槍・穂高周遊(涸沢岳西尾根経由)

- GPS
- --:--
- 距離
- 82.1km
- 登り
- 5,455m
- 下り
- 5,427m
コースタイム
7:30新穂高温泉発-9:30白出沢-15:30涸沢岳西尾根 標高2400m台地(幕営)
4月30日
6:30幕営地発-12:00涸沢岳-12:30奥穂高山荘(幕営)
5月1日
6:00奥穂高山荘-7:00奥穂高岳山頂-9:00奥穂高山荘
11:00奥穂高山荘-12:10涸沢ヒュッテ-14:20横尾キャンプ場(幕営)
5月2日(停滞日)
9:50横尾キャンプ場発-15:00大正池-18:30横尾キャンプ場(幕営)
5月3日(停滞日)
10:30横尾キャンプ場発-13:00上高地温泉(入浴)-18:45横尾キャンプ場(幕営)
5月4日
7:30横尾キャンプ場発-9:00槍沢ロッジ-14:30槍ヶ岳山荘(幕営)
5月5日
9:00槍ヶ岳山荘-9:20槍ヶ岳山頂-9;40槍ヶ岳山荘
10:00槍ヶ岳山荘-11:45槍平小屋-16:00新穂高温泉
| 天候 | 4月29日:晴れ 4月30日:曇り 5月1日:晴れ→雨 5月2日:雨 5月3日:雨→曇り 5月4日:晴れ→吹雪 5月5日:曇り時々晴れ |
|---|---|
| 過去天気図(気象庁) | 2012年04月の天気図 |
| アクセス |
利用交通機関:
自家用車
空き多数有り |
| コース状況/ 危険箇所等 |
○涸沢岳西尾根(※一般登山道ではありません) 新穂高温泉〜奥穂高岳までの登りに、この尾根を利用しました。 藪漕ぎ箇所が多数あり、尾根全域に渡って急斜が続きます。 所々にトレースがありますが、入山者は少ない模様。 尾根の通過に2日かかりましたが、その間に会った登山者は3人パーティ1組のみでした。 蒲田富士〜涸沢岳間は北アルプス危険区域に指定されており難所多数。 その中でも、以下の3か所が特に危険とされてます。 1.蒲田富士手前のルンゼ 岩と雪のミックスルート。 今回はフィックスロープが残置されており、通過は特に困難ではありませんでした。 2.蒲田富士のナイフリッジ 約200mに渡って細尾根のナイフリッジが続きます。 北側に雪庇が張り出していますので、ルート判断は慎重に。 今回は前半部分の雪庇は崩落しており、中間部の雪庇は崩落寸前で切れ目は明瞭な状態。 ルート判断は難しくありませんでした。 但し、最後の10m区間が難所。 細いリッジの頂点部を進む事になります。 足場の幅は30冂度。 両側は鋭く切れ落ちているので、強風時や雪が緩んでいる時の通過は非常に危険です。 この尾根上で最も危険に感じた区間でした。 3.F沢のコル以降 始めは雪付きのルンゼを登りますが、フィックスロープはありません。 距離は短く雪の状態も良かったので、1のルンゼよりも通過は容易でした。 ルンゼ通過後は、岩綾部を進むか雪渓部を進むか、の2択になります。 雪の状態が悪い場合は雪渓部は進まず、岩綾部を進んだ方が良いでしょう。 今回は雪の状態が良かったので、雪渓部を直登しました。 雪渓部の傾斜はさほどではありませんが、場所によっては急斜。 また、登攀距離はかなり長いので、体力的な負荷を考えると、 ダブルアックスで進むのが良いと思います。 (落ちたら谷底まで滑落必至なので、ダブルの方が精神的にも楽かと・・・) 岩綾部及び雪渓上部は浮石が多数あるので落石の危険有り。 もし落石が発生したら、ルンゼ及び雪渓上は落石のルートになるので、 ヘルメット着用を薦めます。 ○奥穂高山荘〜奥穂高岳 梯子を登った先の急斜面が難所。 階段状のトレースが出来てるので、さほど危険はありませんが・・・ 滑落事故が多い場所ですので通過の際は御注意下さい。 (今回も滑落した方がおり、ヘリが出ておりました。) ○奥穂高山荘〜涸沢 例年のこの時期は、あずき沢上がメインの登山道になりますが、 今回は雪崩の危険があり、そちらはあまり利用されておりませんでした。 (あずき沢上部にはクラックが多数あり、いつ雪崩れてもおかしくないような状態でした) ザイテングラード上、もしくは涸沢岳寄りにトレースが多数ついてました。 ○涸沢〜横尾山荘〜槍沢 とくに危険個所はありませんが、雪崩には御注意を。 屏風岩付近を通過中に大きな雪崩の音が涸沢方面から聞こえました。 休憩等をする際は、雪崩の危険がない場所で行って下さい。 ○槍ヶ岳山頂 ハシゴ、鎖は全て出ているので、通過に問題はありませんが、 今回、私が行った際は前夜に降雪があり、登頂ルート上は全域雪で覆われてました。 尚、登頂前夜(5月4日)は槍ヶ岳山荘で幕営を行ったのですが、天候は大荒れ。 厳寒期並みの吹雪となりました。 (朝方の気温-7℃位、風速も20m/sくらいあったそうです) その日は、涸沢岳で遭難した方もおられるとの事。 どの山域にも言える事ですが、軽装では入山しないように。 ○槍ヶ岳山荘〜新穂高温泉 とくに危険個所はありませんが、やはり雪崩には御注意を。 槍平から下部は傾斜が緩く、アイゼン無しでも行けそうですが、 沢沿いをトラバースする箇所がいくつかあるので、アイゼンは付けた方が良いと思います。 |
| 予約できる山小屋 |
|
写真
短いルンゼを経由し、雪渓部に取り付く。
50mほど雪渓を登り、左の岩綾に取り付いた。
