10.鳳凰山 「憧れのオベリスク」
- GPS
- 32:00
- 距離
- 16.6km
- 登り
- 1,716m
- 下り
- 2,020m
コースタイム
二日目(7月28日)南御室小屋−薬師岳−観音岳(鳳凰山山頂)−地蔵岳(オベリスク)−鳳凰小屋−御座石鉱泉
天候 | 晴れ |
---|---|
アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
○薬師岳小屋はすぐに満員になるので、早めに予約したほうがいいのですが、水場がないので、水を確保することを考えたら、早いですが南御室小屋で宿泊したほうがいいかも知れません。テント場もあります。 |
写真
感想
第10座 憧れのオベリスク
何年前だったか? 登山専門の雑誌を眺めていると、いつの間にか鳳凰山を紹介するページを開いていた。いくつかの写真の中にオベリスクの写真があった。僕はこれを見て、
「いつかはこの山に登らなくては!」
と一目惚れをしてしまった。その間、剱岳の岩場に浮気をしてしまったり何やらで、今頃になって鳳凰山に登るチャンスが出来た。僕にとって初めての南アルプス。どんな山旅になるか楽しみだ。
7月27日の2時頃、僕は甲府駅前の夜叉神峠、広河原行きのバス乗り場にいた。こんな夜中だと言うのに夜行列車を利用して甲府入りした登山者達が次々とバス乗り場に集って来た。発射時刻間近になると100人を越えるか越えないかの人数になっていた。
それに対してバス会社は6台のバスを用意して100人の登山者をあっという間に呑み込み夜叉神峠へと向かった。ただしこのバスは路線バスで、その上バスの運転手が峠道をビュンビュン飛ばしまくるので、一睡も出来ないまま夜叉神峠に着いてしまった。
夜叉神峠で乗客を降ろした後、そのバスは広河原へ向かって走り出した。僕はそれを見届けながらカロリーメイトを頬張り、ストレッチングを充分に行い、夜叉神峠登山道へと入った。夜叉神峠まではウォーミングアップのつもりでゆっくりと登ることを心がけた。
登り始めて1時間ほどで夜叉神峠に着いた。空を改めて見上げると雲ひとつない晴天で、北岳、間ノ岳、農鳥岳からなる白峰三山が僕を迎えるようにそびえていた。これらの山を眺めていると、さぁ、いよいよ登山が始めるんだなぁ〜とボルテージが上がる感じがした。
夜叉神峠からは登り降りを繰り返しながら南御室小屋に向かって歩く。この登山道は比較的歩きやすく樹木越しに見る富士山に感嘆の声を漏らしたほどだ。
森林浴を堪能し、昼時前に今夜の宿泊地である南御室小屋に到着してしまった。到着するやいなや、水場から流れる水で喉を潤し、顔を洗ったこの水の冷たいこと、美味しいこと。山に来て良かったと思える一瞬である。僕は南御室小屋をモデルに水彩スケッチを描いたり、昼飯にラーメンを作って食したりと日常では考えられない時を過ごした。
やることが尽きた所で南御室小屋へチェックインを済ませた。実を言うと小屋を予約したのが前日で、本当は薬師岳小屋に宿泊したかったのだが、満員である理由で断られ、この小屋の宿泊となった。
ここでも満員で割り当てられた僕の寝る場所は寝返りすらうてない狭いスペースであった。山小屋での宿泊は初めてではないが、正直言って今晩寝られるのか不安になってきた。
夕方になると、次々と山小屋が賑やかになってきて、ツアーでの登山客が大挙して訪れると、一階のみならず、ロフトに設けられた寝室も人で一杯となってしまった。夕食もそこそこに済ませ、昼過ぎから瞼が重かった僕はシュラフカバーにくるまり眠った。
7月28日3時頃、周りがごそごそする音で目覚めた。寝ている最中に少し頭痛がしたが、起きている時点では直ったみたいだ。僕は寝苦しいネグラから抜け出し、夜逃げするようにザックと身の回り品を小屋で作って頂いた弁当を持って外へ出た。
夜空を見ると、月が輝いていて星は数えるほどしか見えなかった。月明かりの下、僕は弁当を食べながら、味噌汁をすすった。今回もガスコンロを持参したが、暖かいものを自分で作れるようになると随分と違うよな。味噌汁に続いてコーヒーも作って飲んで、ストレッチングをして薬師岳に向かって出発した。
