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Yamareco

記録ID: 1583646
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
尾瀬・奥利根

秋の尾瀬名山巡り単独行(鳩待〜至仏〜燧〜三条大滝〜平ヶ岳〜奥只見湖)

1985年10月07日(月) ~ 1985年10月10日(木)
 - 拍手
GPS
80:00
距離
59.3km
登り
3,982m
下り
4,725m

コースタイム

1日目
山行
4:23
休憩
0:22
合計
4:45
11:57
106
13:43
13:48
22
14:10
14:15
33
14:48
15:00
102
16:42
2日目
山行
9:37
休憩
1:08
合計
10:45
6:00
70
7:10
8:00
50
竜宮小屋(休憩・雨宿り)
8:50
8:55
270
13:25
13:30
25
13:55
14:00
63
15:03
15:06
99
3日目
山行
9:32
休憩
1:58
合計
11:30
8:10
8:15
50
9:05
9:10
60
天神田代
10:10
10:15
27
兎田代下分岐
10:42
10:46
34
11:20
12:40
36
兎田代下分岐
13:16
13:20
50
渋沢温泉小屋
14:10
14:10
50
15:00
15:05
75
16:20
16:25
75
前坂
17:40
17:45
0
17:45
17:45
85
台倉山
19:10
4日目
山行
7:12
休憩
2:28
合計
9:40
5:40
40
6:20
6:25
85
7:50
7:55
25
8:20
8:25
5
8:30
8:32
13
10:35
10:40
15
10:55
10:55
50
11:45
11:50
34
12:24
13:10
50
14:00
14:05
35
14:40
14:40
40
前坂
天候 (初日)晴れ後曇り、後雨
(第2日)ほぼ終日雨
(第3日)曇り後晴れ
(第4日)午前中快晴、後晴れ
アクセス
利用交通機関:
電車 バス
(往路)沼田よりバスで戸倉乗換え、鳩待峠へ
(復路)平ヶ岳登山口よりバス尾瀬口へ、渡船で奥只見ダム、バスにて小出駅へ
コース状況/
危険箇所等
・見晴新道は泥濘・雨裂の歩きにくいルート
・燧岳周辺の木道は雨天時・雨天後滑りやすく、歩行注意
・平ヶ岳の登路、下台倉山手前の前坂前後は相当な急坂・ヤセ尾根で通過注意
初日、至仏山への登路より。草紅葉の斜面から、尾瀬ヶ原と燧を一望。
2018年09月16日 16:11撮影 by  SBM303SH, SHARP
1
9/16 16:11
初日、至仏山への登路より。草紅葉の斜面から、尾瀬ヶ原と燧を一望。
2日目、燧岳に雨中の強行登山。他に登山者もなく、必死の自撮り。
2018年09月16日 16:11撮影 by  SBM303SH, SHARP
2
9/16 16:11
2日目、燧岳に雨中の強行登山。他に登山者もなく、必死の自撮り。
最終日、快晴の下、久恋の平ヶ岳山頂へ。巨大な山体には似合わず、こじんまりした地味なピークです。
2018年09月16日 16:11撮影 by  SBM303SH, SHARP
2
9/16 16:11
最終日、快晴の下、久恋の平ヶ岳山頂へ。巨大な山体には似合わず、こじんまりした地味なピークです。
帰路、平ヶ岳のシンボル・玉子石へ。絶好の晴天、燃え盛る紅葉の絶景を目の前に、この後恐怖の“フィルム切れ”に…。
2018年09月16日 16:12撮影 by  SBM303SH, SHARP
1
9/16 16:12
帰路、平ヶ岳のシンボル・玉子石へ。絶好の晴天、燃え盛る紅葉の絶景を目の前に、この後恐怖の“フィルム切れ”に…。

