入道岩登はん 奥久慈(バリエーションルート)


- GPS
- 09:31
- 距離
- 11.3km
- 登り
- 610m
- 下り
- 607m
コースタイム
天候 | 晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2023年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
今回の山行は登はん要素の強いバリエーションルートです。 筆者の採った行程は大変に遠回りかつ無駄でした。入道岩を直接狙うのであれば、古分屋敷からフジイ越のルートでアプローチするのが手っ取り早いです。フジイ越の横に入道岩がいらっしゃいます。 アプローチにはフジイ越から表縦走路をひと歩きし、入道岩の眺望点に立ちます。そそこからクライムダウンして岩の根元に取り付きます。クライムダウンには入道岩を正面に見て左側にケヤキの1本生えた岩溝が楽です。 クライムダウン地点から入道岩までは土つきの急斜面をトラバースするようにして岩の基部に回ります。ケヤキ(?)が入道岩に寄り添うように生えていますがその辺りから取り付きました。あとは死なないように。 入道岩の子供のモアイみたいな岩塔も同じように右側から回り込んで取り付きましたがこちらはホールドが抜けやすく撤退しました。 |
写真
装備
備考 | ヘルメット、ザイル30m+50m各1本、ハーネス、エイト環、安全環付きカラビナ3枚、ワイヤーゲートカラビナ4枚、スリング(120cm2本、60cm2本)、アプローチシューズ、ピッケル、ピッケルリーシュ、防寒手袋(商品名「防寒テムレス」)、雨具(藪こぎ用)、スマホGPS、タオル、目だし帽、ミトン、オーバーグローブ 岩の根元までは枯葉に覆われた土の急斜面なのでピッケルが活躍します。下山は懸垂下降するので登攀具は必須です。またつま先の蹴りこみ、狭いホールドへの立ちこみが必要なのでつま先のそりあがったハイキングシューズでは進めません。靴底の硬い登山用の靴を使用します。 |
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感想
勇気とルートを与えてくださった奥久慈の山の神々に感謝いたします。
ーーー以下自分のためのメモ 無駄に長文ーーー
■あこがれの岩塔
奥久慈岩稜の奇岩群の中でも入道岩はその容貌で群を抜く。岩稜からふもとの集落を見守るように立つ姿は林道の途中からも拝むことができる。
筆者にとって登山とはガストン・レビュファの「星にのばされたザイル」のポスターであって、岩塔を見るとその高低にかかわらず立ちたくなる。もちろん先鋭なアルパインクライミングなどはできないのだが。
そんな筆者にとって奥久慈岩稜の象徴とも言える入道岩はずっと憧れの対象だった。
しかし、文字通りの岩塔はどう考えても登れそうにない。憧れのまま終わるのだろう。しかし鷹取岩や眺望点から観察していると、結構いけそうに見えなくもない。入道岩を眺望するたび、観察と妄想を繰り返した。
実際に接近してみたのは、2017年の3月だった。冬場のジョギングで故障したあとの回復期で、林道を歩くついでに入道岩基部の尾根を少しだけ上がったのだった。その際には途中で踏み跡などが現れてきて興味深かったのだが、難しそうな岩場のトラバースが現れ、自分の身支度は毛糸のミトンにハイキングシューズのいでたちだったので早めに撤退した。
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-1076528.html
2021年シーズン、最後にこのときの試登の続きをやってみる予定だったのだが、男体山の神様に約束した清掃登山に充てた結果、このシーズンでの試登はお預けになった。
