御嶽・濁河川兵衛谷シン谷


- GPS
- 56:00
- 距離
- 27.3km
- 登り
- 2,548m
- 下り
- 1,422m
コースタイム
7月21日:発(7:00)→天場着(14:00)
7月22日:発(6:00)→賽の河原(11:30)→剣ヶ峰(12:30)→濁河温泉着(16:15)
アクセス | |
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ファイル |
(更新時刻:2018/07/04 10:13)
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写真
感想
御嶽・濁河川兵衛谷シン谷(にごりごがわ・ひょうえだに)
【年月日】2001/7/20-22
【メンバ】松原憲彦(90年入部) 独り
【記 録】
原始的風情の長大な渓谷を歩くのが好きだ。三千メートルのこの古くからの名蜂に、これほどの素晴らしいラインから登路を得られるなんて、いささか信じ難い。しかもこの殊玉の渓谷は、驚くなかれ我が岐阜県に流下するのだ。特別に難し過ぎる所も無く、さりとて弛みというものも無い、厳立(がんだて)から剣ヶ峰までの、標島差2400m、流程19キロにも及ぶ、規模的には台湾の渓谷にも劣らぬこの渓谷を、一人でも多くの人達に体感してもらえんことを切に望む。
●7月20日(晴れ)・入渓・熔岩奇岩、出口無しの釜
4時半起きの5時半蕨生(わらび・自宅)発。途中雨がぱらつくものの、飛騨路に入る頃にはすっかりと晴れ渡る。二時間ちょいで、厳立に到着。四阿にガチャガチャと身支度する一団有り。聞けば何と!名古屋ACCパーティーでした。会報の写真で覚えの有るお顔が見えたので、会報文通りに暗唱したら、受けた。藤原氏とも話した。 8時半、いよいよ入渓する。清冽な水が、朝の日射しを反射させて歓迎してくれる。途中から先行させてもらい、ずんずん進む。ずんずん浸かる。たまに泳ぐ。左岸から湧き水が滝となって流れ落ち、喉を鳴らして飲む飲む。予想に反して大渓谷の風情は感じられないが、空水木の雰囲気は上々だ。ナメの後両岸迫り、泳いだ先の二段3mの斜滝は面白い対処で越える。下部ハイライトのこの通過は、ちょっとした増水でも難しくなろう。一の谷を滝で合わせて暫くの河原歩きで、二週間前に見覚えの有る吊り橋、そして二俣にあっけなく着いてしまう。その際に積んでおいたケルンを確認後、右の兵衛谷へ。
二俣より暫くは気を抜ける。捲く事なくどんどん泳ぎ、漬かる。曲滝はアクセントとなる写真映えのする滝で、捲道には濃い人の跡を見る。この上の短いゴルジュは無遠慮に残置ロープを利用して越える。そうした先に、えぐられた黒い溶岩側壁が現れ、深い釜の先の流れは左に折れて消えている。ためらうことなく釜を泳いで黒いゴルジュの奥を覗けば、淵はクキッと曲がって玄武岩が独特の景観を生み出している。水を踊らせる滝、小ピナクル、まあるいお釜のプール、熔岩トンネル、締めくくりにはターザンでも登場しそうなワイドな15m滝と、兵衛谷の一つのハイライトを成している。
一旦開けるも、再び玄武岩の黒い岩床帯が現れ、水を滑らす。行き着いた先には、これまた珍奇な天然の造形物である「出ロ無しの釜」を見せてくれる。その釜に落ちる斜滝が水面を波立たせているのとは対照的に、仕切の外側はしんと静まり底からの水が穏やかに盛り上がる。しかし、珍しい。じきに現れる場違いな取水口を越えると、水量を復活させ元気を取り戻した川は、豊富な流木や砂地まで用意してくれた。時間は15時と早いが、この河原にてザックを降ろす。白山で痛めた左足が痛む。明るいうちから豪勢な焚き火をして、軽量化と称して酒を沢山飲んだ。
●7月21(晴れ時々曇り)・奇岩、龍の橋