装備

個人装備
一人用ゴアシェルター

感想

〈以下、当時所属の大学サークルの会報記事より抜粋。今ではとても考えられない4日間の“波瀾万丈“の山行を、短編小説風に綴ってます。長文、乱文ご容赦の程を…〉

◇序章. 至仏は今日もガスの中…
大学サークルの後輩諸氏がバラバラに各地の山行に出かけ、恒例の秋合宿が事実上崩壊状態に陥る中、秋休み半ばでヒマしていた小生は秘かに尾瀬の名山巡りのため、オーダーメイドの周遊券を作成。気圧の谷が抜けた月曜朝、愛用のザックにゴアシェルターはじめ一杯の装備・食料を詰め込み、新宿行き始発電車に乗り込み。新宿のホームに降り立つ直前、全くの偶然でサークルの後輩とその母君に遭遇、目的地も小生と同じく尾瀬とのこと。思いもかけぬ連れが出来たと喜んだのも束の間、彼らは大清水から入山、尾瀬ヶ原〜沼を巡る由、全くの別ルートと判明。一人寂しく上越線各停で沼田駅に降り立ち、路線バスとマイクロを乗り継ぎ、1年生の秋合宿以来4年ぶりの鳩待峠へ。
 ここは沼田側から尾瀬への入口3ポイントのうち最も標高の高い1615m。周辺はちょうど紅葉真っ盛りで、平日というのに大勢の観光客で賑わってます。まだ正午前で空は抜けるような晴天ながら、至仏山への登路へと足を踏み入れるハイカーは殆どなし。登山道入口には「至仏山は午後になると天候が急変することが多く、午後からの登山はご遠慮を」との立て札が…。そういえば、4年前の合宿でも似たような天候変化があったような記憶もあるものの、この上天気ならまず大丈夫、と高をくくってそのまま出発。燃え立つような紅葉の中、緩やかな道を登っていくと、小山沢田代の一角に出たあたりから俄に四周の展望が開けます。尾瀬ヶ原を前景に堂々たる風格で聳え立つ燧岳をはじめ、日光白根や皇海山など馴染みの山々も姿を見せ、好天の下、静寂の尾瀬を一人漫歩する幸せをしみじみと噛みしめます。しかし、この幸福感も長くは続かず、次第に険しさを増す登路を登っていくうち、頭上に拡がる澄んだ青空はどこからともなく湧き出てきた雲に少しずつ浸食されていきます。
 巨岩のゴロゴロした至仏山頂に4年ぶりに立つ頃には、四周の展望は厚みを増したガスにすっかり閉ざされ、寒さに震えつつ暫しの休息を取っていると、どこからともなく飛んできた可愛らしい小鳥が、小生の目の前をちょこまか歩き回ります。これは俄か雨の前触れでは、という小生の予感は的中、眼下の尾瀬ヶ原目指し崩れやすい急斜面を一気に下るうち、ポツリポツリと雨が…。最初は午後の通り雨ぐらいに思っているも、樹林帯に入っても雨は一向に止む気配を見せず、山ノ鼻キャンプ場に着く頃にはすっかり本降りに(この雨がこれ以降丸一日以上降り続くことになろうとは夢にも思わず…)。時間も遅く、この日はここで幕営を決定、屋根付きのキレイな炊事場でささやかな夕食を済ませ、殆ど人の居ないのを良いことに、そこでそのままシェルターを張って寝ようとします。ところが、山荘の主人に見とがめられ、仕方なく下はグチャグチャ、上は土砂降りという悲惨な状況の中、翌日の好天を固く念じてシェルターにもぐり込んだのでした…。

