北ノ又川/滝ハナ沢「日帰り」(2007.10)
- GPS
- 12:20
- 距離
- 14.2km
- 登り
- 1,195m
- 下り
- 916m
コースタイム
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2007年10月の天気図 |
アクセス |
写真
感想
午前3時半、大湯から夜道を走って枝折峠に着いた。
この連休に駒ヶ岳に登る登山者の車で駐車場はほぼ満杯だ。車からロードレーサーを降ろし、ガードレールに縛り付ける。下山後、銀山平までこれで走るつもりだ。道ばたに張られたテントからは気持ちよさそうな?イビキが聞こえている。すでに起き出しているパーティーもいるようだ。再び車に乗り、銀山平へと峠道を下った。
銀山平森林公園駐車場で夜明けを待ち、薄明るくなると同時に出発する。正面に中ノ岳が見える舗装道路をひとり歩いてゆく。「熊出没注意!」の看板。そう言われると如何にもそんな気配だが、時折奇声でも上げるくらいしか仕様がない。
坪倉沢を少し下って北ノ又川本流に降り立つ。北ノ又川は1981年に登ったことがある。沢登りをはじめたばかりの頃で、当時の我々(先輩と)には十分過ぎるほどに手応えのある沢だった。確かこの辺で泊まったなあ、と昔の記憶を辿りながら、広々とした川原を歩いてゆく。時折現れる淵を巨大なイワナがスーッと走る姿が見える。今、北ノ又川は禁漁となっている。箱淵の前では多くのイワナがまるで棒きれのようにじっと動かずに佇んでいた。
箱淵の巻道は明瞭だったと記憶していたが、確かこの辺と思った場所にそれは無くて、少々アセる。強引に尾根を乗り越すと、踏み跡があり安堵した。その先のゴルジュは水線通しに通過する。ああ思い出した、ここ通ったと、昔の記憶がよみがえる。
7時20分滝ハナ沢出合。順調だ。
白山書房「関東周辺の沢」で左岸を巻いて10mの懸垂下降となっている連瀑は、右岸を小さく巻いて通過する。その先、沢は明るく開けた小粒な感じのゴルジュとなり、右に左にとボルダーチックな動きで通過していく。楽しいところだ。
8時50分広河原。割と最近のビバーク跡があった。増水には耐えられないところだ。
抜けるような秋空の下、広々とした河原を歩いてゆく。沢が左に屈曲し、すぐにまた右に折り返すと忽然とスノーブリッジが現れた。アーチを支えている天辺は薄く細くなっており、今にも崩れ落ちそうだ。素早く下を通過したいところだが、それはちょっと危険な賭だ。仕方なく左岸のボロ壁を登って高巻く。その先のゴルジュは少し荒れた感じ、最近まで雪渓に閉ざされていたのだろう。少し行くと前方に40mスラブ滝が見えてきた。両岸は共にスラブ壁となり、越後の沢特有の壮大な景観である。40mスラブ滝は左岸を登って越えていける。
その先左岸からの枝沢を過ぎると、前方に巨大な雪渓が見てくる。頭上遙か高く谷を埋め尽くした雪渓が、真っ黒な口を開いている。ひとりで対峙するには迫力がありすぎる光景だ。
--「関東周辺の沢」によれば、この雪渓は上を行き、正面のリッジを登って懸垂下降とある。
--他の記録では、この辺から左岸を延々高巻いているものもある。
雪渓には左の岩のスロープからすんなり乗り上がることができた。もしこの先で行き詰まっても問題なく戻ってこられるだろう。右岸寄りを200m程歩くと、末端に近づいたが、右岸のスラブに取り付く部分が全てシュルントとなっていて乗り移れない。雪渓内部の谷底からは、崩壊音が聞こえている。
ルートとなるリッジへ乗り移る部分も、微妙な感じのシュルントとなっていた。助走をつけて飛べば多分大丈夫そうな僅かな距離なのだが、万が一失敗すると真っ暗なシュルントの底に吸い込まれてしまう。恐らく谷底まで40m。考えた末、ここは雪渓に埋木して懸垂することにした。僅か3m程の懸垂だが、初めての経験だ。
リッジの一段上がったところでひと息つく。すぐ横には垂直に近い40m滝が雪渓底の暗闇に水を落としている。リッジを登るのは、この滝の上流に降り立つためだ。
リッジを少し登り40m滝の上流側を見下ろす。懸垂用の残置のスリングがあった。「関東周辺の沢」によれば、懸垂30mで雪渓に降り立つとある。しかし雪渓は既に後退していて、谷底まで降りなくてはならない。50mロープを2本繋がないと不安な距離だ。持参していたのは40mロープ1本...
