記録ID: 4692535
全員に公開
沢登り
日高山脈
シュンベツ川下部〜シュンベツ岳西面直登沢〜カムイエクウチカウシ沢左股左沢
2022年09月11日(日) ~
2022年09月16日(金)
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- GPS
- 128:00
- 距離
- 68.2km
- 登り
- 3,350m
- 下り
- 2,939m
コースタイム
数年前、Google Earthで日高の直登沢を観察していたとき、壮絶なゴルジュと岩壁を持つ沢があることに気付いた。それがカムエク北にあるシュンベツ岳(地理院地図ではピーク名は記されていない)の西面直登沢だ。この沢は遡行記録が見当たらず、未踏のまま残されているようだ。それからずっとこの沢が気になっていたが、シュンベツ川という日高でも特に山深い奥地にあるということから行く機会が訪れないでいた。今回、今年で北海道を離れる井上からのリクエストもあり、シュンベツ川下流から大函を礼儀正しく遡行し、そのシュンベツ岳西面直登沢へいよいよ行くこととなった。そして折角シュンベツ川に入るので、日高を代表する難渓、カムイエクウチカウシ沢も遡行してしまおうという話になる。メンバーは昨年神威南東面とルベツネ西面と同じ3人。
9/11 晴 林道始点(7:15)入渓(13:30)C1(16:30)
前日に札内ヒュッテに集合しC0。成田カーを下山地点の札内ヒュッテにデポし、竹中カーでシュンベツ川へ向かう。8月の豪雨でシュンベツ川の林道は崩壊しており、林道入り口でまさかの通行止め。28kmの林道歩きからのスタートとなった。5時間の林道歩きをルームの人間にしては珍しく談笑しながらこなし、林道終点まで。ここ数日はまとまった降雨は無かったはずなのに、上から見下ろすシュンベツ川は灰色に濁流している。一同気色悪さを感じつつも、とりあえず入渓。水はかなり濁っており、浅いところでも川底が全く見えない。また、川底には泥が堆積している。水流も心なしか強い気がして、先行きに不安を感じるがとりあえず進められるところまで進むことにする。側壁の植生の削られ方を見ると、8月の豪雨時には7mくらい水位が上昇していたようだ。膝〜腿渡渉を繰り返し大函入り口まで行くが、右岸から左岸に渡渉するところが激流となっており渡るのが困難。右岸を捲いて見るが右岸のその先は側壁が切り立っており行き詰まりそう。とりあえず今日は少し戻り、右岸の少し上がった平坦地で泊まる。
9/12 晴 C1(6:30)大函終了(8:30)シュンベツ西面出合(15:30)=C2
昨日行き詰ったところは、木をアンカーにザイルを引っ掛けて掴みながら何とか渡渉。やはり水量多めな気がするし、水が濁りすぎで気持ち悪く中を行く気に到底なれないので、左岸をほとんど捲きながら進む。何のために28kmの林道を歩いたのだろうか……。左岸を15m程上がるとかなり歩きやすいので、あっという間に大函終了。あとはひたすら河原歩き。時折側壁斜面が大崩壊しており、豪雨のすさまじさを感じた。鹿止内沢出合から一気に沢が開け、気持ちの良い河原となる。薪が無限にあり泊まりたい欲求に駆られるが、我慢して進む。カムエク沢出合を過ぎ、簡単な函と小滝をいくつか越えてシュンベツ西面出合に到着。シュンベツ川本流側に少し登った左岸テラスでC2。
9/13 晴→雨→晴 C2(5:30)Co1320大滝上(15:30)Co1480(16:15)=C3
