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Yamareco

記録ID: 188598
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積雪期ピークハント/縦走
白山

【白山別山(石川・2399m)】九死に一生、白山、油坂手前で滑落、肋骨折って自力下山 <追記あり>

2012年05月04日(金) ~ 2012年05月05日(土)
 - 拍手
GPS
32:00
距離
21.6km
登り
2,037m
下り
2,037m

コースタイム

市ノ瀬5:30-猿壁5:50-水飲み場6:50-9:15チブリ尾根避難小屋9:45-別山11:40-天池12:50-油坂手前(滑落)13:15〜30頃-19:00頃チブリ尾根避難小屋

チブリ尾根避難小屋6:15-水飲み場8:15-9:25猿壁9:40-10:00市ノ瀬
天候 4日 雨のち吹雪
5日 晴れ
過去天気図(気象庁) 2012年05月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
市ノ瀬 … R157白峰から県道33号線白山公園線へ。駐車場700台、無料。
コース状況/
危険箇所等
市ノ瀬〜チブリ尾根 … 夏道も出ており、危険箇所は特になし。

チブリ尾根〜御舎利山 … 残雪ルートとなる。頂上付近は夏道が出ているが、その手前は腐れ雪。

別山〜御舎利山〜天池 … 残雪ルートとなる。いくつかあるピークは夏道が出ているが、そうでないところは腐れ雪。夏では危険箇所とされているヤセ尾根は夏道が出ていた。

天池〜油坂 … 晴天であれば特に危険はないが…。
桜はピーク過ぎたようだ
桜はピーク過ぎたようだ
ブナの木が美しい
ブナの木が美しい
1.4km地点
水飲み場
この人たちについていく
この人たちについていく
小屋まで2.4km
中の様子
カマンベールチーズパンに、照り焼きチキンと言う、下界では考えられないメタボ食
カマンベールチーズパンに、照り焼きチキンと言う、下界では考えられないメタボ食
御舎利山
分岐に着いた
石室、とても使い物にならない。スコップで掘れば別か?
石室、とても使い物にならない。スコップで掘れば別か?
別山神社
真っ白な世界です
1
真っ白な世界です
三角点タッチ
御前峰方向
カメラは真っ白だけど、肉眼では結構見えた、このときまでは。
カメラは真っ白だけど、肉眼では結構見えた、このときまでは。
滑落してから唯一残っていた映像。あとは、シャッターを押せなかったし、それどころじゃなかった。
4
滑落してから唯一残っていた映像。あとは、シャッターを押せなかったし、それどころじゃなかった。
一夜明けて、小屋の窓から別山が
2
一夜明けて、小屋の窓から別山が
命拾いしました。
命拾いしました。
小屋の外から
御前峰もキレイ
別山もほら!
小屋越しでは逆光
小屋越しでは逆光
加賀の山々
滑落したと思われる場所
5
滑落したと思われる場所
さぁ、行こう
足元が昨日よりもしっかりしていて歩きやすい
足元が昨日よりもしっかりしていて歩きやすい
こんな感じ
こんな感じ
こういうのが難所だった。姿勢を変えると激痛が走るので
こういうのが難所だった。姿勢を変えると激痛が走るので
まだ3分の1
御前峰キレイ
水飲み場まで戻ってこれた
水飲み場まで戻ってこれた
尾根から下りてもこんな道が続く
尾根から下りてもこんな道が続く
顔を洗いたいところだけど、かがむと痛いのでパス
顔を洗いたいところだけど、かがむと痛いのでパス
もう少し、この後から痛みがひどくなった。
もう少し、この後から痛みがひどくなった。
行動食、パンと牛乳とロキソニン
行動食、パンと牛乳とロキソニン
今日は良い天気
天気の良いときに来なきゃだね
天気の良いときに来なきゃだね
別当で向かう人のクルマ、ゲート前で停まってます
別当で向かう人のクルマ、ゲート前で停まってます
市ノ瀬に着きました
3
市ノ瀬に着きました
下山後のお楽しみはなし、御苦しみ処の病院
下山後のお楽しみはなし、御苦しみ処の病院

感想

●はじめに
山登りを始めたのは、2006年、今年で6年になる。
山登りをしていてヒヤッとしたことは何度もあったが、
今回は、本当に「九死に一生」を得た体験となった。
自分への戒めのためにも、と思い記録に残します。


