武奈ヶ岳〜がん患者雲を行く〜
- GPS
- 00:30
- 距離
- 15.7km
- 登り
- 1,303m
- 下り
- 1,270m
コースタイム
1630イン谷口-1700比良とぴあ
天候 | 小雨後晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2012年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 タクシー
|
コース状況/ 危険箇所等 |
特に初心者でも危険というほどの箇所は無いが、渡渉点には木橋はほとんど無く、有っても朽ちかけたものが多いので滑りやすく頼ると沢に転落しやすい。 イン谷口に入山届けのポスト有り。 イン谷口より別荘地を抜けた北東方向に、比良とぴあなる立寄温泉有り。大人¥600。ビール350ml、¥300。 駅までの送迎カーは、1800頃に終了し、休日は予約でいっぱいなのでタクシーを呼んだ方が無難。比良駅まで800〜1000円程度。 |
写真
感想
がん患者雲を行く その1
5年前に発症した大腸がんが昨年夏に肝臓に転移再発。無事切り取ってもらえたが、いわゆる末期がん患者ですな。まあ、次のがん細胞君が出るまではクヨクヨしてもしゃあない、ってことで、登山ルネッサンス。前回は4月に北摂三草山、5月に中山連山と足を動かしたが、いずれもウォーキングに毛の生えたようなものである。
四半世紀ぶりに訪れる比良山系は、今夏の日本三名山+劔岳踏破へのリハビリ登山である。それなりにウォーキングやハイキングはこなしてきたが、いずれも五時間未満の歩きだけだったので、今回の長丁場に多少の不安はあるが高校山岳部時代の大先輩、N氏にサポートをお願いする。
まあ、なんとかなりまっしゃろ。
京都駅の三番ホームで待ち合わせ。拍子抜けするくらい、ハイカーの姿が少ない。未だ梅雨明けしておらず、TVニュースで九州の悲惨な豪雨映像が流れているせいだろうか。はたまた、近年の嫌酒の風潮で下山後に運転が可能である+マイカー登山ブームのあおりなのか。まあ、そんなことはどうでもよく、電車は空いてるにこした事は無い。大阪人には懐かしの二代目新快速117系の終焉の地となった湖西線で、これから登る懐かしのピークに思いを馳せながら、しばし車中の人となる。
比良駅で下車したときは曇り。蒸し暑いもののまずまずの天候である。本革ワークブーツ特有のカッティングのおかげでアスファルトの登りではたいした足の痛みも感じない。下りではマメができまくったが。
ほどなくイン谷口へ。登山届けを提出した頃より大粒の雨が頭を叩く。雨具装着すべきかどうか悩むが、病み上がりで身体が弱い私は濡れるのが嫌いなので、しぶしぶレインウェアの上だけ羽織り、登山開始。
その雨も大山口あたりで止んできて、すぐにカッパを離脱。いくらゴアとは言え、夏の低山ではサウナ状態なのでありがたい。すぐに正面谷沿いの歩きやすい道を辿り、青ガレ取付で一本。ガラガラとした小岩の集積した造形美にしばしみとれる。来る富士登山の足慣らしとしては、ちょうど良いルートだと判断してチョイスした。
その青ガレも難なくすぐに通過、後は少しキツくなった斜面をゆっくりとマイペースで登る。肺活量には病気の影響も無いようで、ペースさえ守れば息が上がる事も無く、無難に歩ける。やはり、がん患者にはそれなりの歩き方があるようだ。
ゆっくり、のんびり。
一歩ずつ、ね。
細い沢筋の源頭を越えると、ぽこっと金糞峠が現れた。ここは比良山系の中枢、東西南北の十字路なので人々の歓声が微笑ましい。
次に中峠への奥の深谷源流を遡るが、1〜3m程の小滝が連続して現れ、足を濡らす事無くルートが整備されているので、飽きる事のない道だ。まったく撮影をしないチーフリーダーN氏にどんどん置いていかれるが、まったく気にする事無くマイペースを遵守しつつ撮影にもいそしむ。日頃の業務撮影とは異なり、プライベートの撮影は気ままで良いものだ。今回は雨予報だったので愛機Nikon一眼レフは自宅の防湿庫で眠ってもらっているが、最近入手したSONYのコンデジがすこぶる具合が良い。カールツァイスのレンズも魅力だが、私のは単三電池二本で駆動するので、いざとなったらコンビニでも入手可能に付き、長旅には心強い。
