針の木岳(過去レコです)。
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- GPS
- 32:00
- 距離
- 20.4km
- 登り
- 2,227m
- 下り
- 2,217m
天候 | 晴れ。 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2004年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
危険個所もあります。 |
写真
感想
日本近海で発生した台風が中部地方直撃の位置に停滞し、東北から関東にかけての大平洋岸は大シケで、果たして週末には山へ行く事ができるのだろうか?と心配したが、台風はほぼ直角に西へ曲がって四国に向かい、長野県は影響が無さそうである。平成16年7月31日、c、柏原新道登山口に行くと、「7月25日に爺ケ岳周辺で局地的な集中豪雨があり“ガラ場”付近で土石流が発生し登山道が消失しました。7月26日に復旧工事に当り27日より通行可能となりました」と記されたベニア板がたてられており、いずれまた通行止めになるかも知れないと注意をうながしている。8時15分、登山口を出発した。等高線の混み合う「モミジ坂」を汗をかきかきジグザグに登り、30分程で休憩をとる。トロリーバスの扇沢駅がまだ大きく見え、いくらも登っていない事が判る。ゆっくりとした速度で、路傍のゴゼンタチバナに目をやる余裕を持って歩を運ぶ。40分程で再びザックをおろして休憩をとる。周囲の樹木は低くなり、潅木地帯をゆっくりしたペースで再び登り始める。40分程して三たび休憩をとる。たっぷり水分を補給し再び歩き始める。急登の「モミジ坂」は済んだ筈だが、爺ケ岳南尾根を右にしてのトラバース道も結構な勾配である。年の頃70歳はいっていそうな単独行の背の高い男がわたしを追い越して、ろうろうと大声で何やら歌いながら先を歩いて行く。いずれくたばって休んでいるに違い無いと思ったが、ついぞこの人に会う事は無かった。息が切れ、不整脈も出そうなのでペースを緩めるが休む事なく登る。そろそろ休もうかと思う頃、「ガレ場落石注意、静かに少人数で渡って下さい」とベニア板の注意書きがある。土石流の生々しい跡に作られたばかりの細い道を緊張して渡ると、間もなく種池山荘が見え始める。山荘まではタカネグンナイフウロが咲く中の階段となっているが、この何でも無さそうな階段を重い足を持ち上げてフラフラと登り、やっとの事で山荘に到着した。11時50分、所用時間は3時間35分であった。小屋で缶ビールを飲み、昼飯にと食ったラーメンはまずかった。持参した空の1リットルタンクに、金150円也で水を詰めてもらい、電解質の粉を入れスポーツドリンクを作った。半袖では寒いので長袖を着込む。たっぷりと休憩をとり、1時に種池小屋を出発。稜線にはウサギグサ、ヤマハハコ、クルマユリ、コイワカガミ、モミジカラマツ、シャジン、ミヤマトリカブト、キオンが咲き乱れ、中でも大輪のキヌガサソウは清楚でありながら輝いている。シラタマノキの小さな花をつぶすとメンソーレの匂いがする。稜線の左は長野県で、岩の露出した急な崖が落ち込み、はるか下に大町が沈んでいる。右は富山県で長野県側よりは勾配がゆるいが、それでも急なハイマツにおおわれた緑の谷が広がる。ハクサンイチゲの群落もさる事ながら、イブキジャコウソウが一面びっしりと咲く様は見事なものである。右手間近かに、幾条もの白い部分の残ったどっしりとした剣岳が現れ、その左に連なる立山とともに迫力満点でせまって来る。夏山の最盛期というのに行き交う人はほとんど無く、大パノラマを独占する。左谷底から冷たい風が吹き上げ、手が冷たく赤くなるので手袋をはめる。2時40分、岩小屋沢岳山頂2630mに到着。あいにくガスが立ち込め展望はきかないが、しばし休憩をとる。ここからは下りで、身も心も楽になる。トウヤクリンドウの花がおちょぼ口を広げている。イワツバメが鳴きながら飛び交う。頭の赤い雷鳥がハイマツの中を上がって行くのが見え、少し離れた所に母親の雷鳥がおり、その下で子供の雷鳥が遊んでいるのを、ハイマツの中から首を持ち上げて心配そうに見ている。もっと見ていたいが、天然記念物を邪魔してはいけないので先に進む。稜線を少し登ってまた下り、3時35分、今夜の宿泊地である新越山荘に到着。種池で買った水1リットルは飲みほしたので、ここでも金150円也で水を購入する。8畳程の広さの部屋に、16人も入るとの事である。ザックを部屋に入れる余裕は無く、廊下にザックが山積みされている。5時半に食堂で夕食を摂ったあと外に出るも、辺りはガスが立ち込めて星を見る事は叶わなかった。7時には寝床に入ったが眠れるわけもなく、やっと寝返りをうつ事が出来る程度の寝床でもんもんと一夜を過ごした。