2022年冬はブナの木ルンゼ(筆者勝手に命名)の前衛峰に挑んでは撤退を繰り返していくうちに冬山シーズンもそろそろおしまいに近づいた。薮が芽吹けば藪こぎの難度は10倍増しになる。そしてその前にスギ花粉で山が黄色くかすみ、山に行ったら鼻炎で不眠になってしまうかもしれない。奥久慈冬山登山の締めくくりの形で、2017年3月の試登の続きをやってみよう。そして入道岩は確かに「登れない」ことを自分なりに納得しておくことにしよう。
2023年1月28日の雪山ハイクの途中、鷹取岩から入道岩を観察した。入道岩は子持ち岩とも言われるようにメインの岩塔とその背中に背負った子供のようにも見える副岩塔からなる。そして麓からは余り目立たないが、隣にもうひとつ、これまたモアイ像のような岩塔がそびえている。
鷹取岩からはメインと背負われた子供の二つの岩塔が異形を見せ付けてくるのだが。「親と子」の間にある溝までもしもたどり着ければ、溝から岩塔の頂上まではすぐのようにも見える。ただし鷹取岩からはそのスリットまで果てしない岩壁が続いており、正面ないし鷹取岩側からのアプローチは絶対不可能なことは一瞬でわかる。
一方、鷹取岩から縦走路をひと歩きして入道岩の眺望点(ときにこの眺望点を入道岩と称することもある)から再びこの親子の岩塔を望むと一瞬で不可能というほどではないようにも思えてくる。落ちたら即死の高さを攀じる事には変わりはないのであるが、取り付いてみて、危ないからやめようときちんと諦めておきたかった。
■まず藪こぎの大歓迎を受ける
登山当日、ややゆっくり目に西金駅へ到着した。折りしも駐車場から見える久慈側対岸の幻の滝が勢いよく落ちていた。実はこの滝実際には滝の裏側にあるらしい山砂利採集場から捨てられている水(地下水など?)のようだ。幻の滝を見て、高塚山の前衛峰の弓反りの稜線を見て、機嫌をよくしてスタートした。118号を渡って少し歩けば奥久慈岩稜が歓迎してくれる。
今日近づこうとしている入道岩が林道の中盤から現れる。いつも見送って男体山側へ向かうのだが、今日はそちらにお邪魔するのだ。徐々に気分が高揚してくる。大円地へのアプローチのこの岩稜の見え隠れと、岩稜の背景に広がる山村の風景の穏やかさも良い。
古分屋敷で男体山の神様に無事を祈願したのち、パノラマラインに沿って取り付きの尾根に向かった。2017年の3月には伐採後の丸坊主で丸腰でも歩けた斜面も、すっかり薮になっていた。どこが2017年の取り付きなのかどうかすぐにはわからず、反対側の踏み跡を登って確認しなければならないほどだった。確かにこの薮尾根を登らねばならないようだ。来るべき文字通りの茨の道に少し気落ちしながら、藪こぎウェア、ハーネス、ギア類を準備し、アプローチシューズに履き替え、朝ごはんの鯖カレーおにぎりをひとつ頂いた。
最初は倒木だらけの中をうまく縫って斜面に乗ってしまえば、時々現れる茨をうまく避ければ序盤はオーケーというのは見事に外れてしまった。その斜面に乗るまでの倒木帯は倒木が朽ちており、乗れば踏み抜いてしまうというやばい状態になっている。左手は土の急斜面で取り付いてもぐずぐずと崩れてきそうだ。倒木帯と土斜面の境目をたどるようにして斜面に入った。
6年たっているのだから、薮が成長しているのも止むを得ないだろう。ただここはもともと人工林だから次の苗が植えられていてもおかしくないのだが、その気配はない。町の人間の身勝手さではあるが少しさびしく感じながら高度を稼いでいった。
藪は密生しているわけではないのだが、半分が茨の木、そしてタラの木ととげとげだ。笹薮のように簡単に掻き分けるわけにもいかない。調子に乗ればたちまち薮こぎウェアもぼろぼろに裂けてしまうだろう。茨やタラの木と真っ向勝負しないようにルートを取り、手でつかむ代わりにピッケルを引っ掛け、なるべくとげの内規の生えている場所を選びつつ登っていくから、前回のように簡単に高度を稼ぐことはできなかった。
救いは、薮越しではあるがいつもとは違う角度から迫力の男体山と重厚な長福山の山容を楽しむこと。いつものように存在感がある上下高塚山のツインピークに感動することだった。
