水晶岳-赤牛岳
- GPS
- 17:36
- 距離
- 51.9km
- 登り
- 4,225m
- 下り
- 4,224m
コースタイム
- 山行
- 16:19
- 休憩
- 1:13
- 合計
- 17:32
03:10 大ノマ乗越
05:00 双六岳
07:00 岩苔乗越
08:10 水晶岳
10:10 赤牛岳
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10:20 赤牛岳
12:20 水晶岳
13:20 岩苔乗越
15:40 双六小屋
16:40 大ノマ乗越
17:30 左俣林道ゲート
天候 | 快晴微風 |
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過去天気図(気象庁) | 2021年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
その他周辺情報 | 下山後の風呂は荒神の湯 |
写真
感想
冬の赤牛岳日帰りは可能だ。今の僕ならやれる。
2018年の春に北海道から本州に越してきて3年経った。春に北海道に帰ることになった。本州最後の冬、でっかい思い出づくりをしよう。北アルプスで最も奥深い山、赤牛岳ワンデイだ。水晶岳も候補だったが今なら余裕で行ける。2年前の3月にカタヤさんと2人で18時間かかったが、一度経験しているので要領よくやれば(天気と雪次第だが)あの時よりも短時間で冬の水晶を日帰りできるだろう。ということで水晶よりもっと遠い赤牛岳を最終決戦の山に決めた。肝心のカタヤさんは先日の富士山で足を痛めて不参加。単独での挑戦となった。2月最後の日曜日、山は強力な高気圧に覆われた。満月。直近に大きな降雪が無い。こんな好条件は滅多に無い。神は「やるしかない」と言っている。決戦前日の土曜日は林道と雪の状況を下見するために大ノマ乗越まで登った。細板にするかPon2oon159cmにするか考えていたが、日当たりの良い東面の小池新道はモナカだったので細板の選択肢は消えた。安定のPon2oon159cmで。装備も決まったところで土曜日はひらゆの森でしっかり体調を整えた後、新穂高に移動して早めに車中泊した。冬に一人で厳しい山をやるのはいつぶりだろうか。興奮してあまり眠れなかった。こんなキツいことはやりたくない。胸の奥が苦くて山に行きたくない。みんなで楽しく山に登って、早めに下山して温泉でのんびりしてスイーツでも食べて明るいうちに優雅に帰宅した方が絶対幸せだ。うう、行きたくない。大きな山の前はいつもそうだ。
気合の23時起床の24時出発。空には満月が煌々と輝いている。めぐみ橋から山並みがくっきり見えた。最近は平日のトレーニングのことを考えて土日は力を抑えているが今日は決戦、明日のことは考えない。最後の一滴まで絞り出す。出だしからフルスロットルで林道を飛ばす。小池新道もガンガン登る。小池新道は夏道を忠実にたどるとじわじわ右に移動しながら登る。これは脚が疲れる。なのでまず狙いの尾根まで横移動して大ノマ乗越に狙いを定めたら一心不乱に真上に登っていく。こうすると変な筋肉の使い方をしなくてよいため疲れにくい。また沢筋は広くてユルいうちに渡った方が楽。上の方で沢を横切るのは深さがあるので大変だ。大ノマ乗越の直下は昨日よりカチンコチンで緊張した。もしもクトーが外れたらタダでは済まない。今日一番の核心部はここだったかもしれない。大ノマ乗越から双六谷まで300m滑るがシール脱着はタイムロスになるのでそのまましゅるしゅる下りてきた。僕のシールはエッジを出しているのでシールを貼ったままでも滑れる。谷に降りたら双六岳に向かってひたすら登る。月が明るいので目指すピークがくっきり見える。ルート確認の時短になるので満月は最高。夜なのに木々に影ができて美しい。双六岳には5時に着いた。予定より早い。寒いのでガッチリ着込んで三俣蓮華を目指す。こんな真っ暗の尾根をシール剥がして高速で滑るのは危ないので板担いで爪。幸い雪はカチカチに固いのでズボることなく快適だ。右手には槍穂のシルエット、左手には月明かりに照らされる黒部五郎、北ノ俣、薬師。夜景撮影をしている時間は無いが本当に美しい光景だったのでやっぱり撮っておけばよかったと後悔した。手持ち夜景撮影が出来るほど高感度が強いカメラが欲しい。
