天狗岳・硫黄岳
- GPS
- 15:07
- 距離
- 20.5km
- 登り
- 2,056m
- 下り
- 2,212m
コースタイム
二日目(10/28): 6:30黒百合ヒュッテ-07:30東天狗−08:00根石岳−08:24箕冠山−08:51夏沢峠−09:38硫黄岳−10:55夏沢峠−11:50箕冠山−11:54根石山荘−12:05根石岳−12:16根石岳と東天狗間のコル-12:40根石山荘
天候 | 晴からアラレ、その後晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2013年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
http://www.alpico.co.jp/access/suwa/ |
コース状況/ 危険箇所等 |
全体に崩落等の危険箇所は無い。朝晩は零下を下回る為、霜で木の根や岩が滑り易くなっている箇所はある。完全に凍結している箇所は無かった。登山ポストは登山口の渋の湯ホテル(廃屋)の先、渋沢を超える橋の手前にある。 |
予約できる山小屋 |
黒百合ヒュッテ
|
写真
装備
個人装備 |
ヘッドランプ
予備電池
1/25,000地形図
ガイド地図
コンパス
筆記具
保険証
飲料
トイレットペーパー
タオル
携帯電話兼カメラ兼GPS
計画書
雨合羽
防寒着
ライター
水筒
時計
非常食
ザックカバー
医薬品
|
---|
感想
雪山の自主訓練山行の下見を兼ねて、天狗岳に行く事にした。いつもは奥多摩ばかり通っており、初めての単独での遠征だ。
冬の訓練では渋の湯から黒百合ヒュッテに登り一泊、翌日は東天狗から西天狗に抜けて唐沢鉱泉経由で渋の湯に戻り、そこで二泊目とする計画だ。だが無雪期には短すぎるので、一日目はにゅうに、二日目は硫黄岳に立ち寄る事にした。
茅野駅から渋の湯までのバスは早々に市街地を抜け、別荘地が目立つ山中に入る。紅葉前線は1000m台まで下りてきているようで、車酔いを慰めてくれる。終点の渋の湯の標高は1840mだが、これより上は紅葉は終わっているようだ。終点手前の渋沢に架かる橋が工事中との事で、その手前で降りる。乗る際も渋の湯前ではなく橋の手前になるので、要注意だ。
渋の湯で降りたのは5組程だった。周囲はかなり硫黄が臭う。のんびりと準備して11時40分に出発。沢沿いに進むと廃屋のホテルがあり、その先に無人の登山案内所がある。計画書をポストに入れ、沢に下りて水を汲む。さすがに硫黄臭くてうまい水ではなかった。
パノラマコースに合流してからのヒュッテまでの道のりは沢沿いで、苔むした岩をただ超えて行く。シラビソ(案内板でその名を知った)の森は奥多摩とも地元の北摂とも違う。最初から植林も無く原生林が続くのに驚いた。
道はいよいよ岩がちになり、思ったより進まない。所によっては手で岩にしがみついて超える。1時間程登って岩の風景に飽きてきた頃、突然左の方に這松が現れ、風景が一変した。そこからは一投足で黒百合ヒュッテだ。
予想通り早すぎる到着だった。ヒュッテの前はテントサイトのようだが、平日の14時台でまだ一張も無い。昭文社の地図を見てにゅうに行くか中山に行くか考えたが、時間も体力も余裕があるのでにゅうを選んだ。
中山峠までは木道が続く。歩きやすい道で一息つくことができた。中山峠からの眺めは絶景、秋晴れの天気も素晴らしい。ここからは崖沿いに北上する。高いところは苦手なのであまり崖には近づけない。道は一旦崖から離れ、中山への道を分けて下りながら再び崖に向かう。岩がちで道ははっきりしていないが、赤テープと踏み跡で判別できた。
まだかと思っていると、崖の先に白く巨大な岩が見えた。あれだ。ところがにゅうへの分岐点が分からない。地形図を見ても崖をやや西に離れるところで分岐するはずが、分からない。崖沿いはペンキのバツ印があるので、こちらではないようだ。迷っているうちに時間は15時を15分過ぎた。ヒュッテからここまで来るのに1時間以上かかっているし、帰りは上りなのでそろそろ戻らないとまずい。結局断念して早足で宿に戻った。
宿の扉を開けると20代と見える女性陣が目の前にいた。内心驚きつつ予約している旨伝えると、宿番の方々らしい。ここ、山小屋ですよねと確認しようかと思った。
平日なので宿は数組のみで静かだった。入り口の巨大な温度計を見ては零下になった等と伝え合った。夕食後に宿の方から声がかかり、テレビで天気予報を見た。来る時には意識していなかった西海上の小さな低気圧が日本海を進んでいるらしい。麓の茅野市の予報は午後から曇りで、それより西の地域は崩れる予報だった。
