「恐るべしクリヤ谷」2度と行かない・行けない・行きたくない 双六〜笠〜クリヤ谷


- GPS
- 32:00
- 距離
- 30.2km
- 登り
- 2,487m
- 下り
- 2,691m
コースタイム
- 山行
- 9:01
- 休憩
- 0:47
- 合計
- 9:48
天候 | 夕方からガスが出ましたが、2日とも天気に恵まれました。 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2016年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
タクシー 自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
クリャ谷の「最終水場の下〜クリヤの頭」はササが登山道を覆い、歩くのに苦労。笠ヶ岳山荘の方が草刈りを進めています。また、谷筋なので湿気が多く、滑りやすい。最下流の渡渉地点は水没必至でした。 |
その他周辺情報 | 槍見館の対応は文句なし。感謝あるのみ。 |
写真
感想
「恐るべし クリヤ谷」 クリヤ谷のルートが悪いわけではない。自分の力量が充分でなかっただけのことである。
笠ヶ岳頂上から槍見温泉まで直線距離にして約6Km、標高差約1900mの長い下りである。沢筋なのでどうしても湿りがちで滑りやすい。湿気などで植物の成長も早く、長いルートなので整備が難しいのでササが登山道を覆って歩きにくい。渡渉点が4箇所あり、雨が続けば水量が増えて水没しなければならない。それを承知で、双六小屋から笠ヶ岳を経てクリヤ谷を下るコースを設定した。自分の体力や技術を過信しているつもりはないが、ルートを甘く見ていたかもしれない。このコースを下るためだけにヘルメットを用意したことは正しかっただろうし、気持ちだけはめげることなく無事に歩き通したことを喜びたい。
8月3日に入山して、8月4日は双六小屋をベースに水晶岳をワンデリングし、8月5日にクリヤ谷を下るつもりでいた。しかし天候が落ちつかず、夕方から夜半にかけて雷雨になる日が続いていた。久しぶりのテント泊なので、正直言って雨は避けたかった。8月1日(月)の週間天気予報では3日(水)の天気も不安定ということで1日ずらした。8月3日(水)の週間天気予報でも4日(木)の天気も不安定なので入山をやめた。というより、この山行をやめようと思った。8月4日(木)は予報に反して好天となり、避暑&ソバの目的で行った戸隠も雲はなかった。ちょっと空気の感じも変わったような気がしたので、中1日を抜いた1泊2日で笠ヶ岳に行くことを決めた。
8月5日(金)午前1時30分に起床、2時に長野を出発して新穂高温泉に向かった。4時過ぎに到着したが、目的の駐車場がいっぱいで鍋平無料駐車場に車を止めた。朝4時から駐車場の管理をされていた方には頭が下がる。4時42分に駐車場を出発して新穂高温泉登山指導センターに向かう。鍋平は初めてだったが、地図を見て「新穂高ロープウェイの中間駅」の場所であることを知った。
指導センターで入山届けを出し、5時24分に出発。「ゆっくり歩く」「ゆっくり歩く」を呪文のように唱えながら林道を歩く。短気・せっかちなので、どうしても歩き始めで飛ばしてしまう。抜かされてもペースを守る。快晴の笠ヶ岳稜線を見て、沢を見ながら6時49分わさび平小屋に到着した。2年前は悪天候で、ここから引き返したことを思い出した。
林道は小池新道登山口で終わり登山道に変わる。樹間に子槍を従えた槍ヶ岳を見ながら快調なペースで秩父沢出合に着き、頭から沢の水をかぶったり給水したりして涼風と冷水を満喫した。小池新道は緩やかな登りで、整備されているので歩きやすい。ゆっくり、一定のペース(?)で進んだ。
「クマの踊り場」から少し登ると木材でステージが作られた小さな池(地糖)に出た。「これが逆さ槍の鏡池?」と訝しく思いながら10時58分に鏡平山荘に到着した。予定通りに昼食を注文する。「カレー? ラーメン? 牛丼? うどん?」すべて900円で悩んだが、消化の良さを決め手に「特製かき揚げ入りうどん」にした。天ぷらは消化に… は考えないことにした。
