奥久慈男体山 滝倉沢から滝倉別尾根(バリエーションルート)
- GPS
- 06:10
- 距離
- 5.6km
- 登り
- 1,009m
- 下り
- 978m
コースタイム
- 山行
- 5:01
- 休憩
- 1:00
- 合計
- 6:01
天候 | 晴れ 夕方強風 日没後風止む |
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過去天気図(気象庁) | 2017年01月の天気図 |
アクセス |
大円地駐車場に駐車しました。 取り付きの滝倉トンネル周辺にも数台スペースがあります。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
(注意1) 本ルートは地図に記載のないバリエーションルートで、一般ルートではありません。鎖はありません。ルートを示すテープもありません。途中から岩稜登はんと薮こぎがあります。命を落とす可能性もありますのでその前提でお読みください。 滝倉の沢コースについてはたとえばnabekaさんの下記山行記録を参考にいたしました。 http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-164951.html 滝倉別尾根コース(別尾根は筆者の勝手な呼称、バリエーションルートです)については筆者の山行記録を参照してください。 (注意2) 本山行記録に登場する「別尾根」「座禅岩」、「座禅小僧」、「座禅岩のコル」は筆者が勝手に命名したものです。正しい呼び名をご存知の方はぜひお知らせください。 (注意3) 奥久慈の岩は礫岩質のためホールドはたくさんあるのですがすぐにすっぽ抜けるので体重をかける前に強度を確かめる必要があります。 (注意4) 藪こぎの容易さ、沢の水の無さ、ルートファインディングの容易さから考えると、葉が落ちて笹が枯れている冬季がおすすめです。 (コースの概要) 興味深いことに途中までは滝倉別尾根を巻くようにして踏み跡があります。植林関係者の方の作業道ではないかと考えております。杉林は下枝がきれいに払われており、がれ地ではあるものの良く手入れされていました。 取り付きは滝倉トンネルを大円地側から抜けた右手で、小さな砂防ダムから入ります。右岸、左岸どちら側からも入れ、どちらも序盤は軽いやぶこぎがあって少しうんざりしますがすぐに開けてきます。 冬季で枯れていますが、釜もある2段の滝や、5m以上の落差はあると思われる滝を登りながら高度を稼ぎます。 ルートは谷底を通るのですが、沢の右岸(登る方向を見て左側)に沢を高巻く踏み跡がかなり奥の巨岩帯まで続いていました。 登る途中、筆者の勘定では3回、右手に枝沢が現れました。一つ目の分岐は健脚コースの大円地・滝倉分岐へ、二つ目の分岐は健脚コースの展望台直下に、三つ目の分岐は健脚コースの展望台を過ぎたところへ出るのではないかと考えております。今回の登山では最後まで分岐の左側をたどって滝倉別尾根に出ることを目的としました。 沢をつめていくとだんだん巨岩帯になり、ついには土つきのれき岩質の岩壁に近くなってきます。土が厚いところは土の摩擦を利用して、薄いところは土を落としてホールドを探しながら高度を稼ぎました。 尾根の最後に非常に狭いルンゼが2本平行に尾根へと続いています。幅はクラックと呼びたいほどですが割れ目ではなく、侵食によってできた岩溝なのでルンゼと呼んだほうがいいかなと。この割れ目に体を差し込み、突っ張るようにして登はんしました。 双子のルンゼを攀じきり、倒木交じりのひとしきり激しいやぶこぎに耐えると、滝倉別尾根の第二岩壁に出ます。岩壁のルンゼに沿ってっ太いつる(潅木?)が走っています。強度があることはあるのですが、枯れているためいつ千切れてもおかしくありません。あくまで補助で使うようにして登るべきだと感じました。筆者が初めてこの岩壁を登ったときには、このつるに頼りっぱなしだったことを思い出して、青くなりました。 第二岩壁から第三岩壁までは明るい尾根が続きます。第三岩壁通過後、稜線に見える常緑樹(マツ)を目指してまっすぐにやぶをこぐと健脚コースの最終部分に合流します。前回の別尾根登はんではこのルートを取りました。 筆者は今回この直登ルートではなく、左側(長福山側)へけものみち沿いにトラバースして、稜線に見えるコル部分に出ようとしましたが、終盤いやらしい岩壁にぶつかったため、それ以上の登はんは断念し、前回使った健脚コースに合流するルートまで撤退して山頂へ向かいました。 下山には健脚コースを用いましたが、凍結に関しては特に注意を要する箇所はありませんでした。1月15日段階では、寒波の影響であずまやから山頂付近の登山道は凍っておりましたが、アイスバーン化はしておらず、アイゼンの必要は感じませんでした。今後の気温と天候の変動しだいではアイスバーン化の恐れも考えられます。 |
