那須 剣が峰 朝日岳
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- GPS
- 05:20
- 距離
- 5.5km
- 登り
- 559m
- 下り
- 560m
コースタイム
- 山行
- 4:15
- 休憩
- 1:06
- 合計
- 5:21
過去天気図(気象庁) | 2019年04月の天気図 |
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アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
今回の山行は例外的に穏やかでしたが、悪いときには吹き飛ばされるくらい風が強いルートです。 一応残雪期なのでアイゼンとピッケルはあったほうがいいでしょう。 駐車場からいきなり暫く雪道ですが、状態はよく、つぼ足でも行けます。 剣が峰のトラバースは多くの登山者が使っていました。ただ剣が峰の上から見ていると、融けかけた根雪の上に折からの低気圧で降り積もった相当乗っており、これらが雪崩れる危険は多少あるかなと感じました。同様のリスクは4月14日の晩から15日にかけて降ったであろう大雪で増加していると予想できます。 ちょっといやらしいのは剣が峰の雪は余り残っていないので、登り降りがそれほど楽ではないところです。一長一短があるので目の前の状況しだいということになってしまうかもしれません。 避難小屋から先はアイゼンがあったほうが無難、朝日の肩までのトラバースは、ところどころ固定ロープ(鎖)が埋もれていて手がかりがなく、半ば雪庇の状態になった上を歩く箇所もあり、神経を使います。 このトラバースコースは午前中は日蔭なので気温も低く、濡れた手袋で岩に触ったら手袋が岩に貼り付きました。 |
その他周辺情報 | 立ち寄り湯は各所にあります。今回は大丸温泉の湯をお借りしました。 |
写真
装備
備考 | ヘルメット、サングラス、雨具上下(今回防寒にも使用せず)、ゲーター、12本爪アイゼン、手袋、オーバーグローブ、水、行動食、スマホ(GPS)、ゴーグル(使用せず) 日焼け止めを忘れて鼻の頭が真っ赤になりました。サングラスは忘れないように。風の強い場合が非常に多いのでサングラスに加えてゴーグルもあるといいでしょう。 |
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感想
■冬眠から目覚める
前回のぶなの木ルンゼが体に与えたダメージは結構大きかった。
暫くは歩くこともままならず、漸く日常生活の支障が全くなくなってもジョギングをすると腕だの肩だのに痛みが走った(なんで?)。まずは治そうとじっとしているうちに、年度末で仕事が忙しくなったり、花粉症+花粉症由来の口パク呼吸が原因でのどの痛みから微熱が出たりしたりと、およそ2ヶ月間、運動ゼロの状態が続いた。
敢えて運動しないと、ドアからドアの車通勤+デスクワーク者は限りなく運動から遠ざかり、挙句、買い物で半日東京を歩き回るだけでも筋肉痛になる有り様だった。
しかし、4月に入って、朝の早さも手伝って体を動かすようになった矢先の4月11日木曜日、晴天の会社の屋上に立つと、遠く西の果てに日光連山、那須連峰の雪嶺が大きく浮かび上がっていた。前日一日降った冷たい雨、青梅では咲いたばかりの桜に雪が積もったという。山が雪化粧し直したのも、もっともなことだ。
真っ白な峰を見て、雪山で遊びたくなった。雪山登山というほどの意欲ではなかった。積雪の中に入り、雪山を間近で見られるだけでも構わないと思った。この冬は雪に触れることが全くなかった。
マイカーで那須にアプローチするのは今週土曜日13日がラストチャンス。車屋さんには4月14日にスタッドレスを交換してもらう予約を入れている。ありがたいことに、前日の4月13日は晴れの予想、冬タイヤに交換前に一仕事してもらうとともに、雪山で軽く遊んで来よう。風が強かったら駐車場の周りだけで帰ってきても良いではないか。久しぶりの那須にワクワクしながら、金曜日の晩は早寝した。
■朝のドライブ
当日は3時に起床し、荷物をあわててまとめて4時に出発した。
