雪の谷川岳で負傷者救護のお手伝い(行こう!歯科検診登山部)
- GPS
- 06:48
- 距離
- 7.9km
- 登り
- 945m
- 下り
- 935m
コースタイム
- 山行
- 5:04
- 休憩
- 1:44
- 合計
- 6:48
過去天気図(気象庁) | 2016年12月の天気図 |
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アクセス |
感想
下山時に負傷者の救護のお手伝いを行いました。
山岳会の方、ガイドの方、看護師の方がテキパキと対応をしていたので「歯科医師ですが、何かお手伝いできる事ありますか?」と名乗り出る勇気が出ました。
ソリを引く道をラッセルして頂いた方々、おかげでソリが平坦な道を通れました。
救助に来て頂いた群馬県警山岳警備隊の方々。
この場を借りてお礼申し上げます。
私自身は大した事はしていません。
既にツェルト等による保温は行われてたので、私は骨折と思われる足に添え木を当て、テーピングで巻いて固定し、お湯や飴玉を与え、あとは元気づけるように声をかけていただけです。歯科医師ですが救急救命の講習は一応受けていたので、マニュアル通りの事はある程度できたと思います。
ただ、私、一度現場を通り過ぎているのです。
倒れて痛みに呻く負傷者を見てうろたえてしまい、友人の方が助けを呼んだっぽいので自分にできる事はない、と確かめもせず勝手に思い込んでそのまま一度はその場を離れて下山しました。
ただ、どーしても気になり、戻った所通りすがりの山岳会のガイドさんと看護師さんが保温、迂回路の確保等適切な処置が行われていました。
骨折部をどう固定するかで困っていたようだったので、一応実習を受け、ある程度の知識はあったので「歯科医師ですが、何かお手伝いできることありますか?」と声をかけたという流れになります。
最初からやっておけば良かったのですが、痛みに呻く負傷者を見てパニックになっていたんですね…歯科医師として恥ずかしい事です。
私自身の対応の良かった点、悪かった点を見直す為、今後山の事故を減らす為、また負傷者に遭遇した際の対応の一例として、今回の負傷者救護の記録を残しておきます。
もし、問題のある部分等ありましたら、削除いたしますのでご連絡ください。
☆
私が最初に見た時には傾斜地で倒れていた負傷者の方、戻った時には平らなところに寝かされていました。
負傷者は3〜40代男性、体格は割とガッチリしているように見えます。
平らなところに移動させたのは滑落しないように。また救護側の二次災害を防ぐ為でしょう。
ガイドさんの指示で、山岳会の人が雪を踏み固めて迂回路を作っていました。(トレースのできた道に負傷者を寝かせるしかなかったので)
登山道の渋滞は、二次災害のリスクとなるからでしょう。
ツェルト、エマージェンシーシート、余った防寒着等で可能な限り負傷者を包んでいました。
ガイドさんが携帯用の簡易添え木、テーピングを持っていたので骨折部と思われる右足の固定の道具はあったのですが、どうしたものかガイドさんと看護婦さんが相談されていたので、一応講習を受け、骨折時の対応や救急救命の知識はあったので
「歯科医師ですが、何かお手伝いできることありますか?」
と看護師さんに声をかけました。
「歯医者さんじゃなあ…」
と断られたら、引っ込んで帰ろうと思っていたのですが
「じゃあ、骨折部の固定を頼みます!」
と意外にも(絶対断られると思っていたのです)是非に!という看護師さん、ガイドさんにお願いされてしまいました。
再度
すとは言えないし…』と、色々考えていました。
「医師じゃないですよ、歯科医師ですよ!それでもいいんでしょうか?」
と確認したところ
「いやいや、なんでもいいから!」
と、骨折部の固定をする事になりました。
内心『えらい事になったなあ…断られると思って一応声をかけただけだったのに…歯医者と言えども全身の事は一通り習うし、講習も受けて知識はあるけど、実際に骨折部分に添え木をして固定なんてやったことないんだけど…ただ、どうもこの場にお医者さんはいないようだし、そうなると歯科医師の私が多分この場では医療の知識や技術は一番ある事になるのかな…今更自信ないからやめますとは言えないし…』と、色々考えていました。