私を待ちわびて中峠で紫煙をくゆらすN氏。昔、専売公社のNiceDay,NiceSmokingなるCMポスターに高田直樹氏のカラコルムBCでの喫煙風景がセレクトされたそうだが、まさにそんな趣である。なぜ、山で吸う煙草、ピークで飲むビールは格別の味なのだろう。当然、がん患者の私は現在は非喫煙者であるが。
懐かしの西南稜を登りたい願望はあったが、今回はリハビリなのでサミットへの近いルートを採り、コヤマノ岳経由で無事武奈ヶ岳登頂。おつかれさま、かんぱ〜い。登山中は飲酒しないとのスタンスを取るN氏だが、
「要らんって言ってましたやん、先輩。欲しいんですか?旨いですよ〜〜」
などと大先輩をいじめるようなドSでは無い私、横で私が一人グビグビ飲んでいるのを黙って見ている訳が無いのは百も承知なので、私のザックには先輩の分も合わせて二本忍ばせていた。
登行中は、
「山中でアルコールを飲むなど言語道断、下山時に何が起こるかわからない事を何と心得る、この不埒もの!」
と崇高な聖人君子だったN氏。で、山頂で私が
「ほんまに要らんのですか?」
と尋ねるまでもなく、その手中には冷えた缶が納められていた。もちろん、ホンマのビールはチーフリーダーに献上し、私は第三ビール。新人哀歌である。
明けきらない梅雨とは裏腹に、見事全周の展望を楽しみ、少し強めの風により絞れる程かいた汗も乾いてきた頃、名残惜しいが山頂を後にする。同時に下った、なんだかやたら山慣れた男子中学生グループを頼もしく思い、山ガールの次は肉食系山ボーイの大量発生を願いつつ、イブルキノコバへと向かう。ここまでのルートは特筆もなく、「なんとなく」の足運びで通過、八雲ヶ原へ到着。ここの現状は多数の岳人諸氏が述べられているので多くは語らないが、確かに閉鎖されたゲレンデの跡が八雲ヶ原の湿原の雰囲気をかき消しており、なんとなく自分の切り開かれた(しかも二回も)腹を思い起こして気分の良いものではない。しかし、いずれ自然に還るのを待つとしても、里山ではなく中級山岳とも言えないハイキング適所の比良山系では、この静かさと開放感をより過ごしやすい快適空間にするにはもう少し改良の余地はあるかもしれない。
終わってしまった万博会場、パビリオンは解体したが手つかずの十年後。みたいな北比良峠を後にして、いよいよ懸念であったダケ道を下る。
長い。ひたすら長い。
それなりの経験を高校大学山岳部時代にこなしてきたが、この急下降は劔八つ峰の下降にも匹敵する、というのは過言であろうか。それほど、私の身体がなまってしまったことの表れであろう。たかが末期がん、そんなものにかまっていずに、もっとトレーニングを積まなければ。
子供連れのファミリーが大山口手前の渡渉に戸惑っている。が、パパは優しく、朽ち果てた橋の上流に妻子を導き、無事沢を渡り終えた。実に微笑ましい光景である。私にもそんな時があったのかもしれない。
が、今は過去を振り返っている時間の余裕はまったく無いので、前しか向いていない。
峻険な高峰、深遠な原生林の奥深くももちろん有意義なスポットではあるが、この身近なミニアルパインも良いものだ。今日、自分の足を濡らしながらも細い沢を渡り終えた小学校低学年風の男子よ。長いダケ道を下りきり、その言葉もでないほどの疲労困憊を一生覚えておくといい。それが、将来必ず訪れるさまざまな逆境を乗り越える大きな糧となるのは間違いないから。
こうして、ひとりのアルピニストの誕生を見守りながら、ヘロヘロの末期がんオヤジは無事下山。かんかん照りのあっつ〜〜〜〜〜いアスファルトをよたよた歩いて、この世の極楽立寄温泉へと辿り着き、後は京都駅の居酒屋にて反省会。中森明菜風の給仕女子と適当に会話しながら、祇園祭スタートで大にぎわいの洛中で宴を楽しみ、先輩に山頂で缶ビール一杯を差し上げたお返しにしこたま振る舞っていただき、さしづめ「エビで鯛を釣る」感満載だが33年来の付き合いではそれもご愛嬌。
今回はこれにて。
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