古道「カイドウ」ルート図その
(門入〜西谷本流(シン谷)〜金ヶ丸・根洞谷二俣)
※古道のルートは,陸地測量部地形図(明治42年測図)の点線路及び「樹林の山旅」の記述から推定したものです。
※クリックで拡大できます
0
古道「カイドウ」ルート図その
(門入〜西谷本流(シン谷)〜金ヶ丸・根洞谷二俣)
※古道のルートは,陸地測量部地形図(明治42年測図)の点線路及び「樹林の山旅」の記述から推定したものです。
※クリックで拡大できます
古道「カイドウ」ルート図その
(金ヶ丸・根洞谷二俣〜金ヶ丸・根洞谷中間尾根〜金ヶ丸源流〜越美国境稜線)
※クリックで拡大できます
0
古道「カイドウ」ルート図その
(金ヶ丸・根洞谷二俣〜金ヶ丸・根洞谷中間尾根〜金ヶ丸源流〜越美国境稜線)
※クリックで拡大できます
古道「カイドウ」ルート図その
(越美国境稜線〜カイドウの尾〜黒谷〜二ツ屋)
※クリックで拡大できます
0
古道「カイドウ」ルート図その
(越美国境稜線〜カイドウの尾〜黒谷〜二ツ屋)
※クリックで拡大できます
【アプローチ】椀戸谷の出合に車を置いて,山行スタート。揖斐川源流の西谷(シン谷)を目指して,まずは椀戸谷経由で稜線に上がる。
0
【アプローチ】椀戸谷の出合に車を置いて,山行スタート。揖斐川源流の西谷(シン谷)を目指して,まずは椀戸谷経由で稜線に上がる。
【アプローチ】椀戸谷の堰堤の記載がある枝谷は,意外に滝が出てきて楽しい。写真は滝になって出合っている二俣。通過は容易。
2
【アプローチ】椀戸谷の堰堤の記載がある枝谷は,意外に滝が出てきて楽しい。写真は滝になって出合っている二俣。通過は容易。
【アプローチ】椀戸谷からP905付近に上がり,反対側の茂津谷へ下降。滝は一つもなく,下降路に最適。源頭付近に廃林道も通っているので,植生は微妙かと思っていたら,二次林ながら自然林で雰囲気も悪くない。
0
【アプローチ】椀戸谷からP905付近に上がり,反対側の茂津谷へ下降。滝は一つもなく,下降路に最適。源頭付近に廃林道も通っているので,植生は微妙かと思っていたら,二次林ながら自然林で雰囲気も悪くない。
【古道「カイドウ」の探索開始(西谷本流)】茂津谷をひたすら下降し,やっと揖斐川源流・西谷の本流(シン谷)に降り立った。ここから「カイドウ」ルートと合流し,本格的に探索開始となる。明るく開けた谷底いっぱいに滔々と流れる清流の風景に,一瞬で心を奪われた。
1
【古道「カイドウ」の探索開始(西谷本流)】茂津谷をひたすら下降し,やっと揖斐川源流・西谷の本流(シン谷)に降り立った。ここから「カイドウ」ルートと合流し,本格的に探索開始となる。明るく開けた谷底いっぱいに滔々と流れる清流の風景に,一瞬で心を奪われた。
左岸斜面を100mほど上がれば廃林道があるが,昔の古道は谷底を通っていたようなので,敢えて谷沿いに遡行する。というか,こんなに美しい谷なら,林道に上がってしまうのは単純にもったいない。河原をつないで頻繁に渡渉を繰り返すが,水量は豊富なものの,この辺りはまだ谷が広く膝位の渡渉で済むので,通過は難しくない。
0
左岸斜面を100mほど上がれば廃林道があるが,昔の古道は谷底を通っていたようなので,敢えて谷沿いに遡行する。というか,こんなに美しい谷なら,林道に上がってしまうのは単純にもったいない。河原をつないで頻繁に渡渉を繰り返すが,水量は豊富なものの,この辺りはまだ谷が広く膝位の渡渉で済むので,通過は難しくない。
古道が現役だった当時は,河原をつないで踏み跡があったらしいのだが,現在の両岸はボサが広がるばかりで,道の形跡は残念ながら全く見当たらない。
1
古道が現役だった当時は,河原をつないで踏み跡があったらしいのだが,現在の両岸はボサが広がるばかりで,道の形跡は残念ながら全く見当たらない。
道が消失しているとなれば,古道探索の趣旨からは外れてしまうが,水線沿いに遡行を続けるしかない。渡渉は多いものの,決定的な悪場は出てこないので,仮に巻き道がないとしても,昔の人でもこれくらいの遡行は十分こなせただろう(むしろ,私なんかよりずっとうまかったかも?)。
0
道が消失しているとなれば,古道探索の趣旨からは外れてしまうが,水線沿いに遡行を続けるしかない。渡渉は多いものの,決定的な悪場は出てこないので,仮に巻き道がないとしても,昔の人でもこれくらいの遡行は十分こなせただろう(むしろ,私なんかよりずっとうまかったかも?)。
左岸に林道が走っているので,植林の多い殺風景な谷なのかと思い込んでいたのだが,ほんの一部に植林が見られるものの,ほとんどは自然林で,写真のような立派なトチノキも見られる。予想外の美しい渓相に驚いた。
0
左岸に林道が走っているので,植林の多い殺風景な谷なのかと思い込んでいたのだが,ほんの一部に植林が見られるものの,ほとんどは自然林で,写真のような立派なトチノキも見られる。予想外の美しい渓相に驚いた。
上流は金ヶ丸谷と根洞谷という二大美渓なので,当然のことながら水は驚くほどの透明度。周囲の緑と相まって,この本流区間も十分に「美渓」と言っていいと思う。林道は斜面のかなり高い位置を通っているので谷底からは全く存在に気付かず,気にならない。
0
上流は金ヶ丸谷と根洞谷という二大美渓なので,当然のことながら水は驚くほどの透明度。周囲の緑と相まって,この本流区間も十分に「美渓」と言っていいと思う。林道は斜面のかなり高い位置を通っているので谷底からは全く存在に気付かず,気にならない。
右岸の烏帽子山側から流れ落ちる枝谷は険しいものが多く,滝記号があるものもあるので,覗き込みながら遡行したが,やはり滝になって流れ込むものもいくつか。気になるなぁ。
0