写真
装備
備考 | ハーネス、ヘルメットを着用し、ロープ30mを含め懸垂下降用具一式を用意しましたが幸い出番はありませんでした。ただしハーネスはピッケルの刀差しに役立ちました。ポケットにスリングを入れておいて、登はん中に潅木で自己確保して休息できれば安心だったのにと反省する場面がありました。なおハーネスにスリングをぶらぶらさげているとやぶ山では引っ掛けて危ないので筆者はあまり好みません。 本来の使い方ではありませんがピッケルが役に立ちました。ひとつめの使い道は枯葉の積もったホールドの少ない急斜面の登高補助、もうひとつの使い道は直接手をかけて確かめることのできない高いホールドの強度確認です。ピッケルのピックやブレードを引っ掛けて体重をかけてみるのです。これで欠けなければ、手をかけたとたんにいきなりホールドが欠けて墜落する危険が大幅に減少します。 藪こぎになるため、上下雨具を着用することをお勧めします。藪で衣服が傷むのと、土ぼこりまみれになることを多少防いでくれます。 やぶこぎがあるので冬季でなくとも手袋必携です。軍手ではとげが手に刺さるのと滑り止め目的でゴム引き軍手(筆者はタフレッドを愛用してます)がお勧めです。ただ厚手の手袋でもタラノキやいばらをつかまないように気をつけましょう。ただ、厳冬期でタフレッドは少し薄手だったようで、ピッケルを握っていたこともあり、ごく経度ですが指先が凍傷(下山後も痛みが残る)になりました。 今回着用しませんでしたが、藪こぎでは目の保護用にゴーグル(機械工作用のものが100円ショップでも買えます)を用意するとより安全です。 下山時はヘッドランプと目だし帽のお世話になりました。 |
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感想
週末にかけて著しい寒波が日本を襲うという。それならば茨城県北・奥久慈の山へ行こうという気持ちになった。奥久慈といえば関東地方では寒いところの代名詞のようなものであるが、北アルプスのように冬型の気圧配置で大荒れになるというものでもない。キンキンに冷えた空気を近場で味わうには、奥久慈男体山に登るのが一番だという気持ちになった。
実は大子町の久慈川に「しが」(川を流れる流氷)を見に行くかどうか迷ったのであるが、朝のうちは用事があり、しがをみるには遅すぎであった。。
正月休みの最終日に滝倉別尾根ルートを使って奥久慈男体山をやった際に、滝倉沢をやったことがないことを思い出した。寒波の中の沢登りであれば、暗くてじめじめした感じの滝倉沢もきんと凍って、寒いけれどもしゃきっとした気持ちで登れるのではないか。
雑用があったため、西金を通過したのは正午を過ぎていた。いつものように西金駅から歩いたら、取り付きが遅くなり過ぎるだろうというわけで、久しぶりに大円地まで自動車で移動した。自動車での移動はあっという間で楽ではあるのだが、あの奥久慈山稜が徐々に見えてくる期待感には劣るし、余所見ができないという点も風情に劣るのだがいたしかたない。今回はバリエーションルートに集中しよう。
車をどこに止めるかにひと思案した。早く取り付くならば滝倉トンネルまで車で行くのが正解だけど、今日は下山が夕方になるかも知れない。滝倉コースは途中ちょっと危ないトラバースがあって、そこが凍っていて、なおかつ日没後だと不覚を取ることも有り得る。いつも使っている健脚コースを下れば、鎖場帯は凍結していないだろうし樹林帯の中も勝手を知っている。ならば大円地駐車場に駐車するのがよかろうと考えた。あとは駐車スペースがあるかどうかだけが問題であったが、正午を過ぎてぼちぼち下山する時刻でもあったので、何とか駐車スペースを見つけることができた。
最近できた登山ポストに「滝倉沢から滝倉別尾根を経て男体山」と書いて投函したが、果たして理解してもらえるだろうか。
駐車場から取り付きまでは滝倉尾根を巻くようにして林道を歩く。筆者は奥久慈男体山を羽根を広げた蝶にたとえることがあるが、今回の登山のルートを蝶の羽根で説明すれば、二枚の羽の間を、蝶の尻尾の側から登り、胴体の左側を通って左羽根の縁(尾根)に乗り、そこから羽根の縁に沿いながらも、終盤は一直線に蝶の頭を目指すようなルートだ。
