ブナ沢から御前山を経て栃寄沢へ
- GPS
- 07:07
- 距離
- 10.4km
- 登り
- 1,046m
- 下り
- 1,182m
コースタイム
天候 | 晴れ時々曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2016年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
コース状況/ 危険箇所等 |
・積雪は20-40cm程度。 ・コース全体を通じてトレースはあり。ラッセルは不要でした。 ・アイゼン・スパッツは使用せず。サングラスはあったほうが良いかも。 |
感想
奥多摩湖でバスを降りると、朝日が鋸山の向こうから倉戸山の山肌を照らして
いた。薄い雪が輝き、九十九折に重なっている遊歩道を浮かび上がらせている。
除雪されたダムの堤を渡り切ると、数cmの新雪が残っている。誰の足跡も無い
雪の上をそっと歩き、公園へ上がった。
公園の奥から始まる登山道は充分に踏まれていて、二三日前のものと思われる
足跡が二人分、獣のそれも多数あった。とりあえずはアイゼンもスパッツも必
要無さそうだ。ここは最初から結構な急登だ。10分歩いては一息入れた。只で
さえ痩せた尾根で、登るにつれて右の崖下に見える奥多摩湖に引き込まれそう
になる。雪で足元が更に不安定な為、何度も足が竦んだ。引き返せなくなる前
に戻るのが鉄則だが、引き返したくはない思いで励んだ。
ふと、斜め前の杉林の樹間から朝日が差した。湖からの弱い風で雪が舞い、樹
間で輝いた。この光景はスマホのカメラでは撮れまい。ただ口を開けて暫く見
とれた。生きている事への感謝が身を満たした。
急登が済んで尾根が太くなると、サス沢山が近い。電波塔の側から奥多摩湖を
一望する。先日石川達三の「日蔭の村」を読んだ。戦前に小河内ダムが着工す
るまでの建設予定地の住民達の苦悩を書いた小説だが、そこに出て来る舞台は
みな湖の下で、ここからは見えないだろう。今日は朝8時から朝日を楽しんでい
るが、かつての村は遥か下の方で、昼前にならないと直接太陽を拝めない事も
あったようだ。
小説は着工する前で終わっているが、ダムの建設はアジア・太平洋戦争の激化
の為に中断された。戦争が終わると今度は日本共産党がダム建設阻止を訴えて
住民達をオルグしようと村を駆け回った。彼らがアジトにしていた三頭山北面
の八畳岩もここから近い。
小説にも出てくるが、ダムの場合は竣工して貯水を始めるまでは、ダム湖にあ
たる地域の人々の大半は実際に立ち退く必要は無い。小河内ダムの竣工は1957
年で、小説の中で1931年に秋の麦は蒔いて良いか迷っている農民を思うと、と
ても虚しい。
と、学んだばかりの事を思い返していると、体が冷えてきたので、再び登り始
めた。もう急登は終わったものと思っていたら、惣岳山まで少なくとも二度そ
れなりの傾斜があった。もう転落の心配はしなくて良いが、標高1000mを超えた
あたりでラッセル跡が若干クラストになっていたようで、二度も足を滑らせた。
アイゼンを付けようかとも思ったが、その先はどうということもなく、結局最
後まで付けずに通した。
ヨタヨタと登り続けていると、日が高くなり、樹氷が融ける音がそこかしこで
鳴り始めた。上空ではごうごうと風が止まず、ヒガラ(と思われる)が陽気にさ
えずる。人工の音は全くしないのに、雪山がこんなに賑やかとは、冬に山に来
ない人は全く知らないのではあるまいか。
惣岳山の手前で進路は東に曲がり、目の前に朝日が来るようになった。殆どの
落葉樹に樹氷が出来ていて、それと地面の積雪を朝日が照らす。雪の柔らかな