■明瞭な踏み跡の正体
藪こぎで今日は終わるのかと思いながら、薮の薄いところへ逃げるように登っていくったところ、自然と尾根筋に出てきた。すると今まで厳しい薮をこいでいたことがうそのように明るい道が現れた。これは何かのエスケープルートなのだろうか?入道岩基部登山の下山時にはたどってみてもいいかもしれないと考えながら高度を稼ぎ、おそらく前回ここで引き返したであろうという岩場に到着した。そのままトラバースして進むこともできそうだが、岩が緩斜面だから攀じて岩尾根に出たほうが安全だろう。
ここで道から外れた急斜面にペットボトルを発見した。遭難よけのおまじないにごみ拾いをしている自分としては、あれを取って来ないと死ぬかも知れないという思いに取り付かれてしまった。しかしフリーで降りるには斜度がありすぎる。スリングで潅木とハーネスをつないでクライムダウンし、お茶のペットボトル1本を回収した。こんなバリエーションルートも通過する人はいるのだなといつものように感心する。
ペットボトルをザックに回収するとすぐに今度はガラス瓶。ことらはファイブミニの小瓶だ。ごみくらい自分で持ち帰れと独り言を言いつつジャケットのポッケに入れて登高すると、今度はかつて標石でも合ったかのような広場、そして明瞭な踏み跡が現れて、自分が何らかの登山道を横切るようにして登高して来たことがわかってきた。
ひょっとしてこれはヌカザス越なのかなどと期待しながら取り付き点を目指した。そのうちステップが切ってある岩場があらわれ、補助ロープまで現れた後、縦走路にぶつかった。フジイ越だった。これなら最初から古分屋敷から入れば楽勝だったと苦笑いだった。一応これも2017年の疑問に対する回答ということだろう。
道岩はフジイ越と隣接していた。フジイ越自身は長いこと降りていないのだが縦走路は通過しているのだからわかるはずなところだった。奥久慈岩稜縦走で何度も通過している場所なのだから、
■とりあえず進めるところまで
フジイ越から入道岩を眺めると垂直の壁だ。とても登はんできそうもないが。よく観察してみると、フジイ越から急斜面を少々クライムダウンしたところに、ひと一人通過できる岩溝が延びている。岩溝ならば垂壁でも突っ張り方式で高度を稼げるかも知れない。
フジイ越からのクライムダウンも枯れ葉に覆われた急斜面が延々と続いている。枯れ葉の下は土の場合もあれば岩の場合もあった。何度か足もとが滑って冷や汗をかきながら、ピッケルをしっかり打ちこんでつかまりつつ慎重に下降し、何とか岩溝の根元までたどり着いた。
のけぞるようにして岩溝を見上げてため息をついた。ほぼ垂直に10mくらいは伸びているだろうか?途中に大人くらいの大きさのチョックストーンが2個あるから休息を取れる。溝幅はひじを曲げて突っ張れる程度だから力は掛けやすい。岩溝の先には太目の木が生えている。あそこを支点に懸垂下降できる。
一方ホールドは奥久慈名物のぽろぽろの礫岩質だ。技術的に自分がやれない溝ではないが、高度を上げたところで突っ張り損ねて足を滑らせたら、岩角に削られながら今立っているところまで落ちてくるだろう。事故は起こせないということを考えると、諦めたほうがいいだろう。別に死ぬために山やっているのではないから、などと自分を説得しているうちに、手足が自然に動いて岩溝を攀じはじめていた。
決断して取り付いたという感じではなく、ちょっと2、3手動かしてみようという感覚だったが、一旦動き出すと落ちずに通過するという自己防衛本能に従って高度を上げていった。
確かに突っ張りがよく利くから両足をホールドから外してぶら下がれるくらい安定はしている。そのフットホールドも、つま先を引っ掛けるというよりは靴底を岩壁に押し付けていく要領だから、ホールドのすっぽ抜けのリスクは低く、壁を登るよりははるかに安定している。