右岸の烏帽子山側から流れ落ちる枝谷は険しいものが多く,滝記号があるものもあるので,覗き込みながら遡行したが,やはり滝になって流れ込むものもいくつか。気になるなぁ。
美しい渓谷が続く。滝はほとんど出てこないが,次第に水勢が強くなり,渡渉やヘツリに緊張する場面もあり,沢登り的にも結構楽しい。おそらく,こういう箇所には巻き道が付いていたのだと思うが,残念ながらそれらしき踏み跡に気づくことはなかった。
0
美しい渓谷が続く。滝はほとんど出てこないが,次第に水勢が強くなり,渡渉やヘツリに緊張する場面もあり,沢登り的にも結構楽しい。おそらく,こういう箇所には巻き道が付いていたのだと思うが,残念ながらそれらしき踏み跡に気づくことはなかった。
沢登りの対象としては,上流の金ヶ丸谷や根洞谷ばかりがクローズアップされるが,この西谷の本流部分も併せて遡行したらもっと楽しめるのでは。余分に一日かかってしまうが…。
0
沢登りの対象としては,上流の金ヶ丸谷や根洞谷ばかりがクローズアップされるが,この西谷の本流部分も併せて遡行したらもっと楽しめるのでは。余分に一日かかってしまうが…。
さて,上流に行くほど両岸が岩壁状に立った区間が多くなってきて,ついに「樹林の山旅」にも登場するオセビの難所の淵が現れた。確かにここは足が立たず,水流もあって中央突破は苦労しそう。同書によると右岸の尾根に上がって巻くのが本道らしいのだが,道は消失してしまったようで全く見当たらず,急斜面が続くばかりで逆にかなり苦労しそう。結局,淵の右壁を直登して越えてしまった(容易でした)。
0
さて,上流に行くほど両岸が岩壁状に立った区間が多くなってきて,ついに「樹林の山旅」にも登場するオセビの難所の淵が現れた。確かにここは足が立たず,水流もあって中央突破は苦労しそう。同書によると右岸の尾根に上がって巻くのが本道らしいのだが,道は消失してしまったようで全く見当たらず,急斜面が続くばかりで逆にかなり苦労しそう。結局,淵の右壁を直登して越えてしまった(容易でした)。
オセビの難所を越えると,谷はますますV字状に狭まってきた。斜面を巻くこともできず,特に今回は連日の雨と雪代でかなり増水しているようで,腰まで浸かっての渡渉やヘツリを何度も強いられる。しまいに雨まで降り出して,低い水温も相まって寒くて仕方がない。これは5月初旬にやる内容じゃなかったな…。
1
オセビの難所を越えると,谷はますますV字状に狭まってきた。斜面を巻くこともできず,特に今回は連日の雨と雪代でかなり増水しているようで,腰まで浸かっての渡渉やヘツリを何度も強いられる。しまいに雨まで降り出して,低い水温も相まって寒くて仕方がない。これは5月初旬にやる内容じゃなかったな…。
ここなんかは完全な廊下で,巻き道をつけることもままならなかったのでは。それとも,古道はかなり高い位置を巻いていたのだろうか? とにかく,今は強い水流に流されまいと踏ん張りつつ,壁際を際どくヘツリ抜けていくしかない。
0
ここなんかは完全な廊下で,巻き道をつけることもままならなかったのでは。それとも,古道はかなり高い位置を巻いていたのだろうか? とにかく,今は強い水流に流されまいと踏ん張りつつ,壁際を際どくヘツリ抜けていくしかない。
嫌と言うほど冷たい水に浸かり続け,延々と蛇行を続ける渓谷を辿っていくと,ようやく谷が開け始めた。もうすぐ二俣だろうか。
0
嫌と言うほど冷たい水に浸かり続け,延々と蛇行を続ける渓谷を辿っていくと,ようやく谷が開け始めた。もうすぐ二俣だろうか。
やっと着いた,金ヶ丸谷(右)と根洞谷(左)の二俣だ! ここに来るのは,何年か前にこの二つの谷を一泊二日で遡下降した時以来。懐かしい。
0
やっと着いた,金ヶ丸谷(右)と根洞谷(左)の二俣だ! ここに来るのは,何年か前にこの二つの谷を一泊二日で遡下降した時以来。懐かしい。
早々に焚火を起こして暖まりたい欲求を抑えつつ,まずは二俣の中間尾根をすぐ上がったところにある台地の様子を調べる。ここは「樹林の山旅」では清生傳吉の小屋があった場所で,森本次男のパーティーがアマゴ料理を楽しみつつ豪華な夜を過ごした場所だ。
0
早々に焚火を起こして暖まりたい欲求を抑えつつ,まずは二俣の中間尾根をすぐ上がったところにある台地の様子を調べる。ここは「樹林の山旅」では清生傳吉の小屋があった場所で,森本次男のパーティーがアマゴ料理を楽しみつつ豪華な夜を過ごした場所だ。
この小屋場が,「カイドウ」を行き交う人々の休息&宿泊場所にもなっていた時代もあったのではないかと推測していたのだが,現在は雑然とした笹薮が広がるばかりで,小屋の形跡は既に微塵もなかった。地面にころがった丸石が,小屋の基石を思わせる程度だ。気持ちのいい場所だったらここに泊ってもいいかな,と思っていたのだが,現在ではそんな気にもなれない場所になり果てていた。
0
この小屋場が,「カイドウ」を行き交う人々の休息&宿泊場所にもなっていた時代もあったのではないかと推測していたのだが,現在は雑然とした笹薮が広がるばかりで,小屋の形跡は既に微塵もなかった。地面にころがった丸石が,小屋の基石を思わせる程度だ。気持ちのいい場所だったらここに泊ってもいいかな,と思っていたのだが,現在ではそんな気にもなれない場所になり果てていた。
というわけで,大人しく河原に降りて,タープを張る。数年前の金ヶ丸谷・根洞谷の遡下降時にも泊まった場所なのだが,その時よりも砂利が堆積して河原が広くなっており,泊まりやすくなっていた。
2
というわけで,大人しく河原に降りて,タープを張る。数年前の金ヶ丸谷・根洞谷の遡下降時にも泊まった場所なのだが,その時よりも砂利が堆積して河原が広くなっており,泊まりやすくなっていた。