●市ノ瀬〜チブリ尾根避難小屋
今日の天気は、雨。
ただ、明日には晴れマークもあり、それを期待しながら市ノ瀬へ着いたのは5時過ぎ。
別山から行って南竜まで行く、余裕があれば室堂へ(一応予約はしておいた)。
市ノ瀬〜チブリ尾根〜別山〜南竜〜南竜分岐〜黒ボコ〜室堂へ。
このルートは、昨年6月に行っているが、気になるのは油坂付近、
晴天だと何でもないが、荒天で視界が効かないと下りるべき谷筋を間違えてしまう。
分かっていて、その場で気づいたんですが、後の祭りだった…。

市ノ瀬を出発したのは5時30分。
さすがに市ノ瀬といえども、桜もピークを過ぎたようだ。

5時50分には、猿壁へ、ここからが本格的な登山道の始まり。
最初の1.4kmは夏道が出ているが、高度を上げていくにつれ次第に残雪混じりの道となった。

水飲場の辺りで、先行4人パーティーに追いつく。
この人たちとは、後にチブリ尾根でも行き会い、そのまま下山した人たち。
雪がついてきたので、アイゼンを装着。
雨もパラついているので、ザックカバーもした。
しばらく、この4人パーティーの後についていくこととした。
けれども、小さな沢のようになっているところを左に巻くように道はあるはずなのに、先行パーティーは右の斜面に登って藪漕ぎをしだす。
「その上に道はあってショートカットになるけど、皆さん元気だな。」
くらいにしか考えず、そのままついて行った。
夏道を2度ほど横断して藪漕ぎは続いて、一行は立ち止まった。
やはり迷っていたらしい。
「確か、左側に夏道があるはずですよ。」
と先導の方に言ってあげると、夏道に戻ることができた。
緩やかな道となりホッする。
夏道に戻れたところで、パーティーをやり過ごし、
チブリ尾根小屋までは、自分が先行していった。
要所、要所にある赤テープにトレース、
ここは同じ時季に何度か歩いた道。
その時の記憶とを重ねながら、特に迷うことなくチブリ尾根避難小屋へ。

●チブリ尾根避難小屋〜別山
チブリ尾根避難小屋は、ログハウス調の比較的新しい小屋。
水場がないのが難点だが、それを除けば景色も良く快適そう。
いつかは泊まってみたい。
(この時は、それが実現するとはつゆとも思わず)

そんなことを思いながら、小屋の中でちょっと遅い朝ごはん。
10時くらいになると、先ほどの方たちがやってきた。
ここで折り返すようだった。

自分はというと、ちょうど前日にこの小屋に泊まった人と思われる日記に目が留まり、南竜まで行くというようなことが書いてあった。
ということは、トレース(足跡)もついているだろうし、「これなら行けるかも」との期待を胸に、別山へ行くこととした。
御舎利山への登りは、無雪期でもキツイ登り。腐れ雪で足が取られて散々だった。
尾根に出ると風雨が強くなってきた。近くの石室で防寒仕様にチェンジ。
11時40分、別山に着いた。
当然視界はそんなに効かず、三角点タッチだけして、そそくさと先へ行くこととにした。

●別山〜油坂の手前(滑落地点)
別山分岐から最初、やや下る感じになるが、斜度がキツイので、
御舎利山の尾根伝いに歩いていく。
あとは、天池までは、何度かピークを越えていく。
吹き溜まっていて積雪が深いところ以外は、歩くのにはそれほどの支障はない雪の深さ、淡々と歩いていく。
ただ、腐れ雪で、アイゼン、ピッケルはあまり歯が立たない感じがした。
それでも、夏道で危険とされる、
2か所ほどあるヤセ尾根は夏道がしっかりと出ており、難儀はなかった。
先行2名のトレースもはっきりしており順調な足取りだった。

天池を過ぎてしばらくしてから、あれっと思うことに出くわす。
トレースが途切れたような感じがした。
今思えば引き返したのかもしれないが、
西側のハイマツの中に入って斜面を下りたように思えた。
油坂にしては、ちょっと早いのではないかなあと思いながらも、
周囲の視界は100mもあれば良い方で、
油坂を下りて南竜へ行く尾根も見えない状態だった。
晴天だったら、こういう迷いは一切ないのだが。

