富士山 剣ケ峰富士宮口〜「元」がん患者雲を行く〜
- GPS
- --:--
- 距離
- 9.1km
- 登り
- 1,452m
- 下り
- 1,445m
コースタイム
天候 | 小雨後快晴後小雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2012年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
多くの方が記載されている通り、落石が起きない限り、また起こさない限り危険箇所は無い。つまり、落石には細心の注意が必要。火山岩なので、浮石と固定されている岩の区別が付きにくいため、不用意に足を置くと危険。 入山時、指導所では入山届けは不要と言われる。あまりの登山者の多さに対処しきれないからか、もしくは多くがピストンのためと思われる。 |
予約できる山小屋 |
八合目池田館
|
写真
感想
「元」がん患者雲を行くその2
前週の比良山系武奈ヶ岳トレーニングを無事そつなくこなし、いよいよ久々の、そして大腸がん発病後初めての3000mオーバーである。よく考えたら、先月で補助化学療法は終わっているので、タイトルに「元」を付け足した。しかし、まだ一ヶ月である。無理は禁物。
今回も引き続き、高校山岳部先輩のN氏にサポートをお願いする。お互いに富士山は未登であったため、お誘いを受けたとき今後マイカー規制の強化で関西からは登りにくくなるであろう日本最高峰へと迷わず歩を進めた。少しブームに乗った感は有るが、喰わず嫌いも大人げないので「観る山」等と思わず、まず登ってから感想を述べたかったのもある。
登行は日帰り計画だが往復に余裕を取って前日昼過ぎには富士宮に入り、帰路は疲労度合いによってはSAで仮眠して帰れるよう、登山翌日の予定も白紙。翌朝の駐車場の事を考慮して早めに寝るため、キャンプ場のチェックイン時間すぐに前夜祭を敢行するべく、早朝六時に北河内にあるN氏宅を出発。今回はN氏の乗用車に便乗させていただく。天気が今ひとつのせいか、ガラガラの高速道路を一路東上。特に新東名は貸し切り状態である。夏休み入り直後だと言うのに、行楽客は天気に敏感なのか。
何の問題も無く、富士宮入り。信心深いN氏の発案で、全国の浅間神社の総本社、富士山本宮浅間大社に参詣。私も別に宗教を否定している訳ではなく、各地の神社にて柏手を打ちお寺さんで手を合わす平均的日本人なので、素直に二礼二拍手一礼。山頂の奥宮に参りに来た訳なので、ここへ来なければ片参りだしね。
すがすがしい気分にひたるが、時計はまだ12時である。キャンプ場は15時インとの案内を受けていたので、さてどうしよう。涼しい事も有り、まだまったく汗をかいていないのに昼から温泉も贅沢なので、近くの大型スーパーにて時間をつぶす。さすが富士登山のお膝元、スーパーとは思えない登山用品コーナーが有り、海外ブランドの品揃えも充実している。が、極貧アルピニストの私、そんな高級ブランド品など買えるはずも無いのでしばし情報収集。別に開業する予定は無いので陳列を見ている訳では無く、高級品の様子を見て自分のグッズに使用方法や耐久性向上をパクる研究である。いつかこんな物を身にまとってマッターホルンに登ろう、と意識だけ高めて店を後にする。もう14時近いので、早めのチェックインをお願いしようと二合目付近にある表富士グリーンキャンプ場へ。雨の日曜泊のせいか、他に一張りが確認できただけの、静かなキャンプである。夏休みではあるがこの日は閑散期料金の¥2,500でデッキサイトを使用できるので、そちらを予約したが着いてみると小雨でびしょ濡れである。クッションはデッキ下の草の上の方が良さそうだが、撤収時に泥まみれになりそうなので予定通りデッキの上に幕営。