途中、岩綾の取り付き場所を間違え、10m程クライムダウンしている。
この下降が恐かった事・・・
感想
ゴールデンウィークの長期連休を利用し、北アルプスへ登山へ出かけた。
予定日数5日、予備日2日の日程で、奥穂高岳と槍ヶ岳を登る。
登山口は新穂高温泉。
新穂高温泉から奥穂高岳までのルートには「涸沢岳西尾根」を利用する。
涸沢岳西尾根は今回初めて登る登山道であるが、
一般登山道では無く、山岳地図にも道は記載されていない。
また、その登山道には一部、危険区域にも指定されている箇所がある為、
普段の登山には持参しない、クライミング用ロープやアイスバイル等も持参した。
【所持品】
・幕営用具一式
・食料5日分
・非常食(行動食)2日分
・シャベル
・8亰30mロープ
・ハーネス
・クライミング用カラビナ複数
・ロープスリング×2
・スリング
・ATC
・ピッケル
・アイスバイル
・12爪アイゼン
・ヘルメット
・その他
【4月29日(日)】
前日に新穂高温泉の無料駐車場に到着し車中泊。
翌日29日の7時30分、駐車場を出発し白出沢へと向かった。
白出沢を越え、槍ヶ岳方面へ少し進んだところに、涸沢岳西尾根の入口がある。
藪に覆われており、どこが入口か判別しにくい状態ではあるが、
藪をなぎ倒した形跡と、かすかなトレースがあったので、入口はすぐ見つかった。
尾根入口の目印、と思われる赤いバンダナも取り付けてあった。
当初は藪上に雪が積もった状態だったので、歩きやすかったが、すぐに雪は無くなり、完全な藪山となる。
藪漕ぎ箇所多数、そして尾根上は全域に渡って急斜面。
初っ端からきつい登山になった。
更に進むと雪の付いてる箇所も出てくるが、
そのルートは複合ミックスルート、とでも呼ぶべきか。
足場の状況は目まぐるしく変わる。
藪、土、岩、雪、時には氷。
地形も険しい。
尾根上にピンクリボンや赤布が付いており、目印はあるのだが、
そこまで行くのにどうルートを辿ればいいのか・・・
頭を悩ませる事もしばしばあった。
特に厳しかったのが、標高1800m〜2100mの区間。
足だけで登れる箇所はあまり無く、
常に岩や木の根等、何らかのホールドを掴んで3点支持で登るような険しい登りが延々と続いた。
この日は天気が良く、気温が高かった。
雪が腐って歩き難く一向にペースは上がらない。
今日の目的地は、標高2400m地点。
そこで幕営する予定だが、歩みは遅く、日が出ている間に予定地まで辿りつけるか不安になってくる。
自分の感覚では50mは登った、と思っているが、
実際に高度計を見てみると20m程度しか登って無かったりして・・・
高度計を見るたびに不安が増してくる。
周囲は樹木に覆われ、眺望は望めない。
時折、木々の間から見える笠ヶ岳のみが唯一の見所であった。
しかし、2100mを過ぎた頃から、若干道は易しくなり、
足だけでも登れるような箇所が増えてくる。
ペースも上がり、順調に高度を稼ぐ。
その途中に平地があり、そこにテントが一つ張ってあった。
テントから顔をのぞかせる登山者達と目が会い、ぎこちなく挨拶する。
テントの前にはアイゼンやアイスバイルに、スノーバー等、多数の登攀具が並んで置かれている。
熟練者のパーティのようだ。
広い平地で、3張りほどテントが張れそうだが・・・
やはり、隣同士というのは気まずい^^;
更に登り、先へ進んだところにテント一つ張れそうなスペースがあったので、そこでテントを張る事にした。
標高は2400mを少し超えた位。時刻は15時30分。
なんとか、予定通りに目的地到着だ。
さて、初日の幕営・・・であるが、
そこはお世辞にも「快適な幕営地」とは言えなかった。
すぐ近くは断崖で、雪庇も張り出している。
雪庇からは十分距離を取っているので大丈夫、だと思うが落ち着かない。
それよりも困るのが、飲料水の確保。
雪は汚れており、衛生的にあまりよろしく無い。
水作りに使う雪の選定には苦労させられた。
夕食後、スマートホンで明日の天気を調査。
時々途切れるが、尾根上は電波が入る。
調べたところ、明日の天気は終日曇りで気温はあまり上がず、風速は低い。
理想的なアタック日和だった。
明日は難所の通過となる。
特に懸念しているのが、蒲田富士のナイフリッジの通過。
もし、気温が上がって雪が緩めば通過は難航し、もしかしたら撤退の可能性もありえる。
なので、晴天にはなって欲しくなかったが、この天候ならば大丈夫。
安心したところで、眠りについた。
・・・が、夜間。
雪庇の滑落音で目が覚める。
すぐ近くで聞こえたぞ?!
ホントに大丈夫だろ・・・な?
【4月30日(月)】曇り
4時起床。
外に出てみると、予報通りの曇り空。
しかし、雲は高く、ガスは掛かっていない。
程良く気温も下がっており、雪が締まっている。
昨日に比べれば、登山条件は格段に良い。
朝食を取り、テント撤収をしていると、下方で幕営していた登山者達が通り過ぎていった。
3人パーティで、全員アイスバイル2本携帯でハーネス装着。
ハーネスには多数のカラビナやスリング等がぶら下がっている。
彼らの装備の重厚さを見ると、この先の道が如何に険しいか、思い知らされるようだった。
自分も、それなりに道具は持参しているが・・・あちらは3人に対し、こちらは単独。
ここから先は核心部の通過となるが、独りで通過できるか?
