比良山系 武奈ヶ岳 細川よりダイレクト尾根〜「元」がん患者雲を行く〜
- GPS
- 07:29
- 距離
- 6.1km
- 登り
- 970m
- 下り
- 963m
コースタイム
天候 | 晴れ後曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2013年01月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
積雪期一般の注意が有るのみ。沢は通過しないので雪崩の危険は無し。 |
写真
感想
「元」がん患者雲を行く−雪のバリエーション編−
アプローチが比較的容易で、京阪神から手軽に積雪期登山を楽しめる比良山系武奈ヶ岳に、北西に伸びるダイレクト尾根から登ってきた。
今回も同行願ったのは高校山岳部の先輩、N氏。すっかり二人だけの山岳同人の様相を呈してきた。兄のように慕い、先輩も弟のように可愛がってくれている。そんな気の置けない山仲間との山行が、日ごろのストレスを発散してくれる。
登山翌日には南岸低気圧の発達が予想されたが、嵐の前の静けさ。澄み渡った空に期待が高まり、京都南座に夜明けを迎えた頃、四条大橋のたもとで先輩のクルマに拾ってもらう。昔の記憶通り、花背のトンネルを抜けた地点より積雪が見られる。この時期のおかげで大原観光の車もほとんど無く、40分ほどで細川集落に到着した。
三連休の中日とあり、先行者が予想されたが駐車地点に他車は皆無。地形図より急登は容易に予想できるので、苦しいラッセルの予想が胸をよぎるが、まあそれも雪山の楽しみの一つだ。二人だけで到達できなければ、敗退もまた貴重な経験。
ネット情報により、尾根を回り込んだ地点から取り付いている方が多いことを入手していたが、今日はバリエーションハイキング。尾根末端からダイレクトに直登するべく、植林帯に突入する。
国道沿いなどに若干の残雪は有ったが、林の中はまったく雪のかけらも無い。朽ち果てた枯葉と木の根っこに足を滑らせながら、かなりの急登をぐいぐい登る。気温も高く、よい汗だ。
30分ほど植林の直登を登り、雑木林に変わった頃からようやく雪が付き始め、軽いステップで足を固定してくれるのでずいぶん登りやすくなった。前日のものか、消えかけたトレースが有るが、明瞭ではない。バリエーションとは言うものの、目印テープもかなり付いており、この界隈をローカルとする方々にはポピュラーなルートなのだろう。
ただし、明瞭な尾根が頂上直下まで続くのだが、何箇所か枝尾根が分岐しているので、別ルートから登頂して下山に使用するときや、ピストンでも吹雪いているときは下山時、頻繁に現在地確認を行って枝尾根や沢に入り込まない注意が必要。
どこの尾根でも大体そんなものだが。
くるぶしまでだった積雪量が膝あたりまで深くなったころ、トップを代わってもらう。久々のラッセルに心高鳴る。古いトレースをたどる限り、そう大きく沈まないが、それが消えた新雪部分は、深いところで股まで潜る。
足取りは極めて快調。このところ定期的に継続登山をしているのが効いている。当然だが、やはりトレーニングの重要性を再認識。背中にワカンを背負っているので装着するとさらに楽になるのは判っているのだが、体調も良いのでつぼ足ラッセルトレを敢行。
標高900mあたりまでは、本当に良いペースでぐいぐい雪を掻き分けた。かつて○○大学の人間ラッセル車と呼ばれた頃を懐かしく思い出す。岩登りのセンスはイマイチだったかも知れぬが、深雪ラッセルは得意中の得意項目だったのだ。
獣たちの飛び跳ねた痕跡以外に、誰も足を踏み入れていないバージンスノー。標高も上がり、靴やウェアにまとわり付いてきた湿った雪からさらさらとこぼれ落ちる粉へと変貌を遂げてゆく。
足を交互に振り回し、膝を押し当ててわが道を作ってゆく。両手のストックがほぼ埋まってしまう感触も心地好い。
全身の血が熱くたぎり、一歩ずつ上へと誘われてゆくのが身体全体で実感できる。
雪との戯れ。この幼児へと戻ったような感覚が、オレを青春へと回帰させるに充分かつ必要な条件だと、この尾根が教えてくれた。