那須までは下道を2時間ほど走るのだが、那須によく通っていた4,5年前は、運転暦がまだ短かったので、山と同じくらいに運転に神経を使い、肩に力が入って疲れたり、途中で眠くなって仮眠を取ったりしたものだが、当時に比べると運転に余裕が出てきて、カーステレオを聴きながら移動を楽しむこともできた。栃木へ抜ける山の中はまだ薄暗かったが、所々に満開の桜の並木を見て取れた。復路は花見ドライブを楽しむことができるだろう。
道の駅ばとうを過ぎ、大田原市の国道294号線を那珂川に沿って北上した。道の両側の畑は霜が降りていて、4月中旬とはいえまだまだ寒かった。那珂川には夜明けの川霧が幻想的だった。
294号線から県道34号に折れたところで、本日遊びに良く那須連峰のモルゲンロートが目に飛び込んできた。山は登るのも楽しいが、少しはなれたところから全容を見るのもまた格別だ。思わず車を停めてしばし見とれてしまった。と同時に、このモルゲンローとを山で見られなかったのは少し残念だった。当初は前夜入りしてビバークしようかなんて思っていたくらいだったから、3時起きでもやや「朝寝坊」であった。さて、そろそろ先を急ごう。
朝の那須高原のドライブは快適だった。お店が開く時間よりはるかに早く、また高原の観光をするにはまだ時期的には早く、ゴールデンウィーク前でもあったから、観光客の出足も控えめだったということか。渋滞は全くなかった。峠の茶屋駐車場のトイレはまだ雪の中かもしれないので、念のために大丸温泉駐車場の公衆トイレで用を足した。よく手入れしてくださっていて快適だった。大丸温泉から、雪壁の間の急坂をゆっくり登りながら6時過ぎに峠の茶屋駐車場に到着した。
■期待通りの銀世界
道路と駐車場は丁寧に除雪してくださっているが、その周辺は完全な雪山状態だった。筆者は銀世界、または真っ白に霜が降りた田畑や野原を見ていると、条件反射的にチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」の冒頭が頭の中で流れるし、この曲を聴きながら走るのが冬の通勤の楽しみの一つでもある。今朝は、雪化粧した那須の山々を間近に眺めつつ楽しむことができた。
空はどこまでも青く、風は全くない。積もりたての雪は深く柔らかい。冬の那須岳としては考えられる限りで最高のコンディションだった。とりあえずつぼ足のままいけるところまで行ってみよう。
山の神様の鳥居はまだ膝の下だった。その先に誰かの防止の落し物があると思ったら、狛犬の頭であった。稜線での安全を祈願して、雪道を歩いた。4月とは思えない雪質で、歩くたびに雪がきゅっきゅと鳴いた。両側には手付かずの雪原が広がり、ところどころこの山域の強風を偲ばせる風紋が残っていた。何度も足を停めて写真を取ってしまったが、今回は登はんではなくて雪を楽しむためにやってきたのだからこれで良いだろう。
一旦登山道から雪が完全に消えた。風の通り道か。左手には茶臼岳。この裏側で高校生が雪崩に巻き込まれたのかと思い、冥福を祈った。
右手には本日登る朝日岳が迫った。東南稜、そして雪で浮かび上がったルンゼが何本も走るのを見ていると、もう興奮状態であると同時に、よくこんなところをやる人がいるものだと感心してしまうのは、自分がブナの木ルンゼ以来少し山に臆病になっているからか。雪遊びと同時に、こうした山に臆病になっている状態からの回復を目指すことも目的のひとつだ。そちらのほうはゆっくり回復すればよい。
峰の茶屋跡避難小屋の赤い屋根は完璧な青空と新雪を背景に頼もしく建っていた。これなら悪天候でも安心という気持ちになるが、避難小屋に入っているにはあまりにもったいない天気だ。足ごしらえをして直ちに剣が峰の登りに取り掛かった。
■剣が峰の緊張
剣が峰のトラバースが雪崩の通り道であることから冬季は稜線沿いに歩くのが通常のルートだが、今回は雪崩を避けるというよりも少しでも稜線沿いに歩いて、快晴の風景を堪能したかったのだ。実際剣が峰の冬道の雪は半分ほど融けており、夏山ほどではないが、足許がぐずぐずになりつつあった。このルートは足許が氷のコンクリートで固められている冬季が良いのだろう。といいつつ実は積雪期に剣が峰を通過するのは今回が初めてで、グズグズの岩くずをトラバース者にに降らせないか緊張しながら夏に通過したことばかりなのだが。
剣が峰山頂稜線はまだ雪が残っており、おなじみの小さなお地蔵様も半ば雪に埋もれていた。
