白馬三山縦走と白馬鑓温泉
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- GPS
- 80:00
- 距離
- 22.3km
- 登り
- 1,873m
- 下り
- 2,449m
天候 | 晴れ一時曇り |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
電車 自家用車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
|
写真
感想
今年は、憧れの北アルプス槍ヶ岳に登ろうと父さんは計画をしてくれていたが、上高地周辺で多発している火山性群発地震のため、登山道の崩壊、落石箇所が多く、入山規制がしかれている。そこで、急遽、行先を北アルプス北部の名峰白馬岳に変更し、夏山を楽しむこととなった。槍に登れないのは残念だが、誕生日にもらった写真「赤い小屋にロマンチックブルーの池、そしてその向こうに北アルプスの峰々が連なって見える場所……メルヘンチックな白馬大池……」。その景色をいだく白馬三山に登れると思うと嬉しくてたまらない。
中央自動車道は駒ヶ根から先へ行ったことがない。信州、信濃路、上高地……それぞれの言葉が心の中で広がる。伊那、北伊那と過ぎ長野自動車道から松本に入り、豊科ICで降りる。この辺りはワサビ田、道祖神、美術館などがあり、安曇野と呼ばれている所である。良いお天気であれば、ソバの白い花に北アルプスの山並が重なり、きっと美しいに違いない。「安曇野…」なんて優しく暖かい響きのある言葉か。大糸線沿いに長野オリンピック用道路が整備され、快適なドライブである。信濃大町はその名前とは違い、それ程大きな町ではないが、立山黒部アルペンルートの信州側玄関口にあたる。お父さんの二十歳代のホームグランドである。ここらには、温泉が多いとのことである。青木湖、木崎湖、中綱湖の仁科三湖を左に見ながら、白馬村に入る。遠くに長野オリンピックで使われたジャンプ台が見えた。次々に目に入る景色にワクワクしながら栂池高原についた。お父さんが昔、バスで通った道は通行止めになっていた。高山植物の盗掘が原因らしい。ここのレストランで昼食を済ませ、もう一度山麓駅に車で戻り、アルプスゴンドラで栂池自然園へ。あいにくの天気で、ゴンドラはすぐにガスの中に入った。山頂駅より五分程で山荘に着く。村営栂池山荘で宿泊手続きを済ませ、夕食までの間ゆっくり自然園の散策を楽しんだ。ワタスゲがところどころに咲き、木道がどこまでも続く湿地帯である。全て散策するとなると時間が足りない。暗くなってきたので残念だが山荘に戻った。明日の天気はどうだろう。
二十二日朝六時四十五分出発。歩き始めてすぐ、モウセンゴケに出会った。よく見るとゾウリムシのようでおもしろい。やがて木道もなくなり、樹林帯の中をジグザグに登る。ゴンドラで既に高度をかせいでいるので、すぐに亜高山帯のような景色になる。ガスがかかって展望はきかないが、時折切れ間から白馬乗鞍らしい山が見えた。道が木道に変わり、視界が開け、天狗原に着いた。白いワタスゲが風に揺れ一面に咲いている高層湿原「天狗原」を想像しながらゆっくり歩く。正面に白馬乗鞍岳への岩ゴロの登山道が見える。その急坂を登りきると広い山頂をもつ白馬乗鞍岳である。大きなケルンが建っている。ケルンが無ければ山頂はどこかわからない程、広い。山頂からゆるやかに下る。突然、左前方に白馬大池があらわれた。白馬大池山荘の赤い屋根、コバルトブルーの池、雪渓、遠く見える山並みは雪倉、朝日岳か……お父さんに北アルプスの写真集を見せてもらって、「お誕生日のお祝いに、この中で一番好きな写真を大きくしてプレゼントするよ。」