第2章. 雨中の燧強行登頂、憩いのキャンプ場は夢幻と消え…
 2日目、まだ暗いうちに起き出し、慌ただしく朝食を済ませた頃、暗闇の中、ヘッドランプをつけて一人の登山者がやって来ます。あたりがほんのりと明るくなってきても雨は全く止む気配がなく、仕方なくこの登山者のオジサンと一緒に茶など飲みながらラジオを聞いていると、「栃木県地方は晴れ時々曇り」などと間の抜けた天気予報を流しています。新潟方面から車でやって来たというオジサンによると、戸倉の辺りではまだ快晴だったそうで、こんな雨降りとは想像も付かなかった由。「尾瀬」と言うと一般に「山」というより「観光地」のイメージが強く、群馬・栃木・新潟・福島4県にまたがる山深い地であることを忘れがちなるも、ここは完全に山岳気象に支配されているのです。
 そうこうするうち、雨も小止みになり、オジサンとともに山ノ鼻を出発。年2〜3回こうして尾瀬に写真を撮りに来るというオジサンが撮影ポイントを色々アドバイスして下さるも、悪天候もあって今一つ興が乗りません。一時間ほど木道を歩き竜宮小屋に到着するも、雨がまた激しくなり、オジサンのおごりで温かいコーヒーなど飲みながら、小屋の中で雨宿り。雨は一向に止まず、しびれを切らした小生はオジサンに別れを告げ、小屋の外に飛び出します。目指す燧岳はすっぽりと雨雲の帽子を被っており、普通なら停滞か、山裾を回り御池まで移動するかですが、燧には4年前も一度登り損なっていることに加え、「こんなはずはない」という焦りにも似た思いが、小生を目前の山へと駆り立てます。
 見晴十字路を過ぎても、雨は収まるどころか激しさを増すばかり。小生はなおも前進を続け、途中の木陰で震えながら食事を取り、鬱蒼とした樹林帯の中を登っていくと、女性二人のパーティとすれ違います。「上の方は雪ですよ」とのお二人の言葉に一瞬戦慄を覚えるも、怖いもの見たさもあり、小生は委細構わず更に歩を進めます。いつしか樹林帯を抜けて岩稜帯に入り、温泉小屋からのルートと合流するあたりから雨は真っ白な霰(あられ)に変わるも、小生は歯を食い縛って黙々と登り続け、ついに巨岩でできた砦のような柴安瑤謀達。ここは広大な尾瀬ヶ原と尾瀬沼の両方を一望できる最高の展望台ながら、もう展望どころの騒ぎではなく、そそくさと写真を撮りうっすら雪化粧しつつある山頂を辞し、燧のトレードマークである双耳峰のもう一方のピーク、爼瑤悗噺かいます。
 この頃の小生は、念願の燧岳をついに踏破したという達成感よりも、何やら燧の名の由来となった鍛冶鋏でガッチリと首根っこを押さえられ、強行登山を懲らしめられているような心境に。時刻は午後2時前、三角点のある爼瑤鬚笋辰箸了廚い捻曚─△海瞭の宿泊地である御池へといざ下ろうとしたその刹那、文字通り雨あられと叩きつけるみぞれに小生は思わず足を滑らせ、岩角にガッツリ頭をぶつけます。恐る恐る手で頭部に触れてみると、表面的には一応変わった様子なし。今度は頭の「中身」の方が心配になり、“1足す1は2、2×3は6…”などと大真面目に暗誦しながら、ソロリソロリと滑りやすい急斜面を下っていきます。やがて1時間ほどで熊沢田代という湿原に出て、この辺りから木道歩きの緩やかなルートとなります。ところが、これがまた滑り台よろしく実によく滑る道で、見事な紅葉の中、時々豪快に尻餅などつきながら、人っこ一人いない静かな道をズンズン下っていきます。
 やがて御池の大駐車場の一角に飛び出し、4年前に一夜を過ごした国民宿舎・御池ロッジの巨大な建物が現れます。ところが、この日の泊まり場となるはずの「ブナ平キャンプ場」が何処にも見当たらず、不安になって国民宿舎で尋ねてみると「この辺にキャンプ場なんてないよ!バスで福島側に30分ほど下ったところにキリンテのキャンプ場があるから、そこへ行ってみては?」との返事。小生は一瞬茫然自失するも、すぐに自らの置かれた悲惨な状況を悟ります。大体、山行コースの下調べも大してせず、4年前のエアリアマップを当てにしてやって来た小生がバカでした。貧乏ハイカーの味方、かつてのキャンプ場は、きっとマイカー族の波に押されてあの必要以上に巨大な駐車場に
化けてしまったのに違いありません…。
 身も心もすっかりクタクタの小生は、余程このまま国民宿舎に泊まってしまおうかとも思いましたが、それではキャンプ場を消滅せしめた「敵」の術中にみすみす嵌まることになり、余りに情けない…ということで一計を案じ、沼山峠に通ずる車道を少し登ってロッジから見えないところまで移動、道端の空地にシェルターを張ります。1日中雨に降り込められたせいで寝具もグッショリ、せめて何か温かいものでも食べようとガスコンロに火を点けようとすると、ライターも予備のマッチも湿り気味でなかなか点火せず、今度はいよいよ飢え死にか、と大いに慌てさせられます。どうにか食事を終えてもなお降り続く雨の中、小生は自らの置かれた苛酷な運命を思わず呪いながら、いつしか深い眠りに堕ちるのでありました…。