しかし突っ張っているだけでは前進できない。尺取虫のようにして突っ張りながら高度を上げていく。前進の際に突っ張りを解除したところの岩壁がぽろぽろ崩れて冷や汗が吹き出る。抱え込むようにして、第一のチョックストーンに立ち上がって人心地ついた。
同じように尺取虫方式で第二のチョックストーンを目指した。中間目標があるのはありがたい。ややもろい第二のチョックストーンをまた抱きかかえるようにして乗った後、もうひと攀じして潅木までたどり着いた。
■岩まちがえ
たどり着いたところに緩斜面の岩塔があった。これならいけるのではないか。背丈ほど登はんしたところから、細い岩棚がピークに向けて伸びて、その先に小さな潅木がある。ホールドとしては頼りないがバランスをとるには十分そうだ。その先はイワヒバの生えまくった岩でもろそうだが、斜度がさらに下がってピークまで続いている。
見るからに人を寄せ付けない岩をイメージしていたから、大きなチャンスだと思った。しかし実際に取り付いてみようとしても決断できない。最初にこことここを使ってと攀じる順序を考えてみるのだが、手を出してみるとハンドホールドがなかったりフットホールドが浅かったりと、自信を持って進めなかった。難しいからではなく、ホールドがすっぽ抜けたり、滑ったりして墜落していく自分の姿が目に浮かんでくるからだ。
やはり入道岩は難しかったか。。。だが待て。これは入道岩ではないのでは?入道岩なら子持ち岩の別名の由来となる岩塔があるが、この岩塔は孤立している。親子の岩塔はこの岩の裏なのではないか?
一旦この岩はあきらめて、裏に回ってみると、確かに眺望点からよく見る入道岩の「最後の岩塔」の部分が右手に現れた。左手は眺望点に続く壁である。壁の下にカップめんの容器があり、クライムダウンして回収した。ザックをおろすのは面倒だから、とりあえず撤退するときにザックに詰めることにして登り返し、安全なところへ置いた。
岩塔へはフジイ越から取り付いたときと同じように、落ち葉に覆われた土付きの急斜面が続いていた。ここで滑落すれば、鷹取岩から見えている急斜面を転げ落ちて行方不明ということになる。
入道岩を眺めてみると、右側にケヤキが一本、壁の近くに立っている。昨年1月に座禅小僧の兄弟をやったときは、一旦あきらめかけたが、撤退しかけて振り返ったらコナラが岩壁に寄り添うようにして立っており、それをうまく使って登頂に成功した。
今回もその作戦が通用するか?観察してみると、利用するには間隔が広すぎるか。あれこれ考えつつケヤキの立つ岩塔の根元にたどり着いた。
■神々からのプレゼント
ケヤキと岩塔の間隔は根元で1mくらい、そして徐々に広がっていく。上部では完全に離れている。突っ張りながら高度を稼ぐことはできない。しかし、最初の2m弱の壁を突っ張って攀じれば、安定していそうなホールドがトラバースするように続いている。
そのトラバースを通過するとさらに緩い斜面がずっと上まで続いていて、その先にケヤキと何かの針葉樹らしきものが見える。そこからは再度壁になっているようだが、その様子はよくわからない。それでも潅木からピークまでそれほどの高さはないように見える。
やってみるのか、、、。ピッケルは残置することにした。ここからは登はんだけだからピッケルを持たなくても困ることはないだろう。ピッケルをリーシュで引きずりながら登るのは邪魔になるし、落ちたときに凶器になるリスクもある。
取り付いた以上は上部の潅木までは絶対に安全に進まなければならない。そこまで行けば懸垂下降で撤退することもできるだろう。
突っ張った後の手足の置き方を頭の中で何度も描いた。先ほどあきらめた岩塔に比べれば難度は低いが危険度は高い。やめたほうがいいのか。
しかし脳内での予行練習によると緩斜面までのトラバースは安定していて、登はんというよりは歩くことに近い。「すたすた歩けるじゃん」と独り言まで出てしまったほどだ。ここをやるために何年待ったのかを考えてみれば、これだけの可能性があって断念するのは余りにももったいないだろう。