と言われて選んだ写真がこの景色だった。その時、白馬大池山荘の赤い屋根がコバルトブルーの池に映えて、この場所の写真がとても気に入ってしまい、この景色を選んだことを覚えている。今、その景色の中にお父さんと一緒にいる。思い出の写真の中に二人で立っているのだ……。ずっと前から、あこがれていた「白馬大池」……その場所に立ち胸が熱くなるのを感じた。二人でのんびり眺めていたら「こんな仲の良い夫婦見たことがない」と先ほど出会った、明るくて楽しい男の人に、池をバックにおしどり夫婦の証拠写真を撮ってもらった。池を左に見ながら、岩のゴロゴロした所を下り、池の周りにつけられている登山道を散策気分で歩くと赤い屋根の小屋、白馬大池山荘に着いた。池の周辺も見頃は終わっていたが、ところどころに逝く夏を惜しむかのように花が咲いている。ここから、雷鳥坂と言う響きの良い坂を登る。なだらかな坂で、晴れていたら前方に白馬岳が見えるとお父さんが教えてくれた。振り返るとガスの切れ間から、池が少しずつ小さくなっていくのが見えた。何人かの人が立ち止まっていると思ったら雷鳥が4匹高山植物の葉をついばんでいた。初めて見たが、氷河期から生き続けている生命力がこんな小さな鳥のどこにあるのかと思ってしまう。錫杖のある小蓮華山(二七六九m)に十二時半着。ここで軽く昼食をとる。ここより少し下りながらの三国境へは快適な尾根歩きである。三国境は、鉢ガ岳から雪倉、朝日岳そして日本海の親不知へ向かう分岐点にあたる。残雪が多く、北アルプスでは一番高山植物が美しいと聞く。一度訪ねてみたいと思う。ガスで見え隠れする白馬の稜線を見ながら、白馬までは約一時間の行程。白い小石と這い松、そしてお花畑を眺めながら歩く。イワギキョウが二輪、岩の間から顔を出している。お父さんが写真を撮る。疲れを忘れさせてくれる高山の妖精たち……。細かい岩の急登を登ると白馬岳(二九三二m)に着いた。大勢の人が憩い、写真を撮るのも順番待ちである。さすがに、北アルプス人気の山だ。驚きである。振り返ると自分の足で歩いた小蓮華の稜線が、なだらかな曲線で続いている。信州側は鋭く切れていて覗き込んだら足が震えた。登山客も多く、何か気ぜわしく、また後で来ようということで早々白馬山荘に向かう。北アルプスを代表する巨大な宿泊施設、千五百人を収容出来るというから驚きである。また、中にはゴージャスなスカイ展望レストランまであるのではないか。大勢の人がワインや生ビールで乾杯をしている。もう、驚きの連続だ。お父さんから聞いてはいたが……。「私たちもリッチに行こう!生ビールとポークソーセージで乾杯!」すっかり雰囲気に酔ってしまった。夕食まで時間があるので、小屋前からの展望を楽しんでいたら、這い松の中に雷鳥がいた。這い松に見え隠れする二匹の雷鳥を探しながら楽しいひとときを過ごす。南に目をやれば、明日たどる杓子、白馬鑓をガスが静かに流れていった。北アルプスの静かな夕暮れ……。明日に思いをはせ、小屋に戻った。
二十三日、ご来光を見るため小屋を出る。寒い!でも北アルプスは、真っ青な空のもと、快晴である。最初に目に飛び込んだのは、立山・剣だった。昨日は何も見えなかっただけに、興奮した。今日たどる山々からの景色、北アルプスの峰々の展望に心が躍る。南に唐松岳から鹿島槍ガ岳、その左肩に南部の名峰、槍穂高連峰、そしてお父さんの歩いたダイヤモンドコースの峰々が一列に並んでいる。眼前には朝陽に浮かぶ立山、剣が黒部の深い谷をはさんで輝いている。素晴らしい展望である。山の神様に感謝!感謝!