でも、方向としては、間違ってはいない。
例え尾根が違っていても谷筋へ下りて、
目の前に見える尾根に登り返せば南竜なのかな。
西側斜面をトラバースしながら、トレースを探したり、
向かいにあるはずの尾根を確認しようとしたが視界が効かず確認できない。

もう一度尾根に戻って、北の方の様子を見ようとそのまま斜面を下りていく。
あれ、樹木がたくさん斜面に生えている。
いろいろと迷った挙句、これは、間違ったルートだ。
だけど、もうちょっと様子を見ようと思った瞬間、体のバランスが崩れ、
ざざーっと勢いよく、斜面を滑り落ちた。

すかさずブレーキをかけようと滑落停止の姿勢を取った瞬間、
みるみる木の幹が近づいてきて、左胸に衝撃が走った。
あとは、ドサーッ、ドサーッ、ドサーッと木の枝にひっかかりながら、
木の枝の上で、何とか止まった。


●油坂の手前(滑落地点)にて
息ができないくらい胸が苦しくて、叫びながら息をすること数分間。

ようやく落ち着いて、まず自分の状態を把握する。
左胸に激痛で、息が思うようにできない。
ただし、右胸は打ち付けた覚えはないし、痛みはない。
足は、両足とも奇跡的に無傷だ。

魔が差したと言えばそれまでだけど、
一瞬にして、絶望のどん底に突き落とされたような感じだった。
でも、両足はピンピン。
胸に激痛があるけど、最悪右肺だけでも何とかなる(と思ってた)。

「絶対に生きて帰ろう」

そのために、この状態でしばらく考え、改めて辺りを見渡した。
谷へ下りて、南竜を目指そうか。
確かにあと1時間もすれば、南竜だけど、
どんな谷なのか確証がもてないし、
それでまた間違ったら、今度こそ、白山の自然に還らなければならない。
とりあえず、一旦ルートまで戻ってそれで判断しよう。
でも、一回でも、落ちたらおしまいだ。
両足で雪を念入りに念入りに蹴りこんで足場を確保しながら、
木の枝、竹のツル、あらゆるものをつかんで這い上がっていった。

胸の激痛はあったが、歩幅を小さく、段差を小さくすれば我慢できる。
でも、腐れ雪。
足がズボッとはまると、激痛が走って、目が真っ暗になる。
天池まで戻ると、5人組のパーティーに行き会う。
この人たち、南竜まで行くという。
最初ちょこちょこついて行こうと思った。
けど、とてもこの体ではついていけない。

歩いてきた道を戻り、チブリ尾根避難小屋まで行くこととした。
理由は以下の通り。

・無傷な5人組の方たちの後についていけないし見失いそう

・南竜まで行ったところで、翌日の行程を考えると難しい。
 砂防新道の状況が自分で歩いていないので分からない
 高所恐怖症の自分が、別当出合の踏板なしの吊り橋渡って、
 それからその後8kmの県道歩き、長すぎる、想像しただけでも●ねそう(笑)

・自分の容態が明日には悪化しているかもしれない

・チブリ尾根小屋なら夏道コースタイムでも3時間30分かかりしんどいけど、今自分の足で歩いてきた道、確実である

・明日、チブリ小屋からなら6km歩けば市ノ瀬へ下山できる
 救助要請をしたとしても、チブリ小屋は尾根上にあるのでヘリも来てくれる(と思う)

というわけで、行程は長く、独り歩きを強いられるものの、
よその人に迷惑を最小限に抑えることのできる手段として、
今歩いてきた道を戻り、翌日の選択肢が確実に増えると見込まれる、
チブリ尾根避難小屋を目指すこととした。



●油坂手前〜チブリ小屋

そこからは、2度と味わいたくない苦渋を強いられた。
心の中ではただ一つ「生きて帰る」

何度もピークを登り返して、腐れ雪にはまって悶絶しながら、
(絶対に生きて帰る、雪降ったって帰ってやる)
と心の中で考えていたら、雨が雪に変わり…。

(風が吹いたって、帰ってやる)
と心の中で考えていたら、西側斜面から強烈な風が吹き込んできた。
御舎利山周辺では、立っているのがやっとなくらい。

(んもー、例え話だ、ホントになるなー、バカヤロー)
想像していた最悪の事態が次々と現実になっていくことに歯がゆさを感じ始める。
もうヤケクソだ。

そのうちに、幻覚が襲った。
「ここで停滞してビバーク(野宿)しよう!、雪の上だけど着こんでいるし大丈夫だよね」
という思いがよぎって、雪面に膝をついて座る。
でも、数秒後には
「いやいやいやいや、ここで停まったら終わりだ」
と我に返り、再び足を進める、の繰り返し。