まぁ、考えても仕方ない。
そこは核心部に到達してから考えよう。
テントを撤収し、出発準備する。
ハーネスとヘルメットを装着し、昨日はザックに括り付けたままだったアイスバイルを腰のホルスターに収納。
ロープはほぐしてザックの雨蓋に詰めておき、先端はハーネスにインクノットで仮止めしておく。
こうしておけば、ザックを降ろすこと無く、いつでも片手だけでロープを繰り出せる。
一通り、準備が整ったところで出発した。
朝方の気温は2℃程度で、あまり寒くは無いが、雪はよく締まっておりアイゼンの効きが良い。
出だしは快調。
標高2500mくらいが森林限界のようで、そこを超えると高い樹木は無くなった。
そして、標高2600m地点。
ジャンクションピークと呼ばれる尾根上に上がると、視界が一気に開けた。
目の前にはジャンダルム。
背後を振り返れば笠ヶ岳。
そして、それら巨峰に連なる山脈群。
ようやく北アルプスらしい雰囲気になってきた。
進行方向である尾根の先も良く見える。
その尾根の先端に視点を移すと・・・
そこには、難所の一つである、蒲田富士のルンゼが待ち構えていた。
ルンゼでは、先行している3人パーティが通過を試みていた。
その様子を、離れた位置で眺める私。
ロープにカラビナをかけて、一人づつ慎重に通過している。
そして、最後の一人が通過すると、彼らは視界から消え去った。
ロープは・・・そのままルンゼ上にかけられたままだ。
どうやら残置ロープらしい。
なんだ、ロープがあるのか・・・
ロープ無しでの通過を想定していたので、緊迫感は一気に薄れた。
誰も居なくなったルンゼに近づき、ルートを確認する。
急傾斜で、ところどころに岩が突き出ている。
岩と雪のミックスルートであり、一見難しそうにもみえるが、
ルンゼの右手側にはブッシュが生えている。
岩とブッシュ、とホールドとなる支点は豊富にある。
“これなら残置ロープを使わなくても通過できるのではないだろうか?”
そう思ったので、ものは試し。
ロープを利用せずに登ってみた。
結果としては、ロープ無しでも通過出来た。
中間部が少々手ごわく、か細い支点を頼りに1m程体を持ち上げなければならない場面があるが、難しいのはそこくらい。
アイゼン着用での登攀となるので、若干難度は上がるが、岩登りのレベルとしては易しい部類だと思う。
だが、これを下るとなると・・・
そこはロープ無しでは厳しいだろう。
もし、この先の難所が通過出来ず、撤退せざるを得ない場合を考えると、
残置ロープの存在はありがたい。
後方の憂いが無くなったところで、次の難所。
蒲田富士のナイフリッジへと歩を進めた。
第2の難所である、蒲田富士のナイフリッジ。
北側に雪庇が張り出しており、その反対側は急斜面。
滑落危険のある細尾根が約200mに渡って続く。
谷川岳の西黒尾根を思わせる、危険地帯、であるが・・・
前半部分の雪庇は殆ど崩落している。
中間部にはまだ雪庇が残っているが、すでに大きな切れ目が入っており、崩落個所は明白。
ルート判断にはさほど困らなかった。
雪も良く締まっており、足場の崩れる不安はあまり感じない。
先月訪れた西黒尾根に比べれば楽なもの。
・・・と、考えるのは甘かった。
真の核心部はリッジ終盤の約10m区間。
それは、「これぞまさしくナイフリッジ」と言いたくなるような危険な区間だった。
両側が鋭く切れ落ちており、リッジの頂点の幅は約30冂。
その30冑を、さながら綱渡りのように通過する。
先行パーティが通過を試みており、彼らは一人づつ、ロープ確保し通過している。
確保の期待できない単独では、ここの通過は勇気がいるだろな(ーー;
だが、幸い、今日は日差しが無い。
雪は朝からずっと締まっており、リッジが崩れるはずは無い。
・・・たぶん。
意を決して、一歩、リッジの頂点へ足を踏み出す。
そして一歩一歩、慎重に、リッジ上のトレースを辿る。
万一、崩れたらいつでも滑落停止できるような心構えで。
とは言え、この傾斜では、いくらピッケル突き立てても止まらないだろうなぁ。
谷底まで真っ逆さまだろなぁ。
・
・
・
とか、色々と余計な事を考えながら歩いていたら、いつの間にか通過してた。
なんとも地味な終わり方だが、これにて第2の難所通過完了。
何はともあれ、ここが今回の登山で一番恐い箇所だった。
さて、残す難所はあと一つ。
F沢のコルからのルンゼ、そしてその先に続く雪渓。
しばらく前から、視線の先にちらついてはいたが、
蒲田富士のナイフリッジを越えると、その全容がようやく見えてくる。
傾斜はついているものの、その雪渓は遠方から見ると、長大な雪壁のようだった。
今回、登山ルートに涸沢岳西尾根を選んだ一番の理由は、これを越えてみたかったからだった。
アイスバイルを持参したのは、その為である。
先行パーティは、F沢のコルで休憩を取っており、
その間に追い越し、先頭を行く。
F沢のコルを経由し、まずはルンゼを登る。
このルンゼ上に残置ロープは無いが、登る距離は短い。
雪は安定しておりダブルアックスで登ったので、蒲田富士手前のルンゼよりも楽だった。
(ピッケル1本だけでも十分行けると思う。)
ルンゼを登った先は一旦安定した足場が続き、その先が雪渓への取り付き部。
雪渓の左側(北側)は雪のついていない岩綾が出ている。
この岩綾を登り尾根に出るのが本来の登山ルートと思われる。
