剱岳北方稜線(室堂~剱岳~仙人池~黒部ダム)


- GPS
- 49:38
- 距離
- 25.1km
- 登り
- 2,626m
- 下り
- 3,574m
コースタイム
- 山行
- 2:44
- 休憩
- 0:04
- 合計
- 2:48
- 山行
- 7:05
- 休憩
- 1:05
- 合計
- 8:10
天候 | 9/15(金) 晴れ時々曇り⛅ 9/16(土) 曇り☁ 9/17(日) 曇りのち時々雨☁/☂ |
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過去天気図(気象庁) | 2017年09月の天気図 |
アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
室堂から剱岳まで:過去レコ参照 https://goo.gl/6tM1FH 剱岳から北方稜線: ・最も厳しいのはルートファインディング。ルートミスを誘う箇所が多く、また年によって崩落等でルートが変わる。ここでのルーファイは読図の意味ではなく、最良ルートの判別能力が求められる。ガスが出れば最困難になる。 ・岩稜帯は奥穂〜ジャンダルムと同等程度の難易度。ただし、かなりザレているので落石を起こさない事が重要。ロープを出す箇所は無かった。 ・核心部のひとつとされる池ノ谷ガリーはひどくザレているが、大きな落石を起こさないように慎重に歩けば問題ない。 ・池ノ谷ガリーから小窓までの雪渓2カ所は消失していた。 ・ルートを通して基本的な岩稜帯の歩きに慣れている事は必須。その上で、長時間歩行できる体力も求められる。先行パーティには、明らかに岩場に慣れていないメンバーが何度も落石を起こしたり、ザックを擦りながら下降したり、雪渓で転んだりとガイドにかなり叱られていた。 |
予約できる山小屋 |
剣山荘
|
写真
感想
【9月13日(水)】
遠征を明日に控えパッキングも完了した僕は、馴染みのスナックへ一杯ひっかけに出た。キープボトルの焼酎を嘗めつつ、金曜からの行程を頭の中でなぞっていたら、ママが話しかけてきた。
「また山のこと考えてたんでしょ」
そう、明日から行くんだ。
「台風が来てるみたいよ?」
天気が荒れたら登らないよ。簡単な場所じゃないんだ、今度は。
「へ〜。じゃあ雨が降るように呪っておくわ」
そう言って彼女はケラケラと笑った。
まったく縁起でもないこと言いやがって、と僕は苦笑しつつ、彼女なりに心配してくれているのだろうと解釈することにした。
【9月14日(木)】
台風18号はそれまでの予報を覆し、急速ターンしやがった。週末に九州上陸との進路予想には多くの岳人が溜息をついたはずだ。もちろん僕もその一人だったが、悲観的になったわけではない。
九州から北アルプスまでの遠征なので、交通機関のチケットは予約・払込済みだ。その時点で、当日に悪天候で登れないなんてことは覚悟の上だ。最悪、立山か富山で雨を眺めながら酒でも飲めれば良いじゃないか。苦い酒には違いないだろうけど。
齢を取るってのは、こういう時に役に立つ。
苦いも酸いも、味わいとして楽しめる。これがママの呪いだってなら、それもまたネタとして面白い。許容力がついたのか単に鈍くなったのかはさておき、僕は富山へ向けて移動した。
【9月15日(金)】
大阪から夜行バスを乗り継ぎ、富山駅。さらに地鉄とアルペンルートを介して入った室堂は、好天。眼前には秀麗な立山三山がそびえていた。今日は剱岳の最前線基地となる剣山荘までの、短い行程だ。のんびりハイキングを楽しもう。
台風の進路と天気予報は気になるが、それも明朝に考えればいい。いま憂えてもどうにもなる事ではないのだ。ただ悪い予感は、ある。夜行バスの車中で読んでいたキンドルを、寝落ちしたまま車内に置き忘れていた。こういったケアレスミスというか、注意力の散漫は良くない予兆だ。
体調は悪くなかった。
景色を楽しみながら辿り着いた剣山荘では、テラスで同席した若者と談笑した。ちなみに彼が日本酒好きだと判明したので、「実は僕、酒を造ってるんですよ」と嬉し気に語ってしまう(笑)。さんざん呑んで、酔いも回ったのでこの日は熟睡した。
【9月16日(土)】
午前4時半、小屋の外はまずまずの天候。天気図も安定していると見た。剱岳から先へ進めるのか、期待を持ちつつ小屋を立つ。台風の影響もあってか、昨年の同じ時期より登山者は少ない。さしたる渋滞もなく、剱岳山頂へ辿り着いた。山頂で昨日の若者とも再会し、互いの登頂を喜び合う。
頭上からぐるりと四方を巡らすと、すべての雲は高く薄い。
北方稜線の核心を抜ける4時間程の間に天候が崩れることは無さそうだ。これは、行くしかない。そう思ったとたん、ブルっと震えがきた。武者震いってやつだ。「キケン通行止め」のプレートを横目に、山頂の人混みに背を向け歩み始めた。
