焼石岳
- GPS
- 32:00
- 距離
- 22.8km
- 登り
- 1,488m
- 下り
- 1,449m
コースタイム
天候 | 晴れ 朝のうち曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2018年06月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス タクシー
|
その他周辺情報 | やけいし館立ち寄り入浴500円。クアパークも、第4月曜だが営業しているとのことだった。 |
写真
感想
焼石岳は3度目の挑戦である。調べてみるとちょうど10年前なのだが、初めて登ろうとして、今回と同様に夜行バスで水沢駅に着き、路線バスの発車時間を待っていた時、突然周囲の窓ガラスがビリビリと震え、経験したことのない短周期の地震動に見舞われた。「岩手・宮城内陸地震」だ。街なかは被害が出たようには見えず、バスも普通に走ったのだが、ひめかゆから歩き出すと、至るところに地割れが走り、不気味な地鳴りとともにひっきりなしに余震が起こる。怖くなって引き返したのだが、状況が分かってみると登山どころではなかった。そんな訳ですぐに再訪という気にもなれず、随分間が開いてしまったが、年齢からもう後もなく、昨年に再度計画したものの直前に風邪をひいて断念。今年の最優先課題となっていたのだ。
(24日)夜行バスは苦手で、ずっしりと重い頭でロータリーに降り立つ。もう一人の単独の方から声を掛けられ、同じつぶ沼コースだったのでタクシーの相乗りをすることになった。運ちゃんは山は詳しくないのか、登山口を通り過ぎて湖畔まで行ってしまった。国道397号とキャンプ場への分岐の山側に取り付きがあるが、標識が地味なので気付きにくい。
キャンプ場を偵察に行く彼と別れて登り始める。久し振りの東北。すぐに大きなブナが現れしっとりした森になる。夏のセミの鳴き声が郷愁を誘う。巻き気味になだらかに登っていく道は、さしたる苦労もなく、尾根を乗っ越して沢を渡る。頭上に青空が見えるようになり気持ち良い。右に水芭蕉の咲く窪地を過ぎると、尾根の向こうに残雪を戴いた主稜線が望まれ、また眼下には石沼の水面が樹林の間に青い。気分は盛り上がるが、残念なことにヤブ蚊がうるさくまとわりつく。ここで追いついてきたパーティや、後にすれ違った慣れた風の方は蚊取り線香の缶をぶら下げていたが、正解かもしれない。
せっかくなので石沼のほとりに向かい、中沼への登山道に入る。急な階段を3分ほど下り、ほんの少し流水跡を辿ると、名前のとおり岩の積み重なった沼畔に出た。鮮やかな緑に囲まれ、水は澄んで、沼よりは「池」という呼び方がふさわしい明るい印象だ。誰もおらず、山を眺めながら静かな時を過ごす。
登山道に戻り先に進むと、また樹林の中を延々と歩いていくが、標高が全然上がらないので心配になってきた頃に、突然雪田が現れ、雪の上で中沼からのコースに合流する。(下りでは中沼方面は90度左に曲がるので見落とさないこと) ここからはパラダイス。残雪を抱いた山肌を背景に、雪融け水の流れる湿地に水芭蕉や黄色い花(リュウキンカ?)が咲き乱れ、久し振りの高山的な風景が実に嬉しい。行く手には、頂上への雪渓を登っていく人も見えてくる。飽きる間もなく、小平地に出て銀明水の湧水を見る。朝の体調ではここまで来られるかも不安だったのでほっとする。
山の気のおかげで調子もよくなったので、小屋に宿泊装備を置いて頂上へ向かう。雪田と水芭蕉畑をいくつか越えていく。小屋で「監視員」の腕章を巻いた方が「焼石では水芭蕉は雑草」と話していたが、本当にそうだ。道は灌木帯の中の、石がゴロゴロした溝状になり、陽に照らされるのと意外に長いのとで辛い所だった。左手の横岳の雄大な斜面が慰めだ。いよいよ草地が混じるようになり、盛りは過ぎているものの、チングルマやハクサンイチゲ、ハクサン?チドリなどが出迎えてくれる。前方には焼石本峰がこんもり盛り上がっているが、がっかりするほど遠く見える。(行くとそうでもないが。) 東焼石から経塚山方面の稜線のスケールも大きく、確かに「焼石連峰」と言っても大袈裟ではなく感じる。ようやく姥石平の標識に到着。花と雪と草原に囲まれた天上の楽園だ。しばらく撮影してから、頂上を目指す。一段登ると、意外に大きな泉水沼が現れ、また足止めをされてしまう。ここからは登りらしい登りになる。横岳と本峰のコルから眺める、草のみに覆われたこんもりとした横岳の姿は、イギリスの湖水地方かスコットランドの山を思わせた。か細い踏み跡が頂上に向かっており、行ってみたい気持ちにかられる。さらにその先で左下に広がる小岩沢源頭の、おそらく爆裂火口跡であろう大凹地の眺めは予想外に素晴らしかった。雄大な西焼石岳から落ちる残雪の斜面と、凹地の底の原始の趣ある池塘と草叢の光景は、日高山脈のカールと言われても疑わないだろう。(行ったことはないが。)
