明山 北東尾根(バリエーションルート、奥久慈、竜神峡)
- GPS
- 08:12
- 距離
- 10.5km
- 登り
- 687m
- 下り
- 700m
コースタイム
- 山行
- 6:10
- 休憩
- 2:02
- 合計
- 8:12
竜神ダム駐車場 4:25
亀が淵 5:15
亀が淵取り付き 5:40
明るい尾根 6:15
岩稜取り付き 6:55
二本槍の迂回点 7:20
第一岩塔 7:50
第三ギャップ通過 8:40
(烏帽子岩(筆者勝手に命名)
第二ギャップ開始 9:00
第二ギャップ通過 9:20
第一ギャップ開始 9:25
(筆者が勝手に命名するところの「松の木ギャップ」)
松の木ギャップ通過10:20
山頂 10:25
三葉峠 10:55
亀が淵 11:25
竜神ダム 12:35
過去天気図(気象庁) | 2019年04月の天気図 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
今回の山行はバリエーションルートで薮こぎと岩稜登はんがあり、ハイキングと分類はしましたが大変に危険です。 亀が淵手前の廃道になっている橋を渡り、右つまり亀が淵側の階段を少し登り、手すりを越えるかくぐるかして、薮尾根に取り付くのが安全です。最初の薮こぎは猛烈かつ急登です。その洗礼を受けて尾根の上に乗ってしまうと、薮こぎはさほどではなくなります。なお、筆者は今回亀が淵で渡渉して、橋の下の空間をくぐって薮に取り付きました。実は手すりをくぐるよりも楽に取り付けるのですが、取り付き点が崩れて斜度が上がっており、しかも濡れた土付きでホールドの取りにくい斜面であるためかなり危険を感じましたのでお勧めは出来ません。 ここからは根気よく、多少の紛れは気にせず尾根筋をたどります。小さい谷気味のところを降りたりするのですが尾根から大きく外れることはありません。大きく外れたとしたらそれは道を間違えていると思います。 尾根を正しくたどると核心部分の登はんが始まります。 岩稜は苔や草が付いたり、使えたホールドが欠けたり丸まったりと、以前より随分と登りにくくなったと感じました。 登はん中のホールドのすっぽ抜けは相かわらずで、今回も烏帽子岩(筆者勝手に命名)からのクライムダウン中にフットホールドが一つ崩れてぞっとしました。 参考: 2014年12月 https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-566561.html 2017年4月 https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-1108583.html |
写真
装備
備考 | ヘルメット ハーネス ロープ30m 安全環つきカラビナ カラビナ3枚 スリング3本 ヘルメットは必須です。登はん具の出番は今回はありませんでしたが、撤退時の懸垂下降用に持ったほうが良いと改めて感じました。 手袋(ゴム引き軍手、すっぽ抜けるので厳しい登はんには不適) 手ぬぐい 作業用ゴーグル(薮こぎ用)目を守っていると安心して突入できます。 雨具(薮こぎ兼防寒用) 目だし帽 靴は重登山靴 ヘッドランプ スマホ(GPS、地図) 行動食兼非常食、水 |
---|
感想
■プロローグ
精神的なリハビリテーションか、山を登りたい衝動に応じるためか、2週間前に見た明山北東尾根に挑むことにした。
前日は8時代就寝という異常な早さ。「よく寝たと思って時計を見たら1時半くらいだったりして」と思いながら床を抜けて電灯をつけたら、本当に時計がぴったり1時半を指していたのには笑ってしまった。
更に驚いたことに、アパートの南向きの窓を開け放ったら、さそり座がドンと眼に飛び込んできた。さそり座は割りと地面に近いから、なかなか見るチャンスに恵まれない。最後にちゃんと見たのは何年前だったろうか?それが自分のアパートの窓からばっちり拝めたとは。見事な田舎っぷりである。
オリオン座には親しんでいる。ギリシャ神話によると、オリオンを刺したさそりが星座になったので、両者は正反対にいる、つまり正反対の季節に出るということになっている。さそり座が見えれば春の到来ということでもある。
そしてこんなに星が見える晩であれば、登山と星空観察を兼ねてもよかったかもと、少し後悔した。
夜明け前のドライブを楽しみながら竜神ダムに到着したのが4時20分。ここでは靴紐を締めなおすだけで直ちにザックを担いで行動開始した。まだ薄明状態だが、ヘッドランプはもはやいらない。