勇気を出してケヤキを背中で押すように突っ張って、最初の2m弱の垂壁の通過を試みた。突っ張ってみるができそうで意外とできない。無理に取り付いて滑り降りれば、その勢いで先ほどカップめん容器を回収した急斜面を滑落して行方不明だろう。再び戻ってイメージを描きなおす。取り付きなおす。やはりうまくいかない。
思い立って空身になって取り付いてみた。今度は背中でケヤキをうまく押せる。そのあとは両足で岩壁とケヤキの間に突っ張れ、脳内練習どおりにトラバースに乗れた。このやり方で行けば先へ進める。方針を確認してクライムダウンした。
ブナの木ルンゼ(筆者勝手に命名)から最後の一般コースに飛び出す岩溝を通過したときのように、ハーネスとザックをザイルでつないで空身で登はんして、上部に到着してからザックを引き上げることも考えたが、今しがた練習したやり方を使えばザックを背負っても攀じることができそうだ。
空身でやったときと同じように、今度はザックを背負ってやってみた。うまくいきかけたが、やはりザックでは最初の突っ張りの力が十分にかからない。そうかザックを少しずらしてザックを背負った背中の中央でなくて、体で直接突っ張れる肩甲骨からわき腹の部分を使えばいいのか。できた。ここからは両足で突っ張れる。トラバースのスタートラインへ立てた。
トラバースは予行演習どおりにすたすた歩くようにして登はんしていった。しかしトラバースの終点から潅木へ向けての緩斜面が、浅い土つきだった。ピッケルを置いてきたことを後悔した。ハンドホールドはほとんど取れない。つま先の立ちこみだけに命を託す。つま先が土の中の岩のホールドに停まっていることを確認しつつ、ハンドホールドはほとんど地面をわしづかみするようにして、足元が崩れ始める前にと一気に高度を上げていった。ケヤキと松の木が立っているところまでたどり着き、危険地帯を通過した。松の木が生えていた。松の枝には結構悩まされ、通過の際に藪こぎパンツを少し裂いてしまった。
そこは、子持ち岩(入道岩)の親と子の間のギャップだった。鷹取岩から観察してきたところの「あそこまでたどり着ければ登頂できるかもしれない」という場所だ。ギャップ越しに鷹取岩の絶壁が覗いて面白い。
ここから入道岩のピークまでは3mもない。ホールドは安定していそうだ。興奮してくるのがわかる。抜けにくそうなハンドホールドを探してつかんでみる。イワヒバやこけが枯れてできた粉がホールドを覆っており、防寒テムレスをはめた手では滑ってしっかりつかむことができない。ここは素手で行こう。今度はしっかり捉えることができた。最初の二・三手は垂壁を、その後は緩斜面を一気に攀じて、入道岩のピークに立った。Yes! 絶叫した。
何年も夢に見ていた岩塔の頂点にとうとう立ったのだ。鷹取岩の絶壁が見える。三角点「曾根」の岩壁が見える。滝倉の集落が良く見える。弘法堂とあずまやが見える。興奮で腰が抜けたようになってピークに座り込み、さえぎるもののない奥久慈の山々の景色を腑抜けのようになって眺めていた。
ここで岩塔の上に立っている自分の写真が残れば最高なのだがソロクライミングではそれはできない。鷹取岩と入道岩眺望点をバックに記念撮影してみた。
ピークは猛禽の食堂になっているようで、伝書鳩や野鳥の生態調査に使われる脚環が落ちていた。さらにその横にはイノシシの糞くらいの大きさの白い糞が2、3個落ちていた。しかしいくら猛禽でもこのような糞はないだろう。実際ピークは随所に鳥の糞あとが白いペンキのように飛び散っていたのだから。その「糞」を手にとってよく見ると鳥の格好をしている。どうやらミイラ化した小鳥の死骸のようである。
またピークの先端には筆者も見たことのない、ブラシを立てたような植物が一株生えていた。
ようやく落ち着いて、降りる気になったが興奮と緊張でりんごやおやつをいただく気にもならず、ギャップまで降りて子持ち岩の子の方をへ攀じ返した。はるか下方に残置してきたピッケルが木の枝の間にかすかに見える。