景色を目に焼き付け、山荘に戻る。朝食を手際よく終え、頼んでおいたお弁当を持って出発。白馬三山のハイライトコース、杓子岳(二八一二m)白馬鑓ガ岳(二九〇三m)縦走の始まりである。小さな丸山のピークから見る白馬岳が美しくそびえている。ここから、砂地の斜面を一旦下り、杓子岳へ。杓子の巻き道より、やはり山頂を踏もうと言うことで歩きづらい岩ガレの道をジグザクに登る。山頂は横に長く北側に頂標がある。一番北側の切れた岩の上で白馬本峰をバックに記念写真を撮る。白馬を背にこれ以上のポイントは無い。何人かのパーティーが「杓子のコルでチョウノスケソウが咲いていたのですよ。」と話していた。コルから鑓ガ岳へは砂ザレた急登のきつい登りである。縦走する登山者がアリの行列のように見える。岩場を越え左にたどっていくと白馬鑓ガ岳山頂に着いた。鹿島槍ガ岳がガスを巻き上げ凛々しい姿を見せている。手前に天狗山荘が見え、その奥に天狗の大下り、そして難所不帰のキレットがあるとお父さんに教えてもらった。なんだか恐ろしい名前ばかりで危険な場所だ。後方には今歩いてきた登山道が細い線のように見えた。白馬三山登頂達成!十分に展望を楽しみ鑓温泉に下山する。こちら側から見る鑓ガ岳は雪をいただいた様に真っ白な砂山である。斜面をどんどん下ると、大出原に着く。少し早いが、お腹もすき気持ちの良い場所でもあるので、ここで弁当を広げた。広くてのんびり出来る場所だ。雪渓もあり、暑い身体に気持ちが良い。
イオウの臭いがすると、鑓温泉に午後一時に着いた。このまま猿倉まで三時間程で下山出来るが「日本標高第二位の場所にある温泉!」という言葉と「温泉につかって満点の星を仰ぎながら冷たいビールを飲みたい!」という二人の意見が一致。二一〇〇mの雲上の露天風呂にてゆっくりすることに決め込んだ。女性は、小屋で囲ってあり、男性は写真に出ている丸見えの露天風呂である。夜には、時間制で交代になっている。何回も入る。最高のぜいたくだ。お父さんありがとう。自分の足で歩いたごほうびだね。がんばりました。
二十四日、朝食は自炊で持ってきたレーメンをいろいろなグッズを工夫して作る。妙高、黒姫等の山々を眺めながらおいしく食べた。再度、お風呂に入りきれいな身体で、猿倉へ。すっかり落ち着いてしまい山に来ている感じがしない。軟弱者になってしまった。ダラダラと気のぬけた変な気分で下山した。鑓沢や杓子沢には雪渓が残っており水量も多い。登山道には、夏への別れ、そして私たちへ別れを告げているかのようにミヤマキンポウゲが咲いていた。徐々に落葉樹、針葉樹の森に変わり、ほどなく猿倉に着いた。白馬駅行のバスに乗ろうとしたが、すでにバスダイヤでの夏山は終わっていた。仕方なく、後できた老夫婦と一緒に相乗りタクシーで白馬駅へ。駅から白馬大池駅まで電車に乗ろうとしたが、お父さんを見失い、大失敗。一旦乗ったが又すぐ降りてお父さんを探した。「こんな所で一人になったら」と遭難したほど、怖くて泣き出しそうになった。最後にハプニングがやってきた感じだった。先程の駅員さんに頼んで、電車の切符を払い戻してもらい、電車はあきらめてタクシーで栂池高原駐車場へ、またまたタクシーで行くことになる。タクシーの運転手さんが、「ここの所ずーとお天気が悪く、この二、三日だけですよ、晴れたのは。本当に良い日に来られましたね。」と話してくれた。また、ここらに良い温泉がないかと聞いた所、いくつかの入浴温泉を教えてくれた。親切な人だった。
三日前に昼食をとったゴンドラ中腹駅で休憩した後、教えてもらった温泉を探す。道の駅「極楽の湯」に浸かって疲れをとった。蜩が美しい声でなき、心地よくいつまでも入っていたい気持ちだった。「ソバの美味い所はないか」と途中のガソリンスタンドで聞くと、天皇も立ち寄ったという有明山麓の青崎山荘を教えてくれた。静かな場所で、有明山の登山口近くにあるようだ。猿や犬が檻で飼われていた。ここで、ソバと馬刺を注文した。初めて食べた馬刺はシャリシャリとして、とても美味しく忘れられない味である。ソバの花が咲き、常念岳の秀麗な三角形が静かに見守る安曇野……のどかで人の優しさ、温もりが伝わってきそうな安曇野……私はこの土地が大好きになりそうだ。高速道路に入ると涙が溢れて止まらなかった。
槍ガ岳周辺の群発地震で急遽変更した白馬岳山行…。そのおかげで、今回の北アルプス白馬三山は、思い出多き素晴らしい山行になった。見るもの全てが初めてで、白馬岳山頂から二人で眺めた三六〇度の北アルプス大展望……それは、ゆったりとした時の流れの中で、美しい輝きをもって迎えてくれた。メルヘンの別天地、白馬大池……それも初対面でないような、昔からの友だちに出会ったような懐かしさを感じた。そして、満天の星を仰ぎながら浸かった白馬鑓温泉露天風呂……どれも全てが心の中に深く刻み込まれている。
帰路、自動車道梓川パーキングから見た、夕景に浮かぶ常念岳の美しいシルエットが、「また、来いよ。」と呼びかけてくれているように……、私たちには思えた。
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