いよいよシュンベツ西面遡行の日。簡単な函滝をいくつか越え、1917峰北西面出合いを過ぎると、いきなり突破困難な7mCS滝。竹中リードで右岸岩壁を登りシビアなトラバースで落ち口へ。その後V字谷を埋め尽くすガレ。これはハズレか……?と心配になるが、すぐにまた狭いゴルジュとなり先には函滝が連続しているのが見え安心?する。またも突破は難しい7mCS滝に行く手を遮られるが、井上が下部の微妙なステミングから空身でCS左抜けで直登。程無くしてまたも絶望的な10mCS滝。これの直登は厳しそうだ。周囲の側壁は高く、また弱点にも乏しいので捲くにしても大仕事になりそうだが、それ以外にやりようがなさそうなので少し戻った右岸クーロワールから捲く。20m程確保なしで登り、そこからロープを出して1p目35m程成田リードでⅤ級くらいの凹角、続いて2p目25m竹中リードで5.9くらいのクラックからボロボロ草付を登って木まで。その後一応ロープ出して20m草付と灌木のトラバースで木にたどり着く。木を伝って下り、7m懸垂+40m懸垂で沢に復帰。この滝の対処におよそ3時間程。この捲きの途中から小雨が降り出す。その後いくつか函滝を越えると、またしても手強そうな8mCS滝。ぱっと見絶望的に見えたが、下まで行くと何とか登れそうに見えたので井上リードで取り付く。シャワーを浴びながらド開脚でわずかなリスにハーケンを叩き込み、最後は激烈シャワーで見事突破。その後も息をつく間もなく手強い函滝が連続する。天気は少しずつ悪くなり、先がよく見通せなくなってプレッシャーが増す。すぐに突破できない10mCS滝にぶち当たる。時間も考慮すると、大掛かりになることが必至の捲きは避けたい。エイドも辞さない覚悟で突入すれば直登できないこともなさそうだが、この滝の上には側壁がハングしたCS滝が更にもう一つ待ち構えているのが見える。この滝を頑張って突破したところで、次の滝は越えられるのか……。先にまだ何が待ち構えているか分からない中で、ここで賭けに出るのは早い、ということで左岸捲きを選択。しかしながら、当然この捲きも容易ではない。1p目成田リードで40m横ホールド多めの垂壁からズルズルスラブと草付きをこなしてバンドまで。悪いⅤ級くらい。中間支点にカムとトライカムを使いすぎてしまい終了点構築に時間がかかり反省。この頃から雨が本降りとなり一同のテンションはダダ下がりである。2p目竹中リードで草付きと灌木登りと一部ツルツルスラブで木まで。ここから木を伝って下りられそうなところを探る。戻るべき沢は大地にナイフで真っ直ぐに切り込みを入れたかのように狭く深い。少し木登りで進むとすぐにこの深いゴルジュが岩壁とそこを流れる大滝にぶち当たる所を見渡せる所にたどり着く。ここがCo1320であろう。ここからなら何とか戻れそうだ。現在捲いている樹林帯からCo1320右股に合流する形で20m程懸垂をして、30m程スラブと草付きをトラバースで大滝の落ち口に合流。今回は流れ的に捲いてしまったが、この70m以上はありそうな大滝はかなり登りごたえがありそうだ。沢に戻り大滝の上に立つと渓相は一変、狭く深いゴルジュから一気に開けたスラブ系滝の連続となる。Ⅲ〜Ⅳ級の滝をひたすらフリーソロで思い思いに登っていく。天気も回復し晴れとなって、実に気持ちが良い。Co1480二股あたりで時間切れとなり、滝の落ち口の数センチ増水したら沈没しそうなわずかな岩盤上でビバーク。稜線から吹き降ろす秋風が冷たく、焚火を震えながら必死につける。焚火がつくと火のぬくもりがありがたすぎて、拝火教徒となった。谷を振り返ると夕日の沈みゆくナメワッカ岳が、幌尻岳かと見紛うほどに雄大だった。
9/14 晴 C3(6:00)シュンベツ岳(8:30-9:00)C2(11:30)カムエク沢出合下(13:30)=C4