しかし、今の雪質なら大丈夫と判断し、岩綾には登らず、雪渓部の直登を試みた。
右手はピッケル、左手はアイスバイルを携帯し、
ダブルアックススタイルでの直登。
雪の状態は、硬すぎず、柔らかすぎず、と理想的な状態。
傾斜角度は思っていたよりも緩く、ピッケル1本でもなんとかなりそうではある。
だが、場所によっては傾斜がきつくなる。
ピッケル1本の場合は、それら急斜を避けるようにルートを選びながら登る必要がありそうだ。
そしてなにより、ルートが長い。
体力的な負荷を考えると、ダブルで進むのが最良だろう。
特に、アイスバイルが頼もしい。
背後を振り返れば、そこは深い谷。
谷底まで何百メートルあるのやら・・・
ぞっとする光景ではあるが、
アイスバイルが刺さっている限りは絶対に落ちない、
そんな不思議な安心感を感じた。
雪渓の中間部まで進んだところで、岩のテラスがあったのでそこで一旦休憩。
そこから岩綾部を眺めると、そこには多数の浮石が転がっている。
もし落石が起きれば雪渓上は確実に落石の通り道になるだろう。
ヘルメットを持参して良かった、と思った。
手足の疲労が回復したところで、再び直登開始。
上部に行くにつれて、雪面のクラックが目立ってくる。
雪質は安定している、とは言え次第に不安になる心。
そろそろ雪渓は抜けるべき、と考えて進路を左の岩綾方向へとった。
しかし、辿りついた岩綾の傾斜はきつく、浮石だらけ。
ホールドになりそうな岩は見られず、取り付けそうな場所はない。
目測を誤った。
元のルートに復帰する為、10m程クライムダウンする事となる。
この下降は恐かった・・・
ルート復帰し、更に上部へ登り、別ポイントより岩綾への取り付きを試みる。
今度の岩綾部は傾斜が緩く、ホールドとなる岩も多数あり。
浮石が多いので歩きにくいが、尾根上まで登ることは出来そうだ。
そこを辿って尾根上へ辿りつく。
尾根の上には夏道、と思われる荒れた道が伸びていた。
ここまでくればもう安心。
最後の難所の通過は完了した。
尾根上に上がると、これまで以上に視界は開け、雄大な北アルプスの光景が視界の先に広がった。
白い山波が続き、その向こう側には今回の山旅の最終目的地である槍ヶ岳が見える。
先端だけがわずかに見える程度だが、そこだけ黒々としているので、よく目立つ。
ジャンダルム、そしてそれに繋がる険しい縦走路。
国内一般登山道最難ルートとも言われるその縦走路は、遠目から見てもその険しさが十分に理解できる。
背後を振り返ると、そこには蒲田富士。
先程通過した厳しいナイフリッジも鮮明に見える。
遠方の岩場には、F沢のコルで追い越した3人パーティの姿が見えた。
彼らも全員無事に難所を通過したようだ。
いずれも北アルプスらしい絶景揃いだが、それら以上に特筆すべきは滝谷の岩壁だ。
滝谷、とは北穂高岳山頂まで続く険しい岩場で、ここから見える北穂高岳は、涸沢側から見る北穂高岳とは全く別物。
多くのクライマーの憧れとも言われるその険しい岩場は見ているだけでも恐さを感じる。
この滝谷の岩壁こそ、涸沢岳西尾根上の最大の見物だろう。
それを見る為には厳しい難所を通過せねばならないが、その価値に見合う光景だと思った。
しばらくその光景を眺めた後、尾根の先へ、
涸沢岳山頂方向へと進んだ。
難所は全て通過した事で、気持ちは楽になり、その後は楽しい登山が続く。
道の大半は岩場で、雪の付いている箇所はあまりない。
数ヵ所、急斜のトラバースがあるのでアイゼンは外せないが、
先ほど通過を終えた核心部に比べたら道は易しい。
何度か偽ピークに騙されながらも高度を上げてゆき、
12時には涸沢岳山頂に到着。
2日かかりの西尾根通過が、ようやく終わりを迎えた。
涸沢岳頂上から山荘方面を見ると、白出沢側でヘリがホバリングしていた。
近くにいた登山者に話を聞くと、どうやら奥穂高岳を登っていた登山者が沢側に滑落したとの事。
滑落点は、ハシゴ上部の急斜面らしい。
そこは毎年のように滑落が発生する事故多発地帯だ。
奥穂高岳には明日登る予定だが、気をつけねば・・・
涸沢岳を下り、奥穂高山荘へ向かう。
12時半頃には穂高山荘に到着し、テント場の受付をする。
テント場の利用料金は「無料」との事。
浮いたお金の分は、ビールに回す。
ささやかながら、涸沢岳西尾根登頂記念に缶ビールで祝杯。
ついでに、夕食も山荘でお世話になることにした。
料金は1700円、と値が張るが・・・、
標高3000m.地点でたらふく飯が食べられるのだから、妥当な値段と考えるべきか。
夕食は5時からなので、テントを張った後は、奥穂高を登る登山者達を眺めながら時間をつぶす。
先ほど滑落者が出た地点であるハシゴ上部の急斜にも登山者が取り付いている。
中にはザイルを繋いで登っているグループも見られた。
そこには階段状のトレースが出来てはいるが、傾斜がきつく、万一滑落すれば白出沢までの相当な距離を落下するだろう。
奥穂高への登山道は、去年のゴールデンウィークにも登っているが、
この急斜部が最も危険に感じられたものだった。
14時を過ぎた頃から奥穂へ向かう登山者はめっきり減り、
16時を過ぎると、それ以降は登山者の姿は見られなくなった。
山荘にて夕食後、外に出ると、夕日が出ていた。
今日は終日雲に隠れていた太陽だが、最後になって顔を出すとはにくい演出。