弓折乗越に向かう頃から稜線に雲がかかり始めた。直射日光が遮られて暑さはしのげるが、それに呼応してペースが落ち始めた。高山植物の観察という研修をたてに、写真撮影でこまめに休みを取ってごまかす。弓折乗越より先のルートは地図上では稜線の起伏はほとんどないように思えたが、数10mのアップダウンが続き、実にしんどい。花見平では雷鳥が出てきたが、関わる余力はない。ただひたすら足を前に出すのみ…。
一瞬雲が上がり、双六岳の稜線と鞍部の赤・黄色などのカラフルな点が… 双六小屋のテントサイトが視界に入った。樅沢岳の西側をトラバース道を歩くこと30分、午後2時01分に双六小屋に到着した。
何はともあれ… まずビール。缶ビールしかないと思ったら… なんと生ビール中ジョッキがあるではないか。迷うことなく1000円を支払い、ベンチに座る。「いただきます」を唱えてゴクゴク…、2口で消滅した。なもんで、缶ビール350mlを追加でゴクゴクゴク…。小腹が空いたのでカレーライス900円をバクバクバク…。人心地着いたところでテントでの宿泊を申し込んだ。
双六テントサイトは砂地で広々している。もう1本ビールを飲みながらテントを張る。ちょっと狭い感じもするが誰にも干渉されることはない御殿に仕上がる。こんなふうに山でテントを張るのは22年ぶり。コーヒーを湧かし、軽食を取る。散歩したり昼寝をしたり… つまみながらウイスキーを流し込む。実にまったりとした午後を過ごす。夕飯は明太子スパゲッティで質素に済ました。
午後7時前にはシュラフに入って眠る。 はずだったが、目がさえてなかなか寝付けない。どうも入山日は興奮してしまうようだ。去年までの小屋泊まりでもそうだった。身体を横にするだけでも… と腹を決めるが、10時前までうつらうつらとしていた。隣のテントの住人がうるさかったこともある。「おしゃべりをやめてくれ」と言いたかったが、いびきで反撃できる(迷惑をかける)かもしれないと思って耐えた。
8月6日(土)午前3時、反対隣のテントからのアラーム音「コケコッコ〜」で目が覚める。テントから出てみると… 満天の星空。流星は数個見ることができたが、星座が分からない。「カシオペア座」を見つけ、「北斗七星」を見つけ、方位の見当がついてやっと「はくちょう座」だけ分かった。4時前、白々した頃になって「オリオン座」が分かった。あとは… ヤッパリ分からなかった。だけど満足この上ない。
午前4時17分、双六小屋をあとにし、5時07分、花見平で日の出を迎えた。雲一つない快晴の空に槍穂高が大きい。今日1日、槍穂高を左手に眺めながらの山行になる。身体も軽く(?)快調なペースで弓折乗越、大ノマ乗越を越えたあたりから笠ヶ岳を含む山塊が正面に見えるようになる。7時40分、秩父平に着く。許されるなら一泊したいと思える場所だ。
奇妙な形の秩父岩を眺めながら登り詰めて稜線に出ると… 美しい笠ヶ岳が「遠く」に見えた。コースタイム2時間の平行道を「遠く」感じるなんて「疲れ」を感じ始めたのかもしれない。と思ってしまってからは身体が重くなってしまった。それから笠ヶ岳山荘まではヘロヘロ。気持ちはいいけど足が重い。でも、確実に近づくのが分かる。
10時32分、ヘロヘロヘ〜で笠ヶ岳山荘に着いた。山荘従業員から、.汽気登山道を覆っているところがある、滑りやすい、最下流の渡渉点は水没必至の情報を得る。クリヤ谷に行くことを決めてからうどん(700円)をいただき、水を補給して頂上に向かった。
11時12分、2898mの笠ヶ岳に立つ。無風快晴、360°の眺望を堪能する。どこの山からも端正な形の笠ヶ岳が見えるように、笠ヶ岳からほとんどの山が見える。当たり前のことが不思議に感じる。一服しながら登山靴のひもを締め直す。ヘルメットを装着し、クリヤ谷のルートを確かめる。笠ヶ岳の頂上から南の方角に焼岳・乗鞍岳・御岳が並んでいる。ちょうど乗鞍岳の方向に尾根が続いており、尾根の向こう側がクリヤ谷になる。
11時25分、1900mの下降を開始した。しばらく下ったガレ場ですれ違った単独行の登山者から「ササ」の情報を得る。双六からやってきたことを告げると驚かれた。雷鳥岩との中間地点でもう一人の単独行の登山者と会い「渡渉点」の情報を得た。どちらも山小屋従業員からの情報と同じで安心した。