消灯前に布団に潜って持参のスピリタスのレモン酒を飲む。消灯は8時半だが、その後はむしろ客よりも宿番の人達の騒ぐ声が耳についた。
朝食は5時半だ。6時半頃に出発したが、その頃はまだ零下前後だったと思う。中山峠を超えた辺りで東から陽が昇った。しばらくは樹林帯だが、やがて這松の上に出た。左手にあたる東側は切り立っており、100m以上は落差がありそうだ。西側は這松のなだらかな斜面が広がる。尾根上に巨岩が聳え立つところに出た。東側に20cm程のステップがあり、踏み跡もある。だがロープも鎖も無く、自分で確保するしかない。一般登山道にしては難易度が高すぎる、少なくとも巻き道はあるのではと下り気味に西側に廻ると、果たしてしっかりした巻き道が見つかった。頂上の先までそのような箇所が何度かあり、基本的に西側に巻くのが安全なルートのようだ。振り向くと西側から強風に煽られて霧が千切れて稜線を超えて行くのがよく見えた。
二度程偽ピークにやられ、東天狗頂上に着いた。既に周囲は雲に覆われ、視界は効かない。西天狗の方向も全く見えない。ここから先は時間と天候が許す限り進み、ここまで戻って西天狗経由で渋の湯、晩には温泉と旅館の食事、熱い酒、畳に布団の予定だった。
東天狗北側には鎖場があるが、慎重に行動すれば問題なく降りられる。但し溶けた霜と霧で岩の表面が濡れており、滑らないよう注意が必要だった。根石岳とのコルへの道は矢張り西に巻いた。足元より下は霧で見えず、高度感から来る恐怖は感じなかった。
根石岳は楽に登れた。予定より早く出ている為、時間はある。天気も持ちそうだと判断し、箕冠山へ。コルを超えると再びシラビソの林だ。山頂にはコルから10分もかからずに着いた。雪山訓練ではここまで足を延ばして東天狗へ戻る予定だが、根石岳からこちらの部分についてはあまり訓練の意味は無いように思えた。
雲が増え、下がって来た。今日のところはこれまで。主目的は雪山訓練の為に西天狗西側の急斜面を下見する事であり、初の八ヶ岳でしかも単独なので無理は出来ない。でもこの林の先に行けば硫黄岳を眺められるはずだ。ちょっと見るだけと思い、数分先に進んだ。だが林は途切れない。諦めて反転した瞬間、陽が差してきた。鳥も鳴き始めた。夏沢峠までは20分だ。迷った末、行く事にした。
夏沢峠に到着。トイレは空いていない。二軒ある山荘はどちらもやっていない模様。昭文社地図では山頂まで60分。予定より1時間弱早い。体力は充分にある。山頂付近は笠を被っているが、全体的に晴れてきた。調子に乗って登る事にした。
山頂らしきものが下からでも見える。地形図を見る限りではこの辺りに他にピークは見当たらず、ルートに偽ピークも無さそうだ。しかしなかなか近づかない。這松も消えて見通しは素晴らしいが、だからこそ遠くまでよく見えて遠近感が狂うのかもしれない。流石に奥多摩とはスケールが違う。尾根を西側に巻いた辺りから、ルートの表示がペンキから立派なケルンになった。どっしりとした山容で尾根は太く、頂上まで怖さを感じることは無かった。
息が切れてきた。肩で息をしても、足らない。高度のせいだろうか。10m歩いただけで息が切れる。ピークらしいところにケルンが見える。地形図も高度計も確認し、あれが山頂のはずだと信じて登った。
着いた。矢張り下から見えていたケルンが山頂の印だった。広い山頂を独りではしゃいで歩きまわった。犬がいる!猫には嫌われるが、犬なら任せろ!顔を見ると、雌らしい。人間の女なら逃げられるばかりだが、犬の女なら任せろ!顔を丸ごと舐められた。
禁断のスピリタスを一口だけ。ハラペーニョ入りのプレッツェルが美味い。一杯だけが二杯になったところで止めておいた。
火口を恐る恐る覗きながら半周し、戻って下り始めた。下りも全く怖くないが、雲が増えてきた。箕冠山の手前でみぞれになる。降った場合、立ち木で雨を凌いで昼飯を食えるのは箕冠山までだ。見晴らしが良い場所でシラビソを傘に昼飯を食った。雲はいよいよ低く、先程は見られなかった下界にも充満してきた。
根石岳への斜面で年配の夫婦とすれ違った。みぞれが徐々に激しくなった。根石岳を超え、東天狗の西斜面(と思っていた)にとりついたところで、みぞれがあられになった。西から斜め上に降っている。ほんの少し眺めていただけで地面が白くなり、凍りつき始めた。このままここにいては危ない。根石山荘まで戻るか、東天狗をなんとか超えてスリバチ池経由で渋の湯まで降りるか。悪天の為文字通り右往左往するには至らなかったものの、後ろ髪を引かれて何度も振り返りつつ、根石山荘まで戻った。根石岳の下りで男性の大きな声を聞いたが、どこから飛んできたものかは分からなった。切羽詰まったら何を考えるか分かったものではないが、その時の状況を動画撮影した。