夜も稜線からの吹き降ろしが強く、最低限のビバーク装備しか持っていない僕達にはやや寒かった。何とか這い起きて焚火を再度着けると温もりが快適すぎて重い腰が上がらない。それでもこんなところで一生過ごすわけにはいかないので出発。なおも続くⅢ〜Ⅳ級の滝をひたすらフリーソロし、やがて沢型が潰えてお花畑を這い上がって稜線に出た。稜線を数十m歩いてシュンベツ岳ピーク。風はやや強いが快晴で気持ちが良い。しばし稜線を眺め日高の良さを再確認。下降はどうしようかとピークで話し合うが、最終的にピーク北西のCo1800肩から西に降りる沢型を選択した。藪漕ぎからのひたすら滑滝クライムダウン時折捲きで、割と快適に降りられた。どうやら正解だったようだ。すたすた歩いてあっという間にC2に到着。今日は折角だし超快適テンバに行って盛大に焚火をしようということで、カムエク沢出合いのちょっと下の広い河原まで駆け下る。薪が無限に手に入る河原をテンバとする。日差しが熱いがそんな事お構いなしに焚火を着火。そこらへんに転がっているアホみたいにデカい薪を次々とぶち込み、夕方にはボルテージはMAX。酒はもちろん、花火まで飛び出してお祭り騒ぎ。これが俺たちの夏だ。焚火の周りで各々適当に転がって沈。秋空に輝く星々をぼんやりと眺めながら眠りに落ちた。
9/15 晴 C4(6:00)・1189大滝下(11:30)大滝登攀終了(15:30)大滝下=C5
カムエク沢遡行の日。カムエク沢といっても、Co730で分かれる右股左股と更に左股には・1189で分岐する右沢左沢がある。どれも日高でも指折りの難渓だが、今回は最もポピュラーな左股左沢を遡行することにした。Co730まで河原。左に入ってもしばらく河原状だが、次第に岩盤が増えてくる。簡単な小滝をいくつか越えてCo920の滝を右岸から捲いて核心部が始まる。10m前後の滝が連続するが、ぎりぎりザイルを出さないくらいの絶妙な登りでテンポよく越えていく。突破が厳しそうなものも、小さく捲ける弱点がある。ゴルジュの奥にある4mCS滝は内部突破が厳しそうなので、右岸岩のリッジから捲くことにする。成田が空身でリードしようとするが、井上にザックを持って行けと言われたのでしぶしぶ担いで登る。Ⅳ+くらいの登りを20m程で木に到達し、そのまま木を掴んでトラバース、20m懸垂で沢に復帰。その後もいくつか滝を楽しく登ると右岸からの支沢がハングシャワーとなって合流しているCS滝。左岸スラブから捲こうとするが結構悪く、モジモジしているうちに井上が突っ張りで直登。お助け垂らして後続はゴボウ。3人ともシャワーをかぶってびちょ濡れだが、気温が低くガタガタに震える。幸い落ち口は日差しがあったので、しばらく日向ぼっこ。でも一向に温まらず、震えながら出発。滝を登ったり捲いたりしたら温まった。段々と側壁が高く険しくなっていき、いよいよ・1189二股。ここの左股に立ちはだかる2段70m大滝がこの沢の最大の核心らしい。大高捲きも可能かもしれないが、僕達の頭の中にはこの滝を直登する以外の選択肢はなかった。今日はどのみちカムエクを越えることはできないので、この滝をじっくりと処理してザイルをフィックスし滝下でビバーク、翌日にカムエクを越えて一気に八の沢下山という作戦で行く。先程出番があった井上は滝下でテンバ整地&焚火着け、成田竹中で大滝に取り掛かる。まずは成田が左岸ジェードルからスラブをザイルを50m伸ばして左岸テラスまで。次の2段目が核心。20m程度で傾斜も特別強くはないが、全てのホールドが外傾していて悪そうだ。ここは竹中が行く。ハーケンとトライカムでランナーを取りながら登るが、核心部分で思い切りがつかずに敗退。最終ピンの刺さりきっていないハーケンでトップロープ状態でクライムダウンし、成田に交代。竹中は捲きを提案したが、ここで捲いたら負けな気がしたので却下。竹中の敗退地点まで登るが、中間支点はどれもヘボい。これは落ちたくない。さっき竹中の薪の提案を却下したことを後悔する。核心部分はホールドスタンス共に全て微妙でおまけに足はヌメる。置いた足が少しずつ滑り落ちていくのを感じて恐怖。かなり際どい体勢で何とか頭の高さにナイフブレードを叩き込むと、これはバチ効きでとりあえず安心。