ここ数日来の雨で河原に転がる薪はぐっしょり濡れていたが,焚火を起こさないと米さえ炊けないので(ガスバーナーはあくまで非常用の位置づけで,燃料はわずかしか持ってきていない),必死こいて火をおこした。西谷本流の遡行で冷え切った体にぬくもりが戻って来る。夜半から天候は回復して美しい星月夜となり,安心して眠りに落ちた。
2
ここ数日来の雨で河原に転がる薪はぐっしょり濡れていたが,焚火を起こさないと米さえ炊けないので(ガスバーナーはあくまで非常用の位置づけで,燃料はわずかしか持ってきていない),必死こいて火をおこした。西谷本流の遡行で冷え切った体にぬくもりが戻って来る。夜半から天候は回復して美しい星月夜となり,安心して眠りに落ちた。
【2日目。金ヶ丸谷・根洞谷の中間尾根】翌朝,消えかけた焚火を起こし直してお茶漬けをすすり,手早くタープを撤収して金ヶ丸谷と根洞谷の中間尾根に取りつく。徳山に残る地名では,「カイドウ(街道)」と呼ばれている尾根だ。藪の状態を気にしていたが,尾根末端から驚くほど明瞭な踏み跡が続いていた。古道の名残を,獣たちが獣道として使い続けているのだろう。
1
【2日目。金ヶ丸谷・根洞谷の中間尾根】翌朝,消えかけた焚火を起こし直してお茶漬けをすすり,手早くタープを撤収して金ヶ丸谷と根洞谷の中間尾根に取りつく。徳山に残る地名では,「カイドウ(街道)」と呼ばれている尾根だ。藪の状態を気にしていたが,尾根末端から驚くほど明瞭な踏み跡が続いていた。古道の名残を,獣たちが獣道として使い続けているのだろう。
美しいブナの森が続く。目の覚めるような新緑だ。
1
美しいブナの森が続く。目の覚めるような新緑だ。
ところどころツツジの紅が鮮やかだ。
2
ところどころツツジの紅が鮮やかだ。
このように明瞭な道跡が続く。獣道だけでは説明がつかない,しっかりとした感触の道だ。やはり古道の跡なのだろう。
0
このように明瞭な道跡が続く。獣道だけでは説明がつかない,しっかりとした感触の道だ。やはり古道の跡なのだろう。
素晴らしい森。登山ルートとしても十分魅力的。
2
素晴らしい森。登山ルートとしても十分魅力的。
1
P927にはしっかりした水深を持った池があった。
1
P927にはしっかりした水深を持った池があった。
P927からしばらく若干藪っぽいが,相変わらず良いブナの森。
0
P927からしばらく若干藪っぽいが,相変わらず良いブナの森。
すぐに道が復活。歩きやすい尾根が続く。
0
すぐに道が復活。歩きやすい尾根が続く。
と,ついに,かつての通行人の痕跡を発見! ブナの木に文字が切り付けられている! ちょっと興奮してしまった。
(旧徳山村周辺の古道では,例えば檜尾峠など,通行人が記念としてブナの木に文字を彫りつけたものが残されていることがあり,実はちょっと期待していた)
2
と,ついに,かつての通行人の痕跡を発見! ブナの木に文字が切り付けられている! ちょっと興奮してしまった。
(旧徳山村周辺の古道では,例えば檜尾峠など,通行人が記念としてブナの木に文字を彫りつけたものが残されていることがあり,実はちょっと期待していた)
「四年九月 十四十五」と読める。「四年」は明治なのか大正なのか昭和なのか不明だが(さすがに平成ではないだろう),いずれにせよかなり古いものだ。「十四十五」の意味は不明。
1
「四年九月 十四十五」と読める。「四年」は明治なのか大正なのか昭和なのか不明だが(さすがに平成ではないだろう),いずれにせよかなり古いものだ。「十四十五」の意味は不明。
こちらには「七年十月 トシ」とある。トシさんという女性が,明治か大正か昭和かの七年十月に,この尾根を通ったのだ! どんな女性だったのだろう。そしてどんな目的で,この尾根を歩いたのだろうか。
2
こちらには「七年十月 トシ」とある。トシさんという女性が,明治か大正か昭和かの七年十月に,この尾根を通ったのだ! どんな女性だったのだろう。そしてどんな目的で,この尾根を歩いたのだろうか。
分かりやすいように,彫り込み文字を画像上で赤ペンでなぞってみました。
1
分かりやすいように,彫り込み文字を画像上で赤ペンでなぞってみました。
「四十六年四月 太井〇」(〇の文字は読めず)と読める。昭和四十六年と思われるので,比較的新しい彫り込みだ。
2
「四十六年四月 太井〇」(〇の文字は読めず)と読める。昭和四十六年と思われるので,比較的新しい彫り込みだ。
また別に木にも彫り込み。薄くて読めないが,確かに文字だ。
0
また別に木にも彫り込み。薄くて読めないが,確かに文字だ。
こちらは「五二才」とある。年齢のようだ。
0
こちらは「五二才」とある。年齢のようだ。
また別の木にも! 「武田〇〇 二十六才」(〇の部分は読めず)とある。
0
また別の木にも! 「武田〇〇 二十六才」(〇の部分は読めず)とある。
こっちにも! 本当に切り付けが多いな。しかも,「出熊狩り」と来訪目的まで書いてあり,大変興味深い。「出熊」は冬眠穴から出てきたばかりの熊のことなので,春先に熊狩りに訪れたのだろう。この尾根は,猟師などの山仕事人も多く訪れていたようだ。「カイドウ」の古道があってのことだろう。
2
こっちにも! 本当に切り付けが多いな。しかも,「出熊狩り」と来訪目的まで書いてあり,大変興味深い。「出熊」は冬眠穴から出てきたばかりの熊のことなので,春先に熊狩りに訪れたのだろう。この尾根は,猟師などの山仕事人も多く訪れていたようだ。「カイドウ」の古道があってのことだろう。
「出熊狩り」の隣に彫られていた文字。「〇 三十六才」と。〇の部分は名前かと思うが,残念ながら読めない。何かの符丁だろうか?
2
「出熊狩り」の隣に彫られていた文字。「〇 三十六才」と。〇の部分は名前かと思うが,残念ながら読めない。何かの符丁だろうか?