滝倉トンネルをくぐると、いよいよ取り付きの滝倉沢の入口に付いた。小雪が舞ったのか、あたりはうっすら雪化粧しており、地面は寒波でほどよく凍っていた。取り付きの前にある空き地でザックを下ろし、やぶこぎ用に上下レインウエアを着用した。ヘルメットをかぶり、ハーネスをつけると、気持ちが引きしまる。ピッケルを持ち、いよいよ沢へ突入である。
取り付きは少しやぶがちで、ずっとやぶ漕ぎの沢になるのか懸念された。また小川レベルとはいえ水が流れていた。何回かこれを越えていくのかと、靴を濡らして登はん時に滑ることを気にしたが、程なくして足元はがれぎみの枯れ沢になり、やぶや倒木もあまり気にならないレベルになった。と、いきなり左手に石垣が2段も見えて、バリエーションルートを決め込んでいたので驚いた。杉の木が植わっているので、人の手が入っているのは当然なのであるが、石垣まであったということは、取り付きあたりのエリアはかつて畑か人家などがあったのかも知れない。
この冬一番の寒気というだけあり、タフレッドでピッケルを握り、沢の濡れた岩に手をかけていると指先が痛くなってきた。これはいけないということで、片手ずつ懐に入れて結構の回復を試みた。全身が温まるにつれて指先の痛みはほとんどなくなったが、下山後もごくわずかだが痛みが残った。
沢登りの範疇には入らないほどの枯れ沢登りではあったが、落差は無いものの何段か滝もあり、夏など水量のあるときにはここはどうなっているのだろうかと想像しながら高度を稼いだ。
二つ三つ、枯れた滝を登ると沢幅は広がって、明るい杉林になった。再び驚いたことに、滝倉別尾根を巻くようにして踏み跡があった。バリエーションルートとは言っても林業関係者の方はお仕事で日常的にここまで入るのだろう。下枝のきれいに刈られた高い杉の木もそのことを語っているようだった。
暫くは滝倉別尾根と、健脚コースの展望台から派生する尾根との間の広い沢を歩いた。両側はほとんど垂直に切り立っていて、ここから尾根へはとても登れそうにない。ちょっとしたU字谷にいるような気にもなった。
そんな岩の回廊を歩いていくとガレた沢が巨岩に埋もれたV字谷へと表情を変え始めた。沢を高巻く踏み跡もおしまいになり、斜度も高まって、登はんの様相を示し始めた。完全な土斜面ならば、ピッケルとキックステップで容易に高さを稼げるのであるが土の深さは5cm程度でその下はもろいれき岩質の岩場であった。土を払ってホールドを探し、わずかな潅木の根元にピッケルを引っ掛けるなどしながら先を目指し、ようやく滝倉別尾根の稜線が見えてきた。今までずっと、左へ左へと分岐点を進んできたから。ここも左へ曲がろう。見ると、倒木の向こうにきわめて狭い岩溝が平行して2本走っている。まるでクラックみたいだ。あの岩溝の間に体を挟みこんで登はんすれば、ホールドがおぼつかなくても無理やり登りきることができるだろう。
そう考えながら高度を稼ごうとしたが、枯葉が覆った岩場の急斜面はなかなか手ごわく、双子のルンゼに取り付くのにはいささかてこずった。ルンゼの向こうには見慣れた小岩峰が現れた。10日ほど前に登った滝倉別尾根の第二岩壁だ。できれば第二岩壁より上へ飛び出せれば後が楽なのにと思ったが、仕方がない。すでに経験済みのコースだから何とか攀じることができるだろう。まずは目の前のルンゼの登はんだ。
体を狭い岩溝の中へ差し込み、突っ張りながら、尺取虫のようにして高度を稼いだ。ホールドに体重を預けるというよりは突っ張る摩擦で体を支えるので、奥久慈岩稜にありがちなホールドのすっぽ抜けの心配はしなくてもいい。ただし油断をして突っ張る力を緩めると滑落してしまう。両足と両腕を岩肌に押し付けるようにしてやや過剰なくらいに突っ張りつつ、何とか登り切った。左手が潅木をしっかりつかんだときには、これで今回も死なないで済むであろうと安心した。このときにはもうひとつピンチがやってくることは想像もしていなかった。
ルンゼを攀じた後、第二岩壁の取り付きまでは倒木と笹が絡み合ったかなり手ごわいやぶをくぐり、乗り越え、かき分けて進んだ。取り付きまでたどり着けば、あとは「つる」が下がったルンゼを登り切るだけだ。左手でつるをつかみながらさっさと第二岩壁を登りきったのだが、頂上近くでそのつるが朽ちているのを見てぞっとした。完全に枯死しているかどうか確認はしなかったが、少なくとも手でつまんでみた限りでは、つるの上部の一部分はぽろぽろと剥がれ落ちる。今のところは強度があるけれども、次も使えるのかどうかはわからない、次回以降はばくちのようなホールドだ。