空は曇ってきたが、視界はすこぶる良い。周囲の尾根から三点法をとり、同時に高度計で確認して何回も読図をしながら、順調に武奈ヶ岳北西稜直下の最後の急登まで来た。目指すピークの頂上碑がはっきりと目視でき、多くの登山者が憩っているのがはっきり判る。
しかし、ここからが最後のひと踏ん張り。標高も1000mを超えているので急に積雪は深くなり、尾根の頂点を外して斜面に少しでもずれると、胸までのラッセルだ。明瞭な夏道はつけられていないのであろう、このダイレクト尾根は木々が交錯した箇所も多く、それを避けるべく横の斜面に出ると、途端に雪との格闘が待っている。
最後までワカンを付けずにがんばり、四時間かけて頂上稜線に出た。風も弱く、雪は締まっているがエビのシッポは無い。極めて歩きやすく、軽くなった足取りで頂上を踏みしめた。
年末の吹き荒れた伯耆大山では握手をする余裕も無かったが、ここで先輩とがっちり握手。敗退想定の登山とは言え、やはり登頂はうれしい。
西南稜や八雲ヶ原からの多くの登山者が昼食を取り、歓談に花を咲かせている。結局ダイレクト尾根から登ってきたのは、われわれだけであった。
ほぼ無風の頂上で、遠く北山や琵琶湖の対岸を眺めながら、熱い茶をすする。今更ながら、テルモスはありがたい。コンロで湯を沸かすのも風情が有って良いのだが、これだけ熱い茶を着いた瞬間に口に出来るのならば、迷わずこちらを選ぶ。
簡単なレーションを食べた後、下りに向けてワカンを装着。今度はワカントレーニングである。大山とは違ってゆっくりと頂上を堪能した後、同じルートを下山開始。頂上稜線の雪はクラストしておらず、わっぱの爪が程よく効く。100m程ですぐに尾根に入るのだが、こことてホワイトアウトしたならば慎重にルートを見定めないと、そのまま直進して釣瓶岳へと向かってしまうだろう。
つぼ足ラッセルにあえいだ登りとは裏腹に、ストックを操りながら滑るように下ってゆく。わずか2cm程のアルミのパイプが靴の周囲に有るだけで、これだけ快適に歩けるのだ。とは言ってもスノーシューのように全面圧板が有る訳ではないので、急な下りでは足が沈み込む直前に次の足を繰り出し、その交互動作で滑って降りるのが一番早くて楽だ。雪崩を誘発しそうな箇所ではタブーだが、森林帯の尾根ではこの方法が好きだ。
登りの半分ほどの時間でぐんぐん標高を下げてゆく。充実感が全身に漲るが、同時に降りなくてはならない切なさと、雪が無くなってからの藪の急な下りへの嫌悪感が交錯する。
途中、キジを撃っている間に一人の登山者が先行していった。登下降合わせて、尾根で会った人はこの方だけであった。
雪が無くなり、わっぱを外す。同時に、アイゼンワークのためと、ドロドロの急斜面対策を兼ねてアイゼン装着。下りはテープに導かれ、登りとは違う仕事道を下る。
こちらは溝状のはっきりした踏み跡が集落まで続いており、アイゼンはかえって歩きにくいだけであったが、小岩交じりの斜面に、よいトレーニングにはなった。
程なくして墓場に到着、茅葺からトタンへと屋根を変えてはいるものの、情緒満点の山里に癒されながら、駐車地点へ無事帰着。おつかれさまでした。
高校山岳部時代に、初めて挑んだ伊吹山一合目からのラッセル。記録に残る56豪雪の前年では有ったが、背丈を越すラッセルに雪山への畏敬と憧憬を心に抱き、後の大学山岳部へとつながって行った思い出深き山行。
それを彷彿させる、実に楽しい中級山岳の冬山であった。
コメント
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13日は、関西も良いお天気だったのですね。関東も、翌日の荒天がにわかには信じられないほどの好天でした。私はアイス仲間5人で、長野県にアイスクライミングに出かけていました。
ヤマレコでよく目にする武奈ケ岳・・・、1200m余の標高にしては積雪量が多いですね。
私たちの地域ですと、近場で冬山を楽しめるのは、奥多摩の山々や丹沢山塊、秩父山塊ですが、主脈の標高は1500m〜2000mあります。でも、ポールがあらかた潜るような積雪量はありません。
天気予報を見て、翌日行動を起こせる近場の山として、また、雪山を満喫できる山としても人気があるんですね! 関西の山がまた一つ身近に感じられるようになりました。
mizuki
mizuki先輩、こんばんは。コメントありがとうございます。