夕日が沈む方向には、笠ケ岳。
西尾根上で幾度も目にした山であるが、夕日に照らされ一層美しく見えた。
標高3000m近くはある穂高山荘のテント場ではあるが、
夜間はあまり寒さは感じず、快適に寝ることが出来た。
ただ、防風用の雪壁を築いてなかったので、風がテントを直撃する。
吹き飛ぶような強風ではないものの、フライシートのバタ付き音がやかましい。
強風は吹かない、と見込んでいたので雪壁は築かなかったのだが・・・
横着せずに築いておけば良かったな、と後悔する。
【5月1日(火)】
空は快晴。
日の出前に目を覚まし、穂高岳山荘のテント場にて御来光を待つ。
早朝であるが、あまり寒さは感じず、テント室内5℃、室外2℃程度。
風もさほど強くはなく、外でじっとしていても辛くは感じなかった。
山荘に宿泊している登山者達も朝日を鑑賞に外へと繰り出し、
中には涸沢岳まで登って朝日を鑑賞している方も居た。
朝日鑑賞後、奥穂高岳への登頂準備。
テントはそのまま張りっぱなしで身軽な状態で、奥穂高頂上とテント場を往復する。
奥穂高山頂までの登山道は、去年のゴールデンウィークにも登っており、特に不安は感じない。
・・・が、念の為、そして、思うところあって、ハーネス、ロープ、アイスバイル等、
奥穂高岳登頂には不要と思われる道具類も持参した。
6時にテント場を出発し、山頂への登山道を進む。
まだ朝早いので、涸沢からの登山者は誰も到達していない。
先行しているのは奥穂山荘泊の登山者2名のみ。
登山者同士のすれ違いが、なかなか厄介な登山道であるが、早朝であればその心配は無く、
奥穂高山頂まで景色を楽しみながら快適に登ることができた。
奥穂高山頂までで難所となるのは、やはりハシゴを登った先にある急斜面だろう。
昨日、滑落者が出た場所でもある。
階段状のトレースが付いているので、この時期は特に問題無いが、
朝方は凍っている場合もあるので通過は慎重に。
急斜を登りつめれば、しばらくはなだらかな雪道が続く。
危険な道ではないが、東側には雪庇が発達してるので、あまりそちらには近づかないように・・・
その後、一か所急斜面の直登があり、そこを登ってしばらく進めば奥穂高岳の山頂が見えてくる。
穂高岳山荘から山頂までの所要時間は約1時間位だろうか。
7時には山頂に到着した。
山頂に着いて、真っ先に気になったのはジャンダルム。
なんと、その方面へトレースが続いているではないか。
そのトレースを見ていると、自分も行ってみたくなった。
実を言えば、ロープやアイスバイルを持参したのは、その為であり、
もしジャンダルムへのトレースがあれば行ってみよう、と密かに期待していたのだった。
だが、自分の実力で行けるものか・・・?
実際にその険しい道を目にすると委縮してしまう。
散々迷ったが、思い切って行ってみる事にした。
ジャンダルムへの道。
まずは、ナイフリッジの通過。
蒲田富士のリッジと同じく、両側が切れ落ちたリッジの頂点を進む。
だが、こちらのナイフリッジは、蒲田富士に比べると幅広であり、さほど恐さは感じなかった。
ナイフリッジの先は急な岩場の下降となる。
手がかり、足がかりはあるが、足場部分に雪がついており、嫌らしい。
ここは、安全の為にロープを使用した。
岩場の高さは15m程度。
持参した30mロープはツインにして使用したので、ギリギリ下まで届いた。
岩場を下ると・・・そこは難所として名高い「馬ノ背」。
飛騨側、上高地側共に鋭く切れ落ちており、今回は飛騨側にトレースが付いている。
トレースの状況から推測すると、飛騨側の急斜に両足をかけて、リッジ頂点部を手がかりとして横歩きで通過した模様。
足場の雪が崩れたら終わりだな・・・
うーん・・・
これは無理><
今はまだ雪が安定してるので通過できるかもしれないが、今日は天気が良く気温も上がりそうだ。
もし、帰りに雪が緩んだら・・・
と、考えると恐ろしくて進む気になれず。
ジャンダルムへの道、
馬ノ背にて敗退。
奥穂高山頂へと引き返した。
奥穂高山頂へと戻り、景色を眺める。
天気はよく、周囲の山々がよく見える。
南の方角にやけに目立つ独立峰があったので、
「あの山は何?」
と山頂に居た登山者に聞いたら、「富士山」だとさ。
奥穂高山頂から、富士山が見えたのか・・・
これまで知らなかったよ^^;
9時にはテント場へ戻り、テント撤収。
今日はこれから涸沢に下る。
予定では涸沢でテントを張って一泊する予定だったが、
山荘内の黒板に記載されている天気予報によると、「明日からは天気が崩れる」との事。
山中で雨に降られたくはないので涸沢はスルーし、今日の内に横尾まで下山してしまおうと考えた。
そして横尾で天候回復を待って槍ヶ岳方面へと向かう、という計画にした。
テント撤収後、山荘にて昼食を取り、涸沢へと下山した。
奥穂高山頂側は快晴だったが、穂高山荘より下界は雲に包まれている。
涸沢のテント村は雲の中に隠れており見えなくなっていた。
例年のこの時期であれば、あずき沢がメインの登山道となるのだが、
雪崩の危険があるためか、そちらにトレースは見られない。
代わりにザイテングラード上もしくは涸沢岳寄りにトレースが付いていたので、そちらを辿った。
下るにつれて、視界は白に包まれてゆき、トレース頼りに涸沢ヒュッテ方面へと向かう。