第3章. 2日ぶりの晴天に身も心も軽やか、ザックは内部浸水…
 尾瀬の山といえば、尾瀬ヶ原を挟んで対峙し、両翼をしっかり固める“厳父”・燧と“慈母”・至仏の2山に目が行きがち。しかし、その尾瀬と会津(福島県)そして越後(新潟県)各々との境界領域にどっかりと腰を落ちつけている会津駒ヶ岳・平ヶ岳の2山も、前二者に決して引けをとらぬ個性的で、魅力ある山です。この2座はいずれも大きな根張りを持ち、山頂付近に広大な池塘・湿原地帯を展開するなど共通点は多いものの、アプローチに関しては、御池やキリンテ、檜枝岐からの登路が開かれている会津駒の方が数段便利と言えましょう。対する平ヶ岳の方は、かつて北側の中ノ岐川からの短距離ルートが拓かれたものの、登山者が急増し湿原の破壊が進んだため、敢えなく閉鎖。現在は只見川沿いの山麓・鷹ノ巣からの往復10時間という長大ピストンコースがあるのみ〈※注:中ノ岐コースはその後復活、皇太子殿下も確か中ノ岐コースを登られたはずです…〉。小生自身、会津駒には4年前の秋合宿で登ったものの、平ヶ岳にはかなり以前から目をつけていながら、このアプローチの長さがネックとなってなかなかアタックの機会なし。この、かねてよりの懸案を実行に移すチャンスが今回ついに到来!ただ、往復10時間のコースをまともにいくと、麓に前後2泊する羽目になるため、初日に尾根途中の水場まで登って幕営、2日目に山頂ピストンのプランを採用。一昨日来の雨も未明には上がり、晴れの特異日、明日の体育の日には今度こそ100%の晴天に恵まれそうな予感。道端で前泊した御池から鷹ノ巣の平ヶ岳登山口までは、会員制バスの利用も可能だが、小生は燧裏林道を経由し、かねてから写真で目をつけ、一度自分でその雄大な気色を見たいと思っていた三条大滝に寄っていくことにします。
 前日の疲れもあり、寝坊して予定より2時間近く遅れて出発。次々現れるこじんまりした湿原と燃え立つような紅葉に、疲弊した小生の目も大いに和ませられます。三条大滝への分岐に着く頃には、雲間から久方ぶりに太陽も顔を覗かせ、思わず嬉しくなって、タップリ水気を含んだザックの中身を派手に道端に拡げ、身軽な出で立ちで大滝への道を下ります。あれだけの雨降りの直後だけあり、水量豊富な三条大滝はまさに豪快そのもの。尾瀬沼の方向から折よくやって来た女性ハイカーの方に記念撮影をお願いし、先程の分岐に戻り昼食タイム。太陽は樹間越しに燦々と降り注ぎ、濡れた荷もすっかり乾いて、身も心も浮き立つ思いで渋沢温泉への道を下ります。ところが、パッキングが緩かったせいか、途中で水筒の蓋が知らぬ間に開いてしまいザックが“内部浸水”を起こし、折角乾いた荷物もまた元の状態に…。気を取り直してなおも下り、尾瀬で唯一天然温泉の湧く渋沢温泉小屋(※その後休業)を過ぎた辺りから、只見川源流の沢沿いの緩やかな道に。1時間ほどで尾瀬口山荘の建つ国道352号線に出て、延々と舗装道を歩き、福島・新潟県境の金泉橋を渡ると20分程で立派な案内図のある平ヶ岳登山口に到着。
 登山道は最初、林道沿いに緩やかに登っていくが、下台倉沢を渡って少しいくと、右手の小尾根に取り付きます。小生は向きの間違った指導標に眩惑され、手前の沢沿いの仕事道に一旦迷い込むものの、伐採林を強引にショートカットして正規の登山道に復帰。前年秋の越後三山と同様、越後の山は油断もスキもならず、一見もっともらしく見えるルートがあっても、地図と突き合わせよく検討の必要ありです。
 「平ヶ岳」といってもなだらかなのは頂稜付近だけ、稜線までの登りは結構急で、特に小平地のある前坂の前後は相当の急斜面の上、かなりのヤセ尾根。前坂の少し手前で、下りてくる法政大ワンゲルのパーティとすれ違い、台倉清水の状況を聞くと「稜線から少し離れており、場所がよく分からなかった」と情けないご返事。当方は不安いっぱいで歩を進め、やっとのことで下台倉山に登り着く頃には既に日も落ち、急登の連続に疲労困憊。この先は小さなピークをいくつも越えつつ、緩やかに稜線上を進んでいくと、いつの間にか頭上は降るような星空に。午後7時過ぎ、コースタイムを大きくオーバーしつつ、ようやく距離標の立つ台倉清水に到着。早速水場を探すと、意外にも登山道からほんの少し下ったところに少量ながら立派な水流あり、ホッと胸をなで下ろします。レトルトばかりの簡素な夕食を済ませ、ラジオでタイガースが21年ぶりの優勝に向け着々とマジックを減らすのを聞き届けながら、小生はこのツアーで初めて平穏な眠りにつきます。