風に煽られたため外れてしまったザックカバーを付け直そうにもできない。
ザックの中の荷物は、すべてビニールに入れてある。
ザックが濡れたところで、水分を含んでほんのちょっと重くなるだけ。
中身の荷物(着替え)までは濡れる心配はない。
そして何よりも、ザックを下ろしたら最後。
再びザックを担ぐ自信がない。
歩いているだけでも痛みがあるのに、
ザックを持ち上げて担ぐなんて…想像するだけで痛い。

指先の感覚も薄れてきた。
グローブしていても冷たいだけ。
自分の指という感覚はすでにない。
ちょうど良いタイミングで外れたザックカバー
手に巻いて少しでも保温することとする。

分岐点から少しいったところにある、
先ほど防寒装備にチェンジした石室でのビバーク(野宿)
という選択肢もあったが、
石室自体、突風がダイレクトに吹き込むようになっていて、
雪も既に吹きたまっていて、とても凌げそうにない。

御舎利山からの下りの途中から、日がよどみだんだん薄暗くなってきた。
雨もきた。
雪もきた。
風もきた。
そして夜になった。
体は冷え切っている。
そして軽くはないケガも負っている。
時間が経つにつれて行動力が落ちてくるのが分かる。
そのうち、行動力だけでなく判断力も五感も鈍ってくる。
もう、ナントカのフルコース状態。

無情にも、現実はさらに厳しくなっていく。
目が夜の暗闇に慣れてくるスピードよりも、暗くなる方が早い。
積雪もあって、トレース(足あと)を見失いそうになる。
雪紋と、足あとの区別がつかない。
夜、吹雪で、視界の効かないところで道を一度でも見失ったら…戻ることは相当困難だ。
小屋の手前まで来て、緊張感は最高潮となる。

ここで諦めたら…
辿るべき道を間違えたら…命は確実にない。

「命がなくなるよりは」と意を決し、
ザックをおろしてヘッデンを装着。
そして、そのザックを担ぐ。

アオオオオオオオー(叫)
激痛もそうだけど、
肋骨がずれた感触、と音が何とも言えない。
自分の口から発したものとは思えない悲鳴をあげた。

さらに、この頃から幻覚があらわれる。
今思えば、低体温症の症状の一つだったのだろう。
まばたきをすると、
カメラのシャッターがおりるような、
古いブラウン管テレビのような見え方になった。
要するに、まばたきの動きと、実際の見え方とで時間差が発生するのだ。
目をつむってもしばらく残像が映り、
目を開いてもしばらく真っ暗なまま。

これは、絶対に立ち止まってはいけない。

ヘッデンでトレースを追いながら行く。
今、見えているものは本当なのか、常に疑ってかかる。

1時間弱だろうか、ようやくチブリ尾根避難小屋の建物が暗がりに浮き出てきた。
幻覚だろうか、いや違う! 命がつながった!
でも、喜びに浸る余裕なぞなかった。
とりあえず、危機の一つは脱した。


●チブリ尾根小屋
小屋はただ一人だった。
「貸し切りだ」と喜べるわけはないけど、気兼ねせずに済む。
とにかく暖を取ろう。

唇が震えてブルブル、結局2、3時間収まらなかった。

何とか着替えをする。
スキーウエアを持ってきたので着込む。
下は、部屋着用のパンツの上に、
しばらくして乾かしたレインウエアのズボンを履く。

アイゼン、破損していたのに今気づく。

融かして水を作るのに、雪が欲しかったが、とても出歩ける状態ではなく、
ふと見ると、ザックカバーの中に雪がたまっていた。
少し色がついていたが、この際構わない。
ほうじ茶ラテだと思って、泥の湯を3杯くらい作って飲んだ。
チョコレート、
はごろも甘みあっさりフルーツ
甘いもの、エネルギーになりそうなもの片っ端から口に入れる。

