厳冬期の奥穂高岳単独登頂 〜雪崩と雪庇と滑落の恐怖〜
- GPS
- 29:40
- 距離
- 17.9km
- 登り
- 2,300m
- 下り
- 2,282m
コースタイム
- 山行
- 5:25
- 休憩
- 0:15
- 合計
- 5:40
天候 | 2/26 晴れ 2/27 やや曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2018年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
新穂高温泉〜白出沢出合 長い長い林道が続く。雪の状態とトレースの有無でコースタイムが大幅に変わる部分である。冬に3回ほど訪れたが、だいたいコースタイム通りに進める。穂高平小屋までは夏道があるが、急な上に雪崩の危険性があるため行くべきではない。ショートカットになっているかも怪しい。穂高平小屋上の林道は一箇所、雪崩で埋まっている。毎年、この場所は雪崩るらしい。デブリ上を通過しよう。堰堤を越えて、樹林帯に入ってすぐの所に、涸沢岳西尾根の分岐のマークがある。 白出沢出合〜涸沢岳西尾根2,400m地点幕営地 西尾根の分岐点より尾根に取りつくと、早速急登が始まる。スノーシューで登れる斜度ではない。雪が固まっていたら最初からアイゼンでもいいかもしれない。とても体力が必要だが、標高はどんどん上がっていくので楽しい。途中、数カ所幕営できる部分がある。一箇所、残置ロープがある部分があり、この手前でアイゼン、ピッケルに持ち替えるべきである。斜度も結構あり、登りは怖い。残置ロープは古いため、あまり頼るべきではない。2,000mより上に一箇所ナイフリッジがある。甲斐駒の黒戸尾根の刃渡りを彷彿とさせ、両側が切れている。また、ブドウ谷方面に滑落する可能性がある場所があるので気をつけよう。マークは豊富で、尾根状を行くため、迷うことはほぼないだろう。2,360mとその少し上に幕営できる地点がある。 涸沢岳西尾根2,400m地点幕営地〜F沢のコル 2,500mくらいをすぎると、植生が大きく変わる。針葉樹林帯は終わり、右斜め上に蒲田富士が見えてくる。このあたりから、向かって左のブドウ谷、右の白出沢の両方に滑落する危険がある。ブドウ谷側には雪庇が出ていた。あまり寄らないようにしたほうがいい。蒲田富士の下に、残置ロープが垂れている急な登りがある。ぱっと見、雪壁のように見える。ここでは、ダブルアックスだと安心である。アックスを確実に氷の部分に刺し、アイゼンを効かせながら注意して登る。蒲田富士からはナイフリッジを進む。今回は出ていなかったが、蒲田富士周辺は両側雪庇が出ている可能性があるので、注意が必要である。下から見ると、雪庇の部分がよく見える。ただし、雪の状態次第では、稜線を外して斜面を上がると雪崩る危険性があるように感じた。本物の雪のナイフリッジに会える場所である。最後にF沢のコルに下降する。そんなに急ではない。 F沢のコル〜涸沢岳 F沢のコルから雪がついたルンゼを上がり、岩稜の右の雪面を上がって行く。ここはこのコース状で雪崩れる危険が最もある部分である。岩稜の上に登ってしまうルートもあるっぽいが、左側がきれているのでそれもそれで恐い。雪の状態を見ながら直登する。雪面を上がって行くと、岩とハイマツのと雪がまじった部分に着く。ここからは雪崩の心配はない。尾根をまっすぐに上がって行く。天気が良ければ眺めは最高である。しかし、左側の滝谷方面は切れ落ちている。ここを落ちたら滑落ではなく転落であり、間違いなく助からないであろう。風があるときは気をつけよう。岩の部分を登って行くと、涸沢岳に到着する。 