奥久慈男体山 滝倉別尾根(筆者勝手に命名、バリエーションルート)
- GPS
- 06:39
- 距離
- 14.2km
- 登り
- 997m
- 下り
- 995m
コースタイム
- 山行
- 4:48
- 休憩
- 1:51
- 合計
- 6:39
天候 | 晴れ時々曇り 午後一時雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2017年01月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
歩行距離を節約するためならば、古分屋敷駐車場や、大円地駐車場が使えます。また滝倉トンネル周辺にも数台止められます。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
(注意1) 本ルートは一般ルートではありません。鎖はありません。ルートを示すテープもほとんどありません(実は少しはあります)。途中から岩稜登はんと薮こぎがあります。命を落とす可能性もありますのでその前提でお読みください。 本コースは「別尾根」と書いたとおり、よく知られている滝倉コースでも、また時々登場するバリエーションルートである滝倉の沢コースとも異なります。滝倉の沢コースについてはたとえばnabekaさんの下記山行記録を参照ください。 http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-164951.html (注意2) 本山行記録に登場する「別尾根」「座禅岩」、「座禅小僧」、「座禅岩のコル」は筆者が勝手に命名したものです。正しい呼び名をご存知の方はぜひお知らせください。 (注意3) 奥久慈の岩は礫岩質のためホールドはたくさんあるのですが外れやすいので体重をかける前に強度を確かめる必要があります。 (注意4) 藪こぎの難易度、すなわちルートファインディング、草木を分けるために要する体力、虫、マムシ等々、から考えると、葉が落ちて笹が枯れている冬季がおすすめです。 (コースの概要) 興味深いことに最初のピークまでは明瞭な踏み跡があります。取り付きは、滝倉トンネルを抜けてさらに林道を登っていったところに岩にしめ縄+階段があります。 ピークのあとは獣道を追うようにして稜線をたどります。最後の藪こぎまでは岩稜登はんを除けばけものみちの踏み跡があります。 途中3回の岩壁登はんがあります。一つ目はふたこぶ状になっている小岩塔です。最初の数手、2mくらいはほぼ垂直で一番いやらしく感じました。登る高さは全部で5mほどです。危険を感じたら、巻くこともできます。一つ目のこぶを登るとナイフリッジになってますが、ギャップはそれほど深くないので二つ目のこぶの通過はそれほど困難ではありません。 二つ目は10mほどで、直登すると大変そうなのですが、滝倉沢側に少し巻くと、太いつる(それとも潅木?)があり、これがホールドとして安定しているので助かりました。なお、後日第二岩壁を登ったときにこのつるは上のほうで枯れていて、千切れてもおかしくないことがわかりましたので、ホールドとして安心ではありません。また、つるへ頼っていわゆるごぼう抜きで登ろうとすると、途中握力がなくなって墜落しますので、フットホールドをきちんと探して立ちこむように心がけてください。 三つ目の岩壁は潅木を使うことによって比較的容易に登れます。 いずれの岩壁も、岩のホールドは欠けやすいので安易に体重をかけないようにしてください。 3つ目の岩壁のあたりからひたすら薮こぎになります。笹やぶで冬季は笹が枯れているのでこぐこと自体は容易なのですが、斜度が結構ある上につかみたい笹がぽきぽき折れてしまいますので、ホールドの確保で案外時間がかかります。 また茨城県というだけあって笹以外の潅木に茨が非常に多いので安易につかめません。筆者はピッケルを土に打ち込んだり、潅木の根に掛けたりして、ホールド不足を補いました。 冬季ですと尾根の先に常緑樹(マツ)が一本見えます。