東の稜線には樹木に見え隠れしながら細い月が昇っていた。竜神ダムの木が薄明に紅葉しているように見えた。後にこれが薄明のせいではなく、本当に枯死していたことを教えていただいた。
今朝の最低気温は水戸で5度らしい。大型連休の序盤だが冬のような寒さだ。厳しい登はんを行う前に、空気も気を引き締めてくれる。だけどこの寒さは歩いているときにはそれほど不快ではない。
5時。北東尾根が見え始めるあずまやで朝日が登り始め、尾根の南側岩壁を赤く染めた。早朝入りの至福のひと時と同時に、やる気をかきたててくれる。あずまや通過時にはまだまだ谷は深いのだが
5時15分に亀が淵到着。薮こぎのレインウェアを着て、ヘルメットとハーネスを装着すると気持ちが引き締まる。今回は序盤の薮こぎがきついので、目を守るために作業用のゴーグルもかけた。
亀が淵の水量は普段の2倍程度あった。渡渉は若干面倒そうだが、ハイカットの重登山靴を履いているから中は濡れないだろう。
■序盤から滑落の恐怖、感覚を失う手
前回2017年春に北東尾根をやったときには廃道となった橋を渡り、亀が縁側の朽ちた鉄の階段を少し登ったところから、やや高めの手すりを乗り越えて薮に取り付いた。やや動きに無理があって胸の筋肉を傷めたので、そのやり方はやめて、初挑戦したときの鉄階段をくぐる取り付きを選んだ。楽勝だと思っていたがとんでもなかった。斜度も45度は越えていただろうか。表面は前日の雨で弛み、滑りやすい。そして頼りになる潅木も少なく、ごそっと抜けてしまいそうな緑の草が覆いつくしている。草の上に乗ることもまたスリップの要素だ。ピッケルを持ってくればよかったが、今回草付きで苦戦することを考えに入れてこなかったから、登はん具は用意してもピッケルは不要なはずだった。
仕方なくその緑の草をわしづかみにするようにしてハンドホールドとした。濡れているとはいっても気温は10度よりも低い。ゴム引き軍手をはめた両手の指がどんどん感覚を失っていった。草付きの直登は薮こぎの労を軽減するはずだったが、このままではむしろ滑落の可能性が上がる。早めに右側へトラバースして、何とか樹木の根元に立った時には第一の危機を脱した感じであった。毛山後に回想すると、これは今回の登はんの苦戦の予告編だったと解釈できそうだ。
薮の踏みあとは前回2017年程度に踏み跡が残っており、薮こぎの難度は普通であった。ゴーグルをつけて目を守っていることも思い切って突入することを助けた。むしろひと薮抜けてから現れる土付きの急登が難しかった。序盤ほどではないが斜度はかなりあり、薮がまばらになる分、ハンドホールドは取りにくくなる。潅木や木の根頼りになるが、いくつかは朽ちているから、「はずれ」を掴んで滑落しないよう気をつけなければならない。ルーと全体から考えればたいしたことはないのだが、完全に稜線に乗って明るい朝の日差しを浴びたときにはほっとした。
■尾根をたどり岩稜へ
尾根に乗れば、跡は尾根筋をたどるだけだ。踏み跡は登山者というよりもけものみちなのだろうか、踏み跡を笹が深く覆っている箇所もあり、さすがに入山者はそれほど多くはないことがわかる。何度か来ていなければ紛れを感じるような下りもある。気をつけることは、登りでも下りでも、尾根筋を丁寧にたどることだ。先行者(獣?)に従っていけば自動的に尾根を登るようにこのルートはできていて、程なくウォーミングアップの三つの岩が表れる。例によって草付きで崩落しやすいれき岩質のホールドからなる。
ここをこなして、これからの核心部分に備える。毎回最初の二個は登れるのだが、三個目は失敗して巻くことになる。今回は最初の二個で苦戦した。足は立ち込めてもそのあとのハンドホールドの取り方、ハンドホールドを取ってからの足の二手目がうまく選べない。登はん能力の低下が感じられた。三個目は見た瞬間に無理だと思い、巻いてしまった。以前この三個目の課題で時間をかけすぎ、体力を消耗して後悔したことがあるからだ。核心部分に入る前にイワウチワの群落を通過した。花を期待していたが、咲いていたのは一輪程度でいささかがっかり。
■迂回、そして半ば強制的な再挑戦
核心部分に来た。とっても登れそうにない。この斜度の高さとホールドの危うさは何なのだろう。下手に取り付くとずり落ちそうだ。最初の岩壁は巻き道を選んで斜度の低いところから取り付いた。枯れ木が二本立っているところを写真に収め「二本槍の迂回点」として記録に残すこととした。