そうそう、忘れてはいけない。
ロキソニンを1錠飲んだ。

おにぎりをほおばると、胸の痛みが。
胃袋にものが入って膨らむと肋骨がずれて痛む。

バーナーは一番弱くして、暖房替わりにした。
あと、防虫のローソクも持ってきた4本全部使った。

問題は、寝る姿勢。
ザックを下にそーっと姿勢を倒して床に就いた。
エマージェンシーシートにくるむとそれなりにあったかい。
余りにも寒いので、シートの中でバーナーを弱めに炊いた。
シートが溶け出した(苦笑)
ロキソニンが効いてきたのか、痛みが少し和らいだ。

けど、夜中、ちょっと痛くて起きるのが嫌だ。
もう1錠飲むと、ようやく眠りにつくことができた。


●チブリ尾根小屋〜市ノ瀬

気が付いたら朝。
そーっと体を起こして窓の外を見ると別山が見えた。
何とも素晴らしい景色。
しばし、自分の置かれた状況を忘れさせてくれる。

おおっ、良い天気、良い景色、やったー!
イタタタタタ。
ああ、肋骨折れたんだった。

ロキソニンを1錠飲んで、
もうしばらくじっとしていることにする。
だいたい6時間くらいで切れるんだな、
あと1錠しかないので、大事に使わなきゃ。

薬が効いているとはいえ、痛みに耐えながら身支度をする。
結構時間がかかる。
元気でピンピンしていれば、小屋の掃除をするんだけどパス。
途中の行動食は、調理パン、牛乳、そしてロキソニン(笑)

小屋のドアを開けると目の前に、白山がどーんと構えていた。
今回は、ダメだったけど、今度こそ必ず。

「喉元過ぎればなんとやら」どころか、
まだ、喉通っている最中なのに。
我ながら懲りないヤツだと思う。

昨日滑落したと思われる場所を見えた。
やっぱり、違った斜面だったんだ。
あのまま下りたら、間違いなくニュースの人になる。

昨晩は思いっきり冷え込んだので、
幸いなことに雪が固まっている。
腐れ雪がカチカチになってくれて歩きやすい。

6時15分、チブリ小屋を出発。
段差や衝撃は激痛の元だし、
転倒なんてもってのほか、
なので慎重に足を運ぶ。
それにしても、
足元がしっかりしているので、
思ったよりもタンタンと行ける。
気温が上がって雪が緩まないうちに先を慎重に急ごう。

ただ、難所があった。
それは、木の枝。
姿勢をかがんだり、のけぞったりすることが一切できない。
手で払いのけようとすると、肋骨がずれる。
無傷の右側を斜め前にして、強引に突破する。
何でもないところが、大きな障害になった。

下山中、何人かの人たちと行き会った。
そのうち、ある女性の人とすれ違いしばし話をした。
白馬で6人が遭難とのこと、
あの天気だとかなり厳しかったのでは。
で、昨日の自分のことを話すと、
「なんか涙が出てきた」
ととても感激されて軽く抱擁。
けど、肋骨がずれて痛かった(笑)

この日は、10人以上の方とすれ違った。

猿壁に着いた。
市ノ瀬まであと1km。
その前から、ロキソニンの効き目が切れかかってきたのか、
痛みがひどくなってきた。
ここで、行動食。

10時、市ノ瀬についた。

駐車場で、ビジターセンターの人と話した。
「大丈夫ですかぁー」と明るい声で言われたが、
大丈夫なワケがない!(笑)
こうして悪態をつけることができただけでうれしい。


●下山後
左腕は動かすと痛みが残るので、
右腕だけでハンドル握って市ノ瀬から70km離れた病院へ。

さすがに温泉は行かなかった(笑)

ただ、今日はこどもの日でどこも休み。
実家近くの大きな病院では、専門の先生がいない。
「頭打っているかも知れないし、脳外科の先生がいないので」
と、とんでもなく遠いところを案内されそうに、軽く診療拒否された(笑)

「あっそうだ、県中がある」
県中こと、石川県立中央病院には、救命救急センターがある。
(石川県内には2か所しかない)

救急外来へ駆け込む。
レントゲンを撮った結果を告げられる。
先生「肋骨が5本が折れてます。」
はぁ、そうですか。5本と言われてもね…。
自分「あのー、そもそも肋骨って何本あるんですか?」
12本もあるらしい、妙に感心する。