終章.燃え立つ越後の紅葉、カメラのフィルム切れに思わず悲鳴…
 64年の東京五輪開幕に因み制定された「体育の日」の晴れパワーはダテではなく、空は朝からスッキリ秋の青空。昼食や雨具など必要な装備をザックに詰め込み、シェルターに残りの荷物をデポして身も心も軽く台倉清水を出発。本日中の帰京のため、昼頃までには戻る必要があるものの、大雨直後とあって鬱蒼とした樹林帯の道は相当ぬかるんでいて苦労します。小ピークを2つほど越え、道端の木組みの中に清冽な水の涌き出る白沢清水に到着。水量は台倉清水よりも更に少ないが、美味しい湧水でノドを潤していると、左手の茂みの中から、ここで一夜を過ごしたと見られる一人のオジサンがヌッと登場。無精髭を伸ばし、一見登山洋品店の店員といった雰囲気の、いかにも山慣れした感じのこのオジサンに「これから山頂を往復、今日中に帰京予定」と伝えると、「それは勿体ない、自分は5日ほど休暇を取り、県境尾根を藪こぎ覚悟で縦走し、大水上山〜丹後山を経て、できれば巻機山まで行くつもり」などと驚くべきことを平然と仰います。大水上山からは越後三山も近いものの、あそこは人が多いのであまり行きたくない由。
 当方はすっかりオジサンの気合いに圧倒され、それとなくこの人物をやり過ごして笹交じりの斜面をゆっくり登っていくと、いつの間にか周囲の展望が開けます。左手には上州武尊、至仏、日光連山、そしてつい2日前に小生を散々可愛がって?くれた燧岳が、この日ばかりは大人しくその凛々しい姿を見せてます。目指す池ノ岳〜平ヶ岳の山頂はすぐ目の前という感じながら、登るにつれ益々勾配が急になる感じで、コースタイムオーバーしてようやく池ノ岳の頂稜の一角に到達。すると、目の前に青々と水をたたえた美しい池が現れ、思わず息を呑みます。散々登った挙げ句、山頂近くにこんな愛らしい池を載せているとは、まるでカッパのような山だ、と思いつつ、小生は魅入られたようにカメラのシャッターを切ります(この時点でフィルムの残枚数は20枚強)。
 ここから平ヶ岳本峰まではずっと木道が続き、道は一旦草付きの斜面を鞍部まで下った後、再び樹林帯の緩やかな登りとなります。途中、鞍部から玉子石の方向へ少し下ったところに水量豊富な水場があり、付近にはテント5〜6張分ぐらいの平地あり。どうせ山中一泊するなら、この「山上の楽園」に幕営するのがベストかも、と思いながら、なおも登っていくと、実際山頂周辺にテン張っていたのは僅か1〜2パーティにも拘わらず、この辺りからにわかにすれ違う登山者が多くなります。どうやら、中ノ岐川沿いの林道経由で登ってきた日帰りマイカー登山族のよう。やがて道は緩やかに草地を巻いていくようになり、程なく三角点とささやかな標識の立つ平ヶ岳山頂に到着。
 うっかりすると見過ごしてしまいそうな、どうということもない小平地で、苦労した割には少々呆気ない感じながら、いかにもこの山に相応しい、可愛らしい山頂です。一人きりで記念撮影、南面に広がる山々の大展望をパノラマに収め、なおも大水上山方面へと延びる木道を辿ります。フィルムの残枚数が既に10枚を切る中、木道の終点まで来ると、ついに北西面の展望が拓け、出発前から密かに再会を楽しみにしていた越後の山々が一気に登場!中でも、全山燃え立つような紅葉で紅一色に塗りつぶされた越後三山は圧巻で、思わず興奮し我を忘れて夢中でカメラのシャッターを切るうち、ハッと気付いて残り枚数を見ると僅か5枚…。持病の“衝動撮り”を反省しつつも、四周の大展望を楽しみながらゆっくり昼食。山頂の横をすり抜け、平ヶ岳のシンボルと言われる奇岩・玉子石へと足を延ばします。
 この玉子石は、1つの岩の真ん中が風化作用により浸食され、ちょうど石の台の上に卵を載せたような奇妙な形をしており、自然の造化の妙にはただただ感心。その下方には、沢山の可愛らしい池塘群が拡がり、バックの山々の見事な紅葉と相俟って絶好の撮影ポイントを提供してくれます。小生は嬉しい悲鳴を上げながらも1枚、また1枚とシャッターを切り、残枚数はとうとう1枚に…。木道伝いに池ノ岳まで引き返し、大勢の登山者とすれ違いながら元来た道をズンズン下ります。途中、最後の1枚を撮りたい衝動を必死に抑えたものの、眼前に堂々たる貫禄で聳え立つ燧の雄姿と、山腹の見事な紅葉に思わず心を動かされ、ついに最後のシャッターを切り、恐怖のフィルム切れ状態に陥ります。
 台倉清水でテントを撤収、台倉山を越えなおも下っていくと、行きは真っ暗で分からなかったものの、この辺りの山肌は赤・橙・黄色の紅葉に染まり、えも言われぬ美しい色合い。特に、下台倉山から少し下った辺りから振り返ると、鷹ノ巣山の屹立する岩峰と紅葉の微妙な色彩が見事に調和、さながら一幅の日本画を見る思いです。フィルム切れ状態の小生は地団駄踏んで悔しがったものの、もはや後の祭りです。脳裏にしっかりこの光景を刻み付けた後、予定のバスに乗り遅れぬよう、往路とは対照的に快調なペースでヤセ尾根を下り、意外と呆気なく登山口のバス停に帰着。
 沼山峠からのバスは、祝日とあって観光客でほぼ満員。降り立った尾瀬口のバス停には、フィルムぐらい売っているだろうという当方の期待は見事に裏切られ、売店はおろかキップ売り場すらなく、ただ板敷きの粗末な船着き場があるのみ。その割には結構立派な渡船に乗り込むと、船は波静かな奥只見湖を滑るように走り出します。こうして山登りの後に船で帰るというのもなかなか風情あるものですが、進むにつれて紅葉の山々の背後に再び特徴ある姿を現した燧岳に感慨深げにカメラを向ける隣のお兄さんを、恨めしげに横目で見る小生でありました…(涙)。
 終点・奥只見ダムの船着き場にてようやく待望のフィルムを仕入れ、無意味にダム周辺のスナップなど撮った後、沢山の観光客でごった返す駐車場から浦佐行きのバスに乗り込むも、一般周遊券は何故か新幹線の停まらぬ小出駅を経由することが義務づけられていて、昨秋の越後三山ツアーで思い出深い大湯温泉にて乗り換え小出駅へ。とは言え、結局長くて速いものには巻かれ、浦佐から新幹線に乗り込み、山では飲みそびれた持参のワンカップを車内でチビリチビリやるうち、それこそあっという間に大宮到着。開業間もない埼京線で池袋に出て、再び「国鉄全線完乗」を達成、重い足を引きずって5日ぶりに自宅へ立ち帰りました。
 いつもながら、このツアーもまた色々とアクシデントには事欠かなかったものの、最後は素晴らしい晴天と紅葉の大展望に恵まれ、久々に充実の山旅が味わえました。機会があれば、今度は日光の金精峠あたりから尾瀬へと縦走し、燧山頂て“三度目の正直”のいい思いをしてみたいものです!
                 〈完〉