サイドホールドを使って何とか身体を上げるが、足は相変わらず外傾しているし手も細かいカチ。ハーケン打ちながらの5.10bという感じ。意を決してバチ効きナイフブレードのヌンチャクを掴んでA0からのカチ数手。思わず声が出る。この数手を耐えるとなんとか比較的マシなスタンスに立てて一安心。とはいえホールドは依然として細かい。またも際どい体勢でハーケンを叩き込むが気休め程度の効き。ここを何とか這いあがってバンド状に乗ってマスターカムをぶち込んで後は楽勝かと思いきや、ラバーソールがぬめりまくって全く立てない。核心を越えたと思ったのにこの仕打ちは酷すぎる。思わず放送禁止用語で悪態を叫ぶ。振り向くと長時間ビレーで俯く竹中、遥か下で焚火の横でまったり茶を飲む井上、絶叫する成田。なんだこの光景。泣きそうになりながら微妙な体勢で足元を軍手で擦りまくって掃除。掃除したらなんてことはなく、落ち口まで。間違いなく人生最悪の登攀だった。しばらく更新されることはないだろう。落ち口から次の滝は平坦地になっていて、こっちの方が快適テンバだった。ザイルを2ピッチフィックスして井上の待つ天場まで。興奮気味に「あの滝マジでやばかった」と話すと、井上が「楽しそうで何よりです」と一言。
9/16 晴→ガス C5(6:00)Co1430落石の滝(9:00-9:15)カムエク(11:15-12:15)札内ヒュッテ(17:30)
朝イチでユマーリング2ピッチ。次の40m滝は到底直登する気になれなかったので左岸から高捲き。バンド状からザイル出して井上リードでトラバースして最後は落ち口付近で滝に合流し、ステミングで突破。見た目はヤバそうだったが意外と行けた。次の滝は右岸急な木登りで捲いてから滝に合流。これを越えるとガレとなり、核心は終了の雰囲気。と思いきやまだまだシブめの滝が続く。ザイルを出すほどではないが、傾斜強めなので気は抜けない。Co1420二股を右にとって25m程の滝を右岸ジェードルから登っていたとき、先頭の成田の乗っていた32インチテレビくらいの大きさの岩が壁から剥がれ、下の井上に直撃。死んでもおかしくない落石だったが、井上は耐えてとりあえず無事なようだ。滝の下にクライムダウンして様子を見る。頭や骨などに異常は無さそうだが、右足のアキレス腱らへんを痛めたようだ。歩行は何とかできるとのことで、井上の装備をいくらか2人で分担して持って続行。去年の羆襲撃といい、井上は日高で酷い目に遭う運命にあるのだろうか。このあとは無限に滑滝を登っていく。最後は秋の気配を感じさせる藪漕ぎで稜線に到着、そこからすぐにピーク。成田は地味に無雪期カムエクは初。ピーク到着時は晴れて雲海となっていたが、僕達の登頂を歓迎するかの如くガスガスとなった。あとは八の沢を駆け下る。井上は怪我をしていても常人よりも早い。どうなってんだ。八の沢は支流にかなり立派な滝があったりしてそこまで虚無ではなかった。最後の河原と林道はいつものごとく競歩大会となりバラバラに車に帰着で完。はげ天でたらふく食ってから深夜ドライブで帰札。
・シュンベツ岳西面直登沢について
前半は深く険しいV字谷に突破困難なCS滝が連続する。直登も捲きも容易ではなく、特に高捲きは大掛かりなものにならざるを得なく時間がかかる。雪渓があるとかなり厄介だろう。Co1320からは一気に渓相が変わり、開けた急峻な連瀑帯となる。ここはジリジリと少しずつ進む前半の遡行とは対照的に、爽快に直登でき気持ちが良い。核心部の距離自体は短いが、その中に内容が詰まっており、またその対処も登攀要素が強く時間がかかる。日高でも指折りの難渓であることは間違いない。山谷グレードなら!!!*だと思う。
9/11 晴 林道始点(7:15)入渓(13:30)C1(16:30)