しかし今回は無事別尾根の一番難しい部分は通過した。あとはけものみちを暫くたどり、やぶ漕ぎをがんばるだけだ。
前回は尾根の先に見える一本松(枯れ木の中の常緑樹ゆえ、目印としては格好であった)は目指さず、その左のコル気味のどこかに飛び出すことを目指してみた。
コルを目指して、第三岩壁を過ぎた後は、けものみちをなるべく忠実に追い、別尾根から西側へトラバース気味にやぶをこいでいった。やぶがどんどん茨になってきた。さすがは茨城県と面白がっている場合ではない。ホールドに使える潅木があまり無いのだ。笹は枯れていて、まとめてつかんでもぽきぽき折れてしまう。頑丈なとげだらけの茨をつかめばゴム引き軍手など簡単に突き抜けるだろう。笹の根を探り、ピッケルを地面に打ち込んでホールドにしながら攀じていった。
再びけものみちのようなものが見えたと思って安心したのもつかの間、目の前が完全に岩壁になった。斜度はゆるいがホールドはあまり無い。靴底の摩擦だけでぎりぎり登れるかどうかの高さだ。さらにこの岩壁を上り詰めたとしても、その先がどうなっているか、見通しが利かない。時刻は4時を回っている、ここでルートファインディングで時間を食えばたちまち日没だろう。風も激しくなってきた。安全第一で撤退しよう。東側へトラバースしながら下っていけば必ず健脚コースに合流できるだろう。、
登りの藪こぎで大変に難儀したので、やぶの下降もかなり苦戦するのではないか心配しながらの撤退であったが、思いのほか楽に降りることができ、岩場を避けるように降りながらトラバースした。あたりは薄暗くなり始め、日没後の藪こぎは何とか避けたいと思っていたところにペットボトルを発見した。これは前回の登山のとき、健脚コース合流の直前に見つけたものだ。ほぼ安全圏内までたどり着いたのだ。あとは自分が前回作ったトレースをたどるだけだ。たちまち健脚コースに合流した。
ここまで来たのだからと、山頂を目指し、祠で滝倉沢登山の成功と、撤退しつつも無事山頂までこられたことを感謝するとともに、無事の下山を祈った。祠の向こうには夕日をバックに富士山や筑波山が見えた。富士山を飲み込むようにして雲が伸びており、西高東低の影響で高山地帯は吹雪であることを予想した。
下山中に暗くなるのは必至だ、手短に身支度をしよう。ハーネスはそのままに、もう出番の無いピッケルはしまった。ヘルメットにヘッドランプを装着し、目出し帽の上にかぶった。
下山は健脚コースを選んだ。比較的乾いている健脚コースなら、途中の凍結は無いだろう。急斜面の日没後の下降がやや気になるところだが、こういうときのために普段から夜間縦走をやっているのだ。ホールドがしっかり見えている限り、ヘッドランプ頼りでも大丈夫。
いつもよりも更に慎重に下降した。鎖場の下降はヘッドランプの光が十分に届くので日中に比べてもそれほど難しくは感じなかった。むしろ歩いて降りる急斜面がヘッドランプの明かりでは不安を感じたほどだ。
展望台岩越しに、日没前の最後の夕日越しに浮かぶ富士が見えた。3点支持の下降もまもなく終わる。
樹林帯に入った。山頂付近ではかなり吹き荒れていた風がいつの間にかやんでいた。こんなに静かな山歩きはめったに無い。他のハイカーの声は言うまでも無く、鳥の声も、遠くの国道118号を走る車の音も、風の音さえしない。自分が動きをやめると、漫画のように静けさの音が「しーん」と聞こえるのではないかと思うほどの静寂であった。自分が立てる音だけを聞きながら、大円地駐車場を目指した。
杉林の中は鎖場よりもむしろ迷った。これも普段の夜間縦走で経験済みのことであるが、日中ならば決して踏み込まないような場所に踏み込みそうになる。用心しながら一番明瞭は踏み跡をたどったが、それでも登り下りのすれ違い用に2本踏み跡が残る箇所もあり、あれ迷ったかなと思う瞬間もあったが、結果的には迷わなかった。潅木がトンネルを作っている箇所を過ぎれば、登山はほぼ終わりである。茶畑の横を抜けて、健脚コース・一般コース分岐にたどり着いた。
人家の明かりは見えなかったが、畑にはLEDランプが点灯していた。イノシシ対策であろう。今回の山行でではイノシシは足音さえ聞かなかった。
かくして、真っ暗な大円地駐車場に無事到着した。星空がきれいで、かすかだが天の川さえ見て取ることができた。静かな星空にそびえる奥久慈男体山のシルエットに再度手を合わせ、無事を感謝した。
夜の静けさと、星空の美しさに、奥久慈男体山の新たな魅力を発見したようだ。
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