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コメント

素晴らしい紀行文
satonaoさま こんばんわ

読み応えのある力作。
平ヶ岳の登山路等、懐かしい景色が浮かんできて
小生も一緒に山旅を楽しんでいる気分になりました。
ありがとうございました。
2018/9/21 20:21
Re: 素晴らしい紀行文
Mipapaさま:小生の超昔の長文・駄文レコに早速のメッセージを頂戴し、恐縮至極です。今から振り返ると、雨中の燧強行登山や、平ヶ岳の星空登山など、日程・ピークハント優先で向こう見ず、若気の至りというべき山行記録で、お恥ずかしい限りです。今はマイカー登山や小屋泊まりのラクラクハイクが多く、すっかりオジサンだなあとしみじみ思いますが、時々若い快速登山者のグループと行き逢ったり、ロングトレイル縦走のレコなどを見ると、あの若かりし頃の放浪・冒険ツアーの日々を懐かしく思い出します。
 ともかくも、これからもリアル山行に出かけられない週末など、貴殿に倣って過去の山行記録や写真を発掘し、バーチャル百名山ツアーの復刻を続けようと思います。(年月を経て、写真や記憶が色褪せないうちに…。)貴殿のリアル山行記録の復活もお待ちしております!
2018/9/21 22:07
プロフィール画像
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