前日に札内ヒュッテに集合しC0。成田カーを下山地点の札内ヒュッテにデポし、竹中カーでシュンベツ川へ向かう。8月の豪雨でシュンベツ川の林道は崩壊しており、林道入り口でまさかの通行止め。28kmの林道歩きからのスタートとなった。5時間の林道歩きをルームの人間にしては珍しく談笑しながらこなし、林道終点まで。ここ数日はまとまった降雨は無かったはずなのに、上から見下ろすシュンベツ川は灰色に濁流している。一同気色悪さを感じつつも、とりあえず入渓。水はかなり濁っており、浅いところでも川底が全く見えない。また、川底には泥が堆積している。水流も心なしか強い気がして、先行きに不安を感じるがとりあえず進められるところまで進むことにする。側壁の植生の削られ方を見ると、8月の豪雨時には7mくらい水位が上昇していたようだ。膝〜腿渡渉を繰り返し大函入り口まで行くが、右岸から左岸に渡渉するところが激流となっており渡るのが困難。右岸を捲いて見るが右岸のその先は側壁が切り立っており行き詰まりそう。とりあえず今日は少し戻り、右岸の少し上がった平坦地で泊まる。
9/12 晴 C1(6:30)大函終了(8:30)シュンベツ西面出合(15:30)=C2
昨日行き詰ったところは、木をアンカーにザイルを引っ掛けて掴みながら何とか渡渉。やはり水量多めな気がするし、水が濁りすぎで気持ち悪く中を行く気に到底なれないので、左岸をほとんど捲きながら進む。何のために28kmの林道を歩いたのだろうか……。左岸を15m程上がるとかなり歩きやすいので、あっという間に大函終了。あとはひたすら河原歩き。時折側壁斜面が大崩壊しており、豪雨のすさまじさを感じた。鹿止内沢出合から一気に沢が開け、気持ちの良い河原となる。薪が無限にあり泊まりたい欲求に駆られるが、我慢して進む。カムエク沢出合を過ぎ、簡単な函と小滝をいくつか越えてシュンベツ西面出合に到着。シュンベツ川本流側に少し登った左岸テラスでC2。
9/13 晴→雨→晴 C2(5:30)Co1320大滝上(15:30)Co1480(16:15)=C3
いよいよシュンベツ西面遡行の日。簡単な函滝をいくつか越え、1917峰北西面出合いを過ぎると、いきなり突破困難な7mCS滝。竹中リードで右岸岩壁を登りシビアなトラバースで落ち口へ。その後V字谷を埋め尽くすガレ。これはハズレか……?と心配になるが、すぐにまた狭いゴルジュとなり先には函滝が連続しているのが見え安心?する。またも突破は難しい7mCS滝に行く手を遮られるが、井上が下部の微妙なステミングから空身でCS左抜けで直登。程無くしてまたも絶望的な10mCS滝。これの直登は厳しそうだ。周囲の側壁は高く、また弱点にも乏しいので捲くにしても大仕事になりそうだが、それ以外にやりようがなさそうなので少し戻った右岸クーロワールから捲く。20m程確保なしで登り、そこからロープを出して1p目35m程成田リードでⅤ級くらいの凹角、続いて2p目25m竹中リードで5.9くらいのクラックからボロボロ草付を登って木まで。その後一応ロープ出して20m草付と灌木のトラバースで木にたどり着く。木を伝って下り、7m懸垂+40m懸垂で沢に復帰。この滝の対処におよそ3時間程。この捲きの途中から小雨が降り出す。その後いくつか函滝を越えると、またしても手強そうな8mCS滝。ぱっと見絶望的に見えたが、下まで行くと何とか登れそうに見えたので井上リードで取り付く。シャワーを浴びながらド開脚でわずかなリスにハーケンを叩き込み、最後は激烈シャワーで見事突破。その後も息をつく間もなく手強い函滝が連続する。天気は少しずつ悪くなり、先がよく見通せなくなってプレッシャーが増す。すぐに突破できない10mCS滝にぶち当たる。時間も考慮すると、大掛かりになることが必至の捲きは避けたい。エイドも辞さない覚悟で突入すれば直登できないこともなさそうだが、この滝の上には側壁がハングしたCS滝が更にもう一つ待ち構えているのが見える。