オッサン二人で同室もなんだかなぁ、なので1〜2人用テントを二張り設営。個室である。当初の計画では、デッキにごろ寝して星を眺めながら酒をいただく算段であったが、無情にも冷たい雨。例によって身体が弱い私は、濡れるのが嫌なので二つのテントを1m程離して向かい合わせにし、入り口を開けて中であぐらをかいて前夜祭開宴。先輩、いただきます。あくまでも前夜祭なので、身体の弱い私はビールや銘酒立山などをホンの少しだけ(だったと思う)たしなみ、21時には早々にお開き。夜が更けるにつけ雨量が多くなってきたが、宴たけなわの時は気にする事もなく、上は晴れてるやろ、とお気楽に就寝。
明けて23日。軽く二日酔いの頭を振りながら、3時前に起床。あれ、ホンの少したしなんだだけのはずやのに。おかしいなぁ。N氏も同様の発言。誰かが寝てる間に我々の口の中にアルコールを流し入れたのかなぁ。物騒な世の中やな。小雨の中、ジャケットを着て撤収。いつもながら嫌な作業である。が、今日は縦走ではなくテントは車中にデポできるので、とりあえずササッと詰め込み、出発。少しでも早く五合目に到着し、駐車場を確保するために食事も後回し。トイレも。
走り出すと、県道もスカイラインも無人状態である。なあんや、さすが平日やなぁ。駐車場の心配なんか杞憂やったな、と思ったのはそこまで。五合目直下まで到着すると、なんと早くも路駐が始まりかけている。すでに登山者の駐車場確保合戦は終了していたのである。滑り込みでなんとか駐車スペースを確保し、路駐は免れたが、さすがの富士登山ブーム。危ないとこであった。後で登山者同士が話すのをなんとなく聞いたところ、この日は前夜17時にマイカー規制が解除されたため、その時間には既に解除待ちの行列ができていたそうである。もうこの文をアップした翌々日からは長期規制に突入するため有意義な情報では無いが、残暑に登山される方は注意されたし。
憂慮していた駐車問題が片付き、ようやくカップ麺をすすり、高度順応の意も込めてのんびり準備とストレッチを済ませ、いざ出発。思惑通り三〜四合目くらいから雲を抜け、見下ろすと遥か太平洋の彼方まで積雲の海で、周囲は紫にけむり、見上げると徐々に水色から濃紺へとグラデーションを描く見事なドッピーカン。これは、今日一日の好天を約束されたようなもんである。ラッキー!あたまを雲の上に出し、とは昔の人は良い事を謡ったものだ。長らく写真撮影業をしているが、五指に入る好条件。ためらいなく一眼レフを腰に装着、コンデジはベストのポケットへ。
満車では有ったが車で五合目まで偵察を済ませているので、距離も判りアスファルト登りも辛く無い。以後到着された方の苦労が忍ばれる。すぐに五合目食堂にてトイレを拝借。無料はここまで。五分程上にトイレが有るが、そこは¥100。以降各山小屋は¥200。車の割に思った程ハイカーがいないのは、既に前夜から止めて続々と出発した後だからであろう。皆さんお早い事で。だらだらと火山灰の堆積した広めの登山道を20分もかからずに六合目へ。
ここから八合目あたりまでは、実に単調で変化の無い九十九折が続く。しかし、登山リハビリ中の私にはこの変化の無さこそありがたく、呼吸を整えながらじっくりゆっくりと小幅で歩を進める。ペースは遅いつもりだが、案内図に記載されたコースタイムより若干早い。つまり、私のような病弱な人間や幼児のペースで計算してあるのだろう。標高3000m辺りで少しガスるが、それが晴れてからの空気の透明感!これぞ高山、この至福の時を迎えるために苦労して登るのである。写真を撮るため、ただでさえペースが違うN氏とはどんどん離れてしまう。が、そこは山慣れた先輩、CLの余裕で要所要所で私を待っていて下さり、せっかくウォームアップされた身体が冷えたことだろう。えらいすんまへん!