一旦巻いてゆるいところから再度岩稜に立つと、休憩点に到着した。そこには怪しいさびた鉄のフックが木にかけられていた。新たな人工物かと思ったが、昔から残置されていた器具(長い木の柄の先に鉄のフックが付けられていたもの)のフックがついに脱離したものだった。その柄の部分も近くに発見された。
そして次の登はんの核心部分、第一の岩塔もも登れなかった。どう見ても取り付けそうなホールドがない。巻き道側を見ると大人くらいの大きさの岩があった。どうやら登はんすべき岩塔の上部が崩落したものらしい。こうしたことが登はん中に起きないことを願うばかりである。
かなりの敗北感で、このまま巻いて山頂まで言ってしまおうかとも思ったが、もはや巻き道は危険なトラバースと化しており、岩稜の直登よりも困難に見えた。一方完全に巻かなくとも、先ほどの二本槍の迂回点と同様に、少し巻いたところで岩稜に戻るルートを見出して稜線へ戻った。次の核心部分は筆者が明山のジャンダルムと愛して止まず、また勝手に烏帽子岩と命名している岩塔である。
ここは行けそうなのだが、取り付いてみるとハンドホールドがうまく取れない。ホールドを探して不安定なホールドに立ちこんでいると崩落する危険がある。また体力の消耗も激しいので、速やかに通過できないと感じたときには安全地帯まで戻り、手順を頭の中に入れて再度取り組んだ。取り組んだが右足が残り5cm上がらないとか、ハンドホールドが自分がイメージしたほどしっかり捉えられなかったりと、何度となくやり直した。結局通過は1分もかかっていないだろうが、ルートのイメージ確認とやり直しで40分を消費した。
苦労して到着した烏帽子岩(筆者勝手に命名)に立つことの喜びはひとしおだ。ここで行動食とコーヒーを頂いて休憩することにした。絶壁に足をぶらぶらさせながら、竜神大吊橋、北東尾根と亀が淵山、中武生山、竜神峡奥地、そして微かに奥久慈男体山と、新緑の奥久慈の山々を楽しみながらコーヒーを頂いた。
北東尾根を登はんしていると、伝書鳩の足にはめる識別環がいくつも落ちていた、もう筋に屠られた伝書鳩の遺品である。北東尾根は猛禽の饗宴の場所なのだ。登はん中、その猛禽が谷間をめぐりながら叫び続けていた。思いがけない闖入者に威嚇と呪いの声を投げつけているのか。
烏帽子岩からは最後の関門とも言うべき松の木ギャップ(筆者勝手に命名)が視界に入る。このときはまだ、松の木ギャップはクラックの弱点から登はんしても、松の木の太枝を使っても通過できるからあそこまで行けば大丈夫などと安心していたのだ。
むしろ明山のジャンダルムである烏帽子岩からのクライムダウンのほうが心配だ。高さは2mくらいだが、ホールドが崩れれば、一歩、いや半歩間違えば滑落ではなく墜落だ。フットホールドに安易に足をかけないように岩稜そのものに大きく食いついている石を探すのだが、それほど多くはない。そして、フットホールドに過剰に体重をかけないような手の取り方を考えつつ慎重に降りなければならない。最後の一足、二足は気持ちオーバーハングになっているため、動き出すと足が見えない。あるはずのホールドに足が届かないときは無理せずに戻って場所を確認するという作業を繰り返した。
結局最初の2mを降りるための確認作業に20分を要し、それでも最後の通過時にフットホールドがひとつぽろっと崩落した。奥久慈をやるときにはこういうこともあるものだという前提で身構えているから、ホールドが二つほぼ同時に抜けるということがなければ落ちはしないものの、やはり気持ちのいいものではない。どきどきしながら、若干やさしめのクライムダウンとギャップの通過をこなして第一岩塔に到着した。ここから見る烏帽子岩(筆者勝手に命名)は、明山のジャンダルムと呼ぶにふさわしいスリムで尖った岩塔だ。そしてクライムダウンしてきたルートを見て、試練と無事の通過を感謝しつつ、最後の関門の松の木ギャップへ向かった。
■松の木ギャップの大試練
松の木ギャップは明山北東尾根を山頂から目指す登山者をさえぎる関門である。確かに
ギャップの中央に立つ松の木が通貨を容易にしているように見えるのだが、松の木に枝が届くまでのクライムダウンに、いいホールドが余り見つからない。自己確保(セルフビレイ)しないままでギャップに挑むのは賭けのように見えてやる気が起きなかった。
