《北ア》新穂高温泉から鷲羽岳、三俣蓮華岳、双六岳厳冬期アタック
- GPS
- 104:00
- 距離
- 36.8km
- 登り
- 3,111m
- 下り
- 3,113m
コースタイム
- 山行
- 4:50
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 4:50
- 山行
- 8:25
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 8:25
- 山行
- 8:40
- 休憩
- 0:40
- 合計
- 9:20
- 山行
- 6:20
- 休憩
- 0:20
- 合計
- 6:40
- 山行
- 5:00
- 休憩
- 0:10
- 合計
- 5:10
新穂高温泉から稜線に上がり鷲羽岳、できれば水晶岳を往復する計画。
弓折岳山頂イグルーから双六と三俣蓮華の中腹をトラバースするルートでぎりぎり鷲羽岳往復が1日の射程範囲。雪の状態よく、鷲羽まで届き三俣山荘までは首尾よく戻ったが、休息に天候が悪化し、猛吹雪と濃霧で往路のトラバースルートの帰還が困難に。三俣山荘冬季小屋に戻り緊急宿泊する。翌朝も暴風雪は同じだが、視界が数百mは利くようになったので稜線通しに弓折イグルーまで帰る。最終日は快晴、顔を焼きながら小秩父谷を滑降する。
天候 | 一日目快晴 二日目快晴 三日目快晴→午後地吹雪濃霧視界20m 四日目吹雪濃霧視界300m 5日目快晴 |
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過去天気図(気象庁) | 2018年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス
|
コース状況/ 危険箇所等 |
左俣林道と秩父小沢、双六岳と三俣蓮華岳トラバースルートの雪崩は、今回に関しては不安なし。ただしいつも安全とは限らない。 |
ファイル |
(更新時刻:2018/02/28 08:13)
(更新時刻:2018/02/28 08:14)
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写真
装備
個人装備 |
スコップ+のこぎり
スキー・ストック・シール
アイゼン・ピッケル
ビーコン
その他冬山泊個人装(寝具一式・ナイフや灯り地図磁石食器)
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共同装備 |
ツエルト(松)
ストーブ・鍋(米)
白ガスタンク600cc×4泊分(米)
ラジオ+天気図
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感想
突然5連休が来た。現在失職して「カレンダー・レッドマン(毎日祝日男)」の松が二つ返事で応じてくれた。15年前にもこういうことがあった。得難い大切な山の友である。
はじめ扇沢、いやいやブナ立て尾根からの大縦走を考えたが、厳冬期のこの時期、貫徹見込みのまだある往復計画で立て直した。
1日目)林道ラッセル
松は前夜松本のウチに前泊で、バスを乗り継ぎ新穂高温泉へ。左俣川林道は10センチ〜30センチの普通のラッセル。この地域は2週間近く大した降雪も無く、雪崩の気配も今はない。20キロの荷物で初日6キロを5時間かかる。下山日も雪が降っていればこの時間を見込まなくてはならない。30分で二人用イグルーを作る。
2日目)尾根1000m登り
一生懸命スキーで登る。快晴で顔が焼ける。登るに連れ、穂高も槍も姿を見せる。
心配していた雪崩の気配は無い。雪は安定している。はじめ、鏡平経由を考えていたが、弓折岳から真っ直ぐ谷に降りている尾根を直登することに決めた。全体に樹林の少ない山域だ。雪崩のせいだろうか。C1イグルーの標高1500mから上は基本的に疎林だ。
槍の穂先が近くてデカい。これまで槍は穂高に比べ小さいような気がしていたが、四方に根を張るこの存在感はどうだ。前に槍に登ってから、かれこれ40年。見直した。ここから見る槍にとっては、穂高は家来のようだ。
標高差1000mを喘ぎながら登り、9時間近くかかった。双六までテン場を伸ばしたかったが、天候悪化の際すぐに下れる安心感ある弓折山頂にイグルーを作る。その間に松がラジオ気象通報で久しぶりに天気図を描く。高気圧ばかりでめでたい出来。槍ヶ岳の見えるイグルー。ここを二泊目のテン場にした時点で、水晶アタックは消える。
3日目)鷲羽ロングアタック、帰りビバーク