涸沢岳〜奥穂高岳 涸沢岳からは穂高岳小屋に一度下降する。ヘリポート上にでる道がとても良い。夏より速く下れた。穂高岳小屋からの登りは少し恐い。はしごと鎖が連続し、岩の上部に上がって行く。稜線の右は雪が多くついており、ここを直登するのは危険なので、雪面と稜線の間あたりの雪の部分をアイゼンを効かせながら登る。そこから上は危険な箇所は少ないが、岩と雪が混ざっているので転倒に気をつける。また、奥穂高岳付近は風が強いので凍傷が恐い。やしろに到着すると、奥穂高岳3,190mの頂である。 奥穂高岳からの下山について 一番下山時に気をつけなければいけないのは、涸沢岳〜2,400m地点の間である。昼頃になると、場合によっては雪の状態が悪くなり、雪崩、雪庇の踏み抜きの危険性が増す。また、この部分は過去に何件も事故が発生している。強風やホワイトアウトした状態では絶対に通過するべきではない。穂高岳の冬期小屋で停滞するべきである。また、残置ロープが出ている場所は、懸垂下降してもいいかもしれない。下山時は雪山の恐い部分のフルコースが詰まっている。気をつけよう。 |
写真
装備
個人装備 |
長袖シャツ
長袖インナー
ハードシェル
タイツ
ズボン
靴下
グローブ
アウター手袋
予備手袋
防寒着
ゲイター
ネックウォーマー
バラクラバ
毛帽子
着替え
靴
予備靴ひも
ザック
ザックカバー
サブザック
アイゼン
ピッケル
スコップ
昼ご飯
行動食
非常食
調理用食材
調味料
飲料
水筒(保温性)
ガスカートリッジ
コンロ
コッヘル
調理器具
ライター
地図(地形図)
コンパス
笛
計画書
ヘッドランプ
予備電池
GPS
筆記用具
ファーストエイドキット
ロールペーパー
携帯
時計
サングラス
タオル
ツェルト
カメラ
テント
テントマット
シェラフ
|
---|
感想
南米から帰国し、成田から実家に直行。1時間だけ仮眠をとり、塩見岳に向かった週末。ラッセルで敗退を喫する。南アルプスから下山した次の日、今期の最後の目標であった厳冬期奥穂高岳登頂を目指し、ヘロヘロの身体で新穂高温泉に向かう...。
2/26
天気は快晴。だが、帰国の疲れと塩見岳の疲れで家を出るのが遅れる。トレースがなければ涸沢岳西尾根の2,400mで幕営できないであろう時間に出発する。幸運なことに、3人くらいの人が先行しているようであった。林道で眠気の限界が押し寄せ、今回の山行で一番撤退するか迫られた場面であった。林道の一部が雪崩でふさがっていたことには驚いた。あんなところが雪崩るのか...。
涸沢岳西尾根の取り付きにやってくる。3人分のトレースが尾根に向かっていて感謝。スノーシューを持って来たが、斜面が急すぎて使い所がない。ただただツボ足で登っていく。標高はガンガン上がる。気温が高いせいで雪が腐っていて登りづらい。途中、痩せ尾根や雪庇、雪の下の落とし穴があって恐い。残置ロープがある地点は急すぎて、滑ったらかなりの怪我をするだろう。
1,900mくらいに幕営をした跡があった。足跡から、ここで幕営をした人は、ラッセルからか撤退したっぽい。ただただ感謝。
2,360m地点に着くと、すでに幕営の準備をしていた単独の方に会う。どうやらこのあたりの山を次から次へと登っているらしい。涸沢岳まで行かれるらしいが、まさか単独の方に会うとは思わなかったので驚く。お互い、翌日の雪の状態を心配しつつテント内で寝る。完全に無風。よく眠れた。
今日の危険箇所:残置ロープの急斜面、下が見えないほどの落とし穴、ブドウ谷側へ滑落しそうな尾根の部分
2/27