更に下ると雲を抜け、色とりどりのテントが立ち並ぶ涸沢テント村が見えてきた。
涸沢は雨だった。
気温も下がり、奥穂高山頂よりも肌寒い。
名物のおでんでも食べて行こう、と思っていたが・・・
この天候では、長居はしたくなかった。
おでんはまた次回来た時にでも。
足早に涸沢を去り、横尾への道を急ぎ下る。
14時頃には横尾に到着。
今日は横尾キャンプ場にテントを張る。
明日から天気が崩れるせいか、テントの数は少なく、場所は選び放題。
雨になりそうだったので、横尾橋の下にテントを張った。
20時には就寝。
山旅3日目となり、疲れていたせいか、翌朝8時まで12時間、
一度も起きずに熟睡した。
【5月2日(水)】
予報通りの雨。
今後の予定では、槍沢経由で槍ヶ岳へ登る予定だったが、今日は停滞。
しかし、12時間も寝てしまったせいか、無駄に元気で一日中テント内に籠もる気になれず。
せっかくなので、上高地観光に出かけることにした。
横尾を出発し、上高地バスターミナルを経由し、大正池までの約15劼鯤發い討澆拭
雨の上高地は観光客も少なく、景色もイマイチ冴えない。
梓川は相変わらず綺麗だが、出来れば晴天下で見たかったものだ。
でも、途中で立ち寄った明神池は良かった。
池に滴る雨が無数の波紋を作りだし、神秘的な雰囲気漂う。
池の上に聳える明神岳はうっすらと雲が掛かっており、この景色もまた良い。
上高地バスターミナルでは携帯電話の電波が入ったので、明日以降の天気を調べてみた。
残念ながら、明日も雨。
明日も停滞濃厚か。。。
帰りは河童橋のレストランでビール、徳沢園でワイン、と各地をハシゴ(?)する。
横尾キャンプ場に帰ってきたのは18時過ぎだった。
平坦な遊歩道が大半だったので、登山ほど疲れはしないが、往復距離30辧ΑΑ
我ながらよく歩いたものだ。
【5月3日(木)】
雨は降ってはいないが、曇り空。
槍ヶ岳へ出発する気になれず、今日も停滞日。
テント生活5日目となり、そろそろ身嗜みが気になり始める。
5日間ヒゲは伸ばし放題、頬には樹木で引っ掻いた縦傷が走っており、なんとまぁ人相が悪いこと。
浮浪者みたいだわ。。。
なんとかせねば・・・
と、言う事で、今日は上高地へ風呂に入りに行くことにした。
いくつか日帰り入浴できる施設があったが、選んだのは上高地温泉。
「露天風呂」と看板に書かれてあったので、それに心惹かれた。
入浴料800円、と少しお高いが施設はなかなか立派。
上高地、という閉鎖された環境なので、
尾瀬みたいに石鹸使用不可とか、制約があるのかな?、
と思っていたがそんな事は無く、浴室内にはボディソープ類完備。
5日ぶりの風呂を満喫す。
ヒゲも剃り落とし、浮浪者から社会人へと復帰し、横尾へ帰る。
帰りは昨日と同じく、河童橋でビール、徳沢園でワイン、とハシゴする。
横尾暮らしもパターン化してきたが、こんな暮らしも悪くないか、と思い始める。
【5月4日(金)】
ようやく晴れ間!
槍ヶ岳方面に青空が見える。
3日間過ごした横尾キャンプ場を後にし、槍沢への道を進む。
横尾を過ぎて山道に入ると道は雪に覆われる。
槍ヶ岳へ登るのは今回が初ではあるが、雪の上にはトレースが多数あり、
不安はあまり感じなかった。
傾斜は殆どないので、槍沢ロッジまではアイゼンは付けずに進む。
ロッジを過ぎた頃から、傾斜が目立ち始めたので、そこからはアイゼンを付けた。
ロッジから30分ほど進むと、槍沢の幕営指定地に到着。
張ってあったテントは10張り程度であまり利用者は多くない。
山小屋からは遠いので、不自由はあるかもしれないが、空きスペースはいくらでもある。
涸沢に比べれば静かなテント生活が送れそうだ。
槍沢の幕営地以降は雪渓が続き、登りが本格化してくる。
傾斜はあまりないが、延々と続く登り道。
ここまでは晴天が続いていたが、雪渓上部を見ると雲がかかっている。
この先、ガスの中を進むと思うと・・・気が重い。
ガスの中は吹雪。
ここまではハードシェルの下にアンダーウェア一枚という軽装だったが、
急に冷えてきたので、防寒用のフリースを着込む。
硬い雪が顔に叩きつけられるので、目だし帽も着用。
真っ白な視界の中、登山コース上に立てられた赤旗を目印に登り続ける。
周囲の地形は全く見えず、自分がどの辺にいるのかもよく判らない。
槍ヶ岳山荘まであとどれくらい歩けばいいのやら。
指標になるのはGPSくらいだった。
いつまでも続く登りにウンザリした頃に、ガスの中に薄っすらと槍ヶ岳山荘が見えてきた。
14時30分、槍ヶ岳山荘到着。
山荘で受付をし、テント場に向かう。
その頃には天候は更に悪化し、標高3000mを越えるテント場には強風が吹き荒れていた。
数張りテントがあったが、それらは激しく風で揺さぶられている。
厳寒期を思わせる大荒れの天候だった。
こんな天候の中で幕営して大丈夫なのか、不安になってくる。
これは、雪壁を築かないとテントが飛ばされそうだ。
よさげな場所に目星を付けて、吹雪の中、雪壁作成を開始する。
近くには、一張りのテントが張られていた。
中は無人で、どうやら家主は槍ヶ岳山荘へと避難した模様。
そのテントは雪壁を築いておらず、風に無防備な状態だった。
案の定、強風で煽られ、激しく揺さぶられている。
いや、揺さぶられる、どころではない。
強風で浮き上がっているぞ@@
あのテント、はたして朝まで持つのだろうか・・・?
