磐梯山
- GPS
- 07:13
- 距離
- 10.9km
- 登り
- 1,145m
- 下り
- 1,145m
コースタイム
天候 | 晴れ後曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2012年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
猪苗代スキー場駐車場はシーズンオフのため無料。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
登山ポストは駐車場近くにあります。 登りはじめはゲレンデが広いためどこを登っていいのか迷います。 ゲレンデの上のほうに行くと「登山道」の看板が設置されています。 登山道は特に危険な箇所はありません。 水場が2箇所あるため夏場の登山には水の補給場所として助かります。 |
写真
感想
磐梯山登山感想
呼ばれている。
数日前からこの不思議な音とも声ともとれぬ響きが私を悩ませていた。このことを隊長に相談したことから登山計画は始まる。「それは山の声だ」隊長はあっさりと言う。詳しい事は分からないが、歴戦の隊長の言うことに間違いは無いはずだ。私は登山を決意した。
山に登るのは中学生の時以来だ。
久々の山という言葉から色々な事が連想される。生い茂った多種多様の草木、色とりどりの花や果実が目を楽しませ、程よい疲労感が思い出を留める釘となるだろう事、を。ダンスのように軽快に情熱を持ちながら上り、和気藹々と天の庭から去る寂しさを語らいながら下る。私は山に登ることを楽しみにしていた。まるでピクニックに行く小学生のような心配事など何も無い、無邪気な気持ちでいた。これから体験する艱難辛苦を誰が想像できただろう。
車を走らせ2時間半。着いた。長い1日が幕を開けた。
今回登る山、磐梯山だ。空気が澄んでいるて、呼吸が楽しい。スタート地点はスキー場という事で、青々としたなだらかなだだっ広い巨大な滑り台が広がっている。我々は軽食を採り、靴を履き替え"登山"を始めた。体の異変に気がついたのはそれから程なくしてであった。体に錘を付けたような重さが足取りを妨害する。更に、息が荒く、先ほどまでの空気を楽しむような余裕は最早ない。山を登り始めてから、この間僅か数分のことであった。私は、日常では体験することの無い傾斜と、高台の環境に体が適応するまで時間が掛っているだけであり、直ぐに軽快なハイキングになると考えていた。しかしこの考えは最後まで報われる事無く終わる。
滑り台のような斜面を登り終えると、いよいよ本格的な山の中に進む道に繋がっていた。地面はゴツゴツした石で埋め尽くされており、足を滑らす場面がいくつかあった。しかしこの石の角が足裏を刺激し、非常に痛い。柔らかい私の足の裏が、靴底一枚で守れるはずも無く、体の重さに加え、足の痛みを感じながらしばらく道を進むことになる。まだこの石の道は人工的な造りを感じられ、人を思い出すことができた。しかし、とうとう地面の質が変わる地帯に我々は足を踏み入れる。先ほどのような人工的な道は消え、雑草に囲まれた獣道のような細い茶色い道を進む。丁度その時、濃霧が我々の行く手を阻むか、或は警告するかのようにに発生し始めた。ただでさえ分かりにくい道は、霧により判別不能になってしまい、隊長の後を着いていかなければ遭難は確実。私は予想外のシチュエーションに震えながらも、覚悟を決め足を進めた。足の重さは着実に増していた。
しばらくして、ようやく霧を抜けることができ、隊長のお情けで小休憩を取ることができた。私の足取りがあまりに異様であったのだろう。私も本日はじめての休憩とあり、生きて登ることが出来るかもしれないと希望を取り戻すことができた。また、そこから見える光景に目を疑った。山を登る時点で雲と同じ位の高さであったが、そこからは完全に雲が下にあったからだ。真っ白な雲とそこから所どころ突き出す青黒い周辺の山の頂が波と飛沫のようで、海を見ているようだった。
休憩も終わり、再び我々は歩き出す。しかし、回復したかに見えた体力は儚く、早くも数十分で私はまたも足を踏み出す事ができなくなった。道は先ほどよりも細くなり、背の高い雑草が囲んでいるため殆ど手探りの状態であった。このままでははぐれてしまう。私は危機感を覚え、恥を忍んで再度休憩を申しいれた。隊長は快諾してくれた。タイミングよく「天の庭」というポイントがあったので、険しい石の段差や、足を滑らせれば最期の道なき道を最後の力を振り絞り進み、そこで休憩をとった。雲間から見える遥か遠くの猪苗代の集落が妙に切ない。もう戻れないところまで来てしまった、帰れないと痛感した。
覚悟を決めたことに、体も応えてくれたのか、そこからはしばらく続けて歩くことができた。体の両脇には雑草や木々が密度を増して近付いてきていた。もはや手で掻き分けなければならないほどだ。蜂やアブがいないことが不幸中の幸いであった。このような状況でプーンなどと羽音が聞こえたら、敵が見えずパニックに陥るであろう。そんな事を考えながら進むうちに、平らな雑草で覆われた地が目に入った。規則正しく、というか密集し隙間が無いだけだが、水田のようであり、久しぶりの平地に私は懐かしさを感じシャッターを切った。そして沼の平。石碑を左に見て着々と重要ポイントを通過していく。体が流れに乗った、山と仲良くなれたようなそんな気が一瞬だけした。もう直ぐ頂上ではないだろうか、ここから見える隣の山はかなり頂上が高くここから距離もある。今回はその山を登っていないので、この調子ならばここからは休憩無しでいけるかもしれない。そんな甘い考えが頭を過ぎった。その直後、隊長「あそこが頂上だ」。その指先はたった今お別れをしたその山頂を指していた。
