Mont Blanc
- GPS
- 21:19
- 距離
- 35.9km
- 登り
- 4,396m
- 下り
- 4,370m
コースタイム
天候 | 2日間, 快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2023年05月の天気図 |
アクセス |
写真
感想
■5/2(火)
3時半起床。4時半にAlpen Roseを出た。5日間もお世話になった。あまり早く小屋に着いても暇なので今日は遅めに出た。慣れた夏道を登って1,800mで雪が出てきたら板を履く。2,000mを過ぎると新雪がパラっと乗っている。更に高度を上げるとパラッとどころではなく30cm積もっていた。この間までずっと雨だったのに、ひとたび寒気が入ると5月でもこんなにドッサリ降る。センター95mmの板ではかなり埋まるが頑張るしかない。氷河はところどころ表層が流されてカッチカチ。絶対に滑落できないので要所要所で板担いで爪で。昨日までのトレースは全て新雪で埋まっていた。真っ白な雪原は美しい。小屋番に聞くと今日から3日間は天気が安定しているので小屋の予約は満員御礼80名らしい(実際はキャンセル等で60人まで減った)。後続がたくさん来るので恥ずかしいトレースは引けない。地形をよく見て最適なトレースを引く。高度を上げ過ぎると氷河にぶつかって帰りに登り返しになってしまうので、日本でやっているのと同じように低く低く、板が滑る最小の斜度で上手くやる。立山室堂周辺の歩き方と似ている。小屋の直下は積雪50cm以上あって脚にくる。脚ならいくら消耗しても問題無い。Mont Blancは距離と標高差は今までやってきた完全燃焼系山スキーに比べたら大したことはない。途中で一泊するし。問題は空気が薄くて心拍数が上がることと、滑落やクレバスへの落下に気をつけて集中するので疲れること。ちゃんと糖と水分を摂ってオーバーペースにならないようにコントロールすればフィジカル的な心配は無い。
小屋には一番乗りで着いた。頼まれていた新聞を渡して今日も美味しいコーヒーをいただいた。チェックイン(1泊2食70CHF, 11,000円くらい)をしたらベッドの付近に使わない装備を置いた。夕食まで時間があるので気温が低くて雪が下駄にならないうちに明日のトレースを作りに行こう。明日の夜中からルーファイで消耗しないように。前回と同じように西寄りの尾根まで400m高度を上げる。明るいのでルーファイは楽勝。3,500mで斜度が上がる。昨晩降ったばかりの雪なので結合が怪しくて雪崩そうだ。今日はこれ以上行けない。明日は沈み込んで定着するので大丈夫だろう。シールを剥がしてトレースの上を滑って固めて小屋まで5分で戻ってきた。後続も続々小屋に入ってきた。前回、前々回見た光景とは嘘のように賑わっていた。汗を拭いて一休みしたら夕食。胃腸系のトラブルは勘弁なので水をよく飲んで食べ物は100回噛む。腹八分目でやめておいて19時には寝た。みんなも20時には布団に入って消灯。アルコールを飲んで騒ぐ人は誰もいなかった。イビキのうるさい人はいなくて良く眠れた。こんなアプローチの悪い小屋なので、ある程度Fitnessの高い人しか辿り着けない。ちゃんと運動している人はイビキをかかない。
■5/3(水)
2時に一斉にアラームが鳴る。チェックイン時に翌日の起床時間を申告するので同じ時間に起きる者が同じ部屋に割り振られる。小屋番はもっと早起きしてみんなの朝食の準備をしていた。甘い紅茶とパンを一口かじって残りは行動食にした。ゆっくり支度をして3時に小屋を出た。私より早く起きていた人が数名いたのに、なぜか私が一番先に出た。暗い時間に岩壁を下りるのは結構怖い。こんなところで滑落したら笑えない。今日は満月に近くて月は煌々に明るい。雲ひとつない夜空だ。稜線に雪煙は見えない。条件は素晴らしく良い。今日まで待ってよかった。行くぞ。
自分で作ったトレースを辿って高度を上げる。少し遅れて後続もやってくる。頼もしい。トレースから先の雪は深いのでラッセルになる。これだけ人数が居れば先頭を交代しながらの高速トレインだろうと思っていた。3,600mで追いつかれて先頭を譲った。しかしルート取りが怪しい。尾根の一番上をまっすぐ登ろうとする。シールが効かないからクトーでトラクションを稼いで無理やり登ろうとして、やたらと切り返す。3,700mで雪は飛ばされて青氷が出てきた。尾根は東からの日差しでカチカチになっている。北西の窪んでいるところは明らかに斜度が緩くて白く、日陰の時間が長いし雪も柔らかそうだ。地形図を見ればわかる。彼らは氷にスクリューを入れて互いに確保して両手のアックスで突破しようとしていた。これには着いていけない。勝手にルートを外したら注意されるかと思ったので一応聞いてみたところ「ご自由にどうぞ」ということだった。どうせパートナーは居ないから凍った急斜面の直登はできん。ここからは自分が最適と思うルートで行こう。思った通り北西斜面は柔らかい雪がたっぷり溜まっていてクトーも爪も使わずシールのままVallot小屋まで行けた。おかげで今日も全部ラッセルだった。どうせはじめから自分一人でもやるつもりだったので計画通りといえばそう。あの氷を登りたくない人は私のトレースを着いてきたようだった。下山中に会った何名かにお礼を言われた。頑張った甲斐があった。