まただ! こちらも「〇〇狩り 四十一才 四〇」と彫られている(〇の部分は読めず)。
このように,P927からP998の区間で,数多くの彫り込み文字を目にすることが出来た(私が見逃したものが他にもありそう)。現在は秘境としか思えないこの尾根を,かつては多くの人々が様々な目的で行き交っていたことを実感できた。なんだか感動した。
3
まただ! こちらも「〇〇狩り 四十一才 四〇」と彫られている(〇の部分は読めず)。
このように,P927からP998の区間で,数多くの彫り込み文字を目にすることが出来た(私が見逃したものが他にもありそう)。現在は秘境としか思えないこの尾根を,かつては多くの人々が様々な目的で行き交っていたことを実感できた。なんだか感動した。
その後も,大きなブナの木が出てくるたびに,幹を一回りして文字が彫り付けられていないか調べるのが習慣となった。彫り込み文字は古道の大切な遺構なので,見逃すわけにはいかない。おかげで歩行ペースはガタ落ちだが…。
3
その後も,大きなブナの木が出てくるたびに,幹を一回りして文字が彫り付けられていないか調べるのが習慣となった。彫り込み文字は古道の大切な遺構なので,見逃すわけにはいかない。おかげで歩行ペースはガタ落ちだが…。
進めば進むほど,ブナが立派になっていく気がする。おそらく,本格的に人の手が入っていない領域に入りつつあるのだろう。
0
進めば進むほど,ブナが立派になっていく気がする。おそらく,本格的に人の手が入っていない領域に入りつつあるのだろう。
しかし相変わらず,道形は明瞭だ。部分的には,現役の登山道かと見紛うくらい。ブナに文字を彫り付けた人々も,この道を歩いたのだろう。
0
しかし相変わらず,道形は明瞭だ。部分的には,現役の登山道かと見紛うくらい。ブナに文字を彫り付けた人々も,この道を歩いたのだろう。
左手には沢筋に白く雪渓を残した高丸の姿。
1
左手には沢筋に白く雪渓を残した高丸の姿。
両側を金ヶ丸谷と根洞谷という深い渓谷に挟まれたこの尾根は,両側斜面の森も太い木が多く,素晴らしい。
1
両側を金ヶ丸谷と根洞谷という深い渓谷に挟まれたこの尾根は,両側斜面の森も太い木が多く,素晴らしい。
そして,P998の平に到着。ブナの古木が立ち並ぶ,気持ちのいい平だ。ザックを下ろして休憩するにはもってこいの場所。
0
そして,P998の平に到着。ブナの古木が立ち並ぶ,気持ちのいい平だ。ザックを下ろして休憩するにはもってこいの場所。
この面白い形のブナの木は,見覚えあるなぁ。2020年6月に,この尾根にある池マークを小茂津谷経由で探索に来た際にも眺めた木だ。また再会できるとは。
0
この面白い形のブナの木は,見覚えあるなぁ。2020年6月に,この尾根にある池マークを小茂津谷経由で探索に来た際にも眺めた木だ。また再会できるとは。
堂々たるトチノキ
1
堂々たるトチノキ
ブナが所狭しと立ち並ぶ。
3
ブナが所狭しと立ち並ぶ。
本当に気持ちのいい平。ミソサザイやコマドリ,クロツグミの声が森じゅうに響き渡っている。コマドリとクロツグミは,今年はじめて聞くなぁ。もう初夏か。
1
本当に気持ちのいい平。ミソサザイやコマドリ,クロツグミの声が森じゅうに響き渡っている。コマドリとクロツグミは,今年はじめて聞くなぁ。もう初夏か。
平から少し進むと,現行の地形図で池マークが描かれている箇所。残念ながら,前回訪問時よりもさらに水が減ってしまっていた。古道が現役だった時代は,一面に水を湛えていたのだろうか。
1
平から少し進むと,現行の地形図で池マークが描かれている箇所。残念ながら,前回訪問時よりもさらに水が減ってしまっていた。古道が現役だった時代は,一面に水を湛えていたのだろうか。
この池(跡)の周りも,ブナの大木が多い。
0
この池(跡)の周りも,ブナの大木が多い。
池(跡)から少し下ると,この尾根の最低鞍部に着く。「ヒクミ」という地元地名が残されており,おそらく猟師などの山仕事人が,金ヶ丸谷の流域と根洞谷の流域を行き来するのに使っていたのではないだろうか。
0
池(跡)から少し下ると,この尾根の最低鞍部に着く。「ヒクミ」という地元地名が残されており,おそらく猟師などの山仕事人が,金ヶ丸谷の流域と根洞谷の流域を行き来するのに使っていたのではないだろうか。
ヒクミを過ぎた後も,美しいブナの森と,比較的はっきりした道跡が続く。
1
ヒクミを過ぎた後も,美しいブナの森と,比較的はっきりした道跡が続く。
道中はシャクナゲの花盛り。
2
道中はシャクナゲの花盛り。
右手には美濃俣丸が近くなってきた。
1
右手には美濃俣丸が近くなってきた。
越美国境稜線の美濃俣丸(左),大河内山(右),ロボットピーク(真ん中あたりにちょこんと見えている)の眺め。
0
越美国境稜線の美濃俣丸(左),大河内山(右),ロボットピーク(真ん中あたりにちょこんと見えている)の眺め。
さて,そろそろ,今回の山行の核心部が近づいてきた。古道ルートは,この中間尾根から金ヶ丸谷源流部に下降したのち,金ヶ丸谷の枝谷である「朴の木谷」と呼ばれる谷に入り,越美国境稜線に上がっていたらしい。とりわけ,この中間尾根から金ヶ丸谷へ下降する区間は,古地図や文献でも古道のルート取りを特定できなかった区間だ。自分のルートファインディング力を,いかに昔の人の感覚とシンクロできるかが試される。
1
さて,そろそろ,今回の山行の核心部が近づいてきた。古道ルートは,この中間尾根から金ヶ丸谷源流部に下降したのち,金ヶ丸谷の枝谷である「朴の木谷」と呼ばれる谷に入り,越美国境稜線に上がっていたらしい。とりわけ,この中間尾根から金ヶ丸谷へ下降する区間は,古地図や文献でも古道のルート取りを特定できなかった区間だ。自分のルートファインディング力を,いかに昔の人の感覚とシンクロできるかが試される。
これまで快適だったこの尾根も,三周ヶ岳に近づくにつれて,次第に藪が濃くなってくる。しかし,まだ余裕を持って歩ける程度。(三周ヶ岳手前の激藪は,こんなに甘いもんじゃない…)
0
これまで快適だったこの尾根も,三周ヶ岳に近づくにつれて,次第に藪が濃くなってくる。しかし,まだ余裕を持って歩ける程度。(三周ヶ岳手前の激藪は,こんなに甘いもんじゃない…)