この滝を頑張って突破したところで、次の滝は越えられるのか……。先にまだ何が待ち構えているか分からない中で、ここで賭けに出るのは早い、ということで左岸捲きを選択。しかしながら、当然この捲きも容易ではない。1p目成田リードで40m横ホールド多めの垂壁からズルズルスラブと草付きをこなしてバンドまで。悪いⅤ級くらい。中間支点にカムとトライカムを使いすぎてしまい終了点構築に時間がかかり反省。この頃から雨が本降りとなり一同のテンションはダダ下がりである。2p目竹中リードで草付きと灌木登りと一部ツルツルスラブで木まで。ここから木を伝って下りられそうなところを探る。戻るべき沢は大地にナイフで真っ直ぐに切り込みを入れたかのように狭く深い。少し木登りで進むとすぐにこの深いゴルジュが岩壁とそこを流れる大滝にぶち当たる所を見渡せる所にたどり着く。ここがCo1320であろう。ここからなら何とか戻れそうだ。現在捲いている樹林帯からCo1320右股に合流する形で20m程懸垂をして、30m程スラブと草付きをトラバースで大滝の落ち口に合流。今回は流れ的に捲いてしまったが、この70m以上はありそうな大滝はかなり登りごたえがありそうだ。沢に戻り大滝の上に立つと渓相は一変、狭く深いゴルジュから一気に開けたスラブ系滝の連続となる。Ⅲ〜Ⅳ級の滝をひたすらフリーソロで思い思いに登っていく。天気も回復し晴れとなって、実に気持ちが良い。Co1480二股あたりで時間切れとなり、滝の落ち口の数センチ増水したら沈没しそうなわずかな岩盤上でビバーク。稜線から吹き降ろす秋風が冷たく、焚火を震えながら必死につける。焚火がつくと火のぬくもりがありがたすぎて、拝火教徒となった。谷を振り返ると夕日の沈みゆくナメワッカ岳が、幌尻岳かと見紛うほどに雄大だった。
9/14 晴 C3(6:00)シュンベツ岳(8:30-9:00)C2(11:30)カムエク沢出合下(13:30)=C4
夜も稜線からの吹き降ろしが強く、最低限のビバーク装備しか持っていない僕達にはやや寒かった。何とか這い起きて焚火を再度着けると温もりが快適すぎて重い腰が上がらない。それでもこんなところで一生過ごすわけにはいかないので出発。なおも続くⅢ〜Ⅳ級の滝をひたすらフリーソロし、やがて沢型が潰えてお花畑を這い上がって稜線に出た。稜線を数十m歩いてシュンベツ岳ピーク。風はやや強いが快晴で気持ちが良い。しばし稜線を眺め日高の良さを再確認。下降はどうしようかとピークで話し合うが、最終的にピーク北西のCo1800肩から西に降りる沢型を選択した。藪漕ぎからのひたすら滑滝クライムダウン時折捲きで、割と快適に降りられた。どうやら正解だったようだ。すたすた歩いてあっという間にC2に到着。今日は折角だし超快適テンバに行って盛大に焚火をしようということで、カムエク沢出合いのちょっと下の広い河原まで駆け下る。薪が無限に手に入る河原をテンバとする。日差しが熱いがそんな事お構いなしに焚火を着火。そこらへんに転がっているアホみたいにデカい薪を次々とぶち込み、夕方にはボルテージはMAX。酒はもちろん、花火まで飛び出してお祭り騒ぎ。これが俺たちの夏だ。焚火の周りで各々適当に転がって沈。秋空に輝く星々をぼんやりと眺めながら眠りに落ちた。
9/15 晴 C4(6:00)・1189大滝下(11:30)大滝登攀終了(15:30)大滝下=C5