伯耆大山ほどでは無いですが、この山も日本海に近く、積雪量が多いのですよ。一般に西日本は雪が少ないイメージがありますが、近畿日本海側・山陰は名うての豪雪地帯。年や、シベリア高気圧の寒気吹き出し具合により北陸豪雪か山陰豪雪かに分かれますが、直撃されるとこの地域でも胸以上のラッセルを強いられて、敗退を余儀なくされるケースもあります。
遠くアルプスへの郷愁は募りますが、ひとまず近在の峰にて欲望を満たしつつ、トレーニングに励みます^^
sekitoriさんこんばんは…流石?雪を楽しまれてますね
昨冬、そしてこの冬も雪や氷は"避けるべき物"と考えておりましたが、みなさんの雪山を楽しまれている山行記録や、年末に麓から眺めた雪の日本アルプス…。。
本格的な雪の冬山は無理としても、六甲の氷った滝見物位から始めてみようかと思案中です
…只、悔やむべきは歩き易く軽い靴は幾つか買い漁ったものの、凍った六甲の滝を見に行くにも必要とされる『アイゼン』なる道具を付けるのにはかなり無理があるようです。
新たに靴を買う予算も厳しいなら置く場所もなく…里山を軽快に長距離移動する事を念頭に置いた装備に偏った考え方が災いしたようです
本格的な雪山用は将来の課題として、"チェーンスパイク"なる手持ちの靴にも付けられそうな装備もあるようですが。。
里山に少し積った程度の雪に対処できる装備、考えるべきでした
inakabusさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
雪のお山は良いですよ〜、っと気軽に誘惑をかけるつもりはありません。楽しいのはもちろんなのですが、その数倍の苦労や厳しさが有るのも事実です。
なにも、我々がその苦労を超えているから偉い、と自慢しているのではなく、事実危険と隣り合わせの山行きなんですよ。
まあ登山そのものが常に危険を含んだスポーツ、もしくは遊びなので、そのバリエーションのひとつですが。
能書きはともかく。
冬靴に求められるのは、まず耐寒性、そして防水、あと大事なのは底の固さです。標高1000mくらいまでの山なら雪の中でもゴアのトレッキングシューズで行こうと思えば行けるのですが、行動中は良いのですが止まった時に冷たさが堪えます。靴底との接合部分も防水よりも発汗や歩き易さに重点が置かれているのでどうしても内部が濡れやすく、それで風に吹かれるとアウトです。
あと、おっしゃるように三季用の靴はアイゼンには不適ですね。底が柔らかいので、装着できても歩くと外れやすいからです。やはり、積雪の山を歩かれるのでしたら、冬靴をお勧めします。
蛇足ですが、今回は稜線を含めて雪が柔らかかったので、アイゼンは使用しませんでした。下りの雪がなくなってからはめましたが(笑)
sekitoriさんはじめまして。
大阪市内で仕事する同業?の若造です。
これまで武奈ヶ岳には三度登りましたが、知らないルートな上、直で尾根を、という潔さに興味を持ちじっくり拝見
させていただきました。
一応ホームグラウンドとしている大峰あたりの積雪量
にくらべれば、日本海側の影響が色濃い比良の雪の
深さはさすがですね!sekitori さんの辿られた「潔い」
ルート、まずは無雪季に試しに登り、再び挑戦したいもの
です。
山って、雪があろうがなかろうが気分や体調さえもリセットしてくれますよね!またワクワクさせて頂けるような
記録、楽しみにしてます。
fineridgeさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
潔いかどうかはともかく、山頂に直接突き上げる尾根を辿るのは気持ちよいものですね。鹿島槍ヶ岳の直接尾根や白馬岳の主稜など、いまはトレーニング不足ですが、近年中にはまた訪れたいと思っています。
この武奈の北西稜・ダイレクト尾根は、無雪期はシビアだと思いますよ。明確な夏道は無いと思われる上に、かなりの急傾斜での藪漕ぎ必須でしょう。
残雪期がベストシーズンなのでしょうね。そのころにまた訪れたいです。
充分気を付けて登山を楽しんでくださいね。
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