いきなりの急登をゆっくりとこなし、樹木越しに御来光を拝んだ。この御来光を薬師岳とは行かないまでも森林限界を越えて拝めなかったのが残念だ。今度南アルプスに登る時は早めに山小屋の予約をするぞと御来光に誓うのであった。
森林限界を越えると樹木にさえぎられて見えなかった白峰三山を始めとする山々が見ることが出来た。その上に登山道に横たわる巨石の群れ、所々に咲く花々、やっとここまで来たかと胸が一杯になった。僕はそれらを眺めながら薬師岳へと向かった。
薬師岳小屋を過ぎ、薬師岳山頂に着いた。この山頂は砂礫で覆われ、石もポツンポツンとある日本庭園を思わせる山頂である。ここまで来ると、白峰三山に加え、甲斐駒ヶ岳、仙丈岳も姿も現した。東の方角に目を移すと八ヶ岳や蓼科山が雲海を貫き頭を出していた。
その次の観音岳に行けば、もっといいものが見られるに違いないと思った僕は観音岳に向かった。僕はザレ場の登山道を歩き、鳳凰三山の最高峰である観音岳に着いた。北の方角には槍ヶ岳を始めとする北アルプス連峰が横たわっていた。天に向かって尖った槍ヶ岳は一目見ただけでもそれと解った。ある意味、昨日見た富士山よりも感動したのかも知れない。
観音岳を後にして次に向かうはオベリスクがある地蔵岳である。いよいよ一目惚れしたオベリスクとのご対面である。
いざ対面して見ると、例え優れた芸術家がこのオベリスクを創ろうと思っても、ここまでは見事に創れまい。まさに自然が創り出した芸術品と言っても過言ではないだろう。よく見るとオベリスクをよじ登ろうとする登山者達の姿があった。これを見て「ただ眺めるだけでいい」と思っていたのが、「行ける所まで登ってみよう」という気になった。
賽の河原でザックをデポし、いざオベリスクへ!
肩までは難なく登れたが、問題は顔の部分をどう登り、脳天である山頂へ我が身を運ぶかであった。確かに数本のザイルが垂れていたが、僕も含め、たまたま一緒にいた登山者の誰もがそのザイルに触れることすらしなかった。これがザイルではなく鎖で足場にブッシュが打ち込んであれば登る気が起こるのだが、それにより美観が損なってしまう配慮から、あえて鎖やブッシュはないのだと思う。肩から顔の部分を見上げると確かに自然の偉大さが感じ取ることができた。
オベリスクを後にして、鳳凰小屋に入った。ここでも天然水が豊富に湧き出ており、喉を潤し、顔や腕に吹き出ている汗を流した。南アルプスの天然水の贅沢な使い方である。僕の当初の予定では青木鉱泉へ行く予定であったが、山小屋の親父が、距離も短く楽だからと勧められ御座石鉱泉へと向かった。距離も短いが急坂に苦しみ、2000メートルを下回ると滝のように出てくる汗に苦しみながらも御座石鉱泉に着いた。僕は昼飯のラーメンをここで作って食べ、その後温泉に入り汗を流した。やっぱ登山の後の温泉もいいものよ。
その後、同じ時間に山を降りた登山者と乗り合わせてタクシーに乗った。御座石温泉は交通が不便な所にあるので、ご主人がタクシー会社に連絡して乗り合わせで帰れるように根回しをしていたのであった。帰りは大枚はたく覚悟でいたが、思いもよらぬ計らいに、ホッとした僕であった。
未舗装の砂利道を砂埃をあげて黒塗りのタクシーは走った。僕は車窓を眺めながら今回の山行を振返った。登山中、一滴も雨が降らなかったのが一番に挙げられるだろう。とかく変わりやすい山の天気である。ひと雨もふた雨もあるのは当たり前だと思っていた。しかし、今回はザックの中から雨具を取り出すことさえなかった。こういうことは初めての体験であったといってもいい。それから考えると完璧に近い山行だったのではないかと自画自賛したりした。
今回の目標は「山メシを作れるようになること」であった。フリースドライやラーメンなどの山メシが作れるようになって、来年からは食事提供のない小屋でも大丈夫だ。僕は登山を通じて、また一歩成長したと実感した今回の山行であった。
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