完全マイペースで息が上がる事も無く、各山小屋前で小休止を取りながら九合五勺へ。ここまでは何の問題も無く、素晴らしき景観に感動と感謝の念を持ちながら快適登山を楽しんだ。が、日本最高峰は甘くは無かった。海外でも高度の影響をみじんも感じなかった私であるが、やはり怖いのは高所での抗がん剤の影響である。脈拍を計り、体温も気にしながら最後の急登をそろそろ行くが、二十歩ほど登ると胸がバクバク。立ち止まり調整するとすぐに平常に戻るため、不安は無い。しかしドクターが同行している訳では無いので、少しでも様子がおかしければ下山するつもりで臨むが、特にそれ以上の変化も見られないので実にスローなペースで進み、やっとの思いでようやく奥宮に到着した。
ここで感動したいところではあるが、まだ通過点。目をやると剣ケ峰が思ったより高くそびえる。あらま、まだあんなに登らんとあかんのか。しゃあないなぁ、ここまで来て最高峰を断念するのもなぁ。と、ありがちな誘惑に、有事の際は引き返す勇気の欠如に非難囂々であろうなと多少後ろめたいが、別に手足もむくまず、頭痛も吐き気も無く、健常者でも起こり得る高度の影響も感じなかったので、頂上アタック開始。
まるでヒマラヤ初登記のようだが、今の私にとってはまさにそんな気分である。治療が終わったとは言え、がんの転移再発者。無謀や無茶は絶対に冒してはならない愚であるが、多少の無理をしないと人生前へ進まないのである。もちろん、安易にヘリや救助隊を呼ぶつもりなど毛頭無いが、万一の有事に備えて山岳保険には加入してきた。救助費用500万円が出て月々400円ちょっとなら、安いものである。以前欧州登山の際に現地加入した山岳保険は、全世界対応で年80フランほどだったかな。二昔前なのでレートも変わっており、あまり比較できないが当時の国内保険価格に比べたら、現在のネット保険は安くなったものである。
などと努めて平静さを装いながらも、若く元気な頃には無かったしんどさから気をそらすべくごちゃごちゃあれこれ考えながら歩くが、見た目よりも剣ケ峰は近かった。馬の背が多少滑りやすいが、むしろゆっくり歩く事で呼吸も脈拍も乱れず、この上なく素晴らしき快晴のもと無事登頂成功。
しばし感激。
そうか。登れたか。
涙までは出ないが、無性に笑いがこみ上げた。三角点や測候所跡などを撮影しながら、感慨に浸る。正直、がんが転移再発して五臓六腑を切り刻まれた無惨な状態に陥ったときは、もう山になど登れまい、と心折れかけた。しかし、なんとか気を強く持ってオペの一ヶ月後から地道にトレーニングに励んだ。だが、まさかオペより11ヶ月、化学療法終了後一ヶ月で日本の最高地点にこの両足で立てるとはよもや思いもしなかった。
なるようになるわ。なるようにしかならんわ。明日は明日の風が吹く。
開き直りの精神が良かったのかな。数多くの友人知人、もちろん肉親の応援があって復帰できた訳ではあるが、ピンポイントではN氏の物心両面のサポート無しでは絶対に登頂できなかった。このようなパブリックスペースではあるが、心より感謝して、お礼を申し上げたい。
おおきに、先輩。
と、柄にも無く人の良さそうな事を書き連ねたが、身体が弱いくせにガソリン不足を感じていた私は、頂上宿舎まで帰り着くなり、スタッフ氏にビールの所在を確かめた。
「ビールおまへんか?」
「ここにはね、アルコールは置いてません」
よく考えたら、ここは神社なのであった。お神酒あるかな、とはとても聞ける雰囲気では無かったので、置いてある山小屋目指しそそくさと下山開始。さすがに持参してまで聖域で祝杯を上げる暴挙に出る気も無かったので、今回は山頂乾杯は無し。しかし神の思し召しか、10分ちょっとで駆け下りた九合五勺に早速ガソリンが置いてあった。先輩、いただきます。これから登るで有ろう年配のご婦人の冷ややかな視線をからだいっぱいに受け止めながら、キラメく陽光と振り返り仰ぎ見る尊き山頂を肴に、この世で一番美味しいビールをいただいた。
運転していただく先輩に感謝しながら正真正銘ホンの少ししか飲んでいないので足取りも危うく無く、既に登りのピークも過ぎているのかたいした渋滞も無く、軽やかに下山。五合目より再び積雲に突入し、視界を遮るガスに身体を冷やしてもらいながら帰り支度。登り出しと帰り着く暑いところだけガス。後はピーカン。なんてついてるんや。N氏の日頃の行いに感謝しつつ、富士ICを過ぎたところにある、スーパー銭湯「湯らぎの里」大人¥600にて臭い汗を流し、快適に西走。深夜割引の恩恵を受けるべく時間調整しながら、日付の変わった頃N氏宅に帰還。後はマイ原付二種にてポロロンと無事に帰宅できた。あ〜よかった。
富嶽は観て良し、登ればさらに良し。登り出して直ぐに森林限界を超えて稜線漫歩気分を味わう事が出来る、日本では立山や乗鞍と並び貴重なエリアだと感じる。この雄大な自然を世界に自慢するとともに、いつまでもこの状態をキープして後世に伝えなければならないだろう。富士山よ、永遠なれ!