とは言え、自分から手伝いを申し出て、任せられた以上やるしかありません。
体の構造と救急時の対応やらを思い出しながら、看護師さんにこれまでの状況を聞きます。
骨折していると思われる右大腿骨を、左足と一緒に簡易添え木とテーピングで巻けば固定できそうな事がわかりました。
意識はありますし、痛みを訴えているという事は、脊椎の損傷も今の所は無いようです。右足の骨折部分の固定だけに集中できます。
テープを巻く為には、膝を曲げて足の下にテープを通す必要がありますが、負傷者の方は痛みで呻いている状態です。多分膝を曲げるとすごく痛いでしょう。
歯科治療なら、痛みが予想される場合は痛み止めの注射をするのですが、歯医者ですので首から上の事しか許されていませんし、そもそも雪山の只中に麻酔注射があるはずもありません。
仕方ない、テーピングで固定する間は我慢してもらうしかないです。
歯科医師免許で骨折の固定は法律的にどうなのか?と一瞬考えましたが、切ったり注射したりするわけではないので、多分大丈夫だろうと自分に言い聞かせます。
負傷者の方に
「私は歯科医師です。全身の事も知識はあるから、これから折れた部分にテーピングを巻いて固定するね。膝を曲げる時に痛いけど、固定すれば少しは痛みがマシになるし、救助が来た時に素早く担架に乗せれるから。痛みがあるという事は、神経がやられてないということ。怪我が治ればまた山に来れるし、スノボもできるから。(BCのスノボの方でした)辛いかもしれないけど、頑張って」
と声をかけます。
私は歯科治療をする時に
>状況
>これから行うことと、その目的
>起こるかもしれない偶発症、痛み
>治療を終えたらどーゆう明るい未来が待っているか
を説明し、必要があれば麻酔を行うのですが、その流れどおりに説明しました。違うのは、麻酔がないことだけです。
骨折したと思われる場合、病院であればまず
>部位を確認
>服を脱がせて開放骨折かそうで無いかを確認
※開放骨折(骨が肉を突き破っている)であれば、感染防止の為、更に処置が複雑になる。
>レントゲンを撮り、折れ方を確認
>正しい位置に骨を戻し、折れた端っこと端っこを合わせる
>レントゲンで、ちゃんと端っこと端っこが合わさっているか確認
>ちゃんと端っこ同士が合わさっていれば、ギブスで固定
というような流れになるのですが、レントゲンもない、麻酔薬もない雪山の狭いトレースに寝かせた状態で、できる事は限られています。
少し考えた末、当初の予定通りズボンの上から両足を簡易添え木(ガイドさんが持っていた)と一緒にぐるぐる巻きにする事にします。
足の下にテーピングを通す為に膝を曲げると、負傷者の方が痛がって呻きますが、ごめんね、頑張ってねと声をかけながら、手は止めません。
膝の上下、腰のやや下あたりの三箇所をテーピングで固定しました。
後は救助の方を待つだけですが、なかなか来てくれません。
晴天で風もないのですが、何かヘリが飛べない事情があるのかもしれません。
幸い携帯の圏内だったので、妻に電話して負傷者の救護の為に遅くなるかもしれない旨を伝えます。
長期戦を覚悟し、負傷者の方に声をかけ続けます。
入院したら何食べたい?とか家族は?とかこれまでどこの山に行ったの?とか、思いつく限り声をかけ続けます。
こーゆう時のマニュアルとしては「とにかく声をかけて励まし続けろ」と何かに書いてあったからです。
喋らせていれば、容体が変わった時にもすぐ気がつけます。
※もしかしたら、負傷者の方には迷惑だったかも…
看護師さんの指示でお湯や飴玉を与え、脇の下やお腹にお湯を入れたプラスチックボトルを当てて少しでも温めますが、震えが止まりません。
雪の上に、薄いザックを敷いただけで寝ているのだから当然です。
ツェルトやエマージェンシーシートを上にかけても、下から冷えているのです。
看護師さんが
「震えて熱を発生しようとしているうちは大丈夫。震えなくなったら低体温症が心配だけど」
と言ったので、負傷者の方には
