南アルプス 間ノ岳弘法小屋尾根〜農鳥岳
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- GPS
- 56:00
- 距離
- 29.0km
- 登り
- 3,134m
- 下り
- 3,134m
コースタイム
- 山行
- 9:54
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 9:54
- 山行
- 13:03
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 13:03
天候 | 16日:雪 17日:晴れ後曇り 18日:晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2020年03月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
危険個所: ・荒川の堤防越え ・2821m〜2935m間のナイフリッジ ルート状況: ・奈良田第一発電所→弘法小屋尾根取り付き[223分] 偵察済みで楽勝…と言いたいところだが、重荷を背負うと荒川沿いの堤防のトラバースがかなり緊張した。ちなみに堤防手前の渡渉から、自分はアイゼンを履いて通過した。 ・取り付き→八丁峰→2470m[510分] 雪が舞う中をひたすら登った。尾根に乗り上げるまでは鉄パイプの手すりが整備されている。藪はわずかで危険個所は特になし。テープ類も豊富でルートは間違えにくいと思う。2100mを越えたあたりからラッセルになった。八丁峰を少し進んで、2470m付近の平坦地に幕営した。この八丁峰〜2470m辺りは幕営適地が豊富だ。 ・2470m→間ノ岳[440分] 暗いうちに歩き出して、ラッセルしていく。2700mあたりで一度雪がクラストし、このまま山頂まで行けるかもと思ったが、すぐにラッセルに戻った。そんなに甘くはない。美しい雪稜をラッセルしていくと2821m標高点の先で鋭いナイフリッジにぶつかる。懸垂下降するパーティーも多いようだが、尾根上を懸垂下降するのはどうにもバランスが悪そうで、ロープなしで通過した。雪が柔らかいので、慎重に踏み固めながらの歩行となった。これを越えても容赦のないラッセルに苦しめられた。最後の雪壁は上部の岩を右にかわして、岩と雪の境目辺りをラッセルした。結局稜線直下まで腰〜胸くらいのラッセルが延々と続き、ボロボロになって間ノ岳山頂に到着した。 ・間ノ岳→農鳥小屋[90分] 風が強かった。雪煙が舞う中を農鳥岳を目指して幅の広い尾根を下降していく。ガスで視界を奪われると、ルートが難しくなりそうだ。 ・農鳥小屋→大門沢下降点[238分] 農鳥小屋で一休みしようと思っていたが、完全に雪に埋もれていた。風下側に少し降りて、行動食を口に押し込む。かなりの強風なので、覚悟を決めて農鳥岳の登りにかかる。西農鳥の手前が風が一番強く、5歩進む→耐風姿勢5秒→5歩進む…みたいな感じでジワジワ歩いていく。以降は耐風姿勢を取るほどでは無かったが、強風は吹き続け恐怖の農鳥越えとなった。本能的に足を止めたら命が危ないと感じた。やはり冬山に体力トレーニングは必須だ。 大門沢下降点手前は登山道が稜線の東側に入り、窪地も見られる。風を防ぐには良い地形に見えたのでテントを張ろうと思っていたが、意外にも風が良く抜けるようだ。歩く時も強風だったし、雪が吹き飛んで岩が露出していた。大門沢下降点の近くにテントを張ったが、テントの中にザックを入れておいても、強風でザックごとテントが転がっていくので大変だった。大きな岩をシャベルで雪に埋めて、そこに張り縄をピンピンに張ってテントの4隅を固定した。シャベルやワカンでさえ外に置いておくと飛ばされそうなので、前室に避難させた。 (大門沢から少しでも下って風を凌ぐことも考えたが、日没が近いうえ、雪崩が怖いので止めた。) ・大門沢下降点→大門沢小屋[217分] 翌朝。相変わらずの強風の上、ガスで視界が無い。テントシューズでトイレに出ると体ごと吹き飛ばされそうになって血の気が引いた。風でテントの壁が大きく動くので、朝飯を作ることは諦めた。7時ころまで待つとガスが晴れたので、行動食かじって、意を決してテントを撤収した。風で物を飛ばさないように細心の注意を払っての撤収だ。テントのポールは歪んでいた。 とにかく強風の稜線から脱出することが最優先と考え、大門沢から下降する。雪崩が怖いので、まだ尾根っぽいところを狙って、さっさと降りていく。時折夏道のテープに導かれつつ、大門沢沿いまで約2時間で降りた。沢地形を渡って、樹林帯に逃げ込んで一応の安全地帯。大休止を取った。あとはうっすら残るトレースに導かれて大門沢小屋に着いた。 ・大門沢小屋→奈良田第一発電所[230分] ひたすら登山道を辿る。途中腹が痛くなって焦るが、しばらくして空腹が原因だと気付く(笑)。朝食も食べていないことだしと、1400m辺りで余った食料を調理して食べたが、幸せな時間だった。あとはノロノロと降りて、駐車場に着いた。 |