他人事ではあるが、心配である。
2時間近く吹雪の中での作業が続き、ようやく風に耐えられそうな状態にした。
雪壁はテントの高さ以上築き、入口以外の全周を囲ってある。
我ながら上出来、
過去にここまで堅牢な雪壁は作った事が無い、と言える程の自信作。
風への不安が無くなったところで、テント内へと逃げ込んだ。
その後も天気は荒れ続けた。
テントに入った後は、もう一歩も外に出る気が起きず。
100m先にあるトイレへ行くだけでも遭難しそうな猛吹雪である。
なので、トイレは・・・
ペットボトル・・・で。
夜間になると、さらに冷え込み、持参した衣類を全て着こんでシェラフに包まる。
それでもまだ寒く、疲労の為すぐに寝付いたものの、寒さの為に数時間おきに目が覚めるのであった。
その日は厳寒期を思わせるような大荒れの天候となり、北アルプスでは遭難者が相次いだ。
涸沢岳では、低体温症による死者も出たらしい。
山に居る間、それらの話は全く聞かなかったが、
下山後、その事実を知る事となる。
【5月5日(土)】最終日
朝方3時を過ぎると、寒過ぎて眠れず、
シェラフに包まったまま、じっと夜明けを待った。
4時を過ぎると周囲が明るくなり始め、テントの外を覗いてみる。
周囲は真っ白なガスで覆われており、まだ雪が降り続いていた。
テントの前には20冂の新雪。
幸い、風は昨夜に比べると弱まっているが、この分では槍ヶ岳山頂へは登れないかもしれない。
憂鬱な最終日の朝であった。
朝食を済ませ、テントを撤収。
槍ヶ岳山荘へと向かう。
その頃には雪は降り止んでいたが、相変わらずのガスの中。
眺望は望めそうになかった。
山荘の前には何人か登山者がおり、皆同じ方向を見ながら、そして時折その方向を指さしながら話をしていた。
その示す方向、そこには真っ白なガスしか見えないが、
おそらくその中に、最後の目的地である槍ヶ岳の鋭鋒が隠れているのだろう。
やはり見えないか、と諦めて山荘の中に入ろうとした時、背後で歓声があがる。
・・・ガスが、晴れた。
そして、一瞬ではあるが槍ヶ岳の山頂が見えた。
山頂へ続く登山ルート上には、数人登山者が取り付いている。
登頂は無理かもしれない、と諦め気分が漂っていたが、明るい兆しが見えてくる。
しばらく山荘前にて様子を見る。
わずかな間であるが、ガスの晴れ間はあるので、その間に登頂ルートを観察する。
数日前、横尾キャンプ場で会った登山者から、
「槍の鎖場以降は雪が無く、夏道同然だった。」、と聞いていた。
しかし、今は昨夜の降雪により登山道全域に雪が付いている。
夏道同然、とは言えないが、鎖とハシゴは出ているようで、それを伝って登り降りしている登山者が見えた。
そして、その頂きには数人の登山者の姿が。
むぅ、私も早くあそこへ行きたいぞ。
でも・・・、まだ行かない。
ガスの晴れ間が短すぎる。
しかし、晴れ間の訪れる間隔は狭まっており、確実に天候は回復傾向を示していた。
もう少し待つべきだろう、と判断して山荘内へと入る。
山荘内には晴れ間を待つ大勢の登山者が居た。
喫茶室にてコーヒー飲みながら、彼らの話に聞き耳を立てる。
“9時を過ぎれば天候が良くなる。”
どこから得た情報かはわからないが、そのような話が聞こえてきた。
今日は山旅最終日。
今日中に新穂高温泉まで下山しなければならないので、長時間の待機は出来ない。
だが、9時までならば・・・なんとか大丈夫だろう。
その言葉を信じて、9時まで待ってみる事にした。
その間、山頂へ向かう登山者もいるが、中には山頂には行かず、下山する登山者もいる。
山頂への登山道には雪が付いており、天候も不安定な為、危険と判断したようだ。
ここまで来て下山、とは勿体ないが、確かに登頂アタックにはあまり良い条件ではなさそうだ。
9時、タイムリミット。
山荘を出て、登頂準備に取り掛かる。
携帯するのはピッケル一本のみ。
その他荷物は山荘前に置いていく。
ヘルメットはあった方がいいかな・・・と思ったが、昨日の吹雪で内側がガリガリに凍結している状態。
とても被れる状態ではないので置いて行った。
さて、長きに渡った山旅、最後の登攀。
槍ヶ岳山頂へ続く道には雪が積もっていたが、
幾人か登山者が通った後だったので、トレースがついている。
気温が低い為、雪は締まって歩きやすい状態。
序盤はなだらかな道が続き、しばらく進んだところで鎖場に着いた。
鎖場には3人の先行者。
先頭は大荷物を担いだ登山者で、鎖場通過に手間取っている。
その後ろで2人の登山者が通過待ちをしている。
しばらく待たされそうであるが、ふと左手方向を見ると、鎖場とは別方向にトレースが付いている。
トレースは岩場方向へと続いていた。
そういえば、
槍の先端へ行くには、鎖場を通る以外にも岩を登って行くルートがある、
と聞いた事がある。
きっと、これがそのルートだろう。
ざっとその岩場を眺めてみたが、雪はついておらず、難度はあまり高そうには見えない。
鎖場で待ちたくはないし、こちらのルートの方が面白そうだ。
ここは岩場ルートを進んでみる。
手には分厚い冬用グローブ、そして足にはアイゼンを付けた状態なので、
若干難度は高くはなるが、岩自体は取り付きやすい。
ホールドとなる鋭角が多数ある、いわゆる弱点の多い岩。
身軽な状態で登るには楽しい岩場だった。
岩場を抜けると、ハシゴに辿りつく。
そして、ハシゴを登るとまた岩場。
その先にはまたハシゴ。
今度のハシゴは長い。
おそらくこれが、「夏場は大渋滞」、で有名な頂上直下のハシゴだろう。
今はハシゴを登っている登山者は誰もおらず、
鎖場前に居た登山者達は追い越していたので、まだずっと下の方にいる。
周囲には誰もいない。
最後は、悠々とハシゴを登り、時折背後に見える光景を眺めながら、ゆっくりと、