希望を打ち砕かれ、絶望が一瞬にして脳内を襲う。自分の足が地面に釘で打ち付けられているように見えた。一歩一歩、抜いては刺されの繰り返しで重さや痛みが激増した。山の精霊か死神の悪戯か。そんな調子でしばらく歩くこと数十分。徐々に明るさがましていき、景色は一変した。辺りの木々が少なくなり、開けたポイントに到着した。爽快。その言葉しか浮かばなかった。俄然闘志がみなぎり、この絶景を写真に収められる、納得できる箇所に辿り着くまでは自ら滑落しないと決意した。幸いな事にその付近には給水ポイントもあり、意識を甦らせる冷水を体に沁みこませ、私は身も心も復活することができた。この水に値段をつけてここで売れば、幾らにになるのだろうか。そんな恐ろしいことを考えた後、さあ、気持ちをリフレッシュできたところで再出発だ。おや、足が動かない。先ほどの休憩で完全に身体が垂れてしまい、意識とは関係なく四肢が命令を聞かなくなっていた。木の屋根が無くなった炎天下で、身体を動けなくしてしまう給水ポイント。あまりにも残酷ではないか。
何とか身体と意識を繋ぎ戻し、再び歩くこと数分で、ポイントに着く。「弘法清水小屋」だ。廃校の体育倉庫のような小屋だが、別ルートから来た登山客で賑わっており、自らを歩く機械と思い込み始めていたところ、人間であることを思い出させてくれた。しかしそれが、眠っていた痛覚や疲労感を呼び覚ました。
目を覚ました神経が身体を蝕む。ありとあらゆる苦痛が体中を襲い、重圧に体内から破裂してしまいそうな気がした。頂上はまだか。長すぎる。小屋を過ぎるとき、「磐梯山頂上0.5km」の標識を確認した。あまりにいい加減な測量ではないか、期待を持たせておきながら無責任にもホドがある。私は怒っていた。自分でも訳が分からない感情が沸き起こり、一体どうなってしまうのか心配であった為、一度休憩を申し入れた。もう駄目かも知れないと思ったが、意外にもそこで見た光景が強烈な燃料となった。景色が開け、周辺の山や雲が完全に目下にある。絵画のようなグラディエーションの空が手を伸ばせば届くような位置にあり、雲の大地が一面に広がっていた。空と雲との空間に地球を感じた。
そして、歩く。サルのようにキキキと先を飛んで行った子供が叫ぶ、「頂上だ」。
!!
誠か嘘か。もうそんな事はどうでもいい、そこが頂上と信じられればそれで良かった。そう思いながら、急勾配な斜面を手と足を使い死に物狂いでよじ登る。突然目の前が白くなった。
頂上を示す磐梯明神の石の祠が目に入る。
とうとう着いたのだ。嘘ではなかった。
意識が朦朧とするなか、すがるように祠を囲む岩を登りようやく山"登り"を終えたことを認識した。気が緩んだのか先ほどから我慢していた足の緊張が、攣りに変わり激痛が走り、立てなくなってしまった。泣き叫ぶ私に隊長が救援に向かってきて応急処置をしてくれたお陰で一命を取り留めた。落ち着きを取り戻し周囲を見渡すと、痛みも忘れるほどの絶景が広がっていた。空に浮かぶ島のように、自分達が立っている山頂以外雲の下にあり何も見えないのだ。幻想的な風景であった。
そのような景色のなかで、我々は食事を採った。寄ってきたトンボが、我々が入山してから、初めて歓迎してくれた者であった。
ずっとここで暮らしたい。ずっとここに居たい。しかしその願いは叶わない。言うまでも無いが、登った以上は下りなければならない。下りの苦労は想像に難くなかった。上りであそこまで急な斜面であったのだから、下りを想像すると最初に恐怖を感じた。実際には想像を遥に超える苦痛が待っていた。急勾配を駆け抜けられる訳もなく、足が、踏み込む体を支えることに絶えられず、指先や親指の付け根、足全体に未知の痛みや重みを感じながら下りることになる。靴が完全に役目を果たしていないことに苛立ちを感じ、意識も吹っ飛び無意識のなか半べそをかきながら山を下ったのだった。そのため写真もあまり撮れていなかった。
帰り際には温泉に立ち寄った。
登山客の足元を見た値段設定であったが、湯につかりながら、今ならどんな価格でも入ってしまうような気がした。体中の痺れや、痛みを少しでも解消しようとした。湯からあがると、不思議なものでもう歩けてしまっている。人の回復力は侮れない。
こうして久々のハイキング、初の本格的な山登りは幕を閉じる。
意外な事に、私のなかに残ったのは、次の山で更に新しい景色、風景を撮影できるようになりたいという思いであった。不気味な響きはまだ消えていない。この音の主を確かめるまで、私は旅を止めることはできないであろう。
ここに新たな山ボーイが完成したのであった。
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