山頂で暫く景色を堪能した。新雪をいただいた茶臼岳、恐ろしくも美しい東南稜、しかもそこには一人クライマーが取り付いているのが見えた。かなりいいペース。自分より先に登頂することはほぼ間違えないだろう。
登りは良かったが降りは大変。雪渓を降りるか、恵比寿大黒を北側にまいてガレを降りるか迷った。ガレは斜度が小さめで、その先に明るく日が射している。日が射しているというところはそこがコルになっているから、きつい登り返しはないはずということで少し降りてみたが、このエリア独特のガレ具合が半端でなかった。またハンドホールドの取り場所が難しく、滑落を予感させた。いわゆる死ぬパターンだなと予感し、引き返して雪渓をクライムダウンした。斜度は結構あるが、雪質が良好で凍結しているわけでもなく、かといってさらさらでもなく、足を突っ込むといい感じで安定した。手についても同じことがいえて、ホールドはないが、手を突っ込んでいる限り体は安定して四つんばいの姿勢を維持できた。暫く雪渓を降りてから、夏道の脇のがれ地を少しだけ降りて一般ルートへ立った。降りたところは完全な無雪状態だった。
■やはり那須は寒冷地だった
雪の全くない一般ルートに立ってから、アイゼンを脱ぐべきかどうかは少々悩んだ。道が傷むからだ。しかしここはざれ気味とはいっても岩主体の場所だし、山頂に近づくにつれて雪が出てくるような気配だったので、アイゼンはつけたままいくことにした。今回はそれで正解で、岩稜を西から巻くようにしてついている朝日の肩への道はところどころ吹き溜まりになっていた。つぼ足でも足許はしっかりかむかもしれないが、アイゼンを付けていれば安定感が増す。ただし若干の岩の露出箇所もあり、そこではむしろアイゼンは摩擦を下げる方向に効く。今回のルートは、そういった岩の露出箇所は手がかりの鎖が設置されているし、逆に鎖が見えないほど雪が積もっている怖い箇所はアイゼンに助けられた。
その鎖には「エビの尻尾」がびっしり生えていて、吹雪があったことがはっきりと伺えた。興味深いのはその尻尾の向きだ。尻尾は奥只見側に伸びていたのだ。風が関東平野から奥只見側に吹いていたことを意味し、エビの尻尾が生えるほどの寒さでも、風は春だということなのだ(註:登山中にはそう思って春を感じていたのだが、実際にはこの認識は自分の誤りだった。エビの尻尾は霧氷の一種で、氷点下以下で風が岩などに吹き付けたとき、風の中に含まれる水分がその岩の表面で結氷することで成長し、従って、エビの尻尾は「風上に」向かって成長する。つまり尻尾が奥只見側を向いているということは、冬の冷たい季節風が吹いたということ。寒さ続きの4月の陽気をそのまま反映していたということだった。)
エビの尻尾が生えるほどの寒さは別のことからも伺えた。雪の中を手を付いて歩いた手袋が、露岩をつかむと、手袋表面の水分が凍りついて張り付くのだ。冷凍冷蔵庫から製氷皿を取り出したとき、手のひらに張り付くようなあのバリバリとした感触だ。日も高くなっているが、日陰のトラバースルートでは、まだ手袋が一瞬で凍って貼りつくほどの冷たさだった。
そういった少々神経を使うトラバースを過ぎると、ガレながらも足場のある斜面を登って、朝日の肩までたどり着いた。もう一歩だ。
熊見曽根、清水台方面、流石山から三倉山方面など、雪の稜線が美しい。行ってみたくもあるが、今日は朝日だけまでで我慢だ。朝日の肩から山頂へひと登り。ハイマツなどの潅木にびっしりと雪や霧氷が貼り付いており、快晴の空のもと輝いていた。足許は岩も結構露出しており、約1年と4ヶ月ぶりのアイゼンに多少手こずりつつ山頂に到着した。山頂の標識にもエビの尻尾がびっしりと生えていることを確認したとき、ちっちゃな鳥居の前でヘルメットをサングラスを取って、無事の登頂を感謝して手を合わせた。
朝日岳から臨む東南稜は実に厳しい表情をしていた。のこぎり歯のような岩稜が霧氷をまとってモノクロの複雑なコントラストを見せていた。そこだけ見ていれば奥穂ー西穂辺りの岩稜かと勘違いしそうだ
ひとつ気がかりなことがあった。先ほど述べたように、剣が峰で東南稜を攀じている登山者を目撃したが、朝日の肩から山頂までの間、すれ違った方は1名、しかし東南稜は登ってないという。初級とはいえ岩稜バリエーションルート。気にかかっていた。
