6歳児とゆく美しきものばかりの笹子雁ヶ腹摺山
- GPS
- 07:04
- 距離
- 11.2km
- 登り
- 846m
- 下り
- 841m
コースタイム
天候 | 曇りのち快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年11月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車
かえり:JR甲斐大和駅 |
コース状況/ 危険箇所等 |
笹子側登山口から山頂まで、山頂から笹子峠までのうち尾根道のところ以外は危険箇所なし。台風の影響も感じなかった。 山頂・笹子峠間の尾根道はやせ気味でやや荒れていた。人があまり通らない? 足を踏み外さないように歩く必要がある。 笹子峠から旧甲州街道をくだる道は台風の影響かルートが変わっているところや踏み跡の見えないところ多数、道しるべやサインはほとんどなし。その意味では、とても歩きづらい。車道と並行なのでコースアウトしても山中に迷うことはないけれど、タイムロスしがち |
その他周辺情報 | JR勝沼ぶどう郷駅→天空の湯 |
写真
感想
前回の息子との山行は、想像を絶する大失敗だった。
時間の読みをミスり完全日没、怖がって泣く息子の手を引いて視界ゼロの暗闇の中を20分も歩くという、死んでも山歩きしないマンをひとり生み出しかねない失態。
そんなわけで、今後息子を山に連れていくべきなのかどうか、この一週間ずっと悩んでいた。そもそも息子は山登りなんて楽しんでいるのかどうかすらおぼつかない。父親のエゴで山を強制しているとしたら最悪だ、どこの虐待マンだよ。
金曜日になって、息子におそるおそる聞いてみる。あした、どうしよう、山にいく?
予想していたよりもずっと朗らかな声で「うん!」と返されてしまった。わかった、それなら全身全霊で用意するよ、明日は早起きだからね。
かくして当日、5:50からおにぎりを握る。定番のカツオ梅と、息子のハートを射止めるべく新開発した「具入りラー油醤油おかか」。息子が愛してやまない「さけるチーズとうがらし味」もある、ぬかりはない。
7:00出発の予定を、寒くて布団から出たくない息子に忖度して7:30に変更し山梨方面に向かう電車に飛び乗った。この時点では、まだ行き先は未定。いくつか候補を出して、息子のこころが動いた山にしよう。
今日は少し楽なちいさい山にしよう、という息子に対し、小さな山の候補を持っていない父。下山後の温泉、をメインテーマとしてプレゼンをさせていただいた結果、笹子雁ヶ腹摺山に登ることに決定した。
天気予報が晴れの週末、JR高尾駅を朝出発する電車は、ハイカーたちで満杯である。座れなかった息子がブーブー言うが、相模湖か藤野までだから大丈夫だよ、と伝えてなだめる。実際、相模湖から座ることができたのだった。
上野原や鳥沢、猿橋でぱらぱらとハイカーたちは降りてゆき、大月でどっと降りた。大月を甲府方面に越えてゆくハイカーはみなさまガチの雰囲気でいらっしゃる。
駅を出ると、これが相当寒い。天気予報は晴れということだったが濃い曇りで日差し皆無、息子からなんでこんな寒いところに連れてきたのかというクレームを食らう。自販機のふかひれスープでご納得いただいた。ふたりともジャンパーをはおる。
JR笹子駅から登山口まで、国道20号線を2キロほど歩く。民家の軒先の見事に実をつけたピラカンサに魅了され、ガードレールや滑り止め砂入れに堅牢な巣をつくるクモさんに感動し、そして「どうしてもうんちがしたい」
いや、ふつうに困る。駅のトイレで出たのはシッコだけだったか、そうか……。大衆食堂しらかばさんのトイレを貸していただく。次回きちんと訪れよう。
早く土の道に行こうよ、とさんざん急かしながらも全然進まない2キロを終えて、やっとたどりつく登山口。わかりやすく、きれいに整備されている。
入り口のところに、真っ赤に実ったマムシグサの実があった。引っ張ったところ地下茎を残して茎ごとすぽんと取れたので、実のところをカットして息子に渡す。しかし息子は「先端にきれいな赤がついたまだらの棒」がほしかった、つまりカットは余計だったという。しかたないので茎もトリミングして渡す。
序盤は、杉林のなかを沢づたいに稜線目がけてジグザグに登る。なかなかの斜度だけれど道はかなりきれい。
台風の影響はあまり見られないけれど、前回高畑山でよく見た、水流で土が削られて石とその下の土だけが残った状態、息子いうところのイシタケがたくさんあった。