「あと、右の鎖骨も折れています」とも。
「ええ、そうなの?!」
と右の肩を回そうとしたら「やめた方がいいです」と言われた。

てっきり入院かと思いきや、
シップ張って、バストバンドを巻かれて帰されました。
「明日もう一度、救急外来に来てください」と。

体を支える足や、細かい機能を果たす手と違って、
肋骨は包むだけなので固定だけで良いのだとか。
自分の場合、24時間以上経過していても、
気胸や血腫もほとんどなく、
その辺りは経過観察ということに。

念のため、翌日もレントゲン撮って、
気胸や血腫の進行がないことを確認。

CT撮ってよくよく見てもらったら…先生から
「shirayamaさんすいません。折れたのは、5本じゃなくて7本でした」

今さら1本、2本増えたところでどうでもいい話。

「鎖骨は無事でした」
胸の痛みで、鎖骨の痛みが和らいでいたと思ったがそういうことか。

「走ったりはできませんよ」とも言われたけど、
とてもとても走るどころではない。
というか、心なしか息苦しい。

まあ、プロが言うんだから「きっと、大したことないんだ」
と自分に言い聞かせ、結局、京都まで運転して帰った。
翌日から仕事…、大丈夫か?!(笑)

家に戻ってニュースを見ると、
あの日、北アルプスでは遭難が相次いだらしい。
ひとたび天候が急変すると、冬山になってしまう。
犠牲となった人たちは、いずれも低体温症とのこと。
一歩間違えば、自分もそのニュースの人になってたかも知れない。
こうして生きて帰ってこれて感謝したいと思う。

【5月9日追記】
●入院しちゃいました

石川県立中央病院で紹介状を発行してもらい、京都のかかりつけの病院へ。

その病院の関係者とは仕事上のお付き合いもあったので、
「しんどいので、こうなったら頼み込んで入院させてもらおう」
と考えて病院へ。しかし、自分が考えていたより重傷だった。

肋骨多発骨折のほかに、肺挫傷、肺血腫が新たに見つかりました。

「念のため、血液検査しましょう」
なんでやろ?と思いながら受けて結果が出て…

「CPKという、炎症をあらわす項目がありまして…
 1000超えれば入院していただくことになりますが、
 shirayamaさん、1854ありました」
つまるところ、頼み込むまでもなく「即入院」となりました。

心なしか息苦しいと思っていたのは、
心なしではなく、実際に息苦しかったらしく。
酸素飽和度を測ったら、
「今までよく立っていられましたね。
 いつ失神してもおかしくないですよ」
と言われ、その場で酸素吸入開始。

自分「あのー、荷物取りに家に戻って…」
間髪入れずに看護師さん「ダメです!」

1週間程度で、退院できる見通しだそうです。

【8月18日追記】
1週間程度と思われた入院、肺のダメージが思っていたよりも大きく、結局2週間になりました。

酸素吸入のほかに、心電図モニターも付けられました。

このモニターがやっかいなのが、電波の範囲が狭くて、
トイレに行ったり、売店に行こうものなら電波が途切れて、
「ちょこちょこ出歩かないで下さい」と注意される始末・・・。

長い長いゴールデンウイークになりました。

退院翌週から仕事復帰。

マジックハンドを使ってたりしていましたが、
それも徐々に慣れてきて、
日常生活はほぼ支障がない状態に。
ただ、つい最近まで寝返りが打てないのが辛かった。

7月28日、リハビリ登山第一弾として、武奈ヶ岳へ。
真夏の低山はかなりのダメージでした。
おかげで熱中症から、夏風邪に移行しグダグダ生活に。

治りかけた8月16日、船窪小屋へ七倉尾根ピストンで登山。
無事に下山する。

リハビリ終了かな?

【事故現場検証編】
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-292727.html

【そしてまさかのご対面編?】
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-606666.html

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コメント

帰ってこれて、よかったです
生きて帰ってこれて、ほんとによかったです!!
白馬での遭難が報道されたばかりなので、読んでいて、ドキドキしました。
お身体、お大事になさってください。
2012/5/6 23:18
shirayamaさん、よかったですね!
大変!というか、月並みな言葉で恐縮ですが、
本当に助かってよかったですね!!!

