「いやぁ、チンタラ歩くのが好きなんです😅」と答えた。ここからお二方としばらくご一緒させていただいた。短パンさんは何度も来ているだけあって、かなりルートに詳しい。この常念岳へのルートの途中にあるカールには、熊が住み着いているらしく、かなりの頻度で見かけるそうだ。しかし、ハイマツ帯の登山道までは決して上がってこないので心配はいらないらしい。今回は残念ながら見ることはできなかった。しばらくして、自然と二人から離れ、少し先行した。やはり、一人でゆったり歩く方がこのコースはいいだろう。自分のタイミングで立ち止まり、写真を撮ったり、単に山を見つめたり。兎に角、非の打ち所がない稜線歩きが続いた。なので、顔が自然と上を向く。そのせいか、ほとんど地図を見なかった。結果、細かい山のピークをことごとく取り損ねていた。東天井岳、横通岳は見事にスルーし、存在すら意識しなかった。それだけ稜線歩きが楽しかったのだろう。また次来る理由が見つかったと思えばいい。
常念乗越への急な下りで、短パンさんが追い付いてきた。かなりのスピードで、もうほぼトレランをしているようだった。すぐに先を譲ったが、僕も彼に触発され、重いテン泊装備を担ぎながら、少し早歩きしてみた。おかげであっと言う間に常念乗越の常念小屋に到着した。ここのテント場も大盛況だった。そこから少し行ったところに、短パンさんが座って休憩していた。「お疲れ様です」と声を掛けられた。「あー!お疲れ様です。さすがに速いですね!」というと、「まあ、下りですから」と物腰がいつも丁寧な方だった。「常念岳にも行かれるんですか?」と聞くと、「ええ、行きます!」と彼は言いながら、腰を上げた。もちろんペースが全く違うので、僕は僕なりのペースで行く。少しはみんなより速いのか、基本は道を譲ってもらいながら登って行った。短パンさんはいろんな登山者の方に声を掛けられるのか、しょっちゅう立ち止まり、話しながらゆっくり登っていた。一生懸命登り、かなり差をつけたなと思っていたが、常念岳手前の偽ピークのような所で、あっという間にものすごいスピードで追いついてきた。偽ピークを登り切ったところで、「これ、常念岳だと思ってたら、偽ピークでしたね😅」と彼に声を掛けた。「ええ、ここから少し緩やかになって、またしっかり登ります。でも、もうすぐですよ」と言いながら、僕を抜き去ってそのままあっという間に小さくなっていった。そこから三股への分岐を越え、一登りすると常念岳に登頂した。常念乗越からの登りはしっかりとした登りだった。テン泊装備だとなかなかにキツイだろう。しかし、終始、槍穂高連峰、野口五郎岳、大天井岳へと続く稜線に感動しながら歩ける。短パンさんは、ちょっとした岩に腰掛けて絶景を眺めていた。「お疲れ様でした!」とまた声を掛けていただく。僕も「速いっすねぇ!」と応じた。「最高ですよ、絶景ですよ!」と本当にナイスな短パンさんだった。「常念岳」の祠の前は写真を撮る列ができていた。仕方なくその列の最後尾についたが、こういう時は景色を眺めながら歩き回り、人がいなくなるのを待った方がいい。「次は人が少ない平日か、残雪期にでも来ようかな…」
6.蝶槍と蝶ヶ岳
思う存分常念岳を堪能した後、蝶ヶ岳へと向かった。時刻は午前8時を少し回ったところだった。相変わらず天気は最高で、上から見下ろす蝶ヶ岳への稜線もなんとも気持ちいい。最初は少し危ない下りからスタートする。そこを下りてすぐのところで、男性登山者が立ち止まっていた。僕がそこを通り過ぎようとすると、「しー、あそこ」と前方を指さした。そっちを見えると、雛を数羽連れた雌の雷鳥だった。「おー!晴れてても出るんやな」と雛連れは初めてだったので嬉しくなる。雛の写真はしっかり撮れなかったが、いいものを見せてもらった。
