【穂高作戦】ジャンダルム〜奥穂高岳〜前穂高岳【甲50.9】
- GPS
- --:--
- 距離
- 13.7km
- 登り
- 1,966m
- 下り
- 1,954m
コースタイム
- 山行
- 10:10
- 休憩
- 0:59
- 合計
- 11:09
天候 | 快晴 徐々に雲広がる。 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2017年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス
|
コース状況/ 危険箇所等 |
上高地BT〜岳沢小屋:石段のような道など比較的歩きやすい。 天狗沢:ガレガレの急な沢を昇っていく。ガレの細かい所が上の方にあり、気をつけてもガラガラ崩れる。 天狗沢のコル〜奥穂高岳:「信州山のグレーディング」で別格とされているだけあって、緊張を強いる岩の稜線歩き。岩場を乗り越えたりトラバースしたり。ジャンダルムはどこを昇降するかよく見極めて慎重にとりかかるべし。事故が2件起きるだけのことはあった。胴体並みの大きさの落石あり。 奥穂直下は岩壁をガシガシ昇る。 奥穂高岳〜前穂高岳:ほぼほぼ山腹を巻いていく。道の難度が落ちて気も緩みがち。 紀美子平〜前穂高岳間は地図上ではすぐに見えるが、実際は奥穂ほどではないにせよ岩場の急登で結構かかる。 前穂高岳〜岳沢小屋:滑落多発区間と言われるだけあって、急な傾斜が続く |
写真
感想
【経緯・計画】
いったいどの程度のレベルに達すれば穂高の稜線を歩けるのだろうか?そう思っているうちに年月は過ぎる。岩山山行は何度か経験してきたが、どれだけ経験を積んでも、「信州山のグレーディング」でも別格として敢えて掲載されていない稜線を歩くことへの不安は拭えない。
結局、この思いは実際に歩いてみることによってしか克服され得ないのだ。
いよいよ腹を決めて穂高稜線周回を期する。
【山行概要】
土曜日も好天だったことから沢渡大橋駐車場は21時過ぎにして既に満車で、バスターミナル傍の第3駐車場に駐車。第2も第3も多くの車がとまっている。
沢渡大橋へ向かう途上で既に外気温は5度。朝方には0度くらいまで下がったのではなかろうか。あまりの寒さに予定より1枚多めに着てバスに乗り込む。
10月ともなると上高地バスターミナルに着いた時分でも日の出前。多くの人が蠢く中を抜けて静かな上高地散策に入る。
(岳沢小屋まで)
適当な間隔で標識があり、足元もしっかり。歩きやすく導入として最適。途中、ガレ場もあるが、天狗沢はこんなものではないぞと気を引き締める。
(天狗沢)
ほとんどガレ場で上の方に行くほど急になる。しかし、印を目当てに歩けば足元がガラガラ崩れることはない。ものの本では下りに使うのは避けるべしというようなことが書いてあったように思うが、実際歩いてみると、一部本当にガラガラ崩れる箇所があるものの、大部分は先人のおかげか、ガレ場と言っても歩きやすくなっている。
しかし、時折ガラガラと岩石が大規模に崩れる音がしたので、上方常に落石に注意だろう。
(天狗のコル〜奥穂高岳)
天狗のコルは縦走する人、降りる人が交わる場。奥穂方面から南下してきた男女ペアは、女性の方がもう降りたいと弱気な感じ。男性がなだめたりすかしたりしている。
共同山行の場合、同僚の気持ちが萎えてしまうということはあり得ることだ。端から見ていて「これは危ないな」ということがあれば、早々に取りやめると良いだろうが、まずは落ち着きを取り戻させるために長めの休憩をしたら良いんじゃないかな。
遂に突入、この稜線。早速擦れ違った人からジャンダルム付近で滑落事故があった旨情報提供される。自分達は自分の足で下るぞと気持ち新たに前へ、前へ。
稜線はまさに岩の峰。岩壁をトラバースしたり、峻険な岩峰を乗り越えたり。歩いてみて思ったのだが、この稜線を踏破するには基本的な技術もさることながら、心の平静を保つことが非常に重要なのではないか。目の前の岩、一つ一つに真摯に向き合っていれば、恐怖心の入り込む余地は無い。妙義や西穂で腰の引けた非常に危なっかしい人を見たことがあるが、まずは心を落ち着かせること。
小休止中に山岳警備隊員ペアがジャンダルム方面に向かう。パトロールかしらと思っていたが、その内にヘリがやってきた。自分達が遭難者と思われていたら嫌だなと思ったが、どうやら、また、ジャンダルム付近で事故が起きたらしい。気流が乱れることにより不測の事態が起きないとも限らないので、ヘリがホバリングしている間は動かずにじっとしている。