「震えているうちは大丈夫」
と、希望を持たせる部分だけを伝えました。
私の予備のグローブ、ネックゲイターも着せました。
自分のハードシェルも脱いで負傷者にかけましたが、私自身が寒さで震えてきたので「ここで自分まで倒れたら迷惑がかかる」と、結局自分で着ました。
救助隊の方が到着後、ソリに負傷者の方を固定しましたが、冬道だと一山超えて降りなければならないということで、天神平までほぼ平坦なルートを取れる夏道をラッセルすることになりました。
スノーシュー、ワカンを履いている山岳会や付き添ってくれた方々8人くらいが先頭に立ちラッセル、ソリが通りやすいように踏み固めてくれます。
私は何かあった時の為、ソリの後ろをついていきます。
救助隊の方と山岳会の方が協力してソリにロープをかけてを引きますが、時折雪に足を取られて転んだり、あわや滑落しそうになります。
救助隊というのは命懸けの仕事なのです。
(滑落リスクの高いソリの崖側を救助隊の方が受け持っていました)
また、隊長の方がソリを引く山岳会の方に
「危ないと思ったら、ロープは離してください。一緒に落っこちたらいけませんから。私がメインのロープを持っていますので、必ず止めますから」
と自分のピッケルを指して説明していました。
なるほど。ソリだけなら一人分だから、隊長1人でピッケルを雪に突き刺して支点とすれば滑落しても止められるけど、一緒になって複数の人が落ちると隊長1人では止めようがない、ということです。
慎重に進み、天神平で地元消防隊(ハッピ?に書いてありました)の方に負傷者の方を引き継いだ頃には、真っ暗になっていました。時計を見ると5時。ロープウェイは4時半までです。
事前にガイドの方がロープウェイに連絡を取り、負傷者の方と一緒に臨時便を出してもらえる手筈になっていたので、歩いての下山せずに済みました。
ゴンドラ内は明かりがなく真っ暗です。通常、日没後の運用を想定していないのでライトが無いのです。
山岳会の方々が
「非常用ライトが天井にあるけど、これ点かないの?」
「非常用ライトがつくのは、非常時だけだよ」
「今は十分非常時じゃないの?」
「ロープウェイの主電源が落ちたら点くよ」
「そしたら俺ら宙吊りじゃないの!」
「ロープはあるから、懸垂下降で降りれるさ。俺は上で確保役ね。誰が降りる?」
「下までロープが届いてなかったらどーすんの!」
と、アレコレ話していました。私はようやく終わったという安堵からぐったりしていたのですが、皆さん実に元気でした。
多分、こーゆう状況を想定した訓練をやっているからでしょう。
私は山を始めた時から単独で、山岳会や講習会の類には全く参加したことがありません。
遅くなった事で奥さんへの言い訳をどうするかと男性陣が口々に言っていたので、私も妻へ連絡する事を思い出して電話、安全圏に降りてあとは電車で帰るだけと伝えました。
谷川岳ロープウェイからのバスの最終は出ていましたが、山岳警備隊(群馬県警)のパトカーで駅まで送って頂きました。(他にも山岳会の方から車で送るという申し出がありましたが、パトカーに乗ってみたかったのです。スミマセン。)
パトカーと言っても白黒ではなく、ランドクルーザー的な普通の車でした。少しガッカリ。
☆
私の本業の歯科治療においても、治療後常に
>本当に最善の方法だったのか?
>他に方法はなかったのか?
>もっと確実に、早く、なるべく痛みのないように治療することはできなかったのか?
と自問するのですが、今回の負傷者救護でも同じように「後から考えれば、もっと上手い方法があった」「〜しておけばよかった」と反省する点が多々ありました。
一番の反省点は「負傷者を見てパニックになり、一度は通り過ぎた」事です。
負傷者の方から「戻ってきてくれてありがとうございます」と言われたことが救いです。
とりあえず、救急医療を勉強し直します。
☆
あ、登山自体の感想も。
冬には珍しい快晴の谷川岳。大展望が楽しめました。
トレースもしっかりついていて、実に快適な雪山登山でした。
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