太郎平、高天原 草原と森と水の山旅
- GPS
- 80:00
- 距離
- 41.4km
- 登り
- 2,699m
- 下り
- 2,952m
過去天気図(気象庁) | 2014年08月の天気図 |
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アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
写真
感想
8/6 久し振りの北アルプス、さらに今回のコースは高校2年生の時の山岳部の夏合宿と一部が重なるのでなお懐かしい。東京駅から夜行高速バスで富山へ。駅前から折立行きの直行バスに乗り換える。便利になったものだ。バスが谷間いに入るとザッと雨が来た。歩き始める時にはほぼ止んでいたが、道はぬかるみとなってしまった。それでも一時は陽が射して緑濃い山々がさわやかだ。さしたる労もなく、お楽しみの草原に飛び出す。チングルマは終わっているが、ニッコウキスゲが咲き残り、しみじみと嬉しい。有峰湖を見下ろす景色を楽しみながら登っているうち、にわかに雲が垂れこめ、降ったり止んだりの変な天気になった。岩井谷をはさんだ向かいにも大きな草原状の尾根があり、歩いてみたいものだと思う。雨脚が強くなってきた中、太郎平小屋に到着。庇の下で少し休み、テント場へ向かう。一泊目のビールを味わい、雨の切れ目に周囲を散歩する。
8/7 雲は残っているが朝日がまばゆい。明るい気分で花を愛でながら稜線を辿る。水晶や鷲羽といった北アの中心部が青く遠くシルエットになっている。太郎平からしばしのトラバースの後、目の前に広がる薬師沢の谷に向かって下り始める。いよいよ黒部川の流域だ。針葉樹だが陰気くさくなく、さわやかな森だ。沢を渡ると木道になり、歩きやすくはあるが滑るので気を使う。時々現れる草原に心を洗われながら行くと、足もとに黒部川の水面が見え、薬師沢小屋の裏に降り着く。川原に座り込んで滔々と流れる水を眺め、思い出にふける。
大東新道は時々岸に上がって巻くが、ほとんどは川原歩きで、黒部川の流れに沿って歩けるのは嬉しい誤算だった。対岸の岳樺の斜面や上流の山の眺めを楽しみながら、丸っこい石の上を渡っていく。岩壁を鎖でトラバースするところもある。B沢出合で、ゴルジュに流れ込んでいく本流と離れ、沢沿いに詰め上がり、やがて左へトラバース道になる。人工物が一切見えない深い森の中を歩いていると、北アルプスのど真ん中にいる喜びに浸ってしまう。沢を横切るところでは、頭上の雲の平の頂上台地に高く滝が掛かっている。ジグザグ登りが続いた後、ひょっこりと高天原峠に飛び出し、ほっとする。樹林帯を下り、再び岩苔小谷の水辺に出て一休み。笹原を過ぎると湿原が現れる。水晶岳を背景に、キスゲやワタスゲ、タテヤマリンドウが散りばめられた心和むところだ。写真撮影に歩き回って時間を費やしてしまう。日本離れした高天原の景観を左に、オアシスのような小屋に到着。ビールを仕入れて温泉に向かう。でもその前に龍晶池へ。水草が茂る渋い風景だ。さらに奥の夢の平の草原や池も人気がなく良かった。引き返し、男3人組と一緒に沢沿いの露天風呂に入る。ぬるめだが硫黄臭が心地よい。脇の沢水で身体を拭き、ビールを流し込む。ゆっくりしたいが、小屋の夕食の時間になってしまい、急いで戻る。いつかまた来られるだろうか。
8/8 再訪を期して小屋を出発、渋い樹林の中を斜めに登っていく。時々覗く水晶岳山腹の大斜面が圧巻だ。途中雨が降り出してしまった。中々水晶池の分岐に出ず不安になった頃にやっと着く。行ってみると、意外に大きな池で、水晶岳が雲に隠れてしまったのが残念だが落ち着きのある光景だ。黄葉の秋もきれいだろう。
さらに登っていくと、雲の平の頂上台地が残雪に縁どられ、心をそそる。左右にお花畑を眺め、前方に乗越が見えてきたところで、寒さに震えながら意地で源流のコーヒーを味わう。ガスの中、最後の頑張りで稜線に飛び出す。「大町市」の記名のある導標に、ほっとするのと、黒部川の旅が終わった一抹の寂しさを感じてしまう。
草原と水と森の山旅を終えて、後半の稜線歩きだ。雨粒の混じる濃いガスが吹き付けるが、歩くには支障ない。イワツメクサやチシマギキョウのけなげな花を愛おしみながら、人気のない山道を一人歩く。今山行の最高点である鷲羽岳の頂上も一人。高校生の時は鷲羽池を見下ろしたが、今日は景色はない。しばし懐旧にふける。何となく覚えているジグザグ道を下り、クルマユリのオレンジに魅かれて伊藤新道の入り口に寄り道する。三俣山荘に着いた時には本降りになっていたが、先を急ぐ。楽しみにしていた三俣蓮華の巻き道は、天気が悪いのは残念だが、それでも残雪と緑のコントラストが美しい、楽園の遊歩道だ。途中、カールの中の流れを横切るところは、黒部五郎岳のカールを半欠けにしたような眺めで、五郎沢を下ったことを思い出す。しかし、このトラバースは相当長い。衣服に水が浸みてくるにつれ寒くなり、疲れも出て辛い。双六の頂上からの道に合流した時はつくづくほっとした。冷たく霧雨の吹き付けるテント場には4張りほどが頑張っている。台風が接近しつつあるので念入りに固定する。夜中に猛烈な雨となり、沢の増水、下山不能が頭をよぎり眠れぬ夜となってしまった。
8/9 幸い雨は止み、台風の到来から逃げ切れそうだ。濃い霧の中を出発すると、間もなく霧の塊から抜け、ハイマツの緑濃い山々が姿を現す。双六岳の丸っこい斜面をスキーで大斜滑降したことを思い出す。その時の仲間の女性は昨年亡くなってしまった。長く(細くだが)山をやっていると、あちこちの山と人とが結びついて思い出になっている。
稜線を乗越すと思いがけず槍穂高が目に飛び込んできて嬉しい。この山旅の最後の稜線歩きを味わい、後ろ髪をひかれながら下りに入る。鏡平に着く頃はまた小雨がぱらつく。後は広大な谷をゆっくりと降りるのみ。林道に出る前に沢の水で身体の汗を拭う。こんな低い所に、沢筋を押し出した雪が厚く残っており驚く。最後の林道歩きも立派なブナの森と笠が岳東面の峻嶮な眺めに飽きることはない。笠新道の登り口で、30数年前にここに下り立った時を思い出そうとするが、もはや忘却の彼方だ。新穂高温泉で一浴し、バスで松本に出て充実した山行を終えた。
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