ちょうど尾根が三周ヶ岳の山頂に向けて南へ曲がり始め,急登が始まる直前の小鞍部まで来た。木々の間に,三周ヶ岳の尖った山頂がそそり立つ。 よし,ここだ! 事前の計画段階で,三周ヶ岳の激藪を避け,最短距離・最低高度差で金ヶ丸谷源流部に降り立つなら,ここだと目星をつけていた場所だ。現地は結構はっきりした鞍部になっており,尾根の真正面に三周ヶ岳も見えるので,体感的にも変化があってわかりやすい場所だ。ここで尾根筋を外れ,右手の斜面を下り出す。
1
ちょうど尾根が三周ヶ岳の山頂に向けて南へ曲がり始め,急登が始まる直前の小鞍部まで来た。木々の間に,三周ヶ岳の尖った山頂がそそり立つ。 よし,ここだ! 事前の計画段階で,三周ヶ岳の激藪を避け,最短距離・最低高度差で金ヶ丸谷源流部に降り立つなら,ここだと目星をつけていた場所だ。現地は結構はっきりした鞍部になっており,尾根の真正面に三周ヶ岳も見えるので,体感的にも変化があってわかりやすい場所だ。ここで尾根筋を外れ,右手の斜面を下り出す。
尾根筋から外れて金ヶ丸谷側の斜面を下り出すと,すぐに藪が薄くなり,歩きやすくなった。さすがに,この斜面には道跡らしきものは残っていなかったが…。
1
尾根筋から外れて金ヶ丸谷側の斜面を下り出すと,すぐに藪が薄くなり,歩きやすくなった。さすがに,この斜面には道跡らしきものは残っていなかったが…。
すぐに浅く緩やかな沢状地形に入り,それを下っていく。とても歩きやすく,美しい流れ。これが古道の正解ルートなのかは分からないが,その可能性は十分あると感じた。というか,登山ルートとしても十分「当たりルート」だ。
2
すぐに浅く緩やかな沢状地形に入り,それを下っていく。とても歩きやすく,美しい流れ。これが古道の正解ルートなのかは分からないが,その可能性は十分あると感じた。というか,登山ルートとしても十分「当たりルート」だ。
流れのほとりには,リュウキンカの可憐な黄色い花が。このあたりの山では,初めて見た気がする。
0
流れのほとりには,リュウキンカの可憐な黄色い花が。このあたりの山では,初めて見た気がする。
大きなブナの木が林立する斜面を,小さな流れに沿って下っていく。
0
大きなブナの木が林立する斜面を,小さな流れに沿って下っていく。
【金ヶ丸谷源流部】そして,難所にぶつかることなく,スムーズに金ヶ丸谷源流部に降り立つことができた(左の小さな流れが降りて来た枝沢)。本ルートで一番心配していた区間だったので,一安心。降りて来た枝沢は,金ヶ丸谷からも目立つので,仮に古道ルートとしても分かりやすいはず。
0
【金ヶ丸谷源流部】そして,難所にぶつかることなく,スムーズに金ヶ丸谷源流部に降り立つことができた(左の小さな流れが降りて来た枝沢)。本ルートで一番心配していた区間だったので,一安心。降りて来た枝沢は,金ヶ丸谷からも目立つので,仮に古道ルートとしても分かりやすいはず。
下流側を見ると,すぐ下がややこしそうな滝場になっており,見るからに不気味なボロボロのスノーブリッジが掛かっていた…。金ヶ丸谷の難所区間がちょうど終わったところで,うまく谷底に降りてきたことになる。こうした点からも,今回下降したルートのあたりを古道も下っていたのでは,と思いたくなる。
0
下流側を見ると,すぐ下がややこしそうな滝場になっており,見るからに不気味なボロボロのスノーブリッジが掛かっていた…。金ヶ丸谷の難所区間がちょうど終わったところで,うまく谷底に降りてきたことになる。こうした点からも,今回下降したルートのあたりを古道も下っていたのでは,と思いたくなる。
びっくりしたのは,ちょうど降り立ったあたりの金ヶ丸谷の谷底は,リュウキンカの群生地だったこと。このあたりの谷にもこんなにリュウキンカがあったなんて,初めて知った!
4
びっくりしたのは,ちょうど降り立ったあたりの金ヶ丸谷の谷底は,リュウキンカの群生地だったこと。このあたりの谷にもこんなにリュウキンカがあったなんて,初めて知った!
リュウキンカの鮮やかなイエローが嬉しい。ただ,渓谷の脇の,急峻な岩壁ばかりに群生しているので,おそらくシカの食害が届かない場所だけに群生地が残っているのだろう。
3
リュウキンカの鮮やかなイエローが嬉しい。ただ,渓谷の脇の,急峻な岩壁ばかりに群生しているので,おそらくシカの食害が届かない場所だけに群生地が残っているのだろう。
さて,金ヶ丸谷を上流に向けて歩き出すと…あらら,一個だけ小滝と淵が出てきちゃった…。沢登りの装備に身を包んだ登山者なら簡単にヘツリ気味に越えられるが,昔の古道の通行人にはちょっと荷が重いかもしれない。古道はもうちょっと上流側で斜面に上がっていたのかなぁ。
0
さて,金ヶ丸谷を上流に向けて歩き出すと…あらら,一個だけ小滝と淵が出てきちゃった…。沢登りの装備に身を包んだ登山者なら簡単にヘツリ気味に越えられるが,昔の古道の通行人にはちょっと荷が重いかもしれない。古道はもうちょっと上流側で斜面に上がっていたのかなぁ。
先ほどの小滝を越えると,すぐにこの穏やかな枝沢が出てきた。もしかしたら,古道はこの枝沢から谷を離れ,斜面をトラバースして尾根へと上がっていたのかもしれない。(というか,ここまで来れば斜面が緩い箇所も多いので,割とどこからでも尾根に上がれそう。写真欄冒頭のルート図△某簑ルートを黄緑点線で示しました。)
0
先ほどの小滝を越えると,すぐにこの穏やかな枝沢が出てきた。もしかしたら,古道はこの枝沢から谷を離れ,斜面をトラバースして尾根へと上がっていたのかもしれない。(というか,ここまで来れば斜面が緩い箇所も多いので,割とどこからでも尾根に上がれそう。写真欄冒頭のルート図△某簑ルートを黄緑点線で示しました。)
雪渓の残り具合を心配していたのだが,ところどころ雪渓の残骸が出てくるぐらいで,問題はなかった。数年前に金ヶ丸谷を遡行したときは,雪の多い年だったこともあり,6月初旬だというのに5回くらい雪渓くぐりをやらされて冷や汗をかいた記憶があるので,今年はやっぱり雪が少なかったんだなと実感。
0
雪渓の残り具合を心配していたのだが,ところどころ雪渓の残骸が出てくるぐらいで,問題はなかった。数年前に金ヶ丸谷を遡行したときは,雪の多い年だったこともあり,6月初旬だというのに5回くらい雪渓くぐりをやらされて冷や汗をかいた記憶があるので,今年はやっぱり雪が少なかったんだなと実感。