曲面が輝く様は、艶めかしい程だ。ダメ元で何枚も写真を撮ってから、また暫
く見とれた。
前方から足音が聞こえた。人にしては速いと思ったら、二匹の鹿が目に入った。
あちらも気付いたらしく、すぐ西の斜面へ逃げて行った。
山頂手前の坂を何とか登って、惣岳山に着いた。ここからは都民の森という事
で山道は丸太の階段で整備されているが、今は雪の下だ。御前山までは稜線沿
いに100mを緩やかに登るだけだ。ここまで来ると達成したも同然だ。道沿いに
ベンチがあって南面の景色を楽しめるようになっているが、生憎雲で富士山も
何も見えなかった。
ゼイゼイと肩で息をして、漸く御前山山頂に辿り着いた。奥多摩湖から標高
900m差を4時間半かかった。雪があるとは言え、ラッセルはほぼ不要だった事を
考えると、遅い。アイゼンを着ければもっと速いだろうが、いずれにせよ体力
が無いのは確かだ。それでも達成感が気持ち良い。諦めずにやり切った。
腹が減ったので、昼にする。ベンチの雪を除けてエスビットを出し、固形燃料
を載せてライターで炙る。大した風もないのに中々点火しない。何度もやって
やっと点火し、網を載せ、コッヘル代わりの百均のステンレスマグに水を入れ
て…えらい手間がかかると、思わず苦笑が出た。ガスのストーブとコッヘルが
あればすぐに済むだろうが、この手間も楽しみのうちだ。おまけに蓋を忘れ、
湯が湧くのに10分はかかったと思う。
飯はサッポロ一番みそラーメン。おかずは目の前の昼日に照らされた樹氷だ。
小袋の七味が嬉しい。残りの汁に冷や飯を入れて平らげ、食後は粒チョコを二
粒とった。体は暖まったので、のんびり過ごした。
荷物を片付けていると単独行の女性が現れた。避難小屋の方へ降り始めると今
度は元気な二人組の女性だ。今回出会った人間はこの二組のみだった。避難小
屋の方へは真新しい足跡とステッキの跡がある。、先程の二人組はこれから降
りようとしている栃寄沢の方から来たのだろう。避難小屋手前の十字路を北に
曲がり、避難小屋のデッキを乗り越えて巻き道を進む。登りのブナ沢よりはっ
きりトレースがあるが、雪山の下りは迷い易い。トレースは過信せず、何度も
地形図を読んで降りた。
樹氷は相変わらず見事だ。奥多摩の冬にこれ程樹氷を楽しめる機会は、中々無
いのでは無いか。枝の合間に埼玉の方の市街地が覗いた。
尾根を降りると沢沿いの道になる。北面の沢沿いだからだろうか、先程と違っ
て何の音もしない。風もなく、鳥も居ない。雪景色らしい無音に雪を踏む音だ
けが聞こえる。気が緩んで足も緩み、尻餅をついた。
栃寄沢は二箇所で登山道が封鎖されており、その区間は林道を歩く事になって
いる。念の為立入禁止のロープの先を覗いたが、踏み跡は無かった。
トチノキ広場まで降りると、再度封鎖されている。立て看板によると今年の三
月までの期間で再整備しているらしく、杉の切り出し場もあった。自然林の沢
沿いを1kmは歩けるルートで、今から新緑の季節が楽しみだ。
トチノキ広場の下で随分ノロノロと軽トラックが登って来るのに出会った。塩
化カルシウムを蒔いているのだ。おかげで雪はほぼ無く、一般車でも問題無く
広場まで来れそうだ。足元の心配も最低限にして、焼酎のお湯割りを思い描き
ながら奥多摩駅まで降りた。
全体を通してお手付き2回、尻餅は実に4回。大体気持ちが何処かに行った時に
滑っているように思う。安定した歩き方は、体力強化と同じ位に今後の課題だ。
ラッセルはしっかりあるし、アイスバーンも無い。樹氷は飽きる程楽しめる。
現時点では栃寄沢コースは雪山デビューに丁度良いところと言えると思う。
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