https://plus.google.com/u/0/photos?pid=5940690754445593122&oid=106459262171082637364
根石山荘にたどり着き、10分程更に迷った。明日は一日予定がないので、ここに泊まって本来の目的である西尾根を明日試す余裕はある。荒天の中の行動も良い経験になるかもしれないが、西尾根に行けないのは残念だ。結局この日は行動を止めて泊まることにした。先程すれ違った夫婦が先に着いており、お邪魔した。本沢温泉にテントを張って東天狗まで登ろうとして断念したという。山荘は新しい建物でテレビまである。数年ぶりにテレビを見て無為に過ごした。
翌朝は6時に起きて朝食を摂った。ここは風呂の他に食事にたっぷりの野菜が出てくるという情報もあったが、どちらもなかった。相変わらず西風と霧はひどいが、9時過ぎに収まったので出発した。
風は強いが耐えられる。四度目の根石岳山頂で漸く景色を見渡す事が出来た。根石岳から降りたところで、昨日の撤退地点が東天狗の取り付きではなくその手前の地点だと分かった。昨日は霧で西側の麓も見えなかったが、すぐ下に這松のなだらかな丘が広がっており、急峻な崖では全く無いと分かった。東天狗の北斜面も晴れているとどっしりとした尾根筋を見渡す事ができ、安定して歩いた。直下の鎖場は念の為三点支持で登ったが、それほどの傾斜ではなく、途中から只のへっぴり腰になって余計に危険なので普通に登った。
東天狗山頂でうまい具合に晴れてきた。上空の風も強く、何度も陽射しが雲に遮られるが、徐々に雲量が減ってきた。今日は西天狗へのルートもよく見える。だが山頂の指導票が指す方向の岩にはバツ印がついている。一旦中山峠側に下りてから折り返すのが安全なルートのようだ。上りの男性とすれ違う。危険箇所は無いか尋ねたところ、無いとの事なので安心した。
西天狗山頂手前は幾分切り立ったところがあり、積雪時の状態を想像しながら進んだ。この先枯尾の峰分岐までは昭文社地図にはエスケープルートが無い。積雪時にもしこの区間で行き詰まったら、東天狗まで引き返すしか無い。ど素人の単独行による自主訓練であれば、この先は「自力で引き返せなさそうなところ」が撤退地点だ。
西天狗山頂は評判通り過ごしやすい。今朝発った根石山荘もよく見えるし、茅野へ広がる裾野の紅葉も素晴らしい。今回の山行はやたらとピークがあったが、本当にここが最後の山頂だ。あとはあの下界へ帰るだけだ。無為にその辺りをうろついた。
下る。1〜2m四方はある岩にひとつひとつしがみつきながら慎重に降りた。斜度は40度は超えている。今ならなんとか超えられるが、積雪期はどうなるのだろうか。名前の通り西側の尾根なので雪はそれ程積もらなそうだが、この岩が凍ったら、どう超えれば良いのだろう。独りでそれが分からなければ、戻るしかない。
30分以上かかってコルに着いた。振り返っても岩しか見えない。恐竜の背中をひたすら這い降りてきたような気がした。下界に近づくにつれ、足は鈍った。三日間の自然との生活を終わらせたくない。展望台から尾根筋を外れて唐沢鉱泉に降りるまでは静かな林の散歩だった。濡れた木の根を踏んでしまうと必ず滑るので難儀した。
唐沢鉱泉への到達地点の手前で踏み跡が入り乱れて多少方向に迷うところがあったが、主だった沢の方を選べば別段問題はなかった。唐沢鉱泉の瀟洒な建物の裏に廻れば、見事な苔の景色に行き着いた。唐突に素晴らしい美に出会えば、自然に笑いが出てくるものだという事を知った。風景写真を撮るのが趣味の母に是非見せたい光景だと思った。
そこにいる事だけで贅沢な時間だ。ここに来ただけで苔マニアになりそうだ。最後に渋の湯につかりたいが、バスの時間を考えると難しい。風呂は諦めていまの時間を優先した。渋沢の車道が見えるに連れて足が鈍り、下手な写真の枚数ばかりが増えた。
三日間の行動の結果、高山の天気の変化に対する認識がえらく甘い事が分かった。低気圧の情報を前夜に聞いていたのに、硫黄岳まで足を伸ばすべきではなかった。二日目の撤退の判断の結果、翌日に主目的を果たせたのは良かった。その判断を支えたのは三日目にほぼ予定が無いという事実だ。そうでなければ、焦って荒天のもと下山する選択をしていたかもしれない。山行の予定を組む時に予定日を入れる事が推奨されているが、今までその意味を理解していなかった。今回は痛感した。
今冬の予定は、東天狗から西天狗へ行けるところまでではなく、安全に引き返せるところまでを条件に進みたい。前述の通り枯尾の峰分岐まではエスケープできないからだ。冒険を避けては成長できないかもしれないが、単独行では迷った時は安全側に振るのが生き延びる事だと思う。
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する