金ヶ丸谷の源流部は本当に穏やかで気持ちがよく,大好きな場所。今回も訪れるのを楽しみにしていた。期待どおりの美しい流れだ。
1
金ヶ丸谷の源流部は本当に穏やかで気持ちがよく,大好きな場所。今回も訪れるのを楽しみにしていた。期待どおりの美しい流れだ。
あ”ー,新緑のシャワーが気持ちいー(ドーパミン全開状態)
1
あ”ー,新緑のシャワーが気持ちいー(ドーパミン全開状態)
古道探索と言う目的を忘れ去ってしまうほどの,美しい空間。というか,古道を辿ってここまで来た昔の人も,ここできっと一服入れて,清水に喉をうるおし,しばし周囲の緑を眺めたに違いない。そう思える。(実際,ここでわざわざ古道が谷に降りているのは,前後に長い尾根道を控えて,水の補給やクールダウンという大切な意味もあったはずだ。)
1
古道探索と言う目的を忘れ去ってしまうほどの,美しい空間。というか,古道を辿ってここまで来た昔の人も,ここできっと一服入れて,清水に喉をうるおし,しばし周囲の緑を眺めたに違いない。そう思える。(実際,ここでわざわざ古道が谷に降りているのは,前後に長い尾根道を控えて,水の補給やクールダウンという大切な意味もあったはずだ。)
穏やかに蛇行する源流の両側に,ブナの木立が行儀よく立ち並ぶ,金ヶ丸谷独特の風景。「ブナの牧場」,意味もなくそんな言葉が頭に浮かんでしまう。
1
穏やかに蛇行する源流の両側に,ブナの木立が行儀よく立ち並ぶ,金ヶ丸谷独特の風景。「ブナの牧場」,意味もなくそんな言葉が頭に浮かんでしまう。
幸せなそぞろ歩きが続く。
0
幸せなそぞろ歩きが続く。
よし決めた,今日はここに泊まっていこう! まだ12時だが,なにせ,広野ダムまで下山したあと,岐阜県側まで山越えして車を取りに行かないといけないし,ここで泊まっておいた方が得策だ。(というのは言い訳で,本当はここで一夜を過ごしたいという欲望に負けただけ…)
1
よし決めた,今日はここに泊まっていこう! まだ12時だが,なにせ,広野ダムまで下山したあと,岐阜県側まで山越えして車を取りに行かないといけないし,ここで泊まっておいた方が得策だ。(というのは言い訳で,本当はここで一夜を過ごしたいという欲望に負けただけ…)
今日は雨は降らなさそうなので,タープは使わず,河原にゴロ寝のオープンビバーク。寝っ転がって新緑と青空を眺めながら,文庫本を読んで午後を過ごした。ヒガラやコガラの群れが,しきりにさえずりながらブナの梢を渡っていく。
1
今日は雨は降らなさそうなので,タープは使わず,河原にゴロ寝のオープンビバーク。寝っ転がって新緑と青空を眺めながら,文庫本を読んで午後を過ごした。ヒガラやコガラの群れが,しきりにさえずりながらブナの梢を渡っていく。
もう源頭も近いというのに,不思議なくらい薪は豊富で,濡れた薪に苦労した昨夜とは打って変わってスムーズに炊事ができた。昔の人も,門入から古道を辿ってきた場合は,ちょうどこの辺りで日が暮れてしまうこともあったかもしれない。私と同じように,この辺りの河原で一夜を過ごしただろうかと,揺らめく焚火を見つめながら思いを馳せた。
2
もう源頭も近いというのに,不思議なくらい薪は豊富で,濡れた薪に苦労した昨夜とは打って変わってスムーズに炊事ができた。昔の人も,門入から古道を辿ってきた場合は,ちょうどこの辺りで日が暮れてしまうこともあったかもしれない。私と同じように,この辺りの河原で一夜を過ごしただろうかと,揺らめく焚火を見つめながら思いを馳せた。
【3日目。朴の木谷へ】翌朝,泊まり場に一礼したあと,遡行再開。古い陸地測量部地形図や「樹林の山旅」の記述から,ここが古道の通っていた「朴の木谷」だろうと推測した枝谷(写真の二俣の右側の流れ)に入る。
0
【3日目。朴の木谷へ】翌朝,泊まり場に一礼したあと,遡行再開。古い陸地測量部地形図や「樹林の山旅」の記述から,ここが古道の通っていた「朴の木谷」だろうと推測した枝谷(写真の二俣の右側の流れ)に入る。
案外狭い谷だが,水量は少ないので,昔の通行人でも容易に通過できただろう。「朴の木谷」というくらいだから,ホオノキが多いのかと思って歩きながら見回してみたが,ホオノキは一本も見当たらず…何でだろう。
0
案外狭い谷だが,水量は少ないので,昔の通行人でも容易に通過できただろう。「朴の木谷」というくらいだから,ホオノキが多いのかと思って歩きながら見回してみたが,ホオノキは一本も見当たらず…何でだろう。
こんな小滝はいくつか出てくるが,簡単に越えられる。
0
こんな小滝はいくつか出てくるが,簡単に越えられる。
と,谷が西に屈曲するあたりで,大きめの滝が! 2段8mくらいか。これがきっと,「樹林の山旅」にも記載されている「朴の木谷の途中にある大きな瀧」だろう。同書によれば,古道はこの滝を避けるため,枝尾根をひとつ越えて,次の谷から国境稜線に達していたらしい。実際,この滝は右岸の尾根から簡単に巻けそうだった。しかし,道は(当然のことながら)消滅したらしく見当たらず,滝は直登してしまいました(直登自体は容易)。
0
と,谷が西に屈曲するあたりで,大きめの滝が! 2段8mくらいか。これがきっと,「樹林の山旅」にも記載されている「朴の木谷の途中にある大きな瀧」だろう。同書によれば,古道はこの滝を避けるため,枝尾根をひとつ越えて,次の谷から国境稜線に達していたらしい。実際,この滝は右岸の尾根から簡単に巻けそうだった。しかし,道は(当然のことながら)消滅したらしく見当たらず,滝は直登してしまいました(直登自体は容易)。
その後もこんな小滝がいくつか。滝はごく小さいものの,両岸ともに足場に乏しく,ヘツリはやや慎重を要する。古道は,これらの前後の小滝も併せて巻き越えていたのかもしれない。
0
その後もこんな小滝がいくつか。滝はごく小さいものの,両岸ともに足場に乏しく,ヘツリはやや慎重を要する。古道は,これらの前後の小滝も併せて巻き越えていたのかもしれない。
実際,ある小滝は水線沿いの通過が難しく,右岸の小尾根から巻くことになった。すると,なんか妙にはっきりした平場が続いている気が…。まさか古道跡か!?(まあ,実際はただの獣道でしょうが…)
0
実際,ある小滝は水線沿いの通過が難しく,右岸の小尾根から巻くことになった。すると,なんか妙にはっきりした平場が続いている気が…。まさか古道跡か!?(まあ,実際はただの獣道でしょうが…)