息子の説によると、イシタケは「とったひとがなーんだこんなのたべられないってじめんにすてるでしょ、そのときにほうしをばらまくの」 予想外にリアルな設定である。
イシタケ採取に熱を入れる息子を、そんなんじゃ温泉入れなくなるよ、と急かして進ませる。しかし彼のストックがわりにしているマムシグサが軟弱で、転びそうになるなどして進みを悪くしている。というか草をストックにするなよ。
しばらくして手がかゆいと言い出す息子、あっそりゃそうかマムシグサはシュウ酸カルシウムの塊だ。ウェットティッシュでよくふいて、まだらの杖(軟弱)をあきらめてもらう。
稜線に出ると、冬のような寒さ。ここで息子はふかひれスープを飲む。とろとろで!おいしい! かなり気に入った模様。でも中国料理店でオーダーしないでね、缶のならパパ買うから。あとひとくちもらえ……ないですね、ですよねー。
ここからは尾根道、ジグザグ急登とゆるやかなところを繰り返しながら進む。カシワの枯木に美味しそうなキノコが生えていた。食べられたらなーと思っていたら息子に「やめておけ」的なことを言われる。
12時を回ったあたりで息子がおなかをすかせたのでおにぎりタイムとする。特製・具入りラー油おかかおにぎりは高評価を得たようだ。大きめのおにぎりを3つ、一気に平らげてくれた。いつしか雲はすっかり晴れている。
ゆるやかな尾根のところで、山びこが見事に返ってくるポイントを発見。渾身の力をこめてヤッホーを叫びまくる息子さん。これは楽しい、思うぞんぶんヤッホーしていこうね。
赤や黄に色づいた木々の中を登ってゆく。陽射しがあたたかく、尾根を通り抜ける風が心地よい。1188ピークを過ぎると、最後の急斜面だ。
ジグザグにゆっくり、確実に高度をあげてゆく。あともう少し……というところで落ち葉あそびにハマる息子さん。君はあともう少しってところでなんで毎回遊んじゃうの? 「おんせんいけなくなるよ」の呪文をとなえて再起動する。
謎の大看板を発見し、息子のテンションが無事に上がる。何かの施設かも? いやいやふるいかんばんだよ、なんて話しながら後ろを振り返ると……
見事な富士山!!
さあ、最後だがんばれ。落ち葉に足をとられて「えへーころんじゃった☆」とかやんなくていいから進んでよー!
そして斜面がゆるやかになって、ついに……
笹子雁ヶ腹摺山の頂上!!
午前の濃密な曇りからは想像もつかない、見事な青空。そして木々の切れ間からのぞく、富士山。秀麗富嶽十二景は6座目だけれど、秀麗に見えたのはこれが初めてだ。
今日もごほうびはコーラ、そしてさけるチーズ。山頂で富士山を眺めながらいただくナンバーワンドリンクとナンバーワンフード(※息子にとって)はさぞかし最高だろう。
標高は1358m、高いところから登った大菩薩嶺を除けば今まででいちばん高い山だ。すごいな息子。
雁ヶ腹摺っていう名前は、ガンという渡り鳥がおなかをこすっちゃうくらい高い山って意味だよ、と伝えると、おお! ってなる息子。保育園の運動会で使ったアレキサンドロス「ワタリドリ」をいっしょに歌う。ちなみに、笹子にあるから笹子雁ヶ腹摺山、ほかに雁ヶ腹摺山と牛奥ノ雁ヶ腹摺山があるんだぜ。
さあ、今回は絶対に温泉に入らなくては。遅くならないうちに山をおりていこう。目指すは甲斐大和駅、ひと駅むこうにある「天空の湯」に向かうのだ。
お坊山経由は時間的に無理。甲斐大和の道の駅におりるルートがあるみたいだけどバリエーションの香りがする。先週に引き続き遭難寸前、というのはありえない。笹子峠から旧甲州街道を下ろう。
山頂直下は、登りと同様に急斜面。しかしきれいなジグザグ道がつけてあるのでまったく怖くない。斜度がやわらいでからも、段がきちんとつけてあったりしてとても歩きやすい。
分かれ道に出た。昔からの尾根道と、新しい巻き道があるようだ。そりゃもちろん尾根道だよねー。
と選んだ道は、けっこうハード。右手方向が常に鋭く切れ落ちていて、かついくつかのピークを越えて進む。こちらを選ぶ人はあまり多くないようで、落ち葉が積もっている。こりゃ気をつけないと……! ちなみに「なんでこんな道を選んだのか」と息子さんにクレームいただきました。ですよねー。
幾度めかのピークを過ぎるころ、息子はすっかり木こりになっていた。短く持った斧(※やや腐った枝)でこんこんとさまざまな木の幹を叩いて進む。だがあらゆる木に各駅停車するのでぜんぜん進まない。おーい温泉……