下りは苦手ではなく、ましてガレ場は得意なはずなのに、ちょっと勝手が違うことに戸惑いを感じ始めた。もしかすると、ストックの扱いに原因があったのかもしれない。妙に疲れを感じるとともにペースがガクンと落ちたのを感じた。雷鳥岩を過ぎ、クリヤの頭をトラバースする頃から登山道がササなどの植物に覆われ始め、滑ることが多くなってきた。こんな程度なら大丈夫と思っていたら… ササはもっと丈を伸ばし道をすべて覆うようになった。しかも、道には岩が飛び出しており、それが見えない。ストックを着いたところがスカスカで身体のバランスが崩れる。風もなくなり、滝のように汗が流れ落ちる。バランスを崩す・滑る・こける・汗が目に入る・ササがチクチクするetc. みるみるペースが落ちる。これが「恐るべしクリヤ谷」の正体。
最終水場にやっとの思いで到着し、頭から水をかぶって上半身を洗う。がぶがぶ水を飲みながらロープウェイの中間駅の低さに幻滅する。最終水場を直降した辺りからササが刈り取られていた。その大変な作業に感謝するが、刈られたササが登山道の表面を隠すことに変わりはなく、飛び出した石は見えないままの下降が続いた。ササはなくなっても石が飛び出している登山道が続き、歩きづらさは変わらない。それが3時間続いた。
錫杖沢出合付近から渡渉が始まった。第1渡渉点はセーフ、第2渡渉点もセーフ、第3渡渉点は何の問題もなかった。そして第4渡渉点、川幅は広くなく流木もがっしり固定されている。しかし水量が多く、一歩だけがどうしようもなかった。上流に動いても下流を見ても水没は免れない。まさに情報通り。ちょっと痛みを感じ始めた左足を保養し、右足を犠牲にすることを決めて一歩を川の中に踏み出す。可能な限り素早く右足を引き抜いたが水は浸入した。初めは冷たくて気持ちイイのに… 時間が経つにつれて生暖かくなり、非常に気持ちが悪い。陽はある程度高いのだが、東面の登山道は影になり、しかも樹林帯なので夕方みたいな暗さになる。ニホンザルらしき叫び声も聞こえてくる。ライターも壊れ始め、一服するのも運任せ。あ〜恐るべしクリヤ谷。
地図で残り標高100m辺りから下りのトラバース道になることを確認した。丁寧に歩くことを言い聞かせながら「早くトラバース道に」を願い、ただひたすらに歩く。「あれっ、直降しない」と気づいたが「まだまだ」と自分に言い聞かせながら歩くと… 人工の黄色い光が見え、槍見温泉の建物が樹間に見えた。クリヤ谷の看板も見えた。あと20m… あと10m… こんなにゴールが待ち遠しいのはいつぶりだろう。5時43分、クリヤ谷登山口にゴールした。ズダボロのゴールだった。
槍見温泉「槍見館」のフロント係の方、タクシーの運転手にお世話になり、午後6時15分に鍋平園地駐車場に帰り着いた。それから2時間、車をすっ飛ばし帰宅した。帰宅したとき、何とも言えない充実感を感じた。ヒヤヒヤものではあったが…。
この山行を終えて、次に生かすために反省点や課題、成果を記す。
22年ぶりのテント泊山行でもあったので、ヤマケイのコースタイムを基準に行動しようと決めていた。コースタイムより大幅に遅れたと思っていたが、休憩時間を入れるとほぼコースタイム通りだったことは喜ばしい。ということは、休憩時間を入れない行動計画そのものが問題である。年齢による体力の低下は避けられない以上、計画をきちんと立てる必要がある。
下山でヘルメットを着用した。頭を打つような転倒はなかったが、張り出している木に気づかず激突した。この一つを見ても有効である。お守りと思って今後も継続する。
2日目はストックを使用した。使い方にも慣れ、稜線を歩くには有効であった。しかし、クリヤ谷のようなタイプの下りにはマイナスが大きいかもしれない。道を覆うササをどかすためには便利だが、身体のバランスを崩すことにつながるだけでなく、転んだときの手の動きに自由がなくなることが多かった。
山小屋の軽食を利用すると、夕飯はスパゲッティで充分である。しかし、周りの方が食べている夕食が旨そうでたまらない。
コメント
この記録に関連する登山ルート

いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する