眺望岩のほうを眺めると、いい具合に岩溝が走っている。登はんに使った陰気な垂直の岩溝を懸垂下降することは回避し、眺望点へ岩溝を使って登り返せば、ハイキングコースを使って下山することができるだろう。再度入道岩の親を眺めた後にギャップをクライムダウンした。
■三つ目の岩はあきらめた
ギャップから松の木を再度通過し、けやきを使って懸垂下降することにした。ここなら30mザイルで降りられるだろう。
急斜面なのでまず自分をスリングでケヤキに自己確保した。ついで、ザックをおろしてそれを別のスリングで自己確保した。ここでようやくザックを開けて、最上部に詰めておいた30mザイルを取り出し、ケヤキの幹に掛けた。さらにザイルの末端を探したり、中間部を探したりとザイルをさばかなければならなくて結構面倒くさいが、今シーズンはブナの木ルンゼの前衛峰の撤退で懸垂下降は何回もやっているので手際も良くなってきた。
エイト環やカラビナの状態を確認し、ビレイ(自己確保)を解除して下降を開始した。命がけだった土付きの急斜面も、ザイルで確保されてゆっくり降りる懸垂下降は快適だった。登はんに使ったトラバースルートは使わずに垂壁を岩塔の根元まで降りた。ザイルの残り具合から察するに取り付きからピークまでは15m程度の登はんだったようだ。
急斜面に赤いプラ容器が見える。ザイルを解く前に回収しよう。どうやら焼酎のプラカップのようだ。ザイルの長さぎりぎりでプラ容器を回収した後に、ザイルを使って土付きの急斜面を登り返して残置したピッケルまで戻ってきた。
ザイルを回収した後、前半で見送った岩に戻ってきた。入道岩登頂成功の興奮状態を使ってこの岩のピークにも立とうという算段だ。この岩、入道岩の取り付きから眺めると、まさにモアイ像だ。
下からの見立ての通りに浅い岩棚を使って小さい潅木まで進んだが、その先が悪かった。入道岩の場合は岩が安定していたように感じたが、このモアイ、たどり着いてみるとイワヒバにびっしりと覆われており、安定したホールドを取るのがなかなか難しい。アプローチシューズのつま先に頼って進んでみようとした。つかんでいた右手の岩がすぽっと抜けて血の気がさーっと引いてしまった。
無理に進んで進退窮まるとよくない。ここは支点に使えるような木も生えていない。「一番登りたい所は登らせたのだから、ここはやめておけ」という奥久慈の神様のお告げなのだろう。岩棚をびくびくしながらクライムダウンした。今日の登はんはほぼ終了だ。
予定通り眺望点の岩壁基部を巻いてケヤキの立つ岩溝を登っていった。斜度は結構あるが土付き斜面はピッケルとつま先の立ちこみがよく決まった。最後に岩の緩斜面をひと攀じして、眺望点横に飛び出した。これで今日はたぶん死なないだろう。
ギヤをといてハイキングモードに戻った後、眺望岩にいらしたハイカーの方と歓談した。私の自慢話をさんざん聞いてくださったハイカーの方には感謝の気持ちで一杯だ。
■下山はフジイ越から
下山は、登山の藪こぎの終盤で合流したフジイ越を使うことにしよう。ここは以前1度だけ使ったことがあり、そのときはかなり難しいハイキングコースだったことを記憶している。果たして序盤は鎖場や岩の急斜面があってかなり悪かったが、P460の岩壁下を過ぎたころから穏やかなハイキングコースに変わっていった。最初からここを使って取り付いていれば、どれだけ時間を短縮し、藪こぎウェアのかぎ裂きの量を減らすことができただろうか。
畑が見えて来た。あの畑を過ぎて、民家の前を通れば登山は終了だ。民家のお庭を通らせていただくような形で古分屋敷の林道に出て、終了した。
あとは林道を西金駅へ歩くだけだ。午後の日差しを受けて奥久慈岩稜と、鷹取岩、そして今日やった入道岩がはっきり見える。これからあの景色を見るたびに今日の登攀のことを思い出して満足感に浸れることだろう。
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