尾根道はスリル満点だけれど、小刻みなピークは味があり、景色もよく、紅葉と秋風を満喫できた。もう一度書いておくが、スリル満点だけれど。木を空振った木こりが落ちていかないように気を張ったけれど。
巻き道と再合流すると、そこからはとても歩きやすい道。尾根道はルートミスだったのでは? という考えは山に置いていこう。
そして笹子峠らしき場所に出る。尾根からくだる方向に日置集落を経て甲斐大和駅とのサイン……あれ、でも笹子峠はあっち、みたいなことも書いてある。地図でみると笹子峠の手前らしい。まあいいか、ここから降りよう。
しかしこの道、落ち葉にうもれて踏み跡は見えず、道筋も分かれていてどれを進めばいいかまったくわからない。車道がそばにあるので適当に進むけど、やや難儀する。ところどころ強引に斜面をおりて、車道にたどりつく。
笹子隧道をくぐる、国道20号の旧道。並行して旧甲州街道の山道がある。
古く立派なレリーフのある笹子隧道はまっすぐ長く、そして暗い。ちょっと見ていこうよ、と息子がいう。あ、怖くないんだね。いいよ、記念写真撮ろうね。
少し中に入ってふたりでワーなんて言って遊んでいたところ、火がついたように息子が走り出す。車道から旧甲州街道に入ってもスピードを緩めず、全速力で走る。どうしたの、と聞いたら
こ わ い
待って待って、なんか変なもん見たの!?!?
走りながら話をきくと、いきなり音楽が鳴ったりしたらびっくりするから怖い、といったことの模様。矢のささったおさむらいを見かけたとかではないようで、本当によかった。
トンネルから下の旧甲州街道はきちんとした道で勾配もゆるいので、温泉に入りたい息子は特急と化して猛スピードで駆け下りてゆく。
しかし台風のせいなのか、道がところどころルートを変えており、沢を渡るところや新しい橋を通るところなど、道しるべなしでルートを探り当てなければならないところが多い。
ふと気づくと土手の下に新しい橋があり、道はそちらに続いている。半ばずり落ちながら斜面をおりる。この時期に息子を水没させるわけにはいかないので、手をつないで慎重に。
やがて旧甲州街道は車道と重なる。ヘアピンカーブにはだいたいショートカットの踏み跡があった。我々と同じようにでっかいイノシシがショートカットして走り下りて行った。見逃した息子は地団駄をふんでいた。
道端には大きな白いキノコの群生。あとで調べたらどうやらハイイロシメジ、美味だが人によっては中毒するので食毒不明扱い。もちろん食べるのは遠慮しておく。
息子は山登り恒例のコガネムシ&ザトウムシセットをアスファルト上で捕まえる。あーんひっくりかえっちゃった、かわいそうだからもどそう、よかったねあんしんだねー、なんて語り合いながらとてもゆっくり歩いている。ねー温泉いけなくなるよ……
すると息子、か弱い声で、「おんせん、いける? だめかな?」と言う。かわいい。オーケー、急ごう。コガネさんザトウさんはバイバイしよう。
森のはしっこで彼らとお別れしたら、早足で甲斐大和駅へ。耳がさむい息子は両手でおさえながら、手をつなげないからひじをもってねとお願いしてくる。かわいい。しかし甲斐大和への最速のルートを携帯で調べる父、なんでてをはなすの! と怒る息子。それは許してくれよ。
急いで急いだ結果、無事に列車到着の5分前に甲斐大和駅に到着。だがロータリーで地元の方々がほうとうやそばだんご汁、地ワインやぶどうジュースを売っている!
フードは無理でもジュース(とワイン)をいただこう。屋台のみなさんはとても優しく、これで最後だから好きなだけ飲んで、と言ってくれた。ギリギリまでジュース(とワイン)を注ぎ続け、よかったら注いで持ってって! という声に甘えてジュース(とワイン)を片手に電車に飛び乗った。
向かいの席に座った方が、雁ヶ腹摺に登ったの? と話しかけてくれた。意気揚々にうん! と答える息子。山梨は人々が優しいのだ。
となりの勝沼ぶどう郷駅で降り、タクシーで天空の湯へ。露天風呂では甲府盆地の夜景が眼下に広がっていた。なんて美しい!
無数の光のなかから、あの光はオムレツみたいだね、信号が赤から青になったよ、パトカーがとまってるね、と、いろいろな光を見つけ出す息子。ひとつひとつが誰かの光なんだね、としみじみ語り合った。
前回のひどすぎる山行とうってかわって、美しいものにたくさん出会うことができた。なにより、10時から17時までずっと歩き続けた息子の根性に感謝。またこんな素敵な冒険、一緒にしようね。
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