これを目標に登りますと、最終的に健脚コースの終点(あずまや)近くへ飛び出します。 足許が枯葉でかなり滑りやすく、雪山のキックステップのようにつま先を地面に打ち込みながら進んだほうが安定するので、いわゆる重登山靴やアプローチシューズの使用が安全です。 本来の使い方ではありませんがピッケルが役に立ちました。ひとつめの使い道は枯葉の積もったホールドの少ない急斜面の登高補助、もうひとつの使い道は直接手をかけて確かめることのできない高いホールドの強度確認です。ピッケルのピックやブレードを引っ掛けて体重をかけてみるのです。これで欠けなければ、本番で飛びつくような感じでホールドを取りに行ってもいきなりホールドが欠けて墜落する危険が大幅に減少します。 |
写真
装備
備考 | ハーネス、ヘルメットを着用し、30m補助ロープをはじめ、懸垂下降用具一式を用意しましたが幸い出番はありませんでした。ハーネスはピッケルの刀差しに役立ちました。 藪こぎになるため、上下雨具を着用することをお勧めします。藪で衣服が傷むのと、土ぼこりまみれになることを多少防いでくれます。 手袋必携です。軍手ではとげが手に刺さるのと滑り止め目的でゴム引き軍手(筆者はタフレッドを愛用してます)がお勧めです。ただ厚手の手袋でもタラノキやいばらをつかまないように気をつけましょう。 今回着用しませんでしたが、藪こぎでは目の保護用にゴーグル(機械工作用のものが100円ショップでも買えます)を用意するとより安全です。 |
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感想
奥久慈男体山を地形図で眺めると、山頂を頭にして蝶が羽根を広げたような形をしている
右の羽根を下端から上へたどって大円地越を経由し、羽根の上の縁をたどって頭(山頂を)目指すのが一般コース。持方からは、右羽根の右上から上の淵をたどるか、いきなり頭を目指す。また右羽根の中ほどで羽根を左(西)へ横切って胴体の上に乗り、頭を目指す健脚コース、右の羽根の下端から右羽根中央をたどりつつ胴体に乗る滝倉尾根経由の健脚コース、西から左羽根の上端をたどって頭に至る長福(山)コースがある。さらにバリエーションコースとして比較的知られているところの、両羽根の間を攀じて左側から蝶の胴体に乗って頭を目指す滝倉沢コースがある。
では、左羽根、つまり滝倉沢と対を成す尾根(筆者は本稿では便のため勝手に滝倉別尾根と命名しておく)を使って山頂を目指すことはできないだろうか。昨年、座禅小僧から座禅岩のコルを経由して男体山を目指した帰り、健脚コースの展望岩に立つと、別尾根は滝倉方面から山頂へ向けて一気に走っており、所々面白げな岩塔が建っていることを確認し、登はん意欲をかきたてた。
おそらく人がほとんど入っていないから、やぶこぎになるだろうし、健脚コースのハイカーから目立つから、葉が落ち人の少なくなった真冬に決行しようと、寒くなるのを待ち構えていた。そして正月休みの最終日を利用して、憧れの尾根歩きを決行した。
昨年に続き今年も暖冬気味で真冬としてはぽかぽか陽気の中、いつものように西金駅の駐車場に車を置いて出発した。出発は7時30分、夜明けの一番遅い季節ではあっても、日はすでに昇っていた。快晴というほどではないが穏やかに晴れていた、林道を進み奥久慈の岩稜が見える高揚感、山里の暮らしの気配の穏やかさという裏腹な感慨を同時に楽しみながら高度を上げていった。
途中わらを積んだ小屋の脇を通過したときのこと、わらの中からイノシシが二匹飛び出し、脇の沢へと駆け下りていった。確かにあのわらの中は暖かそうだ、自分だってもぐりこんでみたい。そう思いながら眺めていると、中にまだもう一匹いる。出遅れた末の弟か?これは面白いと写真を撮るうちに、こいつも意を決して飛び出し、沢へと消えていった。歩いていると、こうした出来事を楽しむことができる。
大円地駐車場は言うまでも無く、滝倉トンネル脇の健脚コース取り付きも通過して、滝倉別尾根に続く坂道を歩いた。もしも人が入っていない尾根だとしたら、取り付きは相当強引にやぶをこがなければならないと、どきどきしながらのハイキングだった。