ヘリが去って、再始動。岩をよじ登った先にジャンダルムと奥穂高が姿を現す。
ジャンダルムへの上りは、「オクホ→」と書いてある所に縦の印、また、左手側に黄色い印があって、どちらから取り付いたらよいのだろうかと思ったが、足がかり、手がかりは豊富なように見え、どこからでも登れそうな感じではある。
まずは、先に取り付いている人達の後を追ったが、どうも違うらしいというので戻る。その戻った所に鎖が垂れている。ああ、ここから昇るのかと、いよいよ昇り始めようとした、その矢先に叫び声が聞こえ、見上げた先、人の胴体大の大きな岩が宙に舞って下に落ちていった。これが穂高の稜線なのだ。
取り付きからジャンダルムまでの標高差はあまりなく、うまく上れば意外と呆気なく登頂できるが、このように岩が脆い所があることから、ルート取りは慎重にしないといけないだろう。
ジャンダルムは過ぎたが、なお難所が続くことはわかっていた。この奥穂高だけまでの僅かな距離が最難関だとロバの耳を通過し、馬の背を超える。大きなアップダウンと空に身体を暴露しての岩の登攀。逆方向に進む時はどういくかと考えつつ、青い空へ向かって上がっていく。
馬の背を越えれば、もう奥穂高岳は目の前。大勢の登山者で山頂ピーク部は押し合いへし合いだ。緊張の稜線を越えたことで、私もヒロシ氏も長めの休憩をとり一息つく。
(奥穂高〜前穂高)
奥穂高〜前穂高間は山のグレーディングではC難度となっており、道は山腹をトラバースする区間が多いのだが、それでも高低差のある岩の昇降が所々にあり、油断するわけにはいかない。事故とは油断した時に起こるものだ。
奥穂高からはそれほど大きく見えなかった前穂高も近づくにつれて巨大化する。
紀美子平からすぐなように見えて、かなりの急登である。後半戦に岩場の登攀ということで息を落ち着けながら前穂の山頂を目指す。
たまたま山頂から人がはけたタイミングで登頂し、暫し前穂を独占。雲は増えたが、それでも周囲の山を見渡すことができ、歩いてきた稜線に感慨も深い。
(前穂高〜岳沢小屋)
13時を過ぎて、そろそろ時間も気になるところ、下山に移る。この前穂〜岳沢小屋間は非常に滑落事故が多いのだという。それは傾斜が急ということもあるが、やはり、緊張の陵線から下山に入って気が緩むということがあるのかもしれない。
特に、中ほどまで降りてくると辺りが紅葉の盛りとなるので、木々の色づきに気をとられて足元が危うくなるということもあり得ることだ。
同じ岩場でも稜線上はほぼほぼ水平移動だが、こちらは高低差が結構あり、上下の動きが大きいので、最後まで気を抜けないだろう。
(下山)
岳沢小屋から先は、岩が多いながらも段々と道は落ち着きを取り戻し、結果的に予定より早く上高地に帰還。100mを越す行列に並んだ後、無事、最終バスに乗って沢渡に帰ることができた。
【総括】
私は、しばしば山や天神地祇への感謝の意を著す。それは東郷平八郎元帥と同じく謙譲の気持ちを示したものである。
山行において危険はすぐ傍にある。沢や峰では落石があり、たった一つ落ちた石が大規模な連鎖落石を呼ぶこともある。足元が濡れていれば滑るし、風が吹けば身体は冷える。そんな中を無事踏破できたならば、山行の成功はまさに山と天のおかげということになる。
これら外的要因については、自らではいかんともしがたく、それこそ山や天神地祇に全てを委ねる他無い。しかし、自らも、起こり得る危険を想像し、余裕を持って行動することによって山行を「無謀」ならしめず、目の前の現実を直視し、柔軟に対応すれば「無理」な山行をある程度回避することができる。
かの牟田口廉也陸軍中将は「わしは、戦さに負けたことがないんだ。わしは、その点、実に運がいいと思っている。」、「わしには神様がついておる。わしは、ありがたいと思っておる。‐わしにまかせておけ」(高木俊朗『インパール』)と、インパール作戦を推進したが、果たして、敵情を把握することなく〆日ありきで作戦を立てたため行程に余裕は全く無く、また、山道や雨季の厳しさ、英印軍の戦法の変化や砲爆撃の激しさといった現実を前にしても柔軟な対応をしなかった。まさに「無謀」にして「無理」。その結果は周知のとおり。勉強せずに神頼みしていても、試験に受からないのは道理である。
山行の安全もまた、彼を知り己を知れば百戦殆ふからず。そして余裕と柔軟性。ヘルメットやロープ、靴といった外面装備を云々する前に、これら内面の装備を充実することが重要であり、また、山行を成功に導く鍵となるだろう。
〜おしまい〜
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