その他周辺情報 | 奈良田の里温泉は水曜定休で利用できず(残念) |
写真
装備
備考 | 50mロープやスリング類は携行したが使用せず |
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感想
間ノ岳〜農鳥と完登した成果を喜ぶよりも、その山行の危険さを反省すべき山行になったと思う。反省点をまとめておく。
【強風の中、農鳥岳を通過したこと】
もう少し気温が低かったら、風が強かったら、時間が遅くなっていたら、体力を削られていたら、…と考えていくと、農鳥岳を無事に越えられていた保証は無い。おそらく岩陰でビバークをするのだろうが、翌朝になっても強風は続いており厳しいビバークになっていたはずだ。厳冬期であれば命を脅かされていたかもしれない。
間ノ岳の山頂でもう少し悩むべきだったと思う。想像を超えるラッセルで、時間が押していたのに、天気が良いからと農鳥方面へ下ってしまった。事前に間ノ岳山頂が○○時以降だったら弘法小屋尾根を引き返すという想定をしておくべきだったし、天候判断も甘かった。農鳥小屋が埋まっていたことも想定外だった。(シャベルは持っていたが、入り口が建物のどちら側か知らなかったので掘り起こしようがなかった。)
一方で、農鳥小屋まで下ってしまった後になっては、やや無理をしても農鳥岳を越えるという判断は正解だったと思う。一番天気が良いのは17日だと考えていたし、もたもたしていると気温が下がってより厳しい状況になる可能性があった。食料は豊富に持っていたが、農鳥小屋が使えない以上、間ノ岳と農鳥小屋の間でテントを張って風が収まるのを待つのは良い策ではなかったと思う。まだ気温が高いうちに大門沢まで抜けて、樹林帯への退路を確保しておくというのは、自然な発想だと思う。
【大門沢を下降したこと】
これも間ノ岳山頂での判断が尾を引いているのだが、厳密に「大門沢を下降するしかない」状況に追い込まれていたか?と考えると疑わしい。当初は広河内岳を越えて藪尾根を下降する予定で、この尾根も2357m標高点までは偵察済み。強風の中広河内岳を越えるか、雪崩の危険を負って大門沢を下るかの選択だった。一晩中テントの中で強風にさらされたことで、やや安易に稜線から逃げることが先決だと判断したような気もする。と言っても、下降に使う藪尾根も容易ではなく、下山に2日かかる可能性が高いので、今でも7割くらいは大門沢が正解だった気はしている。雪崩のリスクをもう少し具体的に見積もることができるようになりたい。
まだまだ掘り下げが必要ですが、また後日考えます。
山行から日が経たないと見えてこないこともあるので…
反省点を書き殴ってしまったが、苦しい状況に追い込まれて得るものも多い。いつも絶対安全、笑顔で楽しく帰ってくる登山ばかりでは山ヤとしての成長は望めない。上記の反省に矛盾するようだが、ザイルと6日分の食料を背負ってラッセルに苦しみ、強風にあおられ、雪崩に怯えた下山は、自分にとって血となり肉となる経験だったと思う。
この反省を糧に、一回り成長して来年の雪山に臨みたい。
また、いかに風対策を施しても稜線でテント泊を繰り返すのは困難だと感じた。今回はテント4隅の張り縄に大きな石を括り付けて、シャベルで穴を掘って埋めて、とにかく張り縄にテンションをかけて…と一応の風対策は講じたが、ポールが歪んでしまった。冬型の気圧配置ともなれば、今回よりも遥かに強い風が吹くだろう。南アルプスで有用なのかは分からないが、雪洞を掘る練習もしておきたい。
レコ読み応えありました。
私は北岳登って家族に積雪期3000m峰、ソロでは行かないと約束したので手の届かない世界になってしまいました。
昨年9月にここ冬はどんなだろうと想像して歩きましたが凄いトレイルですね。
ここ狙うなら北岳入山者少ない2月に歩いて、谷川東尾根でリッジ経験して…自分ならどんなステップ踏んでアタックするかと考えるのも愉しいです。
へなちょこハイカーの私が目にかかれない雪山の風景、ありがとうございます。
リッジ越しの白銀の間ノ岳、本当に格好いいですね、無雪期でも鳥肌たったくらいです。
tomhigさん
弘法小屋から見上げる間ノ岳は屏風のようなデカさを感じました。
スリムな北岳のシルエットといかにも対照的で、面白い山域だと思います。
しかし、池山吊尾根〜北岳の稜線も右手に見えていましたが、本当に美しいですね!
tomhigさんの冬季北岳の記録も拝見しましたが、見事な写真が目を惹きます。
自分もいつか挑戦してみたくなりました。
初歩的なミスばかりで恥ずかしい山行記録ではありますが、少しでも楽しんでいただけて何よりです(^^)
事故に気を付けて成長していきたいものです…。
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