稜線のラッセルはほぼ無く、山スキー使わずともアイゼンピッケルで軽身で夏道時間読み並のスピードで進む。双六と三俣蓮華を巻くトラバースルートも、視界が無限大なのでひと目で分かる。雪崩の恐れもない。念のため、帰りにどう通るか、振り返り振り返り、記憶に刻む。トレースは風ですぐに消える。三俣山荘のコルで、風がすごく強くなり、鷲羽の上りにかかると台風並みに。雲も西の方からどんどん流れてきて、あっという間に悪天に変わってしまった。山頂にタッチして引き返す。三俣山荘のコルで行動食を詰め込み、帰路につく。ここまでは帰着できる時間読み通りだった。三俣蓮華岳南東のトラバースルートで、大きな円形の谷を標高2770m付近で回り込むあたりで、視界が極端になくなる。まるで白い闇の夜になったよう。足元の傾斜しかわからない視界20mほど。台風並みの風、気温は氷点下10度ほど。地形の確認作業にも時間がかかるようになり、この状況では弓折のイグルーまで帰れないのが明らかになった。その場でイグルーを作ってビバークできる自信があるから慌てない。どうせビバークなら三俣小屋にもどろうということになったが、この視界では、だだっ広い緩斜面で、いま来た小屋まで戻るのにも1時間かかる。恐るべき天候急変と白い闇。
冬季小屋は屋根まで埋まっていて、直下に3m掘り進み、しかも戸が外側開きのため入るのにまた1時間かかった。一時間あれば立派なイグルーが作れる。これでは朝も出るのに苦労しそうだ。広さは三畳間ほどの納屋のようなところ。寝袋なし、飯なし、コンロはあっても鍋はなしで、手持ちの水の凍っていないとこだけ飲んで行動食を食べ、持っている非常用防寒肌着を全部着込んで、お風呂マットとウスウスシュラフカバー。ザックに足突っ込んで眠る。おきている間は震えていたが案外少しは眠れた。
きょうは意外な展開だったがイグルー技術があるから、吹雪の中で疲労凍死する気は全くしない。これは我らの強みだと思う。鷲羽岳、美しい山姿の上に、手厳しい仕打ち。好天で誘い出され、弄ばれた。価値ある登頂になった。
4日目)悪天の中、稜線通しで三俣蓮華、双六岳。弓折イグルーに帰着
地吹雪は相変わらず強く台風並み。視界は昨日よりは良く、常時300m、時々1000mくらいは見える。これならば稜線通しならば帰れる。三俣蓮華を越えて風は更に強く、時々背を向けて立ち止まり痛い頬を擦る。久しぶりに目出帽をデストロイヤにする。松は眼鏡が曇ってきょうも盲人状態だ。一つ一つの地形特異点で地図を確認し、磁石で確かめる。双六の南東、2911から双六小屋へ下る当たりは、地形判別が難しく、降雪も深く、雪崩の可能性を考える。視界も利かず、斜面か雪庇かわからず下るのに勇気がいるところだ。小屋が見えてきて安堵する。冬季小屋は入り口が高いところにあり雪かき要らずで広く使いやすそうだった。小休止で風を避けることが出来た。ここから先も長かった。再び視界のない中、稜線までのトラバースルートを探すのに時間をかけたし、上り下りが多く、疲労もたまった。
しかし厚い寝袋と、温かい食事のあるイグルーに戻り、生き返った。狹いながらも極楽だ。何杯もマサラティーを飲む。ビバークに比べればぬくぬくと眠る。
5日目)晴天、滑降
槍ヶ岳から朝日が登る。乗鞍、白山も見える。滝谷は、真っ黒だ。
下降尾根の上部はここ数日の地吹雪で吹き溜まっている。傾斜もあるので初め警戒してスキーを履かず、アイゼンで下る。傾斜があるのであっという間に高さが下がる。2330m,南尾根が分岐するあたりで、右下の小秩父沢へスキーで一直線に下る。この辺では尾根よりも、沢の中のほうが傾斜が緩く、雪崩はなさそうだ。デブリもトレースもない無垢の大斜面だからスキーは滑らかに運転できる。重荷だけど楽しく下る。松はシールを付けたままトコトコ下る。「身の程をわきまえておりますから」とのこと。
林道の降雪は無かったみたいで、登りのトレースを頼りにできた。日向の雪は板の裏にくっついて厄介だったが、日陰はよく滑った。林道入口付近で、今週穴毛谷をスノボードで滑る下見で来たという地元の若者1人と会い、話をする。
厳冬期の平日でもあり、2日もラッセルしないと行けないこんなルートは、静かなものだ。久しぶりに学生みたいな山行ができて、生き返った。
新穂高温泉でラーメン食べて、足湯に漬かる。春節休みで中文のお客がたくさん。高山へ行く松と平湯で分かれて松本へ。四晩、長い睡眠をしなかったせいか、松本まで眠りこけた。
厳冬期、山深い鷲羽の山頂へ。
今更乍ら深田久弥先生に言われるまでもなく鷲羽岳や水晶岳(黒岳)は奥深くに立地する山であり、更に言えば厳冬期に於いてはその奥行きの度を更に強め、積雪によりフリークライミングの度合をも深めてくれる。
昨今見受けられる山スキーの強度の機動力を持ってしても厳冬期には到底ワンデイでは届かない領域へ五日持って出掛け、何とか帰ってきた。水晶へは届かずとも、心震るう瞬間幾度もある誠に貴い鷲羽岳登頂だった。
2004年春の南ア行以来の、深く得心しまた満足もした積雪期山行であった。
本当にお疲れ様です!