有名な話だが、20年ほど前までは蝶ヶ岳は蝶槍のことだったらしい。標高でいうと今の蝶ヶ岳の方が10mほど高いのだが、ピーキーさでいけば圧倒的に蝶槍らしい。実際、この縦走路を歩き、蝶槍を遠くから見てみて、言っている意味がよく分かった。少し小ぶりだが、遠くからでもすぐにピークと分かる「ポコン」という形をしていた。常念岳から蝶ヶ岳までは、ここまでのパノラマ銀座の雰囲気と少し変わり、樹林帯率が上がる。眺望が開けている部分も多いのだが、特に蝶槍までの登りはなかなかに大変だった。途中、樹林帯の真っ只中で、突然青空が見えた気がした。あれ?と少し違和感を感じながら歩くと、そこにはちょっとした池があり、そこに空が写り込んでいたのか。後から調べると、この池塘は「妖精ノ池」と呼ばれているようだ。
下から見上げた時に感じたよりは幾分楽に、蝶槍に到着した。樹木に覆われているように見えたのに、岩が積み上がった岩峰のようになっていた。ここにもたくさんの登山者が、その岩峰に座り休憩していた。ものすごく軽装の女性陣がいたが、彼女達は蝶ヶ岳ヒュッテからのピストンのようだった。
蝶槍から横尾への分岐を越え、前にしっかりと遠くまで見える尾根道を歩く。なかなかに登ってもいるし、距離が長く感じる壮大な尾根だ。おまけに右手にはパノラマ絶景が続く。もうこのコースも終盤なので、惜しみながら、残りの道を一歩一歩大切に歩いた。
蝶槍から45分ほどで、蝶ヶ岳ヒュッテに到着した。時刻は11時半頃だった。登山計画よりも90分も遅く大天荘を出たのに、蝶ヶ岳ヒュッテ到着は予定より少し早かった。今回の山行の計画を立てる時に、テン泊装備で1泊2日でやりきれるかいまいち自信がなかった。標準的には、やはり2泊3日でゆったり歩く方が楽しめるだろう。
ここまで、燕山荘がコロナ陽性者が出たことで営業を自粛していたり、大天荘に着いたときには軽食時間が終わっていたりと、山小屋飯を食べられていなかった。なので、この蝶ヶ岳ヒュッテで食べるのを楽しみに歩いてきた。ヒュッテの入口に行くと、登山者が列をなしていた。宿泊の受付なのか、同じくランチの注文なのか。とりあえず最後尾につく。結局みんなランチの注文だった。メニューは豊富で、ラーメン、カレー、カルボナーラ、天津飯、おでん定食(単品可)があった。悩んだ挙げ句、やはり安定のカレーと、一番搾りの500mlを注文した。1800円(1000+800)だった。食堂は混んでいて座れないので、蝶ヶ岳側の階段を登ったところの土手に座り、美味しくいただいた。
食器を返却しつつ、蝶ヶ岳の場所を小屋番に聞く。確かに蝶ヶ岳山頂はのっぺりしていて、登山者が集まっていないと、それとわからない。ほんの少し歩けば直ぐ山頂で、新しめの山頂標識があった。眺望は蝶槍に負けず劣らず最高だ。槍ヶ岳は角度が変わり、もう小槍は見えない。みんな思い思いに、山頂でゆったりした時間を過ごしていた。今回の山行は、自分が希望した通り本当にチンタラと絶景を楽しむことができた。極めて歩きやすく、体力さえあれば難易度はかなり低いパノラマ銀座縦走路。今まで歩いた中でも、かなり上位の満足度だ。もしかしたら、最高かもしれない。ここからは、三股に降りて、自転車だ。「最後はちょっと飛ばして見よう!」と、三股までの道を、全開で小走りしていった。
(ちなみに、三股駐車場から穂高駅までは50分かかった。自転車を押して歩かないといけない所は2箇所のみで、距離も短い。基本かなりのダウンヒルで、しっかりした自転車なら、もっと時間短縮が可能だ。)
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