私もちょうど4年前の5月4日に、
東京から大峰山に遠征して、下りで転倒、
背中側の肋骨を1本(だけですが)折りました。

翌々日に病院の救急を訪ねて骨折と判明、
shirayamaさんと同じように肋骨の場合には
痛み止めとサポーターしかくれないので
大変驚いたのを覚えています。

それにしてもshirayamaさんの場合は雪山の悪天候、
状況も違いますし、何といっても7本
寝返りのひとつもできず、
1本でも厳しいあの痛みと比べたら・・・
今日レコを書かれていること自体、驚愕です。

当分くしゃみをすると激痛が走ると思いますが、
早く治られることをお祈りしております。
どうかお大事になさってください。
2012/5/6 23:34
ご無事の生還なによりです
shirayamaさん

本当によかったですね、無事帰ってこれて

避難小屋とはいえお独りでしかも激痛に耐えての一晩はさぞ苦しかったことと推察します。

レコ読んで涙出そうになりましたよ

いざというときの非常食、エマージェンシーキット、薬...さすがですね、自分も見習おうと思いました。

これで山止めるなんていわないでくださいね、今年も一緒に船窪小屋へ行きましょう
2012/5/7 9:11
Norizoさん
Norizoさん、こんにちは。
白馬岳の遭難は、納得です。
別山付近でさえ、ブリザードでしたので、
過酷な状況だったでしょう。
しかも、あの軽装ではひとたまりもなかったと思います。
春山は、天気が良い時は、夏山並みに暑く、天気が崩れると氷点下の冬山ですもんね!
こうしてレスができて良かったです。
コメントありがとうございました!!
2012/5/7 14:53
Yamahiroさん
Yamahiroさん、こんにちは。
大峰山もなかなか傾斜が急で、しかも木の根っこの階段状で、下山の疲れている時は、足を取られやすいですね。
そうそう、咳とくしゃみはまだないし、しないようにマスクしてます。
絶対にしたくはないです
コメントありがとうございました!!
2012/5/7 15:19
sakura0725さん
kura0725さん、こんにちは。

いえいえ、お恥ずかしい限りです。
結局、京都で入院となりました。
CPK の値が桁違いらしく、肺が損傷し始めたみたいです。

来年は、現場検証せないかんと思っています
2012/5/7 15:39
兎に角、このレコを見たので一言
shirayamaさん、こんにちは〜

よくぞ生還されました
強い気持ちを持っての結果だと思います

痛い結果にはなりましたが、この経験は必ず後に活きますよ

これに懲りず、早い復帰を願っております
大変お疲れ様でした
2012/5/7 16:00
komorebiさん
Komorebiさん、こんにちは。

よく諦めないことが第一といろんなところで読んだり見たりしましたが、大いに実感しました。

悪運強く生還しましたが、
また、行ってみたいと思います。

コメントありがとうございました!!
2012/5/8 10:11
shirayamaさんこんにちは。
京都の方だったんですね。私も3月に木曽駒で滑落しました。幸い奇跡的に足首の捻挫ですみましたが、滑落途中、谷底へ向かっている時はもうお陀仏だと思いました。こんなに簡単に人の一生は終わるんやと、こんなに簡単にその日が来るんやと思いました。偶然谷への急傾斜手前2mのところでアイゼンの爪が引っ掛かり停止出来ました。今思い出しても足が震えます。滑落経験はとても大切!練習では絶対経験できません。特に氷の斜面はどうすることも出来ないです。お互い素晴らしい経験の元、安全登山目指しましょう。最後になりますが、お体くれぐれもお大事に!!!
2012/5/8 17:56
HIDENORI-Tさん
HIDENORI-Tさん、こんばんは。
落ちる最中、自分も「ああ、ダメだぁ!!」と思いましたし、
やはり、避難小屋までの間も、死を感じてました。
「ここで止まったら御陀仏」
手先の感覚が薄れ、アゴをガクガクさせながら、
胸の痛みを抱えながら、
歩いているときの不安と、それでも生きて還ろうという意思が交錯してました。

今回のことで、やはり登山自体は危険なものだし、
危険から逃れることはできないからこそ、
危険を想定して適切に備えるとともに、
その場の判断が大事だなあと改めて思いました。

そういう意味では、命を懸けた教訓になったと思いました。

今こうしてレスできることに感謝して、
一日も早く復帰したいです。

コメントありがとうございました!!
2012/5/9 21:18
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