たっぷり眠った。7時発。黒い幅広のナメ滝が連続する。一度、左へつりにしくじりドボン浸かって目を覚ます。以前成瀬氏骨折の滝は多量の水を吐き、その飛沫に独り震える。ギリギリに捲いて暫くでまたしても20mの、先程より一層豪華な滝が朝の陽射しを斜めに切り取って、立つ。ありのままの水量の滝の姿に、しばし見惚れる。これは上手く捲けた。赤茶ナメ、白茶ナメに続く5mハング滝から再び玄武岩帯の様相を呈する。そしてついに真打ち、熔岩ブリッジのお出ましと相成った。御嶽山の地底深くに住む龍が地上に頭をもたげ、再び地下へと潜る最中に凝固してしまった、そんな風情の、数珠を潰して繋いだような石橋である。嵌入した玄武岩が、水の浸食から取り残されたのか? そこいらへんは地質屋さんにでも講釈願いたい。ここまでくるともう兵衛谷は、無料の自然史博物館だ。この天然記念物級の、龍の首に乗っかってパンを囓る。小岩塔も有り、滝上は右岸黒色左岸白色の岩と、実に面白いモノを造ったものよ、地球も。
次の15m滝で嫌な思いをして捲き上がり、後はひたすらにナメとナメ滝が続く。ここまで来ると続麗なナメ滝にゃ感激も失せて飽きがくる程で、全く驚沢な話だ。左脚をかばいつつ、ようよう材木滝に到着する。隣の本谷の濁滝に呼応するかのように似通った形状の幅広滝だ。材木滝の上流で橋が渡るが、有り難いことにこれは心情を害するようなよくある代物ではなく、引き続き自然な気持ちの流れに沿って遡行を続行できる。両岸はすっかりと開け、ゴーロが目立ってくる。標島1800m辺りの右岸に「泊まってけ」と言わんばかりの砂地を見つけ、14時と早いが脚も痛むし、ここまでとする。早々に焚き火を始め、早々と酔っ払う。豊富な流木が有るのをいいことに、近づけぬ程の焚き火をひとり盛大に楽しむ。これだから御嶽の沢は良い。
●7月22日(晴れのち曇り)・賽の河原へ
早くに起きてしまう。暗くからのんびりと朝の時間を楽しむ。コーヒーを三杯飲んだ。6時発、昨日偵察済みの滝は右手から軽く捲き暫くで25m程の滝を落として分ける尺ナンゾ谷出合に着く。左に曲がった本谷には、石灰華を左岸壁に垂らす40mの滝が掛かるも、こちらの方がむしろ水量が少ない。依って、このパノラマ滝と呼ばれる大滝も些か迫力に欠ける。おまけにこの登れぬ滝の右岸には、先人によってご丁寧にも残置されたロープが張られている。それでも微妙な所がワンポイントある。尺ナンゾ谷を分けた兵衛谷は「シン谷」と名を替えるようで、地図で見るシン谷は大層なゴルジュの険谷を想像させる。が、さにあらず。実際には谷幅広く、U字型の谷の両岸壁高くに露出する岩が地図に記号となって表れているだけのようだ。その谷中には名の付いた大滝か幾つか掛かるが、対処にさほどの労苦はない。神津滝手前の名も無いゴルジュ滝はつるつるで手が出ず、きっちりと捲かされる。滝上右岸には、摩利支天から連なる尾根末端の熔岩塊がモンスターのように迫る。
湧き水を幾つか拾い飲み、高度を上げていく。じわりじわりと谷底から沸き上がったガスと、カラスの不気味な鳴き声とが相俟って、賽の河原が近いことを予感す。火山特有の色とりどりの熔岩に目をチカチカさせて7m滝を越えると(これが日本最高所の滝とも言われる)、意外にも傾斜を無くした穏やかな流れと一面のお花畑とが展開した。急ぐこともないので、ザックを枕に寝っ転がって一服してゆく。行き着いた源流である平坦な賽の河原には、その名にふさわしい宗教的モニュマンがそこかしこに建っており、独特の一景観を成している。空身でお鉢を廻る。人で溢れた剣ヶ峰に気抜けして、感慨も無く、脚を引きずって下山した。降りた濁河温泉では親切な夫婦に声を掛けられ、御厚意に甘えて巌立まで乗っけてもらう。帰途いただいた、真っ赤に熟れたトマトの色と味とが忘れられない。また、パノラマラインから御嶽山のその膨大な山体を観るにつけ、我が身の小ささ加減を思い知った。遊び尽くすには、それは大きなおおきな遊園地だ。
下山連絡して見れば、何と!兵衛谷にて遭難死の報が新聞紙上に載ったと米山氏は言う。秋に頸城の不動川で偶然再会した名古屋ACCの方の情報によれば、どうやら私は迷い込んだ登山者の遺体の脇を知らずに通り過ぎたようである、と後に知った。
(松原憲彦・記)
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