長次郎のコルまでは踏み跡がついていた。
問題はその先だ。踏み跡もなければ、もちろんマーカーもない。視界は利いているので進むべき方向は分かる。それでもルートを外れると進退窮まりそうな厳しい岩場であることは間違いない。
苦労して抜けたこの岩の先に果たしてルートがあるのか?常にそんな不安がある。単独登山の怖いところは正にこれだ。一般登山道でない場合は特に、道迷いやケガへの対処法が限定されてしまう。事前の情報収集や装備・食料に抜かりはない無いつもりだが、不慮の事態は起こりうる。さて、これ以上ルートに自信が持てないようなら撤退もありだな、とも考え始めていた。
その時、後続から5人パーティがやってきた。ガイド付きで北方稜線を抜けるという。「ルートに不安があるなら付いてきなさい」とガイドさんが仰って下さった。メンバーの皆さんは、安くないガイド料を支払って来ているのだろうに、それにタダで乗っかるのは心苦しかった。申し訳ない気持ちで一杯になりつつも、お言葉に甘えさせて頂く。
そんな状態で歩き抜けた北方稜線だった。
池ノ平小屋まで辿り着いたとき、メンバーのお一人が「無事にみんなで歩けて良かったわね」と声をかけて下さった。その方は岩場慣れをしておらず終始ガイドさんから叱られていた女性だったが、達成感に溢れた顔でそう言われた。
僕は恥ずかしかった。
前日、酒を飲みつつ若者と話していた時に、自慢げにこれまでの山を語っていなかったか。剱へ向かう岩稜帯で、腰の引けている登山者にいら立たなかったか。これまで通ってきた幾つものキレットも、たまたま歩けた状況にあったに過ぎなかったはずなのに、自分の技量に過信はなかったか。
同行して頂いたメンバーに厚くお礼を申し上げ、しかし同じ小屋に泊まる勇気を持てずに僕は仙人池ヒュッテへ歩を進めた。
仙人池ヒュッテは、とてもアットホームな小屋だった。
この日は親父さんが下山しているとのことで、若いスタッフ3人が僕を迎えてくれた。お風呂にも入れたし、食事も美味しかった。また同宿した男性とのお話が楽しく、語りつ飲みつ、飲みつ語りつ、すっかり酔っぱらってしまった。それにしても山の話のみならず家庭の話にまで出来る辺りが小屋泊の面白みでもあるよなぁ(笑)。夕食の後は長い岩場歩きの緊張から解き放たれ早々に寝入ってしまった
【9月17日(日)】
ヒュッテでの朝食をしっかり食べて下山路についた。
仙人新道もハシゴ谷ルートも、整備された明瞭なルートで安心して歩けた。ルートがある、という事がこんなにも安心感のある事なのか。日々、ルート整備をして下さっている方々に頭が下がる。この3日間は幸いにも台風の大きな影響を受けずに、いやむしろベストコンディションと言っても良い状態で歩けた。そして今回も多くの事をまた山に教わった。気づかされた。考えさせられた。
そういえば帰路の新幹線は大幅に遅れ、深夜の帰宅となったが、ここで最後に痛恨のミスをした。自宅の鍵を持って出るのを忘れていたために、家に入れなかったのだ。仕方なく、会社の事務所で夜明かしした僕は、翌日から風邪をひき、寝込んでしまったのだった。ああ、やはり呪いはかかっていたのであろうか。
それでも、やっぱり言っておこう。
山はいいなぁ
頭が空っぽになって
心がいっぱいになる
コメント
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写真の枚数が少ないのはカメラが壊れたのもあるだろうけど、
北方稜線に入ってからはそれどころではなかったんだろう。
でも、動画はあるんでしょ?
お帰りお疲れ様。
達成感が万感?
まだ北方稜線のシビレで浮心?
悪天をかわしての黒部まで、
無事に計画達成してお帰りなさいましたね。
下山連絡貰った時に
おおっ!っと拍手してました。
下山翌日は小倉で酒の会、その後風邪で倒れていました
ようやく今日から仕事復帰…。呪いのせいだったのか
動画は編集する時間がないので、先になると思われます
感想を今か今かとお待ちしておりました。スナックのシーンからスタートとはさすがです
( ̄∇ ̄)
読み進めていくうちに心に染み入るような気持ちがしました。
黒部方面大好きなんです。。。
来年は北方稜線再チャレンジします!
体調はもうよろしいのですか?ご自愛なさってください。
風邪で寝込んでいたのでレコアップが遅くなりました
黒部好きのマアムさん、どうやら水平歩道も開通したようですよ。
僕は10月の連休に行きたいな〜と画策しています
体調は、多分もう大丈夫だと思うので、これからスナックへお祓いに行ってきます(笑)
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