朝、5時に出る予定が、朝食をゆっくりとったせいで5時半出発になる。150m上がると針葉樹林帯を抜けた。変な鳥の鳴き声が聴こえたと思ったら、目の前の木に、雷鳥が大量に止まっていた。雪面を走り回る雷鳥もいた。これだけ雷鳥がいるとありがたみのかけらもない。
蒲田富士下の残置ロープの部分は、アックスを氷の部分に打ち込みながら登る。万が一滑ったら、白出沢まで滑落するのでとても嫌な気分になりながら登る。蒲田富士周辺は、噂に聞いていた両側雪庇は見当たらなかった。ただ、ここの雪庇を踏み抜いて滑落した事故は過去に何度もあるので気をつけて進む。ただ、先行者のトレースがあったので大変助かる。踏み跡も正確であった。
幸運なことに、F沢のコルのルンゼの雪はしまっており、雪崩の心配はなさそうだった。雪面の端っこを登る登る。雪面が終わると、今度は岩とハイマツと少しの雪の急登である。ヘタに岩があると、アイゼンワークがめんどくさい。滝谷側は完全に崖で、落ちたら数百メートルは落下するだろう。怖い怖い。涸沢岳手前で先行者の方に会う。まさかの単独行であった。この2日は、自分も含めて計3人の単独行者が入っていたことになる。恐ろしい。涸沢岳で写真を撮ってもらって別れ、一人奥穂高岳に向かう。山荘からの登りは夏と難易度はそんなに変わらないがまあ高度感があって怖い。急な岩場の先に、雪面があり、歩くと雪崩れるかもと思い、岩場を上がる。夏のコースタイムより随分短く山頂に到達。この頃から風が強くなり、体感温度もどんどん下がっていった。写真を撮るために手袋を撮ったが、途中で感覚がなくなり始め、やばかった。セルフタイマーでの撮影に手間取ったせいである。ただ、景色は絶景であった。
寒かったので、さっさと山頂を後にし、山荘まで降る。ここからまた涸沢岳に登らないと行けないかと思うと最悪な気分であった。下山はするべきではない。できればハングライダーかなんかで下山するシステムを作るべきである。苦しみながらセコセコと登り、少し降りたところで同じ場所で幕営をした方に会う。写真を撮っていただき、下山を続ける。来た尾根を降りたつもりが槍ヶ岳以来の尾根間違いをする。200mほど降った時点で違和感を覚え、場所を確認すると、間違った場所を降っていた。泣きそうになりながら再び200mほど登り返す。正しい尾根に戻って降り始めるが、雪が腐って来ており、雪崩が怖い。ナイフリッジもリッジに寄り過ぎると雪庇を踏み抜くし、斜面に寄り過ぎると雪崩れる危険性があり、程よいコース取りが求められる。残置ロープの箇所で、補助ロープで懸垂下降が必要かとも思ったが、シングルアックスで降ることができた。無事に幕営地に戻り、セコセコと尾根を下る。林道で涸沢岳手前で会った方と再び合流し、山の話をしながら林道を歩く。おかげで、長い林道が短く感じられた。
新穂高温泉にかなり時間に余裕を持って下れた。ここに戻ってくると安心感が半端ない。危ないところを登っているときは、危険な登山はこれで最後だと思うが、降ってくると次の山はどこにしようか考え始めてしまうのも不思議である。
今日の危険箇所:残置ロープの急斜面、蒲田富士からF沢までの稜線の雪庇、F沢のコル上の雪面の雪崩、滝谷側の絶壁、山荘から奥穂までの岩壁
総括
何はともあれ、12月からの目標であった、厳冬期槍ヶ岳、アコンカグア、厳冬期奥穂高岳オールソロを全て達成することができたのは喜ばしい。来期はどうしようか悩むが、これ以上のコースはロープが必要であり、ソロは厳しいかもしれない。
どなたか面白くてソロでも行けるピリピリとしたコースを知っている人がいたら一報下さい。
山最高!
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する