Vallot小屋で一休みしていると氷を登ってきた人たちが追いついてきた。ピークまであと600m. すぐ近くだがここは標高4,200m. 楽では無い。しかし帰りに登り返しもラッセルも無い。ここで出し切らずにどこで頑張る。板をデポして爪を履いた。パンと水を口に入れて士気を上げる。ここから先は見えないクレバスや前爪しか刺さらない硬い氷が出てきて油断できない。太陽の方角、風の向き、雪の色、氷の状態、五感で得られる情報と今までの経験を全て動員して絶対に落ちないルートを取っていく。パートナーがいないのでミスは許されないし、後続に助けてもらうなんてあってはならない。心臓はバックバクだがThorong la PassやKilimanjaroの時ほど苦しくない。日頃、来たるべき日に備えて体を鍛えているが、今日が正にその"来たるべき日"だと思った。小屋番も後続もVallot小屋に板をデポすることを推奨していたが、山頂から小屋までスキーで滑ることができそうだった。もっと厳しい斜面を滑ったことが何度もある。「白山山頂から大汝方面へ行く時に通る北側のあそこ」や「春の早月尾根」の方が恐ろしかった。頂上からの滑降は快適で楽しそうだったので板を担いでいけばよかったと後悔している。風速次第だが次にこのルートを登るときは山頂まで板を担いでいきたい。
意外とあっけなく山頂に到着した。真夏も雪が溶けないので標識はない。360度、山、山、山。まわりの山のことをよく知らないから感動が薄い。記念撮影でもしたかったがカメラを置く場所は無いし、後続が追いつくまで時間がかかるので無し。また来ることもあるでしょう。 早く下りたほうが雪が軽くて滑りが楽しそうなので走って下りる。ピークを目指して登ってきたのは10人ほど。大勢はVallot小屋か、それよりも手前で引き返したようだ。Vallot小屋で板を履いたらお楽しみの時間。豪快な氷河スキー。しかも新雪50cm. 楽しくないはずがない。Tamalunch会長。やや重たいのが残念だが贅沢は言うまい。あんなに大変だった小屋から4,200mまでの間が一瞬だった。スキーの力は偉大だ。標高差で耳の中がプクッとした。小屋番の兄さんに感謝の気持ちを伝えたら、もう何度も歩いた氷河トラバースを経てChamonixの街まで一気に落ちてゆく。今日は私以外にも夏道を歩いて下りる人が結構いた(ゴンドラを使えば歩かずに済むので大多数はゴンドラを使う). 下の方はまあまあヤブいが今週何度も滑っているので問題なし。1,800mまで下りてきたらスキー道具を履き替えて運動靴でハイキング下山。今日の下界は暑くてChamonixは24度もあった。下山は15時。明日も一日フリーなので山に行けないこともないが、今から装備を乾かして明日の準備をするのは大変なので明日は一日休むことにした。バスと電車を駆使して今日中にZurichまで移動した。フランス, スイスの公共交通機関も慣れた。
■5/4(木) - 5/5(金)
Zurichの街を観光したり裏山を走ったり。長い休みで山一つしか登れなかったが、なんだかんだ毎日運動して現地の美味しいものを食べてのんびりしていたので良い休暇だった。天気ばかりはどうにもならない。こういう連休もアリでしょう。5/5(金)は14時発のフライト。香港経由で5/6(土)の14時に日本に戻ってきた。Haute Routeに行けなかったのは残念だったが来年の楽しみにとっておこう。他の4,000m峰, Weisshorn(の手前のBishorn)やMonterosa, Grand Combinも登りたい。夏に登ると下界はアチアチ、上は雪なので装備が重いし下山は歩きだ。春なら下界の暑さはマシだし帰りはスキーが楽しめるので4,000mの山はGWに登りたい。夏はトレイルを走り回った方が楽しい。GWのスイスでたくさんやりたいことが出来た。今から来年のチケットを取ってもいいくらいだ。Mont Blancにもう一度登るのも良い。氷河山スキーの要領を覚えたので次は0時にChamonixを出て日帰りに挑戦したい。
今回は運良く氷を迂回するルートを取れたが先述の山はまだ調べていないのでどうなのかわからない。セルフビレイでアイスを登る装備や技術があったほうが良いことは間違い無いが、そこまでして登りたいかと言うとどうかな。「危ないことはしない」がポリシーだから。ルートは原則ピストンで。自分の技術で対処できない地形が出てきたら潔く諦めて引き返してもいい。山を近くで見学したら雪が乾いているうちに楽しくスキーで下りてくる。これが長生きする楽しみ方かもしれない。上まで行ったからってお金もらえるわけじゃないし。
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する
いいねした人