しかしその懸念はあっさり打ち払われてしまった。滝倉別尾根の末端部分には、しめ縄をはった石があり、更にその横にはご丁寧に尾根へ続く階段まで用意されていたのである。なんだ、人は結構入っているんだと安心しながらも、ヘルメット、ハーネス、ピッケルを用意して、行く手に待ち構える急登に備えると、石に手を合わせて階段を登った。
階段を登ると明瞭な踏み跡が続いており、明らかに人が行き来している形跡がある。しかもなにやらケーブルが渡してある、街灯でもあるのか思いながら高度を稼いだ。やがてケーブルの末端に到着した。テレビのアンテナだった。
ここまでまったく困難は無く、多少はがっかりしたが、途中岩場があることは健脚コースからの検分で明らかである。序盤は楽で済むことに越したことはあるまいと思いながら快適なハイキングを楽しんだ。途中大量のふんを発見し、この道を使っているのは人間だけではないことが良くわかった。ふかふかの枯葉の道はやがてガレ気味になると、明るいなだらかなピークに到着した。
明るいピークに立つと長福山が良く見えた。自分は普段マークしていない山であるが、ここから見ると美しい山容だ。岩峰を従えて威張っているように見える男体山に比して、やや独立峰気味に立っているたたずまいも優雅である。別名を女体山というのもうなづける。
さて、尾根筋を急ごう、岩壁が待っている。明るい尾根から、杉の植林帯を尾根筋に抜けると、第一岩壁に到着した。垂直か、心持ちハング気味にも感じられる2mにも満たない岩が越えられない。ホールドはいくらでもあるのだが、体重を支える保証は無いからだ。また一度取り付いたら、ホールドが体重を支えているうちに一気に通過しないと、ルートを探るうちにホールドが崩れ、墜落というのがよくある展開である。手の届くところのホールドを選ぶことは出来るのであるが、手の届かないところがいやらしい、結局ピッケルを使い、ルートに使えそうなホールドに引っ掛け、体重をかけてみて耐久性を確かめた。
手順を決めて登ってみるものの、足が届かない。降りて手順を決め直したが、届かない。体の向きを変え、最初のホールドの位置を10cmほど高くとるなどして、何とか通過した。最初の2mを越えればあとはなだらかで安心だった。岩壁の上は50cmほどのナイフリッジになっている。立ち上がってしまえばいいのだが、立ち上がるまでに体がぐらつくいて怖かった。
岩壁は双子の岩塔になっていることが登はん前から見て取れた。もし垂直の壁の下降と登り返しがあったら進退窮まる恐れもあるのではとどきどきしていたが、ナイフリッジに立ってみると二つ目の岩塔へは登り返しなしで歩いて行けたのでほっとした。
周囲にさえぎるものが無いので、男体山も長福山もその全容を目に入れることが出来た。また健脚コース展望岩も良く見える。ここから見るとなかなかどうして、登はん意欲をそそるとんがった岩塔である。休憩している登山者が小さく見える。自分には気がついているだろうか?黄色いヘルメットをかぶってピッケルをカラカラ鳴らしていたから、気がついているかも知れない。おっとまだ道のりは半分にも達していない。先へ進もう。
やややぶがちな、けれども踏み跡のはっきりした尾根を進むと第二岩壁が出現した、第一岩壁の倍の高さがあるだろうか。しかも奥久慈おなじみのぽろぽろのれき岩質である。まともに挑戦するのは危険が多いかな。この岩は巻こうかと周囲を偵察すると、滝倉沢側に凹角があり、そこを太いつるか木の根が伸びているのがわかった。このつるを頼りに凹角を登れば頂上にたどり着くであろうと、安心して取り付いた、
凹角は土つきになっており思いのほか良くずり落ちた。つるをつかんでいる左手がだんだんと疲れてきた。危ない危ない。腕力頼みは墜落の第一歩である。落ち着いて立てるフットホールドを探して一休みし、握力の回復を待って頂上まで登り切った(後日、このつるは実は枯れていることがわかった。つる頼みで登ることは危険である)。