カムエク沢遡行の日。カムエク沢といっても、Co730で分かれる右股左股と更に左股には・1189で分岐する右沢左沢がある。どれも日高でも指折りの難渓だが、今回は最もポピュラーな左股左沢を遡行することにした。Co730まで河原。左に入ってもしばらく河原状だが、次第に岩盤が増えてくる。簡単な小滝をいくつか越えてCo920の滝を右岸から捲いて核心部が始まる。10m前後の滝が連続するが、ぎりぎりザイルを出さないくらいの絶妙な登りでテンポよく越えていく。突破が厳しそうなものも、小さく捲ける弱点がある。ゴルジュの奥にある4mCS滝は内部突破が厳しそうなので、右岸岩のリッジから捲くことにする。成田が空身でリードしようとするが、井上にザックを持って行けと言われたのでしぶしぶ担いで登る。Ⅳ+くらいの登りを20m程で木に到達し、そのまま木を掴んでトラバース、20m懸垂で沢に復帰。その後もいくつか滝を楽しく登ると右岸からの支沢がハングシャワーとなって合流しているCS滝。左岸スラブから捲こうとするが結構悪く、モジモジしているうちに井上が突っ張りで直登。お助け垂らして後続はゴボウ。3人ともシャワーをかぶってびちょ濡れだが、気温が低くガタガタに震える。幸い落ち口は日差しがあったので、しばらく日向ぼっこ。でも一向に温まらず、震えながら出発。滝を登ったり捲いたりしたら温まった。段々と側壁が高く険しくなっていき、いよいよ・1189二股。ここの左股に立ちはだかる2段70m大滝がこの沢の最大の核心らしい。大高捲きも可能かもしれないが、僕達の頭の中にはこの滝を直登する以外の選択肢はなかった。今日はどのみちカムエクを越えることはできないので、この滝をじっくりと処理してザイルをフィックスし滝下でビバーク、翌日にカムエクを越えて一気に八の沢下山という作戦で行く。先程出番があった井上は滝下でテンバ整地&焚火着け、成田竹中で大滝に取り掛かる。まずは成田が左岸ジェードルからスラブをザイルを50m伸ばして左岸テラスまで。次の2段目が核心。20m程度で傾斜も特別強くはないが、全てのホールドが外傾していて悪そうだ。ここは竹中が行く。ハーケンとトライカムでランナーを取りながら登るが、核心部分で思い切りがつかずに敗退。最終ピンの刺さりきっていないハーケンでトップロープ状態でクライムダウンし、成田に交代。竹中は捲きを提案したが、ここで捲いたら負けな気がしたので却下。竹中の敗退地点まで登るが、中間支点はどれもヘボい。これは落ちたくない。さっき竹中の薪の提案を却下したことを後悔する。核心部分はホールドスタンス共に全て微妙でおまけに足はヌメる。置いた足が少しずつ滑り落ちていくのを感じて恐怖。かなり際どい体勢で何とか頭の高さにナイフブレードを叩き込むと、これはバチ効きでとりあえず安心。サイドホールドを使って何とか身体を上げるが、足は相変わらず外傾しているし手も細かいカチ。ハーケン打ちながらの5.10bという感じ。意を決してバチ効きナイフブレードのヌンチャクを掴んでA0からのカチ数手。思わず声が出る。この数手を耐えるとなんとか比較的マシなスタンスに立てて一安心。とはいえホールドは依然として細かい。またも際どい体勢でハーケンを叩き込むが気休め程度の効き。ここを何とか這いあがってバンド状に乗ってマスターカムをぶち込んで後は楽勝かと思いきや、ラバーソールがぬめりまくって全く立てない。核心を越えたと思ったのにこの仕打ちは酷すぎる。思わず放送禁止用語で悪態を叫ぶ。振り向くと長時間ビレーで俯く竹中、遥か下で焚火の横でまったり茶を飲む井上、絶叫する成田。なんだこの光景。泣きそうになりながら微妙な体勢で足元を軍手で擦りまくって掃除。掃除したらなんてことはなく、落ち口まで。間違いなく人生最悪の登攀だった。しばらく更新されることはないだろう。落ち口から次の滝は平坦地になっていて、こっちの方が快適テンバだった。ザイルを2ピッチフィックスして井上の待つ天場まで。興奮気味に「あの滝マジでやばかった」と話すと、井上が「楽しそうで何よりです」と一言。
9/16 晴→ガス C5(6:00)Co1430落石の滝(9:00-9:15)カムエク(11:15-12:15)札内ヒュッテ(17:30)