今回はこれにて。
遠路遥々運転したうえ山頂 往復、おつかれさま
でした。街や海まで見えると高度感が違いますね。
写真を撮りながら登ると同行者に気を遣ってしまいますね
でも小刻みに休憩しながら登っているようなもので、
意外とラクに山頂まで辿り着けている感じがします。
週末は剣ヶ峰の碑が1時間待ちで近寄れなかったので、
次に登るときは平日に休み取って登ろうと考えています。
tabidoriさん、コメントありがとうございます。
運転は先輩と交代でしたので、全然苦ではありませんでした。日曜発、月曜帰着でしたが渋滞もまったく無く、むしろこんなに空いててよいのか?状態。ETCによる深夜半額の適用を受けるため、途中のSAで時間つぶしをしたぐらいです。
単独の時は好きなだけ写真を撮りながら休憩するのですが、同行者がいる時は多少気を遣いますね。でも、やっぱりサポートしてくれる方がいる山行は、病み上がりの私には心強いですし、大休止の時に山談義ができるのはなによりの楽しみです。
tabidoriさんのハンドルネーム、ワンダーフォーゲルを連想しました。私は山岳部だったのですが、ワンゲルの連中が自らを、「さまよい鳥」と言っていましたので。
どこかでお会いできたら楽しいですね。
前日のテント泊いいですね!
それくらい余裕を持って登らないと富士山は難しいのかなぁ
地方民には難しいです
剣ヶ峰にまで行けたとは羨ましいです
私はあまりの行列に素通りしてしまいました
yukarinnkoさん、コメントありがとうございます。
主目的はもちろん富嶽登頂だったのですが、ちょびっとは久々に先輩と宴会する事もありました。
確かに、九州からでは遠いですよね。私も久留米に親父の眠る墓がありますので、遠さは良く判ります。
ただ、一つ言える事は日本の山と言えども3776mもあるので、できるだけ2000m辺りの滞在時間を多くして高度に身体を慣らすほうが高山病にはかかりにくいようです。それらも、体質により人それぞれですので、一概にはくくれませんが。
剣ケ峰を踏まなくても、立派な富嶽登頂ですよ。初めての高所登山で山頂まで行かれたのは素晴らしいと思います。これからも、お互い安全登山で行きましょ!
感動しました。
つらい治療を乗り越えて病気に打ち勝ち、わずか一年の後に富士山に登頂するなんて・・・・・素晴らしいです。
感想の文面からムンムンと感じ取れるポジティブさが、病気を克服し短期での登山への復帰の原動力となったのだと思います。
見習わさせていただきます。
DSAさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
読み返してみたら、なんだか酒飲みのぼやきみたいで気恥ずかしいですが、思ったままの正直な感想です。
違う場所でも書きましたが、病気の程度は人それぞれ。もちろん私より重篤な症状で苦しまれている方が多数おられるのは存じ上げていますが、自分の現状に感謝して、自分なりの努力を続けるつもりです。
DSAさん、お体の具合はいかがですか?
一万尺も一歩から。あきらめなければ、必ず夢は叶います。
お互い、これからも楽しい山ライフを送りましょう!
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