第二岩壁を過ぎると山がやぶが徐々に深くなるのが見て取れる。見通しの利く第二岩壁でルートを決めておく必要があるだろう。山頂方面を観察すると、稜線沿いに1本だけ常緑樹が見える(後に松の木だとわかった)。あの常緑樹を目指して直登、やぶこぎすることにしようと決めた。だがとりあえずは踏み跡が明瞭に残っているまではそれをたどることにした。
第三岩壁はやぶがちの尾根の中にあった。高さは第一岩壁程度であったが、潅木がいくつも生えており、安全そうなホールドを見つけることが容易だったので短時間で突破した。ふたたび尾根伝いにけものみちが続き、この日2箇所目のイノシシトイレを通過した。このけものみちはやがて西、すなわち長福山側に曲がっていったので、適当なところでけものみちに別れを告げて、本格的な藪こぎに突入した。
真冬であり、笹がすべて枯れていたおかげで、藪にはじき返される苦労には遭わなかった。かき分ければ、枯れた笹はぽきぽきと折れて道を譲ってくれた。ただし、それゆえに、急登であっても笹はホールドとして頼ることが出来なかった。
しかも潅木の多くが茨かタラノキと思しきとげのある木で、うっかり掴もうものなら手のひらを深く刺してしまうだろう。傾斜はかなり急であり、手の助けは借りたい。ここでもピッケルが役に立った。時には地面にブレードを突き刺し、時には遠い茨の根っこに引っ掛けるようにしてホールドを確保し、辛抱強く高度を稼いだ。
目の前にペットボトルが落ちているのを見つけ、こんなところにも人が入っているのかと思ったら、声が聞こえた。先行者ではない。自分が攀じている薮のすぐ右側が健脚コースだったのだ。これで今回も死なないで済みそうだ。
すぐに先方も自分の存在に気がついた「そこ登れるんですか?」「何とか、道はありませんけれど」「ですよねえ」短い会話を交わして先方は下山、自分はバリエーションルートの最後の藪こぎをこなして、健脚コースに飛び出して、1年越しの計画は成功した。
目の前に大岩が見えた。その横に目標としていた常緑樹が見えた。あそこは健脚コースの終点だろう。最後の鎖場を攀じて、あずまやに到着した。常緑樹は松の木だった。健脚コースの終点近くに立っていて、結果的に非常に都合のいい目印を選んだのであった。
そのまま山頂までヘルメットにピッケル姿で登り、祠でヘルメットを取って無事を感謝して長い間手を合わせた。天気がなにやらぱっとしない、雲が多い。見通しもあまり利かない。暑くて藪こぎ用のレインウエアを脱いだら薄ら寒くなってきた。下山しよう。
下山中、山頂直下裏側(持方側)井戸を発見した。何度となく男体山を登りながら今まで気がつかなかった。 別尾根踏破の男体山からのご褒美だろうか。
健脚コースを慎重に下山した。展望岩に登り、今日の登山をおさらいするように滝倉別尾根をひとしきり観察した。
樹林帯に突入し登山は終盤に入った。山頂では雨でも降りそうな空模様であったが、下山中に雲が切れたのか、杉林の中は明るく快適に歩くことができた。健脚コースの入口(下山の場合なら出口)の潅木のトンネルを通過し、きついところは通過した。
茶畑の脇を通り、健脚・一般分岐を通過した。破れていた木道が修繕されたことを感謝しながら、大円地山荘前を通過し、登山届けを提出した大円地駐車場に生還した。振り返り、再び男体山に手を合わせて、今回の山行の成功を感謝した。
あとは山里の林道を西金まで下るばかりだ。振り返ると入道岩、鷹取岩に午後の日差しが差していて美しい。
時折銃声がする。イノシシを撃っているのだろう、軽トラから銃を担いだハンターが湯沢方向へ降りていった。自分のように藪山歩きをしている人間は撃たれないように気をつけなければならない。
民家の壁にびっしり積み上げられた薪の美しさに見とれたり、崖から滴る清水をすすって渇きを潤したり、登山の余韻を楽しみながら、西金駅の自動車に到着した。
車に乗るとぱらぱらと小雨が降り出した。間に合ってよかった。
(追)
下山後、3週間になろうとしているが、まだ右わき腹が痛い。転んだり打撲した記憶はないのだが。第一岩壁の登はんで無理な動きをしたのか、、、。
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