山頂までの最後の登りを楽しんだ。
かくして、槍ヶ岳山頂到着。
初めて見る槍ヶ岳山頂は、思っていたよりもずっと広かった。
あれだけの鋭峰なので、きっと山頂は2,3人がやっと立てる程度の狭いスペースしかないのだろう、
と思っていたがそんな事はなく、10人位は立てそうな広さだった。
奥には祠が建ててあり、奥穂高岳の祠よりも真新しいように見える。
山頂には数人登山者が居たが、しばらくすると皆下山して行く。
そして今、槍の頂きには私一人。
時折、ガスが晴れて大展望が眼下に広がる。
長期に渡った山旅の最後を飾るのに相応しい光景。
次の登山者が訪れるまでの間、
北アルプスの大展望を一人占めしたような気分で、その眺望を楽しんだ。
Luske
















素晴らしいレコを拝見させていただきました。
まるで自分がその場面にいるような気持ちで興奮しながら読み通しました。
蒲田富士の先のナイフリッジ、先だって西穂高山頂より眺めておりました。
真っ白な刃に惹きつけられました。
今季、西穂西尾根、涸沢岳西尾根、両方とも挑戦したかったのですが、
日程の制約や天候の問題で来季への先送りとなってしまいました。
私もちょい厳しいルートへ出かける際はソロが多いので
Luskeさんのレコには共感できる部分が沢山ありました。
Luskeさんが槍ヶ岳で朝を迎えられた時、私は仲間達と槍平にて撤収の最中でした。
槍ヶ岳を目指していたのですが、
稜線上の風強く、午後より天気が崩れる予報、翌6日は更に悪化の兆し。
女性を多く含むパーティーだったので無理は出来ず撤退しました。
同じルート、実は今晩リベンジの為に出かけます。
昨年の今時期も行ったのですが、残雪期の槍を再び目にしたく。
ありがとうございました。
noborundaさん、はじめまして
涸沢岳西尾根は今回初めて登ったのですが、非常に手ごたえのある尾根でした。
雪質、風の状況によっては難度が跳ね上がるので、天候には自分もかなり気をつかいました。
実を言えば、私が初めて涸沢岳西尾根登頂を計画したのは昨年のGWでした。
しかし、noborundaさんと同じく天候の問題で先送り。
西尾根は諦めて、上高地、涸沢経由のルートに変更してます。
今回のGWで念願の登頂達成となりました。
それにしても、5日は不安定な天候でしたね
自分が登頂した時間帯は、一時的な回復傾向はありましたが、それ以降の天候は優れず。
槍平へ下山中、幾度か山頂方向を窺ってみましたが、厚い雲で覆われており、登頂は望めないような状況でした。
午後には雷も鳴ってましたので、撤退は正しい御判断だったと思います。
今晩、リベンジに出かけるという事は、明日明後日が正念場ですね。
少し風が強まりそうですが、晴れ間は期待できそうな天候ではないか、と思います
楽しい登山になるよう、お祈りいたします
堪能させていただきました。
毎回すごくて、このあとどうなるんだろうと思ってしまいます
感想、長文なのに実に読みやすくしっくりきます。
Luskeさん、夏はどんなところを歩くんですか?岩、沢?
これからも期待します。お一人なので十分気を付けて
夏は冬ほど頻繁に山歩きはしませんが、
飯豊・朝日連峰が好きなので、雪が溶けたらそちらによく通う事になるかと思います。
でも、行くのはあくまでも一般登山コースで、冬に比べるとあっさりした山行記録になるかと思います(笑)
あとよく行くのは丸森の岩岳で、ふら〜、と出かけては岩登りやロープワークの練習をしてます。
積雪期のような危険を伴う登山はしばらく休業になるかとは思いますが、
やはり単独登山は油断禁物。
お言葉通り、十分に気を付けた上で山を楽しみたい、と考えております
どこに行かれるのだろう、と期待していましたが。
いやはや、穂高・槍の周遊とは驚きです。バリエーションルートで!
停滞中、横尾からはるばると温泉まで。思わずニヤっとしてしまいました。
飯豊の縦走を6月下旬に計画しています。私は川入から飯豊山荘に縦走したことがあるのですが、
奥が全縦走をやりたいらしく。
その時は、アドバイスお願いいたします。
Luskeさんこんばんは。
アルプスの事はまったくの無知なのですが、写真と文章で凄みが伝わってきました。
ナイフリッジと馬ノ背。特に馬ノ背は「誰だよ行ったの?」と思わず言ってしまいました。
最終日を前にしての大荒れの天気、そこからの槍ヶ岳登頂。山行の流れが小説みたいです。
期間中80劼睚發れたんですね。その距離にもびっくりです。
自分もそれくらいの体力をつけるようにがんばらねば!
全縦走となると、川入〜大石ダムでしょうか?
私の憧れのルートであります
私は飯豊縦走まだ未達成ですが、いつかやってみたく思っており、度々計画しては先送りしてました
今回のゴールデンウィークは、槍・穂高周遊と飯豊縦走、どちらにするか悩んでたりもしてましたし…(笑)
6月下旬となると、まだ山開き前ですが、結構入山者は居るので安心できる時期だと思います。
私も近々、飯豊登山を計画しております。
まだ雪量豊富なので、本山まで行けるかどうか判りませんが、とりあえず偵察山行、という名目で行ってみる所存です
馬ノ背については、自分も同じ事を思いました。
ここを通過したのは一体どんな人達なのか・・・会ってみたいものです
最終日前、まさか荒れるとは思いませんでした^^;
主人公はパッとしませんが、なかなか劇的な流れだったと思います(笑)
80キロ・・・言われてみると、結構な距離を歩いてましたね。
でも、上高地〜横尾みたいに平坦な道も結構多いので、
体力的にはそれほど負荷のある行程ではなかったです。
西尾根以外は・・・
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