幸いにも筆者が登頂して程なく、先ほど剣が峰から目撃した東南稜の登はん者が、最後のフェースを攀じて山頂に現れた。フェースでノーアイゼンでよじるのに適切なルートを見つけるためにてこずっていたとのことだった。暫くコース状況やお天気のことなど雑談した。
あいさつはもちろん「コンディションが最高ですね」だった。風はなく、雲はなく、降ったばかりの雪のおかげで山は雪化粧しなおしている。清水台、三本槍、赤崩山方面、流石山、三倉山方面、奥只見方面、自分のコンデジではたいした写真は撮れないとわかっていても、何度も写真を摂ってから、下山を開始した。
■雪山登山をもう少し楽しむ
朝日の肩からは再びいやらしいトラバースをたどる。特に吹き溜まりを2mほど登るところは、登山者にとってはくだりであり、非常に歩きづらそうだった。下山の際に登山者を通過待ちしながらそのルートの全体を見ていると、自分を含めた登山者が歩いているルートが半分雪庇の上になっていて肝を冷やした。
何とか恵比寿大黒まで戻り、剣が峰の復路である。真っ青な空に向かって伸びる雪の斜面をアイゼンを利かせて登っていくのは快適だった。もう少し雪が融けてくると、斜度のせいで足元の踏ん張りが利かず、一歩踏み出してはずり落ちての繰り返しになるので気温の低さに救われた。
気持ちよく雪の斜面を登り詰めると、再度雪に覆われた剣が峰の頂上稜線にたどり着いた。高いところから景色を臨むのは今日はここが最後になる。朝日岳、熊見曽根、流石山、三倉山、奥只見、そして言わずもがなの盟主茶臼岳をぼんやりと眺めて、最高のコンディションの雪山の姿を楽しんだ。
そして最後の危険箇所、避難小屋への下りだ。危険か初夏と思っていたが、残雪の効果は思った以上であり、ガレの落石を気にすることなく、あっさりと避難小屋にたどり着いてしまった。ここまで来れば、あとはぶらぶら歩くだけだ。
■ただ下山するには惜しい
しかし、空は青く風もなく、山は雪化粧。朝日岳東南稜を脇に正面のルンゼが見えるところで道端に腰を下ろし、行動食とコーヒーをいただきながら再度雪山鑑賞を楽しまずにいられなかった。雪のおかげで幾つもの谷筋が刻まれており、その一つ一つをたどってみたらどれだけ興奮するだろうと妄想した。無論そうした筋は同時に雪崩のルートでもあるから実行に移すことはないのだが。
先ほど自分がたどってきた剣が峰も山腹にどっさりと雪をたたえていて美しい。
そして怖いほどの青空をバックにした赤い避難小屋の屋根、茶臼岳へ向かう稜線の純白、祖そして避難小屋へ向かう最後の雪のトラバースを移動していく登山者の黒い点、どれも鮮やかで出発するのが惜しい。高いところから見下ろす景色もいいが、程よく低い場所から見上げる景色も面白い。今日のように雲ひとつない青空ならなおのことだ。20分ほど景色を堪能してから、再度下山を開始した。
ガレ地の登山道を高度を下げるとやがてモフモフの雪原に突入した。左前方には名前と裏腹の鬼面山の優美な稜線が登山意欲を誘う。駐車場からいきなり鬼面山に登ってそのまま朝日だけへ一気に進むというルートを取る人はいないのだろうかなどと妄想するうち、右前方に駐車場が見えてきた。そして頭だけの狛犬と鳥居に無事を感謝して登山を終えた。お昼少し前だ。
駐車場周りの雪原では親子連れが雪山ハイクを楽しんでいた。峠の茶屋は営業を開始し始めたようだ。
駐車場に着いた。ゲーターをはずして乾かしたり、靴を履き替えたり身支度を整えながら、出発前と同様に、雪山を見ながらチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」をカーステレオで楽しんだ。これだけでも今日那須に来た甲斐があったと思うほど、景色と音楽がぴったりと合っていた。
■エピローグ
大丸温泉でお湯を使って帰宅途中、再度大田原あたりの路肩で雪をまとった那須の山々を目に焼き付けた。
久しぶりに訪れた道の駅「ばとう」ではジャム用にイチゴ、そしてセリとルッコラを一把ずつ購入した。ルッコラの、ゴマのような風味から辛味に口の中で味が変化していく様子は面白い。そのルッコラは味を楽しむだけでなく、しおれないように水にいけていたら花まで咲かせてくれた。
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