上流側に目をやれば、滝ハナ沢は再び巨大な雪渓に埋め尽くされていよいよ壮絶な様相となっている。
もう少しこのリッジを登っていくと、草付斜面に点々と生えた灌木を繋いで懸垂で降りられそうだった。藪を漕いで小さなピークまで登ると、そこにも残置のスリングがあった。間違えがないように、短い間隔でピッチを切って、3回の懸垂で広いテラスに降り立った。
11時20分、ロープをたたんで、谷底まで降りようと下りはじめ...
上から見ていた感じでは問題なく歩いて降りられると思った斜面が、実は垂直に近い傾斜で、クライムダウンもできそうになかった。これは計算違いだ。
このテラスは広く安定しているが、懸垂の支点となる灌木は生えていない。
今降りてきた斜面を見上げ、どこか降り口はないかと広いテラスを探し回るが、何処もロープ無しでは降りられそうにない。
選択肢はひとつだ。ハーケンを打って懸垂することにする。なかなかハーケンの決まらない岩に何度も落胆しながら、最後にかろうじて1本だけハーケンが決まった。スリングの手持ちが少なくなってきたので、半分に切断してハーケンに通した。きっちり20mで沢床に降り立った。
雪渓末端の開口部の下を小走りに抜け、対岸の緩い壁に取り付いた。少し登った日当たりの良い斜面で、今辿ってきたラインを振り返る。まるで奈落の底からはい上がってきたみたいだ。
そこから二俣までは、斜面を容易にトラバースして行くことができた。
60m滝が真っ暗なシュルントに吸い込まれていくのを見ながら、二俣でひと息つく。行く手には登れそうもない10m滝。これは高巻だ。
左岸を高巻いていくと、前方にまた凄い光景が!7段200m滝。天空から雨樋を伝って水が落ちてきているようだ。うわーっと、思わず声を上げてしまった。滝ハナ沢は中盤から後半にかけて、畳みかけるように凄まじい光景を展開してゆく。
私が見た滝ハナ沢の記録では、皆この滝は高巻きしているようだった。しかし間近で観察した感じでは、左岸側が登れるように見える。自分の目に見えたラインを登ってみることにする。中途半端な傾斜の草付きを歩いて降りていると、小さな灌木に残置のスリングがあった。「そうか!懸垂かあ。そんなこと思いもしなかった」と独り言をつぶやきながら、ロープを出し沢床に降り立った。
200m滝は右側の岩と草付きの混じった部分を登ってゆく。思った通り、弱点を縫ってゆけばそれほど難しくない。ただ、なかなかの高度感だ。
上部でルンゼ状に狭まってきたら、適当に藪に入ったりしながら抜けていくことができた。最後に黒々とした幅広な滝が現れ、これを越えると漸く源頭の気配となった。
2時30分、頭上に駒ノ小屋と道を歩く登山者が見えた。安全地帯だ。
ザックを下ろし、お湯を沸かして遅い昼食にする。滝ハナ沢源頭の水を汲んで、コーヒーを入れ、カップ麺、おにぎり、ゆでたまご、最後に緑茶。いつもの山での昼食だ。今日は余裕が無くて、沢の中ではとてもそれどころではなかった。足下の滝ハナ沢の小さな流れとその先の荒沢岳の山容を眺めていると開放感と充足感に包まれてゆくのだった。
秋の短い陽が大分傾いた頃、登山道に出た。辺りには既に登山者の姿もなく、山がしんと静まりかえっていた。できれば日没までに枝折峠に着きたいものだと、小走りに登山道を下っていった。
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