朝イチでユマーリング2ピッチ。次の40m滝は到底直登する気になれなかったので左岸から高捲き。バンド状からザイル出して井上リードでトラバースして最後は落ち口付近で滝に合流し、ステミングで突破。見た目はヤバそうだったが意外と行けた。次の滝は右岸急な木登りで捲いてから滝に合流。これを越えるとガレとなり、核心は終了の雰囲気。と思いきやまだまだシブめの滝が続く。ザイルを出すほどではないが、傾斜強めなので気は抜けない。Co1420二股を右にとって25m程の滝を右岸ジェードルから登っていたとき、先頭の成田の乗っていた32インチテレビくらいの大きさの岩が壁から剥がれ、下の井上に直撃。死んでもおかしくない落石だったが、井上は耐えてとりあえず無事なようだ。滝の下にクライムダウンして様子を見る。頭や骨などに異常は無さそうだが、右足のアキレス腱らへんを痛めたようだ。歩行は何とかできるとのことで、井上の装備をいくらか2人で分担して持って続行。去年の羆襲撃といい、井上は日高で酷い目に遭う運命にあるのだろうか。このあとは無限に滑滝を登っていく。最後は秋の気配を感じさせる藪漕ぎで稜線に到着、そこからすぐにピーク。成田は地味に無雪期カムエクは初。ピーク到着時は晴れて雲海となっていたが、僕達の登頂を歓迎するかの如くガスガスとなった。あとは八の沢を駆け下る。井上は怪我をしていても常人よりも早い。どうなってんだ。八の沢は支流にかなり立派な滝があったりしてそこまで虚無ではなかった。最後の河原と林道はいつものごとく競歩大会となりバラバラに車に帰着で完。はげ天でたらふく食ってから深夜ドライブで帰札。
・シュンベツ岳西面直登沢について
前半は深く険しいV字谷に突破困難なCS滝が連続する。直登も捲きも容易ではなく、特に高捲きは大掛かりなものにならざるを得なく時間がかかる。雪渓があるとかなり厄介だろう。Co1320からは一気に渓相が変わり、開けた急峻な連瀑帯となる。ここはジリジリと少しずつ進む前半の遡行とは対照的に、爽快に直登でき気持ちが良い。核心部の距離自体は短いが、その中に内容が詰まっており、またその対処も登攀要素が強く時間がかかる。日高でも指折りの難渓であることは間違いない。山谷グレードなら!!!*だと思う。
過去天気図(気象庁) | 2022年09月の天気図 |
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アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
落石注意 |
その他周辺情報 | はげ天 |
写真
感想
カムエク沢核心大滝、絶対突破してやると意気込んでたのに一歩が踏み出せず決死のクライムダウンで敗退した。悔しい。
「や、、ヤバいです!これ、。巻きましょう」
と僕が言った瞬間の、「えっ何言ってんだ?お前」的な先輩の顔が個人的にツボでした。
ハングシャワーの滝をそれと気づかなかったので、傾斜に加えてヌルヌルでまじで落ちるかもと思いながら登りました。
悲しいかな、幾年目になってもズッコケながら山旅は続くのである。
シュンベツ西面は去年の神威岳南東面、ルベツネ山西面に続き、日高の未踏直登沢として個人的に気になっていた最後の獲物。その内容は期待通りのものだった。遡行中は常にワクワクと驚きがあった。カムエク沢も核心部は想像よりも快適に楽しく直登でき、核心大滝の登攀では出し尽くすことができた。日高の最深部で充実の遡行ができて満足。頼もしく、そしてバカな仲間とこういう冒険ができて幸せです。
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斎藤さんの記録を見て絶対に直登しようと思っていました。想像以上の極悪さで結構泣きそうになりました笑
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