厳冬期の鷲羽は凄いですね!
聴くところによると、冬は三俣蓮華で悪天に捕まると、1週間近く閉じ込められるのだとか。
私も、一昨年の年末に水晶に行きましたが、本当に行くのが大変でした。
しかし、あの奥地でしか見られない景色もあり、行った人にしか分からないですよね。
久しぶりに胸が熱くなりました...
水晶行ったのですか。今や益々輝きを強めています。山の値打ちは高さよりも深さですね。
一週間動かないか、イグルー作りながらイジイジ帰るか、どちらにしても時間がなければ遭難扱いになりますね。
「山の値打ちは高さより深さ」非常に感銘を受ける言葉です!
著書も書かれているようで、今度購入させて頂きます!
学生は時間がとれるので予備はこういった山行には、かなり余裕を持たせますが、社会人になると、日程取るのが難しいですよね。
行くか、留まるか、引くかという判断は難しいです...
一歩間違えたら、遭難ですから。
あと、イグルーは本当に立派ですね。さすが元北大山岳部です。
やぶホークさんは学生なんですね。長い山行を今のうちにたくさんやっておくことをおすすめします。山の力は、深くて長い山行を自分たちだけの力でやり抜いてくることからしかつかないと思います。イグルーに興味お有りならご近所のようですし、声をおかけください。
学生ではありますが、現在は就活中ですので山はほどほどにしております。
就活が終われば、また暴れようと思ってます(笑)
また、yoneyamaさんにはいろいろとお話を聞きたいと思ってますのでイグルーも含めて、機会があれば、お伺いさせて頂きたいと思います。
こんにちは。お疲れ様です。
macchanが「奥山」というから、徳山門入辺りにテントを張って、氷瀑の不動滝から千回沢じゃないかと予想していました。三俣蓮華から鷲羽まで行ったのですね。。
それにしても立派なイグルーですが、あれは使用後取り壊すものでしょうか。あと数日はもつと思いますが。もちろん、私が拝借しようというのではありません。その気力、体力も金華山老人には残っていません。
「歳とともに、山がどんどん高くなってくる」奥美濃のレジェンド酒井先生の言葉です。
いつもどうせ誰も来ないところにしか作らないので壊しません。以前スキー場の上の、ガイドがお客さん連れて歩くようなところでイグルー講習会やった時、あとからガイドの人に落とし穴になって危ないとネットに書かれたことがありました。他人の安全を仕事にしている人は、発想が違うと知りました。
こんなものが危険なものになりうるかどうかはともかく、そういう場所ではもう作りません。
今回のこの場所に行ける人なら、うっかり落っこちることはないと思いますよ。この時期のイグルーは、硬く固まるので、壊すのもタイヘンです。数日どころか三月いっぱい使えます。
yoneyamaさん、macchan90さん、こんばんは。
天候にも恵まれて、すばらしい山行ですね。
こんな山行、やってみたいですが、もう私には無理だなあって思います。
いや、ほんと、うらやましいです。
ありがとうございます。山の形態は仕事家族年齢いろんな状況で枠はありますが、そう諦めたものでも無いと思います。関西在住なら例えば冬季の琵琶湖の湖岸山脈を一周する計画とかなら、深い山ではないけれど誰もやらない自分だけの山登りが設計できるのではないかな、などと思います。僕も今回のは幸運の巡りで、サラリーマン日常的にはすみかの町から歩いていける山域での新しい山登りを考えるのが好きです。
冬季の裏銀座を調べていたら先輩のヤマレコ発見しました!
スキーの機動力は半端じゃないですね。
イグルー泊ということはテントは無しでいったのですか?
冬期の裏銀座なんてあまりはやらないからすぐ見つかりますね。
テントは、もう何十年も自分の山では使っていません。
山スキーがなければこの日程ではいけないですね。
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