あまりに心奪われる景色の連続で、頂上に着いたのは午後2時に近かった。遅くなったおかげで、風の吹きすさぶ広い頂上には数人しかいない。南には栗駒山と思しき形良い山が青いシルエットになっているが、他に遠くは見えない。北側は南本内岳のずんぐりした山体の左に、これも火口跡かと思われる円形の大きな窪みと、その中に点在する池群が目を引く。花と草原のようなイメージの焼石岳だが、麓から見るたおやかな山容と全く異質な、この荒々しい火山地形もまた、もう一つの大きな魅力に思えた。
風に吹かれながらも1時間以上を過ごし、もう一度風景を心に刻みながら小屋へと下った。宿泊者は私と、タクシーに同乗したもう一人だけかと思っていたら、4時過ぎに高年者の団体が到着し、一時は大層賑やかだったが、常識的な時間には寝てくれたので、まあ仕方ない。
(25日)団体さんは早くからガタゴトしているにも関わらず中々出発しない。ラーメン掻き込みで抜き去り、先に小屋を出る。曇り空だが、空気は前日より澄んで、水沢方面の平野の建物が朝日に光っている。灌木帯の辺りからガスに突入。雲がかかっているのは山の上だけだろうが、正面からの風は強く、寒くなる。前日に登っておいてよかった。展望はないが、霧に煙る草原も別の風情がある。時々、左手に横岳の残雪がうっすらと白く透ける。姥石平から、本日は東焼石への道を辿る。周囲には咲き残っているハクサンイチゲが散りばめられているが、盛りには素晴らしいだろう。稜線に出ると、よろめくぐらいの風が吹き付ける。周回は諦めて東焼石の頂上でぐずぐずしていると、ほんの一瞬、雲が切れて北側の山肌が鮮烈に姿を見せた。気温が上がれば雲は取れるだろうが、残念ながら時間切れとなり、下り始める。
2往復目なので勝手知った道を名残り惜しく歩き、団体さんの荷物が残置された小屋に別れを告げる。中沼コースとの分岐まで、そして中沼コースに入った後も、断続的に水芭蕉畑が現れて元気づけてくれる。月曜日だが結構な人が登ってくる。登山道がえぐれて沢になってしまったような部分を過ぎると、左の樹間に上沼の水面が見える。しばらく水際を進むと沼を前景に焼石が望める所があり嬉しい。さらに沢に沿って下っていくと、行く手に緑の草原に囲まれた中沼の水面が、心誘うように光っている。近づいてみると、不思議なトクサやバイケイソウの茂る湿原が柔らかく、向こうに鮮やかな緑に抱かれた水面が広がっている。仙境ともいうような場所だ。陽射しは暑いが、腰を下ろして静けさを味わう。
沼の反対側は観光スポット。再度、水面に連山の並ぶ風景を楽しみ、最後の下りだ。カラマツが混じってきて、里の近さを感じる。広い駐車場に出て緊張からは解放されるが、ここからが核心部?の林道歩き。時々陽の当たる部分は辛いが、巨樹があったり、植林も根曲がりしていたりと、歩きならではの発見がある。6割ほど歩いたところで、青森ナンバーの方に声をかけてもらい、ありがたくひめかゆまで乗せていただいた。おかげで、やけいし館で入浴のうえ、ゆっくりとビールを飲んで、完璧な終了とすることができた。
(総括)
永年憧れていた焼石岳に、ようやく登ることができた。「素晴らしい山」の一言に尽きる。盛夏のアルプスのような森林限界上の残雪の眺め、中腹と山上それぞれの多様な花も素晴らしいが、私には荒々しい火山地形と原生的な自然の作る光景が強く印象的だった。近くはないが、一度ならず訪れたいと思っている。
また、今回は私には珍しく、人との関わりがあり、タクシーの相乗りや、林道で車に拾ってもらったこと、他にも詳らかにはできないが地元の方に便宜を図ってもらったことがあり、他人(ひと)様の情のおかげで良い結果になった。ありがたいことであり、この山行の心地よい印象となって残っている。
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する