小滝を巻き終えて谷に降り立つと,すぐに小さな二俣。事前の調べで推測していた古道ルートは「右」だ(直進してしまうと,古地図の点線路の線形と食い違ってしまう)。このあたりも,「樹林の山旅」に出てくる,「大きな瀧を避けるために枝尾根をひとつ越えて,次の谷から国境の尾根に達する」という記述にうまく一致している気がする。
0
小滝を巻き終えて谷に降り立つと,すぐに小さな二俣。事前の調べで推測していた古道ルートは「右」だ(直進してしまうと,古地図の点線路の線形と食い違ってしまう)。このあたりも,「樹林の山旅」に出てくる,「大きな瀧を避けるために枝尾根をひとつ越えて,次の谷から国境の尾根に達する」という記述にうまく一致している気がする。
右の枝谷に入ると,古い峠につながる谷にふさわしい,穏やかな源頭が続いている。「樹林の山旅」によれば,このあたりは「坊主坂」と呼ばれていたとある。徳山村で「坊主」といえば,越前の誠照寺の僧侶が村々を巡る行事である「お回り」を連想させられるが,「お回り」の僧侶がこの峠を越えた時代もあったのだろうか。
0
右の枝谷に入ると,古い峠につながる谷にふさわしい,穏やかな源頭が続いている。「樹林の山旅」によれば,このあたりは「坊主坂」と呼ばれていたとある。徳山村で「坊主」といえば,越前の誠照寺の僧侶が村々を巡る行事である「お回り」を連想させられるが,「お回り」の僧侶がこの峠を越えた時代もあったのだろうか。
イワウチワや,
2
イワウチワや,
カタクリの群落が,谷の両側を飾っている。
1
カタクリの群落が,谷の両側を飾っている。
谷はそのまま,穏やかに国境稜線へと吸い込まれていく。藪も薄くて大変歩きやすく,現役の峠道だとしても遜色ないくらいの地形で,驚かされた。
1
谷はそのまま,穏やかに国境稜線へと吸い込まれていく。藪も薄くて大変歩きやすく,現役の峠道だとしても遜色ないくらいの地形で,驚かされた。
ついに,越美国境稜線に出た。ここから美濃国を抜けて,越前国に入る。さすがに藪の越美国境,稜線上は灌木の藪がうるさいが,予想していたよりは大分マシ。さすがに道跡らしきものは残っていないが…。
0
ついに,越美国境稜線に出た。ここから美濃国を抜けて,越前国に入る。さすがに藪の越美国境,稜線上は灌木の藪がうるさいが,予想していたよりは大分マシ。さすがに道跡らしきものは残っていないが…。
カイドウの尾の頭に立つ。ここから越前側のカイドウの尾に入るのは,藪で視界が十分にきかないこともあり,ちょっとだけ苦労。慎重に地図とコンパスを確認し,斜面を下りていく。
0
カイドウの尾の頭に立つ。ここから越前側のカイドウの尾に入るのは,藪で視界が十分にきかないこともあり,ちょっとだけ苦労。慎重に地図とコンパスを確認し,斜面を下りていく。
すぐにはっきりした獣道をキャッチ。それを辿っていくと…
0
すぐにはっきりした獣道をキャッチ。それを辿っていくと…
【カイドウの尾】無事にカイドウの尾に乗ることができた。しかし尾根に乗るなり驚いたのが,その藪の薄さと踏み跡の明瞭さ,そしてブナの森の美しさ! 全区間フル藪漕ぎを覚悟で来たのに,何だこの快適さは…。
1
【カイドウの尾】無事にカイドウの尾に乗ることができた。しかし尾根に乗るなり驚いたのが,その藪の薄さと踏み跡の明瞭さ,そしてブナの森の美しさ! 全区間フル藪漕ぎを覚悟で来たのに,何だこの快適さは…。
カイドウの尾は,積雪期限定の藪尾根だと思い込んでいた(実際,無雪期に歩いた記録は目にしたことがない)ので,あまりの歩きやすさと気持ちよさにびっくりした。踏み跡はもちろん獣道だろうが,それにしてはハッキリし過ぎている気がする。やはり,かつて多くの人が歩いた古道という素地があってこそなのかもしれない。
1
カイドウの尾は,積雪期限定の藪尾根だと思い込んでいた(実際,無雪期に歩いた記録は目にしたことがない)ので,あまりの歩きやすさと気持ちよさにびっくりした。踏み跡はもちろん獣道だろうが,それにしてはハッキリし過ぎている気がする。やはり,かつて多くの人が歩いた古道という素地があってこそなのかもしれない。
特に西側の岩谷側の斜面のブナが美しい。
0
特に西側の岩谷側の斜面のブナが美しい。
やはり人の手が入っている尾根のようで,目を見張るような大木はそれほど多くはないが,中にはなかなかの立派な木も。
2
やはり人の手が入っている尾根のようで,目を見張るような大木はそれほど多くはないが,中にはなかなかの立派な木も。
途中,尾根芯の藪がちょっとうるさい箇所もあったけれど,西側斜面に踏み跡(獣道)が走っていて,それを辿れば問題なく通過できる。
0
途中,尾根芯の藪がちょっとうるさい箇所もあったけれど,西側斜面に踏み跡(獣道)が走っていて,それを辿れば問題なく通過できる。
0
丈の低い笹原に続く一筋の道,その両側を新緑のブナの森が静かに取り囲んでいる。
1
丈の低い笹原に続く一筋の道,その両側を新緑のブナの森が静かに取り囲んでいる。
1
結局,P849まで美しいブナの森が続いた。
0
結局,P849まで美しいブナの森が続いた。
P849に到着。何と,マーキングがあった。3日ぶり見る現代登山者の痕跡(ちょっと高い位置に付いていたので,積雪期のものだろうが)。このP849のあたりでルートファインディングに苦労しそうだな,と思っていたので,助かった。
0
P849に到着。何と,マーキングがあった。3日ぶり見る現代登山者の痕跡(ちょっと高い位置に付いていたので,積雪期のものだろうが)。このP849のあたりでルートファインディングに苦労しそうだな,と思っていたので,助かった。
快適なカイドウの尾をそのまま尾根沿いに歩いて行きたいところなのだが,古い陸地測量部地形図によると,古道はここで主尾根を外れ,黒谷の谷間に向けて小さな支尾根を下っている。そのため,P849から支尾根に入ったのだが,急に雑然とした植生となって踏み跡も消え,かなり歩きにくい。本当に古道はこの谷に降りていたのだろうか?
0
快適なカイドウの尾をそのまま尾根沿いに歩いて行きたいところなのだが,古い陸地測量部地形図によると,古道はここで主尾根を外れ,黒谷の谷間に向けて小さな支尾根を下っている。そのため,P849から支尾根に入ったのだが,急に雑然とした植生となって踏み跡も消え,かなり歩きにくい。本当に古道はこの谷に降りていたのだろうか?