翌日は4時に起床し、朝飯は弁当にしてもらいこれをザックに詰めて外に出ると、まだ明けやらぬ空の向こうに、スバリ岳、針の木岳が黒グロと聳え、針の木峠をはさんで蓮華岳が大きな山容を横たえている。見下ろせば雲海が下界に蓋をしたように張られ、山の上の世界に隔離された別世界の気分を盛り上げる。今日は絶好の天気になりそうだ。5時、小屋を発ち、50分程で鳴沢岳頂上2641mに到着。振り返れば爺ケ岳から五竜岳、唐松岳、さらに遠くに白馬のとんがった頂きがくっきりと見える。黒部の谷をはさんで立山、剣がどんと構え、目の前にはこれから行く赤沢岳が聳えている。鳴沢岳を下り鞍部に着き、この下あたりが針の木墜道だろうと想像する。赤沢岳の頂上まで続く登山道を登って行く人が見える。道は所々稜線からはずれ、左山にトラバース気味に伸びている。岩がゴロゴロする道を登り、3人程追い越して6時45分、赤沢岳頂上2677mに到着。眼下に黒部湖を見下ろし、その向こうに薬師、赤牛、水晶の山々が連なる。行く手にはスバリ岳の鋭い岩峰が立ちはだかり、それに向かう切り立った稜線上に一条の登山道が続く。急な下りの岩の間からイワギキョウが顔をのぞかせている。一つピークを越えて、7時55分、鞍部で小休止をとる。ここから始まるスバリへの登りはガレ場の急坂で、慎重な足運びを要する。この頃になると行き交う人も多くなり、夏山らしく賑やかになる。コマクサを見つけて写真を撮るが、群れ咲く小さな小さな花どもの名前はわからない。コブを幾つか越え、8時40分、スバリ岳2752mの狭い頂上に到着。振り返ると歩いて来た山々の稜線が続き、長野県側から白い雲があふれてその綾線を乗り越えて行く。空の青さと、山の黒さ、そして雲の白さのコントラストが絵になる。剣を従えた立山が黒部湖をへだてて眼前にせまり、黒部平から大観望に続くロープウェイのゴンドラも小さく見る事が出来る。目指す針の木はガスにおおわれてボンヤリとその山容を浮かべ、神秘さがいや増す。スバリを下って鞍部に立つとガスが晴れ、針の木がその姿を現し始め目の前に立ちはだかる。先を行く人がルートを間違えガレ場の谷に入り込み、ガラガラと礫が落下して行く。道を間違えた事がわかり後戻りし、黄色の丸印のついた岩を見つけ、印しを伝って岩礫を登る。頂上の人が見えホットすると、間もなく針の木岳頂上二2821mに到着。9時40分、新越山荘からの所用時間は4時間40分であった。空はあくまで青く、360度の大展望が待っていた。今来た道を振り返れば、スバリ岳、赤沢岳、鳴沢岳、岩小屋沢岳の綾線が続き、さらに爺ケ岳、鹿島槍ケ岳、五竜岳、白馬岳へと伸びている。黒部峡谷をはさんで剣岳、立山が、少し離れて薬師岳、赤牛岳、水晶岳、野口五郎岳と続き、南に槍ヶ岳、穂高岳、大天井岳、燕岳が遠望される。東には針の木からの綾線が続き、その向こうに蓮華岳が大きく横たわっている。どの山を見ても有名な山ばかりである。針の木の頂上は広く、沢山の人が休んでおり、わたしも腰をおろして小屋が用意して呉れた朝弁当を食べる。1時間程頂上でゆっくりしてから下りにかかる。ハクサンイチゲ、ミヤマキンポウゲ、シナノキンバイ、オタカラコウなどの咲く道を40分程下ると、蓮華岳との鞍部に建つ針の木小屋に到着。タンクに1リットル200円也の水を補給し、缶ビールを1本空ける。針の木小屋のトイレは崖の上にあり、しゃがむと槍ケ岳が見えるという話しである。是非一度は入ってみたいと思っていたが、ごく普通の簡易トイレと化していた。ここでも1時間程休憩し、酔いを醒ましてから下り始める。ガレ場をジグザグに下る途中、丸太の土留めに足を滑らせて尻もちをつき左足関節を捻る。少々の痛みは我慢してそのまま下り続ける。やがて雪渓が見え始め、その手前で購入したばかりの10本歯のアイゼンを装着し雪渓に入る。ガスで見通しが悪いが、1本の足跡が続いており、最初は慎重にそれを辿って行ったが、雪が柔らかくなっていてかえって歩きにくく、そのうちアイゼンにも慣れてきたので足跡の無い所を選んで小走りに下りて行った。真夏とは思えない涼しさである。雪渓が終わりアイゼンを脱ぎ、岩の上を歩くもまたすぐに雪渓が現れる。小さな雪渓なのでアイゼンはつけず、すり減った登山靴のままスプーンカットをかかとで蹴りながら慎重に下りる。雪渓が切れた所で川を渡り、岩の上で休憩。冷たい川の水にタオルを浸し、頭から水をかぶって顔をふいた。ウーッ、気持ちがいい。ここでも充分休憩をとった後、潅木帯の中の登山道を下り、2時40分、大沢小屋に到着。「扇沢まであと3辧廚箸△襦F擦呂佞深蠅吠かれ、左手が本来の登山道であるが、ショートカットで右手の谷沿いの道に入る。しばらくして川を渡る際、橋が流されてしまっており、歩いて渉れそうな所を探し、そこに石を投げ込んで足元を濡らしながら渉る。シナノナデシコ、オタカラコウ、大きなミヤマシシウドが群生している。砂防ダムを梯子で降り、増水で川と化した登山道を迂回し、身の丈程の雑草をなぎ倒しながら道無き道を進む。車道が見え、ホッとする。車道に出る所には車止めがあり、「危ないから入ってはいけません」と記されていた。車道を下り、3時半に扇沢ロッジの駐車場に帰り着いて、バックミラーで見た顔は真っ赤に日焼けしていた。
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