三俣山荘に着くとヘッドライトから解放された。すばらしく良い天気だ。雲ひとつない。ここまでかなり飛ばしてきたが脚は残っている。体調はバッチリだ。まだまだやれる、まだまだここからだ。岩苔乗越に着いたら作戦会議。当初の予定では高天原温泉まで滑り込んで温泉沢を詰めて赤牛山頂に立ち、温泉沢を滑ってふたたび岩苔乗越に登り返す予定だった。しかし雪が悪い。温泉沢もモナカだろう。800mもモナカを滑りたくはない。しかし冬の赤牛頂上滑降なんて山スキーヤー的には捨てがたい。赤牛頂上滑降を諦めて、夏道尾根を通せば水晶岳も踏める。山ヤ的にはこっちの方が魅力的だ。尾根は景色も良い。うーん、尾根ピストンで決まりだな。僕は根は山ヤだから。岩苔乗越から先は雪は固いのでここに板デポ。身軽になったら赤牛まで尾根通しでピストンすることにした。ここからはアップダウンとの戦いだ。空気も薄いし心臓バクバクだが脚は緩めない。去年から平日は結構厳しいトレーニングをしている。心拍数が上がって苦しい状態をいつまでも我慢できるようになった。水晶を踏んで時刻は8時20分。赤牛往復で4時間はかかる。そこからペースを緩めずに下山すれば18時には下りてこれそうだ。今日は24時間戦う覚悟だったが予定よりだいぶ速く進んでいて自分でもびっくりしている。トレーニングの成果が出ている。強くなった。
水晶-赤牛の間は絶景だ。後ろには歩いてきた水晶、槍穂高、遠くに笠。右手には野口五郎に烏帽子に船窪や針の木に蓮華なんでも見える。左手には黒部五郎、北ノ俣、薬師、遠くに白山。正面には目指す赤牛に立山、奥に劔の頭がちょこん。こんなにたくさんの山に囲まれて幸せだ。予定通り水晶から2時間で赤牛到着。記念撮影をして水を飲んだらさっさと帰る。余韻に浸っている時間は無い。帰りもペースを緩めず頑張る。2度目の水晶を下りて岩苔乗越に戻れば板を履いて楽しい黒部源流スキー・・・のはずだったがモナカで全く気持ちよくない。とは言え太板なのでだいぶマシか。細板なら大変なことになっていただろう。その後は三俣蓮華まで登り返し。壁みたいな三俣蓮華を見ると心が折れそうになるが登らなければ帰れない。横着して双六下道から・・・とかやると大抵ロクな目に合わない。黙って登るべし。双六の尾根のアップダウンに耐えて指定のポイントでシールを剥がしたら高速トラバースで双六小屋の上に出た。このトラバースポイントは2年前にカタヤさんに教えてもらった。今日は雪が柔らかかったが問題無く小屋まで行けた。双六沢をしゅるーっと滑って大ノマ乗越の下まできたら最後300mの登り。もう許してくださいって感じだ。今日は僕以外にラッセルしてくれる人はいない。登るしかない。300m登り切ったら時刻は16時半。2度目のヘッドライトは必要なさそうだ。小池新道はモナカと言えばモナカだが日中溶けた雪が気温が下がって再び硬くなり始めていて、なんとも奇妙な雪質で一言で言えばめっちゃタマランチだった。我慢のモナカだと思っていたので嬉しいご褒美。その後はデブリをいくつか乗り越えて林道に出ればあとは高速自動運転。土日に僕以外に入った形跡はなかった。
17時間半, 52km, D+4,000mの戦いだった。特にアクシデントも無く大成功。計画通り。登る、滑る、水を飲む、写真を撮る。今まで何度も山でやってきた動きをいつも通りにやっただけ。フィジカル的には負荷の高い山行だったがメンタル的には「人生で一番キツかった白山オートルート」に比べたら余裕があった。経験が浅い頃の厳しい山や、悪天に捕まったとき、アクシデントに見舞われた山行の方が印象に残る。
一緒に山へ行ってくれるみんな、特に先生とカタヤさんには山のことをたくさん教えてもらい鍛えてもらいました。おかげであの頃は何も知らなかった僕が今ではこんなに強くなりました。ありがとうございました。これからも向上心を忘れずにトレーニングを続けて今よりもっと強くなってみせます。持っている力をすべて山にぶつけて燃え上がるような山行をいつまでもしていきたい。たまには。たまにはね。
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