それを、地形図を読みながら、亀が淵から登り詰めれば、松の木ギャップの山頂側が登りになるから通過できるのではないかという判断が、自分が初成功した2014年冬の登はんだった。しかも松ノ木を使うよりも、ギャップの底に降りて、やや南よりにある岩の割れ目にルートがあるとまでヤマレコで記述している。
しかし4年前の自分に問いたい。一体あの危険な垂直の壁を、どのホールドを使って、どんな手順で登って行ったのか?落ちれば一旦数メートル下のテラスに落ち、そこからさらにどれだけか知れない崖を落ちることだろう。むろんそのときにも同じ危険は感じていても、そうはならない自信を持ってルートを選んでいるはずだ。しかし今回見る松の木ギャップのホールドは、苔が厚く盛っていたり、先行者によるものか、ホールドが磨耗したり、欠落したりして、容易な岩壁とは呼びがたい。
安全第一ならば、松の太枝に乗ることだろうということで、太枝からルートを読むものの、例によって安全なハンドホールドを取れない。ここも立っては戻り、立っては戻り、少し疲れたら、太枝から第一岩塔へ戻るということを繰り返した。こちらのルートを使ったときには、潅木をうまく使えたはずなのだが、一本は根がぐらぐらしており、ホールドで使うには頼りなさ過ぎる。確実に使える太い潅木を使うには、フットホールドを岩の割れ目側に取る必要があるが、いいホールドが見つからなかった。
この試行錯誤に1時間を要した。最後の通過時には岩や潅木ホールドでは足りず、わずかに浮いた木の根を指先でつまみながら山頂側に体を預け、安全圏の潅木をつかんだ。これで今回も死なないで済むだろう。しかし油断は禁物だ。まだ両側がすっぱり切れた岩稜の登はんが少し残っている。難度は低いが、稜線に立ってから、そこにある針葉樹を交わそうとしてバランスをしなえば、無駄に拾った命を落っことすことになるのだから。慎重に通過し、最後の軽いひと薮をくぐって山頂に到着したのが10時30分。亀が淵から5時間ほどかけての登頂となった。ほっとして装備を解き、奥久慈の山々の見晴らしを楽しんだ。さあ、下山しよう。
■明るい谷、黄色い花、枯れ木
直登ルートをゆっくりとクライムダウンすると、三葉峠までのアップダウンコースは、北東尾根を眺めるのに向いた箇所がいくつかある。さらに、三葉峠から新緑に飾られた谷と尾根の入り混じったコースを歩きながら、もう一度北東尾根のルートを確認した。実際に攀じているときもしょっぱいコースだと思っているが。見ているとその倍ほど恐ろしく感じるが、どんなに恐ろしく感じても、もう命の危険にはさらされない。
傾いた踏み跡での滑落に気をつけながら、天然のグリーンゲートをくぐれば間もなく亀が淵だ。水量は2倍ほどだが、ハイカットの防水登山靴であれば、靴の中を濡らさずに通過できる。
亀が淵のトイレで用を足し軽く水筒のコーヒーを飲んで林道を歩いた。途中一緒になったハイカーの方が、あちこち木が枯れているということを教えてくださった。なるほど、よく見ると、いわゆる丸坊主の枯れ木ではなくて、何らかの理由で枯死したと思われる、枯葉をつけたままの常緑樹があちこちに見られた。ハイカーの方はここの常連とおっしゃっていたが、今までにはなかったとおっしゃっていた。自分もこのような木は倒木か、伐採された常緑樹以外で見たことはないかもしれない。
北東尾根が見えるあずまやでザックを下ろし、再度コーヒーブレークした。北東尾根様、鍛えてくださって、そして命を守ってくださってありがとうございました。
こうした不安要素はあるものの、まだ竜神峡の大部分は鮮やかな新緑に覆われていた。紅葉も美しいし、緑が濃くなる夏も力強さを感じて良いが、虫がいなくて風がさわやかなこの時期がリフレッシュには最適だろう。まして今日は快晴。空の青、新緑の明るい緑、そして草花のさまざまな色を楽しみながらダムを目指した。
ヤマブキがレイのように下がっていた。
■エピローグ
2年前は亀が淵からおよそ2時間で登頂しているが、今回は4時間40分もかかっている。ブナの木ルンゼで苦戦したせいで臆病になっているのかもしれない。また奥久慈の登はんからはかなり遠ざかっているから、たとえば篭岩山へ向かう途中の一枚岩を使うなど、危険度の低いところで登はんのリハビリをする必要がありそうだ。
下山後登山靴を確かめたら、爪先のソールはずいぶんと擦り減っていた。クライミングゾーンの消失も登はんを難しくしていたのかもしれない。
翌日、筋肉痛に悩まされた。身体も精神もじっくり作り直そう。
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する