【黒谷】やっと黒谷の谷底に降り立った。人里も近いので,植林の殺風景な谷かと思ったら,自然林でびっくり。
0
【黒谷】やっと黒谷の谷底に降り立った。人里も近いので,植林の殺風景な谷かと思ったら,自然林でびっくり。
下りてきた支尾根の末端。ヤブツバキの藪が茂り,残念ながら踏み跡の痕跡は全くなかった。
0
下りてきた支尾根の末端。ヤブツバキの藪が茂り,残念ながら踏み跡の痕跡は全くなかった。
降り立った二俣には,トチノキのかなりの巨木が立っていて,驚かされた。周囲には,このほかにもいくつか立派なトチノキが見られた。おそらく,トチの実の供給源として,二ツ屋の村人から大事にされてきたのだろう。
2
降り立った二俣には,トチノキのかなりの巨木が立っていて,驚かされた。周囲には,このほかにもいくつか立派なトチノキが見られた。おそらく,トチの実の供給源として,二ツ屋の村人から大事にされてきたのだろう。
さらに,結構大きな炭焼き窯の跡も。この谷の奥まで人が入り込んでいたのは確実なようだ。おそらく,往時はしっかりした杣道もあっただろう。「カイドウ」の古道も,同じ道を利用していたのかもしれない。
1
さらに,結構大きな炭焼き窯の跡も。この谷の奥まで人が入り込んでいたのは確実なようだ。おそらく,往時はしっかりした杣道もあっただろう。「カイドウ」の古道も,同じ道を利用していたのかもしれない。
立派なトチノキが点在する黒谷を,流れに沿って下っていく。
0
立派なトチノキが点在する黒谷を,流れに沿って下っていく。
ここにもトチノキの巨木。
1
ここにもトチノキの巨木。
谷は穏やかで,問題なく下っていける。
0
谷は穏やかで,問題なく下っていける。
再び炭焼き窯が。かなり人が入っていた谷だったようだ。
1
再び炭焼き窯が。かなり人が入っていた谷だったようだ。
そしてこの炭焼き窯のところから,明らかな杣道の跡が左岸斜面を巻くように登っていた。この道を追ってみることに。
0
そしてこの炭焼き窯のところから,明らかな杣道の跡が左岸斜面を巻くように登っていた。この道を追ってみることに。
杣道の跡を登りながら谷底を覗き込むと,谷はちょっとしたゴルジュ状に狭まって,小滝が連続していた。なるほど,この滝場を避けるために杣道が付いているのか。
0
杣道の跡を登りながら谷底を覗き込むと,谷はちょっとしたゴルジュ状に狭まって,小滝が連続していた。なるほど,この滝場を避けるために杣道が付いているのか。
しかしこの杣道,部分的に崩壊しており,谷底までかなり切り立っているため,通過に緊張を強いられる。正直,谷通しに下降したほうが楽なんでないの,と思ったくらいだが,それは現代的な沢登りの感覚だろう。今回の目的はあくまで古道探索,道を辿らないと。でも怖い…。
0
しかしこの杣道,部分的に崩壊しており,谷底までかなり切り立っているため,通過に緊張を強いられる。正直,谷通しに下降したほうが楽なんでないの,と思ったくらいだが,それは現代的な沢登りの感覚だろう。今回の目的はあくまで古道探索,道を辿らないと。でも怖い…。
道があまりに高く登るので,まさか杣道じゃなくて獣道だったか? と疑い始めたころに,道のわきに再び炭焼き窯の跡が出てきた。やはりこれは単なる獣道ではなく,仕事道の跡なのだ。
0
道があまりに高く登るので,まさか杣道じゃなくて獣道だったか? と疑い始めたころに,道のわきに再び炭焼き窯の跡が出てきた。やはりこれは単なる獣道ではなく,仕事道の跡なのだ。
谷が穏やかさを取り戻したあたりで,急に杣道を見失ってしまったので,杣道は谷に降りたものと判断し,斜面を下っていくと…
0
谷が穏やかさを取り戻したあたりで,急に杣道を見失ってしまったので,杣道は谷に降りたものと判断し,斜面を下っていくと…
堰堤だ! 3日間,人工的な構造物を全く見なかったので,なんだか不思議な物体のように見えてしまう。里が近い。
1
堰堤だ! 3日間,人工的な構造物を全く見なかったので,なんだか不思議な物体のように見えてしまう。里が近い。
植林が出てきた。確実に下界が近づいている。廃林道と思われるシングルトラックを辿っていく。
1
植林が出てきた。確実に下界が近づいている。廃林道と思われるシングルトラックを辿っていく。
そしてついに,目の前に舗装道路が現れた。広野ダム沿いの道路に出たのだ。
1
そしてついに,目の前に舗装道路が現れた。広野ダム沿いの道路に出たのだ。
久方ぶりのアスファルトの上に立ち,後ろを振り返る。ここが,3日間延々と辿ってきた,「カイドウ」の古道の終点。ヤブに隠れたその微かな踏み跡を,かつて多くの人が行き交った古道の入り口と気づく人は,今ではいないだろう。
2
久方ぶりのアスファルトの上に立ち,後ろを振り返る。ここが,3日間延々と辿ってきた,「カイドウ」の古道の終点。ヤブに隠れたその微かな踏み跡を,かつて多くの人が行き交った古道の入り口と気づく人は,今ではいないだろう。
そして目の前に広がる,広野ダムの湖面。「カイドウ」の古道の越前側の起点であり終点であった二ツ屋集落は,黒谷出合のやや上流側,あの真ん中あたりに沈んでいるはずだ。
0
そして目の前に広がる,広野ダムの湖面。「カイドウ」の古道の越前側の起点であり終点であった二ツ屋集落は,黒谷出合のやや上流側,あの真ん中あたりに沈んでいるはずだ。
目指す集落が既に水没していることは,当然のこととして分かっていたはず。しかし,黒谷出合に架かる橋の欄干にもたれて,眼前に広がる沈黙の水面を見つめながら,しばらくの間,ただ呆然と立ち尽くしていた。
1
目指す集落が既に水没していることは,当然のこととして分かっていたはず。しかし,黒谷出合に架かる橋の欄干にもたれて,眼前に広がる沈黙の水面を見つめながら,しばらくの間,ただ呆然と立ち尽くしていた。
古道「カイドウ」をめぐる3日間の旅は終わった。ダム湖畔はフジの花の盛り。人の営みと全く関わりなく,時は過ぎ,季節は巡っていく。明るい春の日差しの中で咲き誇るフジと新緑を眺めながら,ゆっくりと帰路に就いた。
4
古道「カイドウ」をめぐる3日間の旅は終わった。ダム湖畔はフジの花の盛り。人の営みと全く関わりなく,時は過ぎ,季節は巡っていく。明るい春の日差しの中で咲き誇るフジと新緑を眺めながら,ゆっくりと帰路に就いた。
【番外編(帰路)】帰りは車を取りに戻るため,夜叉ヶ池を越えて岐阜県側に戻りました。写真は新緑の夜叉ヶ池。岐阜県側の夜叉ヶ池登山道は,ボロボロの雪渓トラバースが3箇所ほどあり,念のため注意。
0
【番外編(帰路)】帰りは車を取りに戻るため,夜叉ヶ池を越えて岐阜県側に戻りました。写真は新緑の夜叉ヶ池。岐阜県側の夜叉ヶ池登山道は,ボロボロの雪渓トラバースが3箇所ほどあり,念のため注意。
【番外編(帰路)】椀戸谷出合に置いた車まで戻って来ると,ワイパーに白いものが挟まっている…。てっきり警察or地元の方からのお叱り文(ここに車停めんな!とか)かと思ってドキドキしながら近づいたところ,何とblackさん・reiさんからの置き手紙でした。神又峰に登られてたんですね。ありがとうございました!
4
【番外編(帰路)】椀戸谷出合に置いた車まで戻って来ると,ワイパーに白いものが挟まっている…。てっきり警察or地元の方からのお叱り文(ここに車停めんな!とか)かと思ってドキドキしながら近づいたところ,何とblackさん・reiさんからの置き手紙でした。神又峰に登られてたんですね。ありがとうございました!
これ、ガイド本になりますね💛
こんばんは! 一泊でもいけたんですが金ヶ丸で泊まりたいという欲望に負けました。
ガイドといっても,ニッチ過ぎて需要は全くなさそうですが
乗鞍,いいですねー。今年は何だか例年より早めに沢登り欲が出てしまい,滑らずじまいになりそうです…